パーシャンパンチ

和名:パーシャンパンチ

英名:Persian Punch

1993年生

栗毛

父:パーシャンハイツ

母:ラムケイ

母父:アワーネイティヴ

GⅠ競走制覇には至らなかったが欧州長距離路線で長年に渡り走り続けカルティエ賞最優秀長距離馬を2度受賞するなど英国の競馬ファンから大きな人気を得る

競走成績:3~11歳時に英仏愛豪で走り通算成績63戦20勝2着8回3着11回

近年の英国競馬界において屈指の人気を誇ったGⅠ競走未勝利馬

この名馬列伝集を作成中である2014年4月、日本の長距離路線で活躍したトウカイトリックの訃報が流れた。トウカイトリックは2歳から12歳まで長きに渡って走り続け、重賞3勝を含む63戦9勝の成績を残した馬であるが、GⅠ競走制覇には縁が無かった(天皇賞春の3着が最高)。しかし長距離路線の常連であり、晩年になってもたまに馬券に絡む活躍を見せたこともあって、ファンが多い馬でもあった(筆者にとっても近年では好きな馬の1頭であり、10歳時にステイヤーズSを勝った時は喜んだものだった)。

しかしいくらトウカイトリックのファンが多いといっても、例えば日本中央競馬会が2000年に実施したのと同類の人気投票において、トウカイトリックがディープインパクトやウオッカやオルフェーヴルなどと並んで上位10位以内に入るかというと、さすがにそこまでではないだろう(条件次第では100位以内には入るかもしれないが)。

そこで本馬の話になるわけだが、トウカイトリックと本馬の共通点はかなり多い。生涯戦績63戦というのは全く同じであるし、GⅠ競走制覇には届かなかった点、それでも晩年まで長距離戦では上位に入る活躍を見せた点、豪州の長距離競走メルボルンCに出走した経歴もある点、競走馬引退後に悠々自適の余生を送る事が出来なかった点なども同様である。

しかし人気の点においては、トウカイトリックより本馬の方が遥かに高かったと思われる。何しろ本馬は、まだ現役中の2003年に英レーシングポスト紙が企画した、全年代を通じて最も好きな馬の投票「Favorite 100 Horse」において、第7位にランクインしているのである。ダンシングブレーヴ(8位)、ニジンスキー(10位)、ミルリーフ(13位)、シャーガー(18位)、ドバイミレニアム(25位)、シーバード(29位)、リボー(69位)といった欧州の歴史的な平地競走馬達のほぼ全ては本馬より下位であり、本馬より上位の平地競走馬は第5位のブリガディアジェラードのみである(ちなみに上位10頭中6頭が障害競走馬)。モンジュー(38位)やデイラミ(41位)など本馬に近い世代である欧州の一流平地競走馬達も、軒並み本馬より下位である。

もちろんこれは名馬の投票ではなく好きな馬の投票であり、日本中央競馬会が2000年に実施した名馬投票とまったく同列に論ずる事は出来ないにしても、日本で言うところのトウカイトリックに相当する馬がこんな上位に位置するという事は、日本競馬と英国競馬の違いを大きく物語っているわけである。そういうこともあり、本馬を紹介せずして、競馬の母国英国の競馬を語る資格はないため、以下に本馬の経歴について詳述してみようと思う。

誕生からデビュー前まで

愛国アドストックマナースタッドの生産馬で、短距離女王ロックソングなどを所有した事で知られるリトルトンスタッドの所有者ジェフ・スミス氏により1万4千ギニーで購入され、英国デービッド・エルスワース調教師に預けられた。エルスワース師は、名障害競走馬デザートオーキッドを見出した人物だった。非常に大きなストライドで走る本馬は、エルスワース師によって長距離馬としての資質を見出され、長期間活躍させるためにデビュー前に去勢された。

競走生活(3歳時)

3歳5月にウインザー競馬場で行われた芝10ハロン7ヤードの未勝利ステークスで、アントニー・プロクター騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ21倍の6番人気に過ぎなかったが、馬群の中団から残り2ハロン地点で仕掛けると、2着となった単勝オッズ1.8倍の1番人気馬キングオブスパルタに2馬身半差で勝利した。

翌月にソールスベリー競馬場で出走したビショップストーン条件S(T14F)では、単勝オッズ3.5倍の2番人気となった。ここではT・クィン騎手を鞍上に、先行して抜け出す競馬で、2着となった単勝オッズ2.1倍の1番人気馬オールドアイリッシュに1馬身半差で勝利。

その後も徹底して長距離路線を進む。3戦目は前走から8日後のクイーンズヴァーズ(英GⅢ・T16F45Y)となった。ここでは単勝オッズ13倍の6番人気止まりだったが、リチャード・ヒューズ騎手を鞍上に、中団から末脚を伸ばして、勝った単勝オッズ8倍の4番人気馬ゴルディの1馬身半差3着と健闘した。

翌7月にニューマーケット競馬場で出走したリステッド競走バーレイントロフィー(T14F175Y)では、単勝オッズ4倍の2番人気タイとなった。ここではクィン騎手とコンビを組むと、馬群の中団後方追走から、残り3ハロン地点で先行勢を射程圏内に捉えて、残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着となった2番人気馬アセンライに1馬身1/4差で勝利した。

翌8月のグッドウッドC(英GⅡ・T16F)では、ゲイリー・バードウェル騎手とコンビを組んだ。本馬が単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持され、リューテス賞の勝ち馬グレイショットが単勝オッズ4倍の2番人気となった。ここでも馬群の中団追走から残り3ハロン地点で追い上げを開始したが、最後に伸びを欠いて、グレイショットの3馬身3/4差3着に敗れた。

