ペンタイア

和名:ペンタイア

英名:Pentire

1992年生

鹿毛

父:ビーマイゲスト

母:ガルヌーク

母父:ミルリーフ

3歳時にラムタラに競り負けたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを4歳時に制覇した新国のトップ種牡馬

競走成績:2~4歳時に英愛首仏日で走り通算成績18戦8勝2着2回3着4回

誕生からデビュー前まで

英国の政治家である第3代ハリファックス伯爵チャールズ・エドワード・ピーター・ニール・ウッド卿により生産された英国産馬である。ウッド卿の母方の曽祖父で英国首相も務めた第5代ローズベリー伯爵アーチボルド・プリムローズ卿は、自身の所有馬で英ダービーを3度制覇した名馬産家でもあり、一族には競馬に造詣が深い人々が多かった。

本馬は、かつてティーノソで英ダービーやキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを制したエリック・モラー氏とバッジー・モラー氏の兄弟によって5万4千ギニーで購入されて馬主団体モラーズ・レーシングの所有馬となり、ティーノソを手掛けた英国ジェフリー・ラグ調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳6月にニューマーケット競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利ステークスで、マイケル・ヒルズ騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ3.5倍の1番人気で並んだ本馬とナイトコマンダー、それに単勝オッズ4倍のインディアンライトの3頭に人気が集中していた。レースではナイトコマンダーとインディアンライトがすんなりと先行したのに対して、本馬はスタートで出負けしてしまった。残り2ハロン地点から追い上げを開始するも、勝ったナイトコマンダーに3馬身1/4差、2着インディアンライトに首差届かず3着に敗れた。

それから2週間後に同コースで行われた未勝利ステークスが2戦目となった。ここではしばらく主戦を務めるポール・エデリー騎手を鞍上に、単勝オッズ3.25倍の単独1番人気に支持された。今回は普通にスタートを切って好位につけ、他馬よりも早く仕掛けて残り2ハロン地点で先頭に立った。その後もしっかりと脚を伸ばして、2着となった単勝オッズ4倍の2番人気馬オッターボーンに2馬身半差で勝利した。

続いてリッチモンドS(英GⅡ・T6F)に駒を進めた。前走完勝だった本馬だが、このレースには、ジュライSなど3連勝中のファロー、コヴェントリーSなど3連勝中のスリペカン、未勝利ステークスを4馬身差で圧勝してローズボウルSで2着してきたウェイヴィアンといった、本馬より明らかに実績上位の馬が出走しており、本馬の評価はこの3頭より低かった。ファローが単勝オッズ2.375倍の1番人気、スリペカンが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ウェイヴィアンが単勝オッズ7倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ8倍で6頭立ての4番人気止まりだった。ここでは馬群の中団につけて、やはり中団好位にいたスリペカンやファローとの追い比べとなった。しかし残り1ハロン地点からの伸びが他2頭より無く、勝ったスリペカンから1馬身1/4差の3着と今一歩の結果だった。

次走のディプロイエイコム条件S(T6F214Y)では、後に豪州に移籍してGⅠ競走オーストラリアンCを勝つイスティダードが単勝オッズ2.75倍の1番人気に推されており、前走の未勝利ステークスを9馬身差で圧勝してきたオプションズオープンが単勝オッズ4倍の2番人気、本馬は単勝オッズ4.5倍の3番人気だった。レースではイスティダードとオプションズオープンが先頭争いを演じ、本馬も遅れまいと付いていった。しかし残り1ハロン地点からの伸びが悪くて前2頭に追いつけず、イスティダードを頭差の2着に抑えて勝ったオプションズオープンから2馬身3/4差の3着に敗れた。

次走のタタソールズホーソンセールズ条件S(T7F)では、28頭立ての多頭数の中で、単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。直線コースのここでは馬群が横一線で進む中で先行したのだが、残り1ハロン地点で失速。先行して勝った単勝オッズ21倍の9番人気馬ドンコルレオーネから8馬身1/4差の10着と大敗した。結局2歳時の成績は5戦1勝に終わった。

競走生活(3歳前半)

