スウェイン
和名:スウェイン |
英名:Swain |
1992年生 |
牡 |
鹿毛 |
父:ナシュワン |
母:ラヴスミットゥン |
母父:キートゥザミント |
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名牝ダリア以来史上2頭目となるキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2年連続連覇を達成しただけでなくダート競走でも実力を発揮する |
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競走成績:3~6歳時に仏英加首愛米で走り通算成績22戦10勝2着4回3着6回 |
誕生からデビュー前まで
ドバイのシェイク・モハメド殿下により生産・所有された愛国産馬で、仏国アンドレ・ファーブル調教師に預けられた。
競走生活(3歳時)
デビューは遅く3歳5月にサンクルー競馬場で行われたビルム賞(T2800m)であり、欧州クラシック戦線には間に合わなかった。しかし主戦となるティエリ・ジャルネ騎手を鞍上にビルム賞を3馬身差で勝ち上がると、次走のオルデュティン賞(T2800m)も勝利。
6月にはリス賞(仏GⅢ・T2800m)に出走。単勝オッズ1.7倍の1番人気に応えて、2着マダイーンに2馬身半差で快勝した。8月にはリステッド競走リュー賞(T2500m)を2着ロードオブアピールに首差で勝利。
続いて出走したドーヴィル大賞(仏GⅡ・T2500m)では、前走メルクフィンク銀行賞でランドの2着してきた前年の独ダービー馬ラロッシュ、ミラノ大賞でランドの2着・英セントレジャーで2着だったチェスターヴァーズ・ゴードンSの勝ち馬ブロードウェイフライヤー、ポモーヌ賞を勝ってきたサンライズソング、オーモンドSの勝ち馬ジルザルザマーンなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、ラロッシュとブロードウェイフライヤーが並んで単勝オッズ5.9倍の2番人気となった。レースでは馬群の好位4番手を進み、残り200m地点で先頭に立つと、2着となった単勝オッズ10.3倍の5番人気馬ジルザルザマーンに3/4馬身差で勝利を収め、破竹の勢いでデビュー5連勝とした。
その勢いのまま凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に挑戦。英ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを勝っていた3戦無敗のラムタラ、前年の凱旋門賞を筆頭にサンクルー大賞・ユジェーヌアダム賞・ニエル賞・フォワ賞を勝っていたカーネギー、前年の英オークス・愛ダービーを勝っていた女傑バランシーン、仏オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬カーリング、愛チャンピオンSで2着してきたアルクール賞・メルセデスベンツ大賞などの勝ち馬フリーダムクライ、ラクープドメゾンラフィットを勝ってきたガンボートディプロマシー、愛オークス・ヨークシャーオークスの勝ち馬ピュアグレイン、愛セントレジャーを勝ってきたストラテジックチョイス、伊ダービー馬ルソー、独ダービー・バーデン大賞2回・伊ジョッキークラブ大賞・ミラノ大賞・メルクフィンク銀行賞とGⅠ競走5勝のランドといった錚々たるメンバー構成の中で、単勝オッズ3.1倍のラムタラに次ぐ2番人気(単勝オッズ3.2倍。ただしカーネギー、バランシーンとのカップリング)に推された。
ジャルネ騎手が同じファーブル厩舎のカーネギーに騎乗したため、本馬にはマイケル・キネーン騎手が騎乗した。レースでは馬群の中団を追走。そして直線に入ると先に抜け出したラムタラを追撃した。途中からは同厩のフリーダムクライと叩き合いながら末脚を伸ばしたが、常識破りの粘りを見せるラムタラには追いつけず、自身が先に失速してしまい、勝ったラムタラから2馬身3/4差の3着に敗れた。この年はこれを最後に休養入りして、3歳時の成績は6戦5勝となった。
競走生活(4歳時)
4歳時は4月のガネー賞(仏GⅠ・T2100m)から始動した。対戦相手は、アルクール賞を勝ってきた前年のパリ大賞の勝ち馬ヴァラヌール、前年の愛2000ギニー・英チャンピオンSの勝ち馬スペクトラム、アルクール賞で2着してきた前年の凱旋門賞9着馬カーリング、ローマ賞の勝ち馬スリシアス、サンタラリ賞の勝ち馬ミュンシー、グレフュール賞の勝ち馬ダイアモンドミックス、アールオブセフトンSを勝ってきたルソー、2年前のガネー賞の勝ち馬マリルド、エヴリ大賞の勝ち馬トウタールの9頭であり、欧州競馬シーズン最初のGⅠ競走であるために層が薄くなる事も多いガネー賞としてはかなり層が厚いメンバー構成となった。ヴァラヌールが単勝オッズ2.2倍の1番人気、スペクトラムが単勝オッズ5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.1倍の3番人気となった。再びジャルネ騎手とコンビを組んだ本馬は先行して3番手で直線に入ると、残り400m地点で仕掛けた。しかし2番手で直線に入ったキネーン騎手騎乗のルソー、後方から来たヴァラヌールとの追い比べに屈して、ヴァラヌールの3/4馬身差3着と惜敗した。