10月のジョッキークラブC(英GⅢ・T16F)では、愛フェニックスS・パークヒルSの勝ち馬エヴァルナが単勝オッズ2.375倍の1番人気、前走ドンカスターCで2着してきたセレリックが単勝オッズ3.75倍の2番人気で、しばらく主戦を務める事になるレイ・コクレーン騎手を鞍上に出走した本馬は単勝オッズ9倍で3番人気の評価だった。ここでも中団から残り3ハロン地点で仕掛けたが、最後にあと一歩伸びを欠き、セレリックの2馬身3/4差3着に敗れた。3歳時は6戦3勝の成績だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月のジョッキークラブS(英GⅡ・T12F)から始動した。伊ダービー・アラルポカル・香港ヴァーズの勝ち馬ルソー、プリンセスロイヤルSの勝ち馬タイムアロウド、セレリックといった強敵が相手となった上に、距離も短く、単勝オッズ34倍で10頭立ての最低人気だった。そしてスタートから最後方に置かれてしまい、最後に差を縮めただけで、勝った単勝オッズ7.5倍の5番人気馬タイムアロウドから5馬身3/4差の7着に終わった。

距離が伸びた次走のアストンパークS(T13F61Y)では、単勝オッズ5倍の2番人気となった。前走と異なり今回はスタートから前方でレースを進めた。直線ではジョッキークラブC5連覇・グッドウッドC2連覇・ドンカスターC勝ちなどの実績を持っていた11歳馬ファーザーフライト(単勝オッズ6倍の4番人気)が追い上げてきたが、3馬身半差という差をつけて完勝した。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、ヨークシャーCを勝ってきたセレリックが単勝オッズ2.75倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、サガロSを勝ってきたオーケストラストールが単勝オッズ5倍の3番人気となった。今回もスタートから先行すると、残り2ハロン地点で先頭に立ち、ゴール前で追い上げてきた2着セレリックに3/4馬身差で勝利した。

そして駒を進めたアスコット金杯(英GⅠ・T20F)では、セレリック、前年の優勝馬でもある英セントレジャー・ヨークシャーCの勝ち馬クラシッククリシェ、前年のカドラン賞の勝ち馬でカルティエ賞最優秀長距離馬にも選ばれていたノノニト、一昨年の優勝馬でドンカスターC2回・ヘンリーⅡ世S2回・グッドウッドC勝ちなどの実績も持っていた一昨年のカルティエ賞最優秀長距離馬ダブルトリガー、グレイショット、英セントレジャー・ロワイヤルオーク賞・ヨークシャーCを勝っていた3年前のカルティエ賞最優秀長距離馬ムーナックスなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ5.5倍の1番人気に支持され、セレリックが単勝オッズ6.5倍の2番人気、クラシッククリシェが単勝オッズ7倍の3番人気となった。初めての超長距離戦という事で、コクレーン騎手は慎重に馬群の中団後方を追走させた。そして残り8ハロン地点から徐々に上がっていこうとしたが、直線では既に一杯になってしまい、勝ったセレリックから実に46馬身差をつけられた12着と惨敗に終わった。

次走のグッドウッドC(英GⅡ・T16F)では、アスコット金杯2着のクラシッククリシェが単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ8倍の3番人気だった。今回も中団後方につけたのだが、やはり直線で伸びずに、勝った単勝オッズ17倍の7番人気馬ダブルトリガーから8馬身半差の5着に敗れた。

続いて初めて他国に遠征して、ケルゴルレイ賞(仏GⅡ・T3000m)に出走。グッドウッドCでも2着だったクラシッククリシェが単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、コクレーン騎手からキーレン・ファロン騎手に乗り代わっていた本馬は単勝オッズ10.6倍の5番人気まで評価を下げていた。レースではクラシッククリシェが快勝し、直線殿一気の末脚に賭けた本馬は5馬身半差の5着と、人気どおりの結果となった。

次走のドンカスターC(英GⅢ・T18F)では、ダブルトリガーが単勝オッズ1.62倍の1番人気、ファーザーフライトが単勝オッズ5.5倍の2番人気、長距離ハンデ競走等で腕を磨いてきたキャノンキャンが単勝オッズ7倍の3番人気で、クィン騎手鞍上の本馬は単勝オッズ7.5倍の4番人気だった。今回は先行して直線で粘る競馬を見せ、先に抜け出したキャノンキャンには1馬身1/4差及ばず2着だったものの、3着ファーザーフライトに首差、4着ダブルトリガーにさらに6馬身先着した。

続く愛セントレジャー(愛GⅠ・T14F)では、前年の覇者オスカーシンドラーとクラシッククリシェが並んで単勝オッズ3倍の1番人気に支持されており、ジョニー・ムルタ騎手騎乗の本馬は単勝オッズ13倍の5番人気に留まっていた。スタートから先行した本馬は、直線ではオスカーシンドラーとの叩き合いとなった。最後は競り負けて2馬身差の2着に敗れたが、直線で大失速したクラシッククリシェ(最下位に敗れてそのまま引退)には先着した。