3歳時は4月のサンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ・T10F7Y)から始動した。鞍上は過去4戦で騎乗してきたエデリー騎手から、デビュー戦で騎乗したヒルズ騎手に戻っていた。このレースでは2戦2勝のトーレンシャルなどが人気を集める一方で本馬の評価は低く、単勝オッズ26倍で8頭立ての7番人気だった。しかしここでは馬群の中団追走から残り2ハロン地点で仕掛けて、ゴール前におけるハイペリオンS2着馬シングスピールとの叩き合いを首差で制して勝利した。後にジャパンCやドバイワールドCなどを勝つシングスピールは言うまでもないが、4着に敗れたルソーは次走のチェスターヴァーズと伊ダービーを連勝するし、5着に終わったトーレンシャルは次走のジャンプラ賞を勝っているから、このレースにおいて本馬が負かした相手は強豪揃いだった。この勝利により、本馬の主戦としてヒルズ騎手が固定されることになり、本馬の引退まで一貫してコンビを組むことになる。

サンダウンクラシックトライアルSの僅か12日後にはリステッド競走ディーS(T10F75Y)に出走。ここでは4戦無敗のムラージャという馬が単勝オッズ3倍の1番人気に支持されていた。本馬は他の出走全馬より5ポンド重い125ポンドのトップハンデや、前走の勝利だけではファンの信用を得るに至っていなかった事もあって、単勝オッズ3.25倍の2番人気だった。単勝オッズ4倍の3番人気馬は、条件ステークスで後の愛2000ギニー馬スペクトラムの2着してきたサノーシーだった。レースではムラージャやサノーシーが先行して、本馬は中団を追走。3番手で直線に入ると残り2ハロン地点で仕掛けて、逃げるムラージャやサノーシーを一気にかわし、2着サノーシーに1馬身1/4差で勝利した。

英ダービーの前哨戦を2連勝したために、次走は当然に英ダービーかと思われたのだが、陣営が選択したのはやはり英ダービーの前哨戦である、本番18日前のリステッド競走プレドミネートS(T10F)だった。かつてディプロイエイコム条件Sで本馬と顔を合わせたイスティダードの姿もあったのだが、この16日前にようやく未勝利を脱出してきたイスティダードはここでは単勝オッズ7.5倍の4番人気。単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持されたのは本馬だった。今回の本馬は最後方待機策を選択し、4番手で直線に入ると追い上げて、逃げるイスティダードを残り1ハロン地点でかわして先頭に立った。イスティダードも本馬より6ポンド軽い斤量を活かして粘ったが、本馬が短頭差で勝利を収め、英ダービーの前哨戦3連勝とした。

しかし結局本馬は英ダービーには出走しなかった。そもそも本馬には英ダービーの登録が無く、前哨戦を使ったのは別に英ダービーを狙っていたからではなく、出走させたレースがたまたま前哨戦だったという事に過ぎなかった。

本馬の次走は、プレドミネートSからちょうど1か月後、英ダービーから13日後のキングエドワードⅦ世S(英GⅡ・T12F)だった。このレースでは、イスティダードに加えて、英ダービーの前哨戦ダンテSを勝ちながらも英ダービーではなく仏ダービーに出走してケルティックスウィングの4着に敗れていたクラシッククリシェが捲土重来を期して出走してきた。クラシッククリシェが単勝オッズ3倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ5倍の2番人気だった。レースは、後に英セントレジャーやアスコット金杯などを勝利するスタミナ自慢のクラシッククリシェが好位を先行して、本馬が中団で追走する展開となった。そのままの態勢で直線に入ると、クラシッククリシェが残り2ハロン地点で抜け出そうとしたが、そこへ後方から来た本馬が残り1ハロン地点でクラシッククリシェをかわして先頭に立ち、そのまま2着クラシッククリシェに2馬身半差をつけて完勝した。

競走生活(3歳後半)