次走のコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)では、同じシェイク・モハメド殿下の所有馬で前走ゴードンリチャーズSではピルサドスキーを2着に破っていた前年のパリ大賞・エクリプスS2着馬シングスピール、コンセイユドパリ賞の勝ち馬ドクエスト、ショードネイ賞で2着してきたパニッシュメントの3頭だけが対戦相手となり、ガネー賞と比べると随分と層が薄いメンバー構成となった。テン乗りのランフランコ・デットーリ騎手を鞍上に迎えた本馬が単勝オッズ2.1倍の1番人気、キネーン騎手騎乗のシングスピールが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ドクエストが単勝オッズ4.5倍の3番人気となった。レースではスタートから先頭に立った本馬と、それを2番手で追いかけたシングスピールのマッチレースの様相を呈した。残り2ハロン地点からは2頭の叩き合いとなったが、本馬が首差で競り勝ち、初めてのGⅠ競走タイトルを獲得した。
続くサンクルー大賞(仏GⅠ・T2400m)では古馬の大将格として、リュパン賞・ノアイユ賞の勝ち馬エリシオ、そのエリシオを仏ダービーで破って勝利したラグマール、伊ダービーを勝ってきたバハミアンナイトの3歳馬勢を迎え撃った。他の対戦相手は、前走エヴリ大賞を勝ってきた一昨年のクリテリウムドサンクルーの勝ち馬で仏ダービー2着の4歳馬ポリグロート、ガネー賞で9着だったカーリング、前走でシングスピールから5馬身差の3着だったドクエストなどだった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、エリシオが単勝オッズ3.7倍の2番人気、ラグマールが単勝オッズ6.7倍の3番人気、ポリグロートが単勝オッズ12.6倍の4番人気となった。レースではポリグロートが先頭を引っ張り、仏ダービーで抑えすぎて折り合いを欠いてしまったエリシオが2番手、本馬が3番手につけた。やがてエリシオがポリグロートに並びかけて、直線で先頭争いを開始。本馬も直線に入って残り400m地点で仕掛けると、ポリグロートを競り落として単独で先頭に立っていたエリシオを追撃した。しかし最後まで追いつけず、エリシオから1馬身差の2着に敗れた。
夏場は休養に充て、秋はフォワ賞(仏GⅢ・T2400m)から始動した。最大の強敵は、前走キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを勝利して欧州古馬の頂点に立っていた愛チャンピオンS・キングエドワードⅦ世S・グレートヴォルティジュールSなどの勝ち馬ペンタイアだった。3歳時のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでラムタラの首差2着に肉薄していたペンタイアが単勝オッズ1.8倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ2倍の2番人気と、2頭の一騎打ちムードとなった。レースでは本馬とペンタイアの2頭とも最初は後方につけていたが、最初のコーナーを回るところで最後方にいたペンタイアが加速して先頭に踊り出ると、本馬もそれを追っていった。そのまま2頭が争いながら直線に入ってくると、残り200m地点でようやく本馬が前に出て、ペンタイアを半馬身差の2着に抑えて勝利を収めた。
そして2年連続の出走となる凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に参戦した。サンクルー大賞の次走ニエル賞を勝ってきたエリシオ、ペンタイアに加えて、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでペンタイアの3着していたこの年の英ダービー馬シャーミット、この年の愛ダービー馬ザグレブ、前年の英ダービーでラムタラの2着だったタムレ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでペンタイアの2着していた英セントレジャー・アスコット金杯・ダンテS・ヨークシャーCの勝ち馬クラシッククリシェ、モーリスドニュイユ賞の勝ち馬でニエル賞2着のダラザリ、愛セントレジャー・ハードウィックSなどの勝ち馬オスカーシンドラー、クリテリウムドサンクルーの勝ち馬ポラリスフライト、仏ダービーでラグマールの3着だったルデスティン、サンタラリ賞・ヴァントー賞・ノネット賞の勝ち馬ルナウェルズ、ロイヤルホイップS・バーデン大賞を連勝してようやく素質を開花させつつあったピルサドスキーなどが対戦相手となった。