その後は再び渡仏してカドラン賞(仏GⅠ・T4000m)に出走。セレリックとダブルトリガーの姿があり、本馬も含めた3頭の争いと目された。セレリックが単勝オッズ1.8倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.7倍の2番人気、ダブルトリガーが単勝オッズ5.7倍の3番人気となった。ここで本馬に騎乗したキャッシュ・アスムッセン騎手は、抑えて沈没したアスコット金杯のレース内容を知っており、ほぼ同距離の今回では先頭を走るという積極的な戦法に出た。直線でも逃げ切る勢いだったが、最後にチーフコンテンダーとセレリックの2頭に僅かにかわされてしまい、チーフコンテンダーの1馬身差3着に惜敗した。4歳時は9戦2勝の成績となった。

競走生活(5歳時)

5歳時は5月のサガロS(英GⅢ・T13F45Y)から始動した。単勝オッズ5倍の2番人気だったが、ファロン騎手を鞍上に先行して残り2ハロン地点で抜け出し、2着となった単勝オッズ8倍の4番人気馬ビジーフライトに半馬身差で勝利した。

次走のヨークシャーC(英GⅡ・T13F194Y)では、前年のカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれたセレリック、ビジーフライト、愛セントレジャー・ミラノ大賞・ドーヴィル大賞の勝ち馬ストラテジックチョイスといった有力馬との対戦となった。勢いが買われたのかビジーフライトが単勝オッズ3倍の1番人気で、ファロン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、前走ジョッキークラブSで最下位に沈んでいたセレリックは単勝オッズ4.33倍の3番人気だった。スタートから果敢に逃げを打った本馬は、そのまま逃げ切るかとも思われたが、ビジーフライトとストラテジックチョイスの2頭にゴール前で差されて、ビジーフライトの1馬身差3着に敗れた。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、前年の勝ち馬ということもあって、単勝オッズ2.875倍の1番人気に支持された。しかし対戦相手は手強く、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝ち馬オペラハウスの全弟ながらデビュー早々に長距離路線に向かってきた新星カイフタラ、ダブルトリガー、キャノンキャンなどが出走していた。しかしウォルター・スウィンバーン騎手を鞍上に逃げてレースを支配した本馬が、単勝オッズ7.5倍の4番人気馬サムラーンの追撃を頭差堪えて2連覇を達成した。

そして迎えたアスコット金杯(英GⅠ・T20F)では、キャノンキャン、カイフタラ、セレリック、ダブルトリガーなどを抑えて、再度単勝オッズ5.5倍の1番人気に支持された。最近は逃げ先行が主流戦法だったはずなのだが、ここで本馬に初騎乗したジョン・リード騎手は何故か後方待機策を選択。そして後方のまま何の見せ場も作ることが出来ず、勝ったカイフタラから15馬身差の6着に敗れ去った。

次走のロンズデールS(英GⅢ・T15F195Y)では、過去に本馬に3回騎乗して2勝していたクィン騎手とコンビを組み、単勝オッズ3.75倍の2番人気となった。対戦相手4頭は、単勝オッズ3倍の1番人気馬キャノンキャン、単勝オッズ4倍の3番人気馬セレリック、単勝オッズ6.5倍の4番人気馬サムラーン、クイーンズヴァーズの勝ち馬マリッドプールと実績馬ばかりであり、苦戦も予想された。しかし先行して残り2ハロン地点で抜け出すと、セレリックとの叩き合いを短頭差で制して勝利した。

その後はクィン騎手と共に豪州に遠征してメルボルンC(豪GⅠ・T3200m)に参戦。出走馬中3番目に重い56kgの斤量が嫌われたようで、単勝オッズ13倍で7番人気の評価だった。24頭立てという多頭数から先行争いが激しくなると踏んだのか、やや外枠発走だった本馬をクィン騎手は後方に位置取らせた。そして道中で外側に持ち出すと、残り1000m地点で進出を開始。残り600m地点で先頭に立ち、そのまま押し切るかと思われた。しかし最後の最後で単勝オッズ7倍の1番人気だったオークランドCの勝ち馬ジェザビールと、単勝オッズ8倍の2番人気だったマッキノンSの勝ち馬シャンペンの2頭に差されてしまい、ジェザビールの3/4馬身差3着に敗れた。しかし上位2頭はいずれも本馬より斤量が4.5kg軽く、プリンスオブウェールズSの勝ち馬フェイスフルサンや、アンダーウッドSなど豪州GⅠ競走4勝(最終的には13勝)のタイザノットといった有力馬には先着した事から、内容的には非常に濃いものだった。5歳時の成績は6戦3勝だった。

競走生活(6歳時)

6歳時は4月のジョンポーターS(英GⅢ・T12F5Y)から始動した。クィン騎手鞍上の本馬は単勝オッズ10倍の4番人気だったが、明らかにこのレースは距離不足だった。スタートから後方に置かれてしまい、ようやくエンジンがかかって追い上げてきた時には前の馬達は既にゴールしており、勝った単勝オッズ6倍の3番人気馬サディアンの2馬身3/4差4着に終わった。

次走ジョッキークラブS(英GⅡ・T12F)でも距離不足は明らかであり、しかも英セントレジャー・コロネーションC・伊ジョッキークラブ大賞の勝ち馬シルヴァーペイトリアークや、独ダービー・バーデン大賞の勝ち馬ボルジアといった強敵が出走していたために、単勝オッズ10倍の5番人気だった。今回もクィン騎手とコンビを組んだ本馬はスタートから押して先行したものの、前半の無理が祟ったのか後半で伸びず、単勝オッズ5.5倍の1番人気に応えて勝ったシルヴァーペイトリアークの5馬身1/4差7着に終わった。