このように裏街道で地道に実力を磨いてきた本馬が表舞台に登場したのは、次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)だった。対戦相手の層は当然本馬が過去に出走してきたレースの中で最高であり、本馬不在の英ダービーをコースレコードで勝ってきたラムタラ、前走サンクルー大賞を勝ってきた前年の凱旋門賞・ユジェーヌアダム賞・ニエル賞の勝ち馬カーネギー、愛ダービーを勝ってきた仏ダービー3着馬ウイングドラヴ、前年のチェスターヴァーズ・ゴードンSの勝ち馬で英セントレジャー・ミラノ大賞2着のブロードウェイフライヤー、ジョンポーターSの勝ち馬でミラノ大賞3着のストラテジックチョイス、種牡馬と競走馬の二足の草鞋を履いていた4年前のエクリプスS・ダンテSの勝ち馬エンヴァイロンメントフレンドの計6頭が相手となった。ラムタラが単勝オッズ3.25倍の1番人気、カーネギーが単勝オッズ3.75倍の2番人気で、GⅠ競走初登場の本馬は単勝オッズ4倍の3番人気(レース前日時点では1番人気)だった。

スタートが切られるとブロードウェイフライヤーが先頭を引っ張り、ラムタラやカーネギーは中団後方を追走。本馬はラムタラをマークするように最後方につけた。三角に入る手前で本馬は他のどの馬よりも先に仕掛けたのだが、三角で外側に膨らんだエンヴァイロンメントフレンドの煽りを受けたラムタラが本馬に衝突する場面があり、2頭揃って勢いが殺がれてしまった。しかし直線に入ると外側から本馬とラムタラの2頭が並んで追い上げてきて、残り2ハロン地点では内側から順にブロードウェイフライヤー、ストラテジックチョイス、ラムタラ、本馬の4頭が横一線となった。逃げたブロードウェイフライヤーには脚が残っておらず残り1ハロン半地点で失速し、勝負は残り3頭に絞られた。この時点において一番脚色が良かったのは本馬であり、普通であれば本馬の勝利は決定的だった。しかし叩き合いの相手ラムタラは普通の馬ではなく、いったん本馬にかわされた後に残り1ハロン地点で差し返して先頭を奪取。本馬も必死に食らいついたが最後まで再度差し返すことは出来ず、ラムタラが勝利を収め、本馬は首差2着に惜敗した。本馬はゴール直前で脚が上がったのか内側によれて今度は自分からラムタラにぶつかる場面が見られたため、ヒルズ騎手は「仕掛けが早すぎた」として各方面から非難された。

それでも同世代トップクラスの実力を有する事を証明した本馬は、それから24日後のグレートヴォルティジュールS(英GⅡ・T11F195Y)に向かった。対戦相手は僅か3頭だったが、サンダウンクラシックトライアルS2着後にパリ大賞とエクリプスSでも2着してきたシングスピール、サンダウンクラシックトライアルS4着後にチェスターヴァーズ・伊ダービーを連勝してサンクルー大賞で2着してきたルソーの2頭がその中に含まれており、さながらサンダウンクラシックトライアルSのリターンマッチとなった。サンダウンクラシックトライアルSでは3頭中最も人気薄だった本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持され、シングスピールが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ルソーが単勝オッズ6倍の3番人気となった。スタートが切られるとルソーが先頭に立ち、シングスピールと本馬が揃ってその後方を追走した。先に仕掛けたのはシングスピールのほうで、残り2ハロン地点でルソーをかわして先頭に立った。しかし追い出しをワンテンポ遅らせた本馬が残り1ハロン地点でシングスピールに並びかけた。そして叩き合いを短頭差で制して勝利した。

その後は愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)に向かった。仏ダービー・リュパン賞・ニエル賞・ゴントービロン賞2回の勝ち馬で一昨年の愛ダービーと前年の凱旋門賞で2着していたエルナンド、パリ大賞でシングスピールを2着に破って以来の実戦となるギシュ賞の勝ち馬ヴァラヌール、愛ナショナルSの勝ち馬で愛ダービー2着のデフィニットアーティクル、伊共和国大統領賞・プリティポリーS・グロット賞の勝ち馬でマルセルブサック賞2着のフラッグバード、ゴントービロン賞で2着してきたアルクール賞・メルセデスベンツ大賞・ジョンシェール賞・パース賞の勝ち馬フリーダムクライ、メルドSの勝ち馬で伊ダービー・セントジェームズパレスS・伊共和国大統領賞2着のニードルガンなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気、エルナンドが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ヴァラヌールとデフィニットアーティクルが並んで単勝オッズ7倍の3番人気、フラッグバードが単勝オッズ9倍の5番人気、フリーダムクライが単勝オッズ10倍の6番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ21倍の7番人気馬ニードルガンが先頭に立ち、ヴァラヌールなどがそれを追って先行。本馬は今回も最後方に陣取った。直線入り口でもまだ後方であり、前方では先に仕掛けたフラッグバードとフリーダムクライの2頭が叩き合いを開始していた。そしてフラッグバードを競り落としたフリーダムクライの勝利が目前だった。しかし残り1ハロン地点でヒルズ騎手が満を持して仕掛けた本馬が一気にフリーダムクライを捕らえて、短頭差で勝利した。