エリシオが単勝オッズ2.8倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ3.5倍の2番人気(ただし、タムレ、クラシッククリシェとのカップリング)となった。
レースはエリシオが後続を引きつけながら逃げ、ピルサドスキーやクラシッククリシェなどがそれを追走、本馬は馬群の中団後方につけた。そして直線の追い込みに賭けたが、直線で二の脚を使って後続を一気に引き離したエリシオにはまったく追いつけず、ピルサドスキーやオスカーシンドラーにも後れを取って、勝ったエリシオから6馬身差の4着に敗れた。
続いて北米に向かい、この年は加国のウッドバイン競馬場で行われたBCターフ(加GⅠ・T12F)に出走。対戦相手は、前走でエリシオから5馬身差の2着だったピルサドスキー、セレクトS・加国際Sを連勝してきたシングスピール、英セントレジャー・伊ジョッキークラブ大賞を連勝してきたシャントゥ、セクレタリアトS・ETマンハッタンS・アーリントンミリオンと北米GⅠ競走3勝のアワッド、サンセットHの勝ち馬でハリウッドターフカップS2着のタロワール、ETマンハッタンS・マンノウォーS・ターフクラシック招待Sを勝ってきたディプロマティックジェット、グレートヴォルティジュールSの勝ち馬で英セントレジャー2着のダシャンター、加国三冠競走最終戦ブリーダーズSの勝ち馬で加国際S2着のチーフベアハート、凱旋門賞で本馬から1馬身半差の5着だったルナウェルズ、サンルイレイS・サンルイオビスポHの勝ち馬ウインドシャープ、セクレタリアトSの勝ち馬マーリン、カンバーランドロッジSを勝ってきたウォールストリートなどだった。本馬、シングスピール、シャントゥ、ウォールストリートの4頭がカップリングされて単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持され、アワッドが単勝オッズ5.9倍の2番人気、ピルサドスキーは単勝オッズ14.7倍の6番人気止まりだった。
ジャルネ騎手が同厩のルナウェルズに騎乗する事になったため、本馬にはエリシオの主戦だったオリビエ・ペリエ騎手がこのレース限定で騎乗した。ペリエ騎手はこの年のブリーダーズカップでBCターフ以外に騎乗予定が無かったのだが、本馬に乗るためにわざわざ渡米してきたのは、敵だった本馬に1度乗ってみたかったためかもしれない。さて、ペリエ騎手騎乗の本馬はここではシングスピールと共に馬群の好位3番手につけたのだが、三角手前でシングスピールや本馬の直後にいたピルサドスキーなどが先に仕掛けて上がっていったため、5番手で直線入り口を迎えることになった。直線では逃げるシングスピールをピルサドスキーが着実に追い詰めていき、本馬もピルサドスキーの後方から末脚を伸ばした。しかしピルサドスキーとシングスピールの2頭には届かず、勝ったピルサドスキーから2馬身半差の3着に敗れた。4歳時は6戦2勝の成績だった。
競走生活(5歳時)
その後に本馬はサイード・ビン・スルール厩舎に転厩。調整期間を経て5歳7月に復帰した。
復帰初戦はプリンセスオブウェールズS(英GⅡ・T12F)となった。対戦相手は、BCターフ4着後にやはり長期休養に入り前月のミラノ大賞で復帰して初戦を勝利で飾ったシャントウ、アスコット金杯・ヨークシャーCを勝ってきたセレリック、コロネーションCでシングスピールの2着してきたBCターフ7着馬ダシャンター、前年の英オークスを9馬身差で勝っていたレディカーラ、ミラノ大賞で3着してきたタイパンなどだった。2度目のコンビとなるキネーン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2.875倍の1番人気に支持され、シャントウが単勝オッズ3.75倍の2番人気、セレリックが単勝オッズ7.5倍の3番人気、ダシャンターが単勝オッズ9倍の4番人気となった。レースではダシャンターが先頭を引っ張り、本馬とシャントウがそれを追って先行した。本馬が残り3ハロン地点で先頭に立ち、そのまま押し切ろうとしたが、ゴール前でシャントウに並びかけられて競り負け、頭差の2着に終わった。