次走はヨークシャーC(英GⅡ・T13F194Y)となった。ケルゴルレイ賞・ジョッキークラブCを連勝していたアークティックオウルが単勝オッズ3倍の1番人気で、アスムッセン騎手が騎乗する本馬は適距離に戻った事もあり単勝オッズ6.5倍の2番人気に推された。しかしレースでは得意の先行策を採るも直線で失速。勝った単勝オッズ26倍の最低人気馬チャーリッシュチャームから5馬身1/4差の5着に敗れた。

2連覇中だったヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、サガロSを勝ってきた単勝オッズ5倍の1番人気馬セレリックや、単勝オッズ6倍の2番人気馬アークティックオウルより評価が低く、単勝オッズ7倍の5番人気に留まった。ここではクィン騎手とコンビを組んだが、先行して直線で失速し、アークティックオウルの7馬身半差4着に終わった。

次走のアスコット金杯(英GⅠ・T20F)では、過去2回の同競走でいずれも惨敗した影響もあっただろうが、単勝オッズ17倍の7番人気まで評価が落ちた。人気は割れていたが、前年のセントレジャー馬ネダウィ、セレリック、ヘンリーⅡ世Sで2着だったレインボーハイ、愛セントレジャー・ヴィコンテスヴィジェ賞も勝っていた前年の覇者カイフタラ、前年のカドラン賞勝ち馬インヴァーマークなどが人気を集めていた。しかしレースでは単勝オッズ21倍の8番人気馬エンゼリが先行して抜け出す横綱相撲で完勝。マイケル・キネーン騎手と初コンビを組んで出走した本馬も先行したが、直線に入る前に失速してしまい、エンゼリから24馬身差の12着に終わった。

その後はしばらく休養して、11月にドンカスター競馬場で行われたドランスフィールドノベルティカンパニー条件S(T14F132Y)に出走。久々にコクレーン騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ3倍の1番人気となった。レースでは逃げを打ち、単勝オッズ11倍の最低人気馬ライフイズライフの追撃をなんとか首差で抑えて勝利するという内容だった。さらにその後長期休養に入り、6歳時の成績は6戦1勝に終わった。

競走生活(7歳時)

長期休養の効果が出たのか、7歳時は絶不調だった前年よりは調子を取り戻していた。まずは5月のサガロS(英GⅢ・T16F45Y)にクィン騎手と共に参戦。ロンズデールSを勝っていたセレリック、サガロS・カラーC・グラディアトゥール賞などの勝ち馬オーケストラストール、バリーカレンSの勝ち馬ロイヤルレベルなどとの顔合わせとなり、本馬は単勝オッズ7倍の3番人気タイでの出走となった。ここでは先行して直線で抜け出したが、追い込んできた3番人気馬オーケストラストールに差されて短頭差2着だった。

次走ヨークシャーC(英GⅡ・T13F194Y)では、前年のアスコット金杯敗戦後にグッドウッドC・ケルゴルレイ賞・愛セントレジャーを制して2年連続でカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれていたカイフタラ、セレリックとの対戦となった。カイフタラが単勝オッズ2.875倍の1番人気、クィン騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、セレリックが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。しかしここではスタートで躓いて後方からの競馬となってしまい、そのままカイフタラの34馬身差8着最下位に終わった。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、単勝オッズ3.25倍のアークティックオウル、前年のカドラン賞で2着していた単勝オッズ5倍のサンセバスチャン、単勝オッズ6倍のチャーリッシュチャームという強敵の姿があり、本馬は単勝オッズ6.5倍の4番人気だった。ここではスタートから先頭に立ってレースを支配し、直線で逃げ込みを図った。そこへチャーリッシュチャームが並びかけてきて叩き合いとなった。しかし最後は半馬身差で競り勝って3度目の同競走勝利を果たした。しかしこのレースで本馬に初騎乗したフィリップ・ロビンソン騎手は鞭を使いすぎたために数日後に処分を受け、二度と本馬に乗る機会を失った。

次走は本馬にとって相性最悪のアスコット金杯(英GⅠ・T20F)となった。ファンもそれは分かっていたようで、単勝オッズ21倍の8番人気だった。対戦相手は、カイフタラ、エンゼリ、アークティックオウル、セレリック、サンセバスチャン、クイーンズヴァーズ勝ち馬エンドースメントなどだった。本馬に2度目の騎乗となったリード騎手は、前回とは異なりスタートしてすぐに本馬を先頭に立たせた。そのまま馬群を先導し続けたが、直線で失速して、カイフタラの6着に敗れた。それでも勝ったカイフタラとは4馬身3/4差であり、見るも無残な惨敗ばかりだった過去3年に比べると勝ち馬との着差はかなり縮まった。

続くグッドウッドC(英GⅡ・T16F)では、アスコット金杯で頭差2着だったファークライ、サンセバスチャン、ロイヤルレベルなどとの対戦となった。ファークライが単勝オッズ3倍の1番人気に支持される一方で、クィン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ10倍の4番人気だった。今回もスタートから先頭に立ったものの、直線で失速して、本馬より人気薄だった単勝オッズ11倍の6番人気馬ロイヤルレベルの5馬身1/4差5着に敗れた。

次走はケルゴルレイ賞(仏GⅡ・T3000m)となった。はっきり言ってたいした実績馬は他にいなかったのだが、それでも単勝オッズ4.2倍の4番人気止まりだった。しかしデビュー3戦目のクイーンズヴァーズ以来2度目の騎乗となるヒューズ騎手を鞍上に完璧な逃げ切りを決めて、2着となった単勝オッズ3.3倍の2番人気馬ワジナに2馬身差で勝ち、英国外での初勝利をマークした。