この3週間後に行われた凱旋門賞でフリーダムクライはラムタラの3/4馬身差2着しており、その凱旋門賞に本馬が出ていたらどういう結果になっていたのかは興味があるところだが、本馬は愛チャンピオンSを最後に3歳時の出走を終えたために、この年の凱旋門賞には不参戦となった。3歳時の成績は7戦6勝2着1回、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでラムタラに首差で負けたのが唯一の敗北という見事な成績を収めた。

競走生活(4歳時)

3歳限りで競走馬を引退したラムタラと異なり本馬は4歳時も現役を続行。ラムタラ引退後の同世代のエース格として期待された本馬の4歳初戦は、記念すべき第1回ドバイワールドC(D2000m)となった。本馬とはサンダウンクラシックトライアルS以来の顔合わせとなるジャンプラ賞の勝ち馬トーレンシャル、前年のエクリプスSでシングスピールを2着に破って勝ち英国際Sも勝っていたホーリング、スーパーダービー・サンフェリペS・ベルエアH・グッドウッドHの勝ち馬でパシフィッククラシックS2着のソウルオブザマター、スプリングチャンピオンS・ローズヒルギニー・ドゥーンベンC・コーフィールドS・マッキノンSと豪州GⅠ競走5勝のデーンウイン、前哨戦のアルマクトゥームチャレンジを2連勝してきたタマヤズ、前年の愛チャンピオンSで本馬の4馬身差5着だった後に香港国際ヴァーズで2着していたニードルガン、一昨年から前年の秋にかけてウインターS・平安S・フェブラリーS・帝王賞・ブリーダーズゴールドC・マイルCS南部杯とダート重賞6連勝を達成していた日本調教馬ライブリマウントなどの姿もあったが、何と言っても同競走最大の目玉はBCクラシック・NYRAマイルH・ドンH2回・ガルフストリームパークH・オークローンH・ピムリコスペシャルH・ハリウッド金杯・ウッドワードS・ジョッキークラブ金杯など破竹の13連勝中だった現役米国最強馬シガーであり、米国最強馬のシガーと欧州最強馬の本馬が激突するという点においてもこのレースは大きく注目された。

初のダート競走であっても本馬のレースぶりはいつもと変わらず、エルカリエレとライブリマウントの2頭が先頭を引っ張る中で、道中は最後方を追走。三角から四角にかけて馬群の隙間を通って位置取りを上げていった。そして直線入り口5番手から末脚を伸ばそうとしたが、好位から抜け出したシガーの背中がだんだん遠くなり、外側から来たソウルオブザマターにも一気にかわされた。そして逃げたエルカリエレにゴール前で差し返されて着順を1つ下げ、勝ったシガーから9馬身1/4差をつけられた4着に敗退。2着ソウルオブザマター、3着エルカリエレと上位は米国調教馬勢が占め、やはりダート競走では欧州調教馬より米国調教馬のほうが強いという結果になった。