次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、凱旋門賞勝利後に出たジャパンCでシングスピールの3着に敗れた後にガネー賞・サンクルー大賞を連勝していた前年のカルティエ賞年度代表馬エリシオ、BCターフ2着後にジャパンC・ドバイワールドC・コロネーションCと3連勝していた前年のエクリプス賞最優秀芝牡馬シングスピール、この年は2連敗スタートだったが前走エクリプスSを勝ってきたピルサドスキーという、現役欧州最強古馬3頭も参戦しており、筆者がこれらの馬名を書きながら興奮して全身が汗ばむほどのメンバー構成となった。他の出走馬も、前走のキングエドワードⅦ世Sを8馬身差で勝ってきたキングフィッシャーミル、前走のハードウィックSでピルサドスキーを破って勝利したプレダピオ、シャントウ、愛セントレジャーに加えてミラノ大賞・ドーヴィル大賞を勝っていたストラテジックチョイスなど強敵揃いであり、“The Race of the Decade(10年に1度の大一番)”と評されるほど史上稀に見るハイレベルな戦いとなった。エリシオが単勝オッズ2.1倍の1番人気、シングスピールが単勝オッズ5倍の2番人気、ピルサドスキーが単勝オッズ7倍の3番人気、キングフィッシャーミルが単勝オッズ9倍の4番人気、プレダピオが単勝オッズ13倍の5番人気で、本馬とシャントウが並んで単勝オッズ17倍の6番人気となった。
ピルサドスキーの主戦として固定されるようになっていたキネーン騎手がピルサドスキーを選択したため、本馬には最初で最後のコンビとなるジョン・リード騎手が騎乗した。大雨の中でスタートが切られると、予想どおりエリシオが先手を取り、本馬とピルサドスキーが共に2~3番手を追走した。そして直線を向くと、リード騎手は他の誰よりも早く仕掛けて、残り2ハロン地点で早くも本馬を先頭のエリシオに外側から並びかけさせた。そしてエリシオを完全に抜き去ると、リード騎手は本馬の馬体を内埒沿いに寄せてエリシオの前に被せた。これが意図的なものかそうでないのかは筆者には判断できないが、進路妨害と判定される余地が無いほど巧みな被せ方であり、本馬の後方から来たピルサドスキーと本馬の間に包まれる形となったエリシオは得意の直線における二の脚を封じられた。エリシオの代わりに本馬を追い詰めにかかったのはピルサドスキーだったが、その差は縮まりそうで縮まらなかった。最後は本馬が2着ピルサドスキーに1馬身差、3着エリシオにはさらに1馬身1/4差、4着シングスピールにはさらに2馬身半差、5着シャントウにはさらに4馬身差をつけて勝利。本馬のスタミナ能力を最大限に活かそうとしたリード騎手の好騎乗により、父ナシュワンとの同競走親子制覇を成し遂げた。
秋はニューベリー競馬場で行われたリステッド競走アークトライアル(T11F5Y)から始動した。イタリア大賞・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬ポシドナスなどが出走してきたが、前年のコロネーションC以来となるデットーリ騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。レースでは最後方を追走し、残り3ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立った。しかし他馬より7ポンド以上重い斤量が最後になって効いてきたようで、ゴール直前で単勝オッズ9倍の3番人気馬ポシドナスと単勝オッズ6.5倍の2番人気馬アラビアンストーリーの2頭に差されて、ポシドナスの頭差3着に敗れた。しかしこれは凱旋門賞の前哨戦であり、勝ち負けよりも内容が重要だったから、無難な結果だったと言えるだろう。
そして3年連続で凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に出走した。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着後にムーランドロンシャン賞で2着してきたエリシオ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着後に愛チャンピオンSを勝ってきたピルサドスキー、愛セントレジャーの2連覇を果たしてきた前年の同競走3着馬オスカーシンドラー、前年のヴェルメイユ賞の勝ち馬で前走ヨークシャーオークスを勝ってきたマイエマ、独ダービー・バーデン大賞を勝ってきた3歳牝馬ボルジア、ヴェルメイユ賞を勝ってきたクイーンモード、愛オークスを勝ってきたエバディーラ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS7着後にバーデン大賞で3着してきたプレダピオ、前走で本馬を破ったポシドナスなども出走していたが、最大の強敵は超大物の誉れ高い仏ダービー・パリ大賞・グレフュール賞の勝ち馬パントレセレブルだった。唯一の3歳牡馬だったパントレセレブルが単勝オッズ3.2倍の1番人気に支持され、連覇を狙うエリシオが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ピルサドスキーが単勝オッズ4.8倍の3番人気、本馬は同厩同馬主のプレダピオとのカップリングで単勝オッズ10.4倍の4番人気だった。