いったん英国に戻りドンカスターC(英GⅢ・T18F)に出走。ジョッキークラブC勝ち馬レインボーハイ、サンセバスチャン、エンゼリなどが相手となり、クィン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ9倍の5番人気に留まった。ここでもスタートから逃げを打ったが、最後に伸びを欠いて、単勝オッズ8.5倍の4番人気馬エンゼリの3馬身1/4差3着に敗れた。

その後は再度渡仏してカドラン賞(仏GⅠ・T4000m)に出走。エンゼリ、前年の覇者タジュン、ロイヤルレベル、ドンカスターCで2着だったチャーリッシュチャームなどが相手となり、本馬は単勝オッズ14.8倍の6番人気だった。今回も本馬の手綱を取ったヒューズ騎手は、徹底して本馬を逃がした。一時は2番手に6馬身差をつける大逃げとなり、直線に入ってもひたすら粘り続けた。しかしゴール直前で、単勝オッズ123倍の最低人気まで評価が落ちていたサンセバスチャンに差されて、半馬身差2着に惜敗した。

その後は地元に戻りジョッキークラブC(英GⅢ・T16F)に出走。最近は好調だったにも関わらず、131ポンドのトップハンデが嫌われたのか、単勝オッズ8倍で6番人気の低評価だった。しかしレースではヒューズ騎手を鞍上に完璧な逃げ切りを決めて、2着となった単勝オッズ6.5倍の4番人気馬ロイヤルレベルに5馬身差をつけて勝利した。7歳時の成績は9戦3勝だった。

競走生活(8歳時)

8歳時は5月のサガロS(英GⅢ・T16F45Y)から始動。サンセバスチャンなどを抑えて、単勝オッズ4倍の1番人気に支持された。鞍上も本馬とは相性が良いヒューズ騎手だったが、ここでは逃げ切りに失敗して、勝った単勝オッズ21倍の8番人気馬ソロミオの6馬身半差4着に敗れた。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、単勝オッズ6倍の3番人気となった。今回はファロン騎手とコンビを組んだ本馬はスタートから逃げを打ち、直線でも粘ったが最後に差されて、単勝オッズ8倍の5番人気馬ソロミオの1馬身1/4差3着に敗れた。

次走は5度目の出走となるアスコット金杯(英GⅠ・T20F)となった。対戦相手は過去4度に比べるとやや手薄だったが、それでもサンセバスチャン、ヨークシャーCを勝ってきたマリエンバード、ロイヤルレベル、レインボーハイなどが参戦していた。サンセバスチャンが単勝オッズ4倍の1番人気、マリエンバードが単勝オッズ5倍の2番人気、ロイヤルレベルが単勝オッズ9倍の3番人気で、同競走では初めてクィン騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ11倍の4番人気だった。レースはスタートしてすぐに先頭に立った本馬を、ロイヤルレベルが追いかけてくる展開となった。そのまま直線では後続を大きく引き離してロイヤルレベルとの一騎打ちとなった。しかし惜しくも頭差2着に敗れてしまった。

次走のグッドウッドC(英GⅡ・T16F)では、ソロミオ、サンセバスチャン、ロイヤルレベル、レインボーハイなどが対戦相手となった。ソロミオが単勝オッズ4倍の1番人気、本馬が単勝オッズ7倍の2番人気、サンセバスチャンが単勝オッズ7.5倍の3番人気となった。本馬の取るべき戦法は既に決まっており、クィン騎手を鞍上にスタートしてすぐに先頭に立った。そしてゴールまで快調に逃げ続け、先行して最後まで本馬に食い下がってきた単勝オッズ10倍の6番人気馬ダブルオナーを1馬身半差の2着に抑えて勝利した。

次走のロンズデールS(英GⅢ・T15F195Y)では、サンセバスチャン、ロイヤルレベル、レインボーハイなどが対戦相手となったが、クィン騎手騎乗の単勝オッズ4.33倍の1番人気に支持された。ここではヨークシャーという馬がスタートから本馬のハナを叩いたために、2番手を追走した。しばらくしてヨークシャーが失速すると先頭を奪還し、そのまま直線で逃げ込みを図った。ゴール直前で単勝オッズ17倍の8番人気馬ジャーディネスルックアウトが追い込んできたが、頭差堪えて勝利した。

その後は愛セントレジャー(愛GⅠ・T14F)に参戦。前年の英セントレジャー馬ミレナリーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、マリエンバードが単勝オッズ3.5倍の2番人気、チャレンジS・バリーカレンSとリステッド競走を連勝してきたヴィニーローが単勝オッズ6倍の3番人気で、ヒューズ騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ7倍の4番人気だった。ここでもスタートから先手を取って逃げたが直線で失速して、この年を皮切りに同競走を4連覇することになるヴィニーローの5馬身半差4着に敗れた。

続いて再びクィン騎手と共に豪州に向かい、メルボルンC(豪GⅠ・T3200m)に参戦。トップハンデとなる57kgを背負っての出走となり、単勝オッズ13倍の4番人気だった。3年前と同様に、序盤は抑え気味に進めて、中盤で外側から位置取りを押し上げていった。そして逃げていたペースメーカー役のギヴザスリップとコーフィールドCを勝ってきたエセリアルに次ぐ3番手で直線に入ってきたが、叩き合いながら伸びる前の2頭に追いつくことが出来ずに、勝った単勝オッズ10倍の3番人気馬エセリアルの6馬身3/4差3着に敗れた。それでも1番人気馬スカイハイツ(AJCダービーなど豪州GⅠ競走4勝)やマリエンバード(翌年に凱旋門賞を制覇)には先着しており、十分に健闘したと言える内容だった。