帰国初戦のエクリプスS(英GⅠ・T10F)では、ドバイワールドCで最下位に終わっていた前年の覇者ホーリング、前年の愛チャンピオンSでは4着に終わるも前走タタソールズ金杯を勝ってきたデフィニットアーティクル、前年の愛チャンピオンSでは6着に終わるもこの年はアルクール賞・ガネー賞を連勝してきたヴァラヌールといった既対戦組や、前走セントジェームズパレスSを勝ってきた愛フューチュリティSの勝ち馬で英2000ギニー3着のビジューダンドなどが対戦相手となった。ドバイワールドCの結果があまり重視されることはなく、本馬が単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、ホーリングが単勝オッズ4.33倍の2番人気、デフィニットアーティクルが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ヴァラヌールが単勝オッズ8倍の4番人気となった。ここでは馬群の中団につけて、残り1ハロン地点で満を持して仕掛けた。しかし前年の愛チャンピオンSで発揮したような強烈な末脚は無く、2着ビジューダンドを首差抑えて勝ったホーリングから2馬身差の3着に敗れた。

次走は、前年に惜しくも敗れたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。英ダービーを勝ってきたシャーミット、前年のキングエドワードⅦ世Sで本馬の2着に敗れた後に出走した愛ダービーでは5着だったがその後に英セントレジャー・ヨークシャーC・アスコット金杯と3連勝してきたクラシッククリシェ、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着後に愛セントレジャー・ミラノ大賞とGⅠ競走2勝を挙げてきたストラテジックチョイス、オーモンドS・ハードウィックSを連勝してきた愛セントレジャー3着馬オスカーシンドラー、仏国から参戦してきた3歳牡馬ファラサン、前年のグレートヴォルティジュールSで本馬の3着に敗れた後にアールオブセフトンS・エリントン賞を勝ちガネー賞・ミラノ大賞で2着していたルソー、レーシングポストトロフィー・ジャンプラ賞2着・愛ダービー・英国際S・タタソールズ金杯3着のアヌスミラビリスの計7頭が対戦相手となった。前年のラムタラと同じく英ダービー馬による制覇が期待されたシャーミットが単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。他の有力馬には既に本馬と戦って敗れていた馬が多く、本馬が単勝オッズ4.33倍の2番人気、連勝の勢いが買われたクラシッククリシェが単勝オッズ6倍の3番人気、ストラテジックチョイスが単勝オッズ8倍の4番人気、オスカーシンドラーが単勝オッズ11倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ34倍の最低人気だったアヌスミラビリスが単騎で先頭に立ち、クラシッククリシェやストラテジックチョイスがそれを追って先行、シャーミットは後方につけた。一方の本馬はスタート直後の加速が異常に悪く、推定3~4馬身ほどの致命的とも言える出遅れを犯しており、最後方からの競馬となっていた。前年の同競走でもやはり最後方の位置取りだったが、今回は出遅れての最後方であり、本当はもう少し前目で競馬をしたいところだったと思われる。しかし鞍上のヒルズ騎手は前年の同競走で早仕掛けを批判された事を忘れておらず、焦らずに最後方のままレースを進めた。外側に持ち出した前年と異なり、今回は三角から四角にかけて内側を上手く掬って前との差を縮めると、6番手で直線を向いた。直線ではまずクラシッククリシェが先頭に立ち、それをシャーミットと本馬の2頭が追撃する展開となった。残り2ハロン地点過ぎで勝負はこの3頭に完全に絞られた。そして残り1ハロン地点手前で本馬の末脚が炸裂し、一気に他2頭を突き放した。そして2着クラシッククリシェに1馬身3/4差、3着シャーミットにさらに首差、4着オスカーシンドラーにさらに10馬身差をつけて勝ち、名実共に欧州競馬界の頂点に立った。

このレース後に、日本の馬主団体サラブレッドクラブラフィアンの代表者である岡田繁行氏と、社台ファームの代表者である吉田照哉氏の両名が本馬に注目した。2人は本馬が競走馬を引退した後に日本で種牡馬入りさせる事を考えて、協力して本馬の購入に動いた。取引が成立したため、本馬はこれ以降に吉田照哉氏の単独名義で走る事になった。