スタートが切られるとエリシオとビジーフライトの2頭が逃げて、本馬はこの2頭を見るように3番手を追走した。しかしこの年の凱旋門賞は同競走史上稀に見るほどのハイペースとなり、しかも非常に乾燥した馬場状態で、直線の末脚に賭ける馬に有利な状況だった。直線半ばで後方から来たパントレセレブルにかわされた本馬は、その後も今ひとつ伸びを欠き、勝ったパントレセレブルから8馬身1/4差の7着に敗れた。この年はそのまま休養入りし、5歳時は4戦1勝の成績に終わったが、英最優秀古馬牡馬に選ばれた。
競走生活(6歳時)
エリシオ、シングスピール、ピルサドスキー、シャントウといった本馬と激戦を演じてきた有力古馬勢や、パントレセレブルは揃ってこの年限りで引退種牡馬入りしたのだが、本馬のみは翌6歳時も現役を続行した。
シーズン初戦にはドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)が選ばれた。デビュー戦で既に2800mのレースを走り、その後も2100m以上のレースのみ走ってきた本馬にとって、デビュー以来最も距離が短いレースとなった。さらには初のダート戦であり、しかもこの年のナドアルシバ競馬場にはダートの本場米国で使用されるのと同種の砂が敷き詰められており(その理由は前年のドバイワールドCが豪雨で延期されたため、水はけが良い砂を導入したためである)、初物尽くしのこの状況を本馬が克服できるかが鍵となった。
対戦相手も、前年のケンタッキーダービー・プリークネスSの覇者でサンフェルナンドBCS・ストラブSを連勝してきたシルバーチャームを筆頭に、前年の凱旋門賞で本馬に先着する3着となり続くBCターフでチーフベアハートの2着していたボルジア、前年の凱旋門賞で5着と健闘していたプレダピオ、プランスドランジュ賞・エクスビュリ賞の勝ち馬で仏2000ギニー・英チャンピオンSの2着馬ルウソヴァージュ、前走のサンタアニタHを勝ってきたマレク、同競走3連覇を狙うジェリー・ベイリー騎手が騎乗するドワイヤーS・ペガサスHの勝ち馬ベーレンズ、本馬とはラムタラが勝った凱旋門賞以来の顔合わせとなるアラルポカル・ドイツ賞・香港国際ヴァーズ2回の勝ち馬ルソー、東京大賞典などを勝っていた日本調教馬キョウトシチーなど実力馬揃いであり、しかもデットーリ騎手がプレダピオを選択したため、本馬はキネーン騎手に乗り代わるなど、さらに不利な条件が重なった。
しかし本馬はそうした不安材料をものともしないような好走を見せる。道中は馬群の中団後方を追走し、直線に入ると大外から豪快に追い込んできたのである。直線後半からはマレクと叩き合いながら伸び、マレクが失速した後もさらに末脚を伸ばした。そして先頭で粘るシルバーチャームに並びかけると、叩き合いながら2頭並んでゴールインした。非常に僅差の決着であり、ゴールした瞬間はどちらが勝ったのか判らなかったが、写真判定の結果はシルバーチャームの鼻が僅かに前に出ていた。本馬は惜しくも2着だったが、初ダートでこの内容なら及第点以上だった。
次走のコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)では、前年の英セントレジャー勝ち馬で英ダービー2着のシルヴァーペイトリアーク、前年の凱旋門賞12着後にロワイヤルオーク賞を勝っていたエバディーラ、前年の凱旋門賞9着後にジョンポーターSを勝っていたポシドナス、伊1000ギニー・伊オークスの勝ち馬ニコールファーリー、ドバイワールドCで7着だったルソーなどが対戦相手となった。完全に主戦として固定されることになったデットーリ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、シルヴァーペイトリアークが単勝オッズ4.5倍の2番人気、エバディーラが単勝オッズ11倍の3番人気となった。このレースにおける本馬は、逃げるポシドナスを積極的に追いかけた。そして直線に入るといったんは先頭に立ったのだが、最後方からの追い込みに賭けたシルヴァーペイトリアークに残り1ハロン地点で差されて、1馬身1/4差の2着に敗れた。