8歳時の成績は7戦2勝だったが、愛セントレジャーとロワイヤルオーク賞を制したヴィニーローを抑えて、カルティエ賞最優秀長距離馬に選出された。1991年にカルティエ賞が創設されて以降、当該年のGⅠ競走未勝利馬が最優秀長距離馬に選出されたのは初めてだった。カルティエ賞はレースごとのポイントに加えて、記者・ファンの投票により決定されるものであるから、本馬の人気はこの時点で不動のものとなっていた事を如実に示している。

競走生活(9歳時)

9歳時は、お決まりとなった5月のサガロS(英GⅢ・T16F45Y)から始動した。競走馬のキャラクターとしての人気と、馬券の人気は別物であり、単勝オッズ3倍の1番人気となったのはソロミオで、ダブルオナーが単勝オッズ4倍の2番人気、クィン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ6倍の3番人気だった。やはりスタートから逃げを打ったが、ゴール前で粘り切れずに、勝った単勝オッズ9倍の5番人気馬ギヴノーティスの3馬身半差2着に敗れた。

次走のヨークシャーC(英GⅡ・T15F194Y)では、ジョンポーターSを勝ってきたジンダバッド、ボレアス、ジャーディネスルックアウト、アクバルなど、本馬とはあまり顔を合わせたことがない長距離路線新参組が相手となった。ジンダバッドが単勝オッズ3倍の1番人気で、クィン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ3.5倍の2番人気だった。それでも先輩の意地を見せたいところだったが、逃げ切りに失敗して、ジンダバッドの3馬身1/4差4着に終わった。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、ソロミオ、アクバル、インヴァーマーク、コロネーションC・香港ヴァーズの勝ち馬ダリアプール、ロイヤルレベルなどが相手となった。ジミー・フォーチュン騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ7.5倍の3番人気だった。ここでもやはりスタートから逃げを打ったが、直線で失速して、勝った単勝オッズ17倍の9番人気馬アクバルの5馬身半差3着に敗れた。

それでもクィン騎手を鞍上に、6度目のアスコット金杯(英GⅠ・T20F)に挑んだ。前年よりメンバーは揃っており、ヴィニーロー、ショードネイ賞・ヴィコンテスヴィジェ賞の勝ち馬ワリード、ジャーディネスルックアウト、インヴァーマーク、ギヴノーティス、ソロミオ、後にコロネーションCとバーデン大賞を2連覇するボーナスプリントレイティドSの勝ち馬ウォーサンなどが出走していた。単勝オッズ11倍の5番人気となった本馬は、やはりスタートから逃げを打ったが、この年は直線で粘る事ができずに失速。レースでは単勝オッズ17倍の8番人気まで評価を落としていたロイヤルレベルが、単勝オッズ3.5倍の1番人気馬ヴィニーローを首差の2着に抑えて2連覇を果たし、本馬は4馬身差の6着に終わった。

次走のグッドウッドC(英GⅡ・T16F)には、ヒューズ騎手とコンビを組んで、単勝オッズ6倍の2番人気で出走した。そしてギヴノーティスやジャーディネスルックアウトなどを引き連れてスタートから先頭を飛ばしまくったが、“furious(凄まじい、激烈)”と評されるほどの暴走になってしまい、勝った単勝オッズ11倍の7番人気馬ジャーディネスルックアウトから25馬身差の9着最下位に沈んだ。

陣営は立て直しのために、本馬の鞍上を固定する事を決定。主戦にはマーティン・ドワイヤー騎手が選ばれ、これ以降の本馬の全競走で騎乗する事になった。

新コンビの初戦はジェフリーフリアS(英GⅡ・T13F61Y)となった。ムブタケル、ダリアプール、ウォーサンなどが出走しており、本馬は単勝オッズ17倍の6番人気だった。鞍上が変わっても本馬の得意戦法が変わるわけではなく、スタートから逃げを打ち、同競走を3連覇することになるムブタケルの5馬身半差3着となった。

次走はサリスバリー競馬場で行われたカーティスフィールドヒントン&スタッド条件S(T14F15Y)となった。ただの下級競走ではあったが、ウォーサン、ボーナスプリントレイティドSでウォーサンに頭差まで迫ったハーレストングレイの姿があり、レベルは決して低くなかった。ハーレストングレイが単勝オッズ2.375倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、ウォーサンが単勝オッズ4倍の3番人気だった。今回もスタートから逃げを打つと、ゴール前で追いかけてきたウォーサンを短頭差の2着に、ハーレストングレイをさらに短頭差の3着に抑えて勝利した。

次走のドンカスターC(英GⅢ・T18F)では、ジャーディネスルックアウト、ボレアスとの顔合わせとなった。単勝オッズ8.5倍の4番人気だった本馬はスタートから逃げを打つも、ゴール前で単勝オッズ4.5倍の2番人気馬ボレアスに差されて1馬身1/4差2着に敗れた。