前年と異なり夏場は休養に充て、秋は凱旋門賞を目指してフォワ賞(仏GⅢ・T2400m)から始動した。このレースは、コロネーションC・ドーヴィル大賞・リス賞の勝ち馬で、前年の凱旋門賞で3着、前走のサンクルー大賞で2着していたスウェインとの完全な2強対決となった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、スウェインが単勝オッズ2倍の2番人気で、他馬勢は全て単勝オッズ10倍以上だった。レースではスウェインが馬群の中団後方、本馬が最後方と、人気馬2頭が揃って後方で様子を伺っていた。先に仕掛けたのは本馬であり、直線に入る手前で一気に先頭に踊り出た。しかしスウェインも即座に反応して本馬に並びかけてきた。直線ではこの2頭の叩き合いとなったが、スウェインが半馬身差で勝利を収め、本馬は2着に敗れた。

本番の凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)では、サンクルー大賞・リュパン賞・ノアイユ賞・ニエル賞の勝ち馬エリシオ、スウェイン、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSから直行してきたクラシッククリシェ、愛ダービー馬ザグレブ、ニエル賞で2着してきたモーリスドニュイユ賞の勝ち馬ダラザリ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS4着後に出走した愛セントレジャーを勝ってきたオスカーシンドラー、バーデン大賞・ブリガディアジェラードS・ロイヤルホイップSを勝ってきた上がり馬ピルサドスキー、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着後に出走した愛チャンピオンSでは4着だったシャーミット、サンタラリ賞・ヴァントー賞・ノネット賞の勝ち馬ルナウェルズ、クリテリウムドサンクルー・リッチモンドSの勝ち馬で愛ナショナルS・仏ダービー・愛ダービー2着のポラリスフライト、前年の英ダービーでラムタラの2着だったタムレなどが対戦相手となった。エリシオが単勝オッズ2.8倍の1番人気、スウェイン、クラシッククリシェ、タムレの3頭カップリングが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ザグレブが単勝オッズ7.6倍の3番人気、本馬が単勝オッズ8.3倍の4番人気となった。レースではエリシオが果敢に先頭に立ち、スタートでまたも出遅れた本馬は馬群の後方につけた。そして直線入り口10番手からの追い込みに勝負を賭けたが、いつものような爆発的な末脚は今回まったく見られず、勝ったエリシオから10馬身半差の10着と大敗した。

次走は引退レースとなるジャパンC(日GⅠ・T2400m)だった。エリシオを筆頭に、前年のグレートヴォルティジュールSで本馬の2着に敗れた後に加国際S・ゴードンリチャーズS・セレクトSを勝ちコロネーションC・BCターフで2着してきたシングスピール、セクレタリアトS・ETマンハッタンS・アーリントンミリオン・パンアメリカンH・ピルグリムS・ブーゲンヴィリアH・ハイアリアターフCHとGⅠ競走3勝を含むグレード競走7勝のアワッド、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで8着最下位に終わった後にドーヴィル大賞を勝っていたストラテジックチョイス、レッドスミスH・WLマックナイトH・ボーリンググリーンH・エドモンブラン賞・ラクープの勝ち馬フラッグダウンといった海外馬勢や、前走の天皇賞秋で四歳にして勝利を収めていた朝日杯三歳S・スプリングSの勝ち馬バブルガムフェロー、NHKマイルC・毎日杯の勝ち馬タイキフォーチュン、優駿牝馬・エリザベス女王杯・京阪杯の勝ち馬ダンスパートナー、秋華賞・ニュージーランドトロフィー四歳Sの勝ち馬ファビラスラフイン、鳴尾記念・アメリカジョッキークラブC・エプソムCの勝ち馬カネツクロスといった日本馬勢が対戦相手となった。凱旋門賞で2着ピルサドスキーに5馬身差をつけて圧勝していたエリシオが単勝オッズ3.4倍で貫禄の1番人気に支持され、バブルガムフェローが日本馬のエースとして単勝オッズ3.7倍の2番人気、本馬は単勝オッズ6.8倍の3番人気での出走だった。レースでは馬群の中団を進んだが、最後まで末脚を爆発させることは出来ず、3馬身半差の8着に敗退。勝ったのは、過去に本馬と2戦して2戦とも競り負けていたシングスピールだった。

4歳時の成績は6戦1勝であり、安定感抜群だった3歳時とはまるで別馬のように不安定な成績だった。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSこそ3歳時は負けて4歳時に勝っているのだが、本馬の全盛期は実際には3歳時であり、4歳時は既にピークを過ぎていたと見るべきであろう。