2週間後のハードウィックS(英GⅡ・T12F)では、タタソールズ金杯でデイラミの2着してきたステージアフェアー、前走6着のポシドナス、ブリガディアジェラードSで3着してきたゴードンリチャーズSの勝ち馬ジェルマーノなどが対戦相手となったが、実績的に本馬に対抗できそうな馬は皆無だった。他の出走全馬より5ポンド斤量が重い本馬が単勝オッズ1.83倍の1番人気に支持され、ステージアフェアーが単勝オッズ7.5倍の2番人気となった。しかしレースでは好位から残り2ハロン地点で先頭に立つも、単勝オッズ8.5倍の3番人気馬ポシドナスと単勝オッズ9倍の5番人気馬ジェルマーノの2頭に差されて、勝ったポシドナスから2馬身差の3着に敗れてしまった。
その後は2連覇を目指して、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に向かった。前年に続いて出走してきた馬は本馬のみであり、対戦相手は完全に一新されていた。3歳馬勢は、前走の英ダービーを人気薄ながら勝ってきた4戦無敗のハイライズ、キングエドワードⅦ世Sなど3戦無敗のロイヤルアンセム、デリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬リスクマテリアルの3頭が出走。4歳馬勢は、シルヴァーペイトリアーク、エクリプスSを勝ってきた前年の仏2000ギニー馬デイラミ、前走サンクルー大賞で2着してきたデリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬ロマノフ、本馬と同厩のドバイシティオブゴールドの勝ち馬ハッピーバレンタインの4頭が出走。5歳馬の出走は無く、6歳以上の馬は本馬のみだった。ハイライズが単勝オッズ3.75倍の1番人気、ロイヤルアンセムが単勝オッズ4.5倍の2番人気と、勢いに乗る無敗の3歳馬勢が人気を集めた。シルヴァーペイトリアークが単勝オッズ5.5倍の3番人気、5連敗中の本馬が前年の覇者にも関わらず単勝オッズ6.5倍の4番人気で、翌年のこの競走を勝つデイラミが単勝オッズ7倍の5番人気だった。
スタートが切られると、本馬のペースメーカー役としての出走だった同厩馬ハッピーバレンタインが先頭を引っ張り、ロイヤルアンセムが2番手で、本馬、デイラミ、ハイライズなどがその後方につけた。本馬は三角から四角にかけて外側をまくって進出すると、直線では先に仕掛けて先頭に立っていたハイライズとの叩き合いとなった。ハイライズも英ダービー馬の意地を見せて頑張ったが、最後は本馬が突き抜けて1馬身差で勝利。1973・74年に2連覇した名牝ダリア以来24年ぶり史上2頭目となる同競走2連覇を果たした。また、ラムタラ、ペンタイア、そして本馬と、4年連続で1992年産まれの馬がキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを勝利した事になり、シングスピールやピルサドスキーも含むこの世代のレベルがいかに高かったかを示す結果ともなった。
続く愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)では、デューハーストS・サラマンドル賞を勝って前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたザール、英国際S・サンチャリオットSの勝ち馬で同じナシュワン産駒の牝馬ワンソーワンダフル、プリティポリーS・ナッソーSなど4連勝中の3歳牝馬アルボラーダ、この年の英オークス馬で英1000ギニー2着のシャトゥーシュ、愛1000ギニー・モイグレアスタッドSの勝ち馬タラスコン、ロイヤルホイップSを勝ってきたメイクノーミステイクなどが対戦相手となった。やたら牝馬の姿が目立っていたが、本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、ザールが単勝オッズ5倍の2番人気と、人気は牡馬勢が集めた。今回もハッピーバレンタインが先頭を引っ張り、本馬は離れた2番手を追走。三角でハッピーバレンタインが失速すると代わって先頭に立ち、そのまま押し切りを図った。後続馬も必死で追ってきたが本馬との差は縮まらず、2着となった単勝オッズ8倍の4番人気馬アルボラーダ(後に英チャンピオンSを2連覇する)に1馬身差をつけて勝利した。