その後は渡仏してカドラン賞(仏GⅠ・T4000m)に出走。後にドバイシーマクラシックを勝つドーヴィル大賞の勝ち馬ポリッシュサマー、ギヴノーティス、グラディアトゥール賞を勝ってきたミラキュラス、サンセバスチャンなどが対戦相手となった。単勝オッズ7.8倍の3番人気で出走した本馬はスタートから逃げを打ち、そのまま直線に入ってきたが、残り200m地点で急激に右側によれて失速し、勝った単勝オッズ7.2倍の2番人気馬ギヴノーティスから3馬身差の5位入線。しかも進路妨害を取られて失格処分を受けた。このレースでは3位入線だった単勝オッズ3.2倍の1番人気馬ポリッシュサマーも直線の斜行で失格となっており、かなり波乱の結果となった。

次走のジョッキークラブC(英GⅢ・T16F)では、ボレアスが単勝オッズ2.5倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ5.5倍の2番人気だった。しかしボレアスの追撃を3/4馬身抑えて逃げ切った。9歳時の成績は10戦2勝だった。

競走生活(10歳時)

10歳時も現役を続行した。まずは5月にニューベリー競馬場で行われたリステッド競走アストンパークS(T13F61Y)から始動。ここでは後のサンクルー大賞勝ち馬ガマットが単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ21倍の5番人気だった。レースでは2番手追走から中盤で先頭に立ったが、直線で失速してガマットの10馬身半差4着に終わった。

次走のヘンリーⅡ世S(英GⅢ・T16F78Y)では、ボレアス、前年のロワイヤルオーク賞の勝ち馬ミスターディノス、サガロS3着馬ポールスターとの顔合わせとなった。ボレアスが単勝オッズ2.875倍の1番人気、ミスターディノスが単勝オッズ7倍の2番人気、本馬が単勝オッズ9倍の3番人気だった。ここでも2番手追走から中盤でいったんは先頭に立つもゴール前で失速して、ミスターディノスの5馬身3/4差4着に敗れた。

次走は7年連続出走となるアスコット金杯(英GⅠ・T20F)だった。ヨークシャーCを勝ってきたマムールが単勝オッズ3.5倍の1番人気、ミスターディノスが単勝オッズ4倍の2番人気、チェスターヴァーズの勝ち馬ファイトユアコーナーが単勝オッズ9倍の3番人気、伊ジョッキークラブ大賞・タタソールズ金杯の勝ち馬ブラックサムベラミーが単勝オッズ11倍の4番人気と続いていたが、本馬は単勝オッズ21倍で9番人気の低評価だった。今回はスタートから先頭に立つ事に成功。そのまま直線手前まで先頭を死守していたが、ここで本馬をかわしたミスターディノスがそのまま後続を引き離していった。ミスターディノスに抜かれた本馬だったが、ここから相当な粘りを見せた。結局は勝ったミスターディノスに6馬身差をつけられたが、ポールスター、ジャーディネスルックアウト、マムールなどとの激しい2着争いを3/4馬身差で制した。

次走のリステッド競走イーシャーS(T16F78Y)では、単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。そして2着となった単勝オッズ2.75倍の2番人気馬カバーラップを短頭差で抑えて逃げ切った。

続くグッドウッドC(英GⅡ・T16F)では、ボレアス、ジャーディネスルックアウトという顔馴染みの2頭との対戦となった。ボレアスが単勝オッズ3.75倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気で、ジャーディネスルックアウトは単勝オッズ6.5倍の4番人気だった。スタートから逃げを打ってそのまま直線に入ってきた本馬に並びかけてきたのは、ボレアスではなくジャーディネスルックアウトのほうだった。しかし本馬がここで闘争心を発揮して競り勝ち、短頭差で勝利した。

次走のロンズデールS(英GⅢ・T15F198Y)では、ボレアスとジャーディネスルックアウトに加えて、前年の英セントレジャー馬ボーリンエリック、ジンダバッド、カバーラップなどが出走してきた。人気は非常に割れており、本馬は4番人気ながら単勝オッズは6.5倍だった。やはりスタートから先頭に立ったものの、今回は粘る事が出来ずに、単勝オッズ2.75倍の1番人気に応えて勝ったボーリンエリックの3馬身半差4着に敗れた。

続くドンカスターC(英GⅡ・T18F)では、ポールスター、ジンダバッド、リューテス賞の勝ち馬サバンナベイなどが対戦相手となった。ポールスターが単勝オッズ3倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、ジンダバッドとサバンナベイが並んで単勝オッズ5.5倍の3番人気だった。しかし過去最高とも言える素晴らしい逃げ切り劇を披露した本馬が、2着となった単勝オッズ12倍の5番人気馬ダスキーワーブラーに7馬身差をつけて圧勝した。本馬はこの年の長距離カップ三冠競走アスコット金杯・グッドウッドC・ドンカスターCで、2勝2着1回の成績を残した(アスコット金杯を勝っていれば1995年のダブルトリガー以来8年ぶりの長距離カップ三冠馬誕生だったのだが)。

次走のカドラン賞(仏GⅠ・T4000m)では、ミスターディノス、ケルゴルレイ賞・グラディアトゥール賞を勝ってきたダラシム、モーリスドニュイユ賞・ケルゴルレイ賞・グラディアトゥール賞と3戦連続2着のウェスターナー、ケルゴルレイ賞・ヴィコンテスヴィジェ賞の勝ち馬カットクォーツなどが相手となった。ミスターディノスが単勝オッズ1.73倍という断然の1番人気に支持される一方で、本馬も単勝オッズ6倍の2番人気に推された。しかしレース中盤までしか先頭に立つことができずに、勝ったウェスターナーから48馬身差の8着と惨敗してしまった。