血統

Be My Guest Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
What a Treat Tudor Minstrel Owen Tudor Hyperion
Mary Tudor
Sansonnet Sansovino
Lady Juror
Rare Treat Stymie Equestrian
Stop Watch
Rare Perfume Eight Thirty
Fragrance
Gull Nook Mill Reef Never Bend Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Lalun Djeddah
Be Faithful
Milan Mill Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Virginia Water Count Fleet
Red Ray
Bempton Blakeney Hethersett Hugh Lupus
Bride Elect
Windmill Girl Hornbeam
Chorus Beauty
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross

ビーマイゲストは当馬の項を参照。

母ガルヌークは現役成績4戦2勝、リブルスデールS(英GⅡ)の勝ち馬。本馬の半姉スプリング(父サドラーズウェルズ)【ローマヴェッキア賞(伊GⅢ)】も産んでいる。また、本馬の半妹キティウェイク(父バラシア)の子には、ケーニヒスティーガー【伊グランクリテリウム(伊GⅠ)・ウニオンレネン(独GⅡ)・メツレル春季賞(独GⅢ)】、カラヴェル【ドイツ統一賞(独GⅢ)】、カラ【ミネルヴ賞(仏GⅢ)】の兄妹がいる。ガルヌークの半弟にはミスターピンティップス(父クリス)【オーモンドS(英GⅢ)】、半妹にはバンケット(父グリントオブゴールド)【プリンセスロイヤルS(英GⅢ)】がいる。ガルヌークの母ペンプトンの半兄にシャーリーハイツ【英ダービー(英GⅠ)・愛ダービー(愛GⅠ)】がいる他、ペンプトンの半妹ミリームの孫にはウィッパー【モルニ賞(仏GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・モーリスドギース賞(仏GⅠ)】とディヴァインプロポーションズ【モルニ賞(仏GⅠ)・マルセルブサック賞(仏GⅠ)・仏1000ギニー(仏GⅠ)・仏オークス(仏GⅠ)・アスタルテ賞(仏GⅠ)】の兄妹が、ペンプトンの半妹ハーディホステスの曾孫にサイドグランス【マッキノンS(豪GⅠ)】が、ペンプトンの半妹アムラーダフの玄孫にヨハネスフェルメール【クリテリウム国際(仏GⅠ)】がいる。→牝系:F1号族④

母父ミルリーフは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は予定どおり日本の社台スタリオンステーションで種牡馬入りした。初年度の1997年は91頭、2年目は85頭、3年目は98頭、4年目の2000年は118頭の繁殖牝馬を集めた。また、初年度から新国リッチヒルスタッドにも毎年のようにシャトルされおり、新国においても毎シーズンのように70~80頭の繁殖牝馬を集めた。日本における初年度産駒は2000年にデビューしたが、その成績はいま一つであり、5年目の2001年の交配数は27頭まで減少してしまい、2002年は日本では種付けを行わなかった。初年度産駒の1頭マイネルデスポットが2001年の菊花賞で人気薄ながら2着して名を馳せ、その後も散発的に重賞勝ち馬を出したが、日本における種牡馬人気を回復させるほどの勢いは無く、2003年の交配数も26頭に留まった。

新国でも2001/02シーズンには交配数が20頭程度になるなど一時的に人気が下がったが、初年度産駒の1頭パンタニが2002年のサウスオーストラリアンダービーを勝つなど、新国における産駒は活躍。そのために新国では種牡馬人気が一気に回復した。この状況下では日本で種牡馬生活を続ける意味は無く、2003年の繁殖シーズン終了後に、正式にリッチヒルスタッドへ輸出された。

2004年から2006年までは独国と新国を行き来していたが、独国における産駒成績が振るわなかった上に、新国では産駒が一層活躍したために、シャトル種牡馬としての活動は2006年が最後であり、2007年以降は新国に留まっている。全日本種牡馬ランキングでは2004年の34位が最高だったが、新国では2005/06シーズンに首位種牡馬に輝くなど種牡馬ランキングでは常に上位を維持してきた。2009/10~2011/12シーズンの間には毎年100頭以上の繁殖牝馬を集めるなど、新国では長年に渡りトップクラスの種牡馬として活躍していたが、さすがに寄る年波には勝てないのか、2012/13シーズン以降の交配数は下落傾向にある。2013/14シーズンには産駒のGⅠ競走勝ちがゼロになるなど、以前ほどの勢いはもはや無いが、2015年のメルボルンCを産駒のプリンスオブペンザンスが勝って健在ぶりを見せてくれた。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1998