その後は凱旋門賞を回避(それほど層が厚くなかったこの年の凱旋門賞なら好勝負になっていたと思われるが)して、米国チャーチルダウンズ競馬場で行われるBCクラシック(米GⅠ・D10F)を引退レースとして選択した。ドバイワールドCの好走がBCクラシック参戦の決め手となったのだが、この年のBCクラシックは同年の凱旋門賞と異なり、同競走史上最高と言われるほどメンバーが揃っていた。前年のBCクラシックを筆頭にハスケル招待H・ウッドバインミリオンS・ジョッキークラブ金杯2回・ドンH・ガルフストリームパークH・ピムリコスペシャルH・ハリウッド金杯・ウッドワードSとGⅠ競走10勝を挙げていたスキップアウェイ、ドバイワールドCで本馬と死闘を演じた後は一時期不調だったがケンタッキーCクラシックH・グッドウッドBCHを連勝して復調してきたシルバーチャーム、ホイットニーH・スティーヴンフォスターH・サラトガBCHなど5連勝中の上がり馬オーサムアゲイン、この年のベルモントSでリアルクワイエットの米国三冠達成を鼻差で阻止したヴィクトリーギャロップ、ウッドメモリアルS・リヴァリッジS・ドワイヤーS・ハスケル招待H・トラヴァーズSの5連勝を記録していたコロナドズクエスト、前年のベルモントS・ハスケル招待Hの勝ち馬タッチゴールド、前年の国際クラシフィケーションではスキップアウェイを上回る評価を得ていたピムリコスペシャルH・ハリウッド金杯・パシフィッククラシックSなどの勝ち馬ジェントルメン、スーパーダービーの勝ち馬アーチなど、米国ダート最強クラスが勢揃いしていたのである。連覇を狙うスキップアウェイが単勝オッズ2.9倍の1番人気、シルバーチャームが単勝オッズ3.5倍の2番人気、オーサムアゲイン、コロナドズクエスト、タッチゴールドの3頭カップリングが単勝オッズ5.7倍の3番人気、本馬が単勝オッズ7.8倍の4番人気、ヴィクトリーギャロップが単勝オッズ8.5倍の5番人気となった。
レースではコロナドズクエストが先頭を引っ張り、アーチやスキップアウェイが先行、内枠発走の本馬は馬群の中団後方を追走した。向こう正面で位置取りを押し上げると、三角で外側に持ち出し、直線入り口3番手から前を行くシルバーチャームを追撃した。しかし直線半ばで何故か大きく外側によれてしまい、ゴール前で立て直すも、内側を突いたオーサムアゲインとシルバーチャームの2頭に及ばず、オーサムアゲインの1馬身差3着に敗れた。本馬が直線で大きく外側によれた理由は定かではなく、筆者はシルバーチャームに並ばれるのを嫌ったデットーリ騎手が外へ逃げようとしたためと感じたのだが、一説によると本馬の視界に何かの光が入ったためだという。この一件によりデットーリ騎手は米国においては下手な騎手という評判が立ってしまい、それは彼がちょうど1年後のBCターフにおいてデイラミに騎乗して勝利するまで続くことになった。
いずれにしても引退レースを勝利で飾る事はできなかったが、6歳時6戦2勝の成績ながらも内容が評価され、この年のカルティエ賞最優秀古馬・英最優秀古馬牡馬・愛最優秀古馬牡馬に選出された。
競走馬としての評価
欧州におけるトップクラスの競走馬は大競走を制した3~4歳時に引退する傾向が強いが、本馬はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを制した翌年も走り続けて同競走2連覇を果たすなど、6歳時に最も活躍したという点で、欧州においては稀有な存在だったと言える(6歳以上の年齢でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを勝ったのは本馬のみである)。
国際クラシフィケーションの評価は129ポンド止まり(5・6歳時)ではあるが、戦った相手が強豪馬ばかりであったことを鑑みると、筆者の評価は1990年代に走った馬の中ではかなり高い部類に入る。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2連覇というのは凱旋門賞2連覇にも匹敵する偉業であり、もっと高く評価されて然るべき馬だと思うのだが。
血統
Nashwan | Blushing Groom | Red God | Nasrullah | Nearco |
Mumtaz Begum | ||||
Spring Run | Menow | |||
Boola Brook | ||||
Runaway Bride | Wild Risk | Rialto | ||
Wild Violet | ||||
Aimee | Tudor Minstrel | |||
Emali | ||||
Height of Fashion | Bustino | Busted | Crepello | |
Sans le Sou | ||||
Ship Yard | Doutelle | |||
Paving Stone | ||||
Highclere | Queen's Hussar | March Past | ||
Jojo | ||||
Highlight | Borealis | |||
Hypericum | ||||
Love Smitten | Key to the Mint | Graustark | Ribot | Tenerani |
Romanella | ||||
Flower Bowl | Alibhai | |||
Flower Bed | ||||
Key Bridge | Princequillo | Prince Rose | ||
Cosquilla | ||||
Blue Banner | War Admiral | |||
Risque Blue | ||||
Square Angel | Quadrangle | Cohoes | Mahmoud | |
Belle of Troy | ||||
Tap Day | Bull Lea | |||
Scurry | ||||
Nangela | Nearctic | Nearco | ||
Lady Angela | ||||
Angela's Niece | Tim Tam | |||
Great Niece |
父ナシュワンは当馬の項を参照。
母ラヴスミットゥンは、アップルブロッサムH(米GⅠ)・サンタマリアH(米GⅡ)・シルヴァーベルズH(米GⅢ)勝ちなど18戦9勝の成績を残した活躍馬。母としては本馬の半弟シーフオブハーツ(父インザウイングス)【コンデ賞(仏GⅢ)】も産んでいる。また、本馬の半姉アラモサ(父アリダー)の子にはトラファルガー【ラファイエットS(米GⅢ)】がいる。
ラヴスミットゥンの母スクエアエンジェルは、シェイディウェルS・フューリーS・加オークス・ネッティーHを勝つなど25戦7勝を挙げ、1973年の加最優秀3歳牝馬に選ばれた名牝。スクエアエンジェルは非常に優秀な牝系を構築している。ラヴスミットゥンの全姉カマールの子にキートゥザムーン【クイーンズプレート・ディスカヴァリーH(米GⅢ)・ドミニオンデイH(加GⅢ)】、ゴージャス【アッシュランドS(米GⅠ)・ハリウッドオークス(米GⅠ)・ヴァニティ招待H(米GⅠ)・ラカナダS(米GⅡ)・アップルブロッサムH(米GⅡ)】、シーサイドアトラクション【ケンタッキーオークス(米GⅠ)】、孫にゴールデンアトラクション【スピナウェイS(米GⅠ)・メイトロンS(米GⅠ)・フリゼットS(米GⅠ)】、ケープタウン【フロリダダービー(米GⅠ)】、ファンタスティックライト【BCターフ(米GⅠ)・マンノウォーS(米GⅠ)・香港C(香GⅠ)・タタソールズ金杯(愛GⅠ)・プリンスオブウェールズS(英GⅠ)・愛チャンピオンS(愛GⅠ)】、曾孫にデザートロード【アベイドロンシャン賞(仏GⅠ)】、スウィフトテンパー【ラフィアンH(米GⅠ)】、フラッシング【テストS(米GⅠ)・ガゼルS(米GⅠ)】、ミュージックショウ【ファルマスS(英GⅠ)】、アルファ【トラヴァーズS(米GⅠ)・ウッドワードS(米GⅠ)】、玄孫にタービュレントディセント【ハリウッドスターレットS(米GⅠ)・サンタアニタオークス(米GⅠ)・テストS(米GⅠ)・バレリーナS(米GⅠ)】、ユアソング【BTCカップ(豪GⅠ)】がいる。また、ラヴスミットゥンの半姉ステラレット(父テンタム)【バーバラフリッチーH(米GⅢ)】の子にカドルス【ハリウッドスターレットS(米GⅠ)・ジュニアミスS(米GⅢ)・オークローンBCH(米GⅢ)】、孫にタップトゥミュージック【ガゼルH(米GⅠ)】、玄孫にロザナラ【マルセルブサック賞(仏GⅠ)】、フービーガットユー【コーフィールドギニー(豪GⅠ)・ヤルンバS(豪GⅠ)】がいる。
スクエアエンジェルの5代母シビルズシスターの1歳年下の半妹レディアンジェラは、ニアークティックの母、ノーザンテーストの祖母。シビルズシスターの3代母モリーデズモンドはチェヴァリーパークSの勝ち馬で、その母は20世紀初頭の英国を代表する名牝プリティポリーである。→牝系:F14号族①
母父キートゥザミントは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は米国ケンタッキー州シャドウェルファームで種牡馬入りした。しかし当初の期待に沿える成績は残せず、産駒のステークスウイナーは13頭に留まった。最初は3万5千ドルだった種付け料は最終的に3500ドルまで下落した。2010年からは加国オンタリオ州にあるアスコットスタッドに移動し、翌2011年10月に種牡馬を引退した。現在はシャドウェルファームに戻って余生を過ごしている。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
2000 |
Dimitrova |
フラワーボウル招待S(米GⅠ) |
2000 |
Muqbil |
グリーナムS(英GⅢ) |
2000 |
Stanley Park |
サンルイレイH(米GⅡ)・ベイメドウズダービー(米GⅢ) |
2000 |
トリリオンカット |
朝日チャレンジC(GⅢ) |
2003 |
Nasheej |
メイヒルS(英GⅡ)・スウィートソレラS(英GⅢ)・フレッドダーリンS(英GⅢ) |
2004 |
Makaan |
トーマブリョン賞(仏GⅢ) |