Pantani

サウスオーストラリアンダービー(豪GⅠ)・SAJCアデレードC(豪GⅠ)

1998

Pentastic

クレイグリーS(豪GⅡ)・PJオシアS(豪GⅡ)

1999

Penny Gem

キャプテンクックS(新GⅠ)

1999

Recurring

ARCレイルウェイS(新GⅠ)・サファイアS(豪GⅢ)

1999

Zanna

VRCネッスルピーターズクラシック(豪GⅡ)

1999

カオリノーブル

ステイヤーズC(H1)・星雲賞(H2)

1999

マイネルアムンゼン

エプソムC(GⅢ)2回・新潟大賞典(GⅢ)

2000

クラフトワーク

アメリカジョッキークラブC(GⅡ)・函館記念(GⅢ)・中山金杯(GⅢ)

2000

ワンモアチャッター

朝日チャレンジC(GⅢ)

2001

Art Success

ブリスベンC(豪GⅠ)・チェアマンズH(豪GⅢ)

2001

Pentane

オークランドC(新GⅠ)

2001

Pentathon

CJCニュージーランドC(新GⅡ)・PJオシアS(豪GⅡ)・メトロポリタントロフィー(新GⅢ)

2001

Xcellent

新ダービー(新GⅠ)・ARCニュージーランドS(新GⅠ)・マッジウェイパーツワールドS(新GⅠ)・ケルトキャピトルS(新GⅠ)

2001

ウイニングウインド

くろゆり賞(SPⅠ)2回・東海菊花賞(SPⅠ)・オグリキャップ記念(SPⅠ)・マイル争覇(SPⅡ)・名港盃(SPⅡ)・マーチC(SPⅡ)・姫山菊花賞(姫路)・スプリング争覇(SPⅢ)

2001

マイネルデュプレ

共同通信杯(GⅢ)

2003

Tinseltown

アヴォンデール金杯(新GⅡ)・DHLカントリーズC(新GⅡ)

2004

Mufhasa

WRCテレグラフH(新GⅠ)2回・ワイカトドラフトスプリント(新GⅠ)2回・フェアデイルWFAクラシック(新GⅠ)・マクフィチャレンジS(新GⅠ)・トゥーラックH(豪GⅠ)・WRCキャプテンクックS(新GⅠ)・豪フューチュリティS(豪GⅠ)・ウィンザーパークプレート(新GⅠ)・マナワツチャレンジ(新GⅢ)

2004

Rangirangdoo

ドンカスターマイル(豪GⅠ)・ジョージライダーS(豪GⅠ)・豪クリスタルマイル(豪GⅡ)・エクスプレスウェイS(豪GⅡ)・トラムウェイクオリティH(豪GⅢ)

2004

Zarita

シュウェップスオークス(豪GⅠ)・サウスオーストラリアンダービー(豪GⅠ)・ウェイクフルS(豪GⅡ)・アンガスアーマナスコS(豪GⅡ)・AVキューニーS(豪GⅡ)・WHストックスS(豪GⅡ)・サンラインS(豪GⅡ)

2005

Kincaple

ストリックランドS(豪GⅢ)

2005

Markus Maximus

ウェストオーストラリアダービー(豪GⅠ)

2007

Say No More

WRCソーンドンマイル(新GⅠ)・新サラブレッドブリーダーズS(新GⅠ)

2009

Entirely Platinum

スカイハイS(豪GⅢ)

2009

Ferlax

オーストラリアンギニー(豪GⅠ)

2009

Prince of Penzance

メルボルンC(豪GⅠ)・ムーニーバレーC(豪GⅡ)

2010

Amexed

ラフハビットプレート(豪GⅢ)

2012

Xtravagant

新2000ギニー(新GⅠ)

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