次走のジョッキークラブC(英GⅢ・T16F)では、英セントレジャー馬ミレナリーと、2年前の愛セントレジャー以来となる顔合わせとなった。単勝オッズ2.875倍の1番人気に支持されたのはプリンセスオブウェールズSを2連覇していたミレナリーのほうで、本馬は単勝オッズ3.5倍の2番人気だった。スタートしてすぐに先頭に立って逃げた本馬に、後方から来たミレナリーが直線で並びかけて叩き合いとなった。しかしミレナリーは最後に左側によれて後れを取り、本馬が短頭差で勝利した。この勝利で本馬の欧州におけるグループ競走勝利数は13勝に達し、ブリガディアジェラード、アルドロスアカテナンゴといった名馬達と並ぶ欧州最多タイ記録となった。

10歳時の成績は9戦4勝。GⅠ競走未勝利ながら、カドラン賞・ロワイヤルオーク賞を制したウェスターナーや、ミスターディノスを抑えて、2度目のカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれた。

この頃になると、長年に渡って長距離路線を走り続けていた本馬の人気は絶大なものとなっていた。ファンクラブも創設されていたし、専用のウェブサイトも用意されていた。レーシングポスト紙が企画した前述の「Favorite 100 Horse」で第7位に入ったのもこの年である。また、この年にレーシングポスト紙が企画した「読者が選ぶ年度代表馬」には、本馬が選出されている。1万4千ギニーで購入された本馬だったが、この年が終わった時点で獲得賞金総額は100万8785ポンドに達していた。

競走生活(11歳時)

欧州新記録となるグループ競走14勝目と、悲願のアスコット金杯勝利を目指して11歳時も現役を続行。初戦には4月のサガロS(英GⅢ・T16F45Y)が選ばれた。ミレナリーやロイヤルレベルなどの姿もあり、本馬は単勝オッズ12倍の4番人気止まりだった。例によってスタートから先頭に立って馬群を先導した本馬だったが、直線に入ると失速。そしてゴールまで残り100ヤードの地点で心臓発作を起こして倒れ、そのまま息を引き取った。アスコット競馬場に詰め掛けていた観衆達は、本馬が倒れた事に気付くと、完全に静まりかえってしまった。

翌日の新聞やインターネット上は、関係者やファン達の追悼の弁により埋め尽くされた。その後、本馬のファンクラブ会員達は所有者スミス氏と共に資金を募り、英国の有名彫刻家で元騎手のフィリップ・ブラッカー氏に本馬の銅像を作成してもらった。そして本馬が最後の勝利を挙げたジョッキークラブCを施行するニューマーケット競馬場において、その最後の勝利となったジョッキークラブCのちょうど1年後である2004年10月18日に、完成した銅像が公開された。銅像にはスミス氏や資金を提供したファン達の名前が刻まれたプレートも併設されている。

競走馬としての特徴と評価など

以上が本馬の経歴である。本馬の人気の秘訣をいくつか挙げると、故障知らずの馬で、長距離戦になるといつもその姿があった事。大抵のレースでスタートから先頭をひた走る逃げ馬であった事。そしてGⅠ競走では後一歩が足りない善戦馬的な存在であった事などである。日本で言えば、トウカイトリックにツインターボとナイスネイチャを加えたような馬であった。

しかし戦法や結果云々よりも、やはりアスコット金杯に7年連続出走など、英国における長距離戦の常連であり、ファンにとっては御馴染みの馬であったからこその人気だった。前述の「Favorite 100 Horse」の上位10頭中6頭が障害競走馬である事を考えると、やはり英国の競馬ファンは長きに渡り活躍して感情移入できる馬を好む傾向が強いようである。

また、長距離競走の人気が他国と比べると高い事も否定できない。本馬と対戦経験がある馬の中でも、ダブルトリガー(27位)とファーザーフライト(51位)の2頭が「Favorite 100 Horse」にランクインしている。

しかし、欧州における平地競馬は、レースそれ自体よりも競走馬ビジネスの方に主眼が置かれており、実績馬は3歳で早期引退する傾向が強い。そのため平地競馬からファンが離れ、馬券の売り上げにも響き、賞金捻出に四苦八苦する欧州競馬界。そのため一部の有力馬主に牛耳られている欧州競馬界。一言で言えば「残念」である。先の「Favorite 100 Horse」の上位に近年の平地競走馬がいないのも、長期間活躍する馬が少ないだけでなく、大競走の勝ち馬は一部の有力馬主の所有馬ばかりで感情移入できないのも一因であろう。

欧州だけでなく日本でも長距離競走の権威低下が叫ばれて久しいが、本来の「競馬」とは何なのかを考えてみてほしい。「競馬」はスピードだけを競うものだろうか。本当にスタミナは不要なのだろうか。人間の陸上競技からマラソンが無くなり、ハーフマラソンやトラック競技ばかりになったら、陸上競技全体が衰退していくのではないだろうか。最近はコンデュイットのように長距離GⅠ競走の勝ち馬が世界的大レースで活躍したり、米国のブリーダーズカップでBCマラソンが創設されたりしている(BCマラソンは現在ブリーダーズカップから除外されているが)ので、少しは長距離戦が見直されているはずだと思いたい。日本でも菊花賞や天皇賞春の距離短縮などという愚行だけは止めてほしいものである。

長距離馬は名種牡馬になれないなどとよく言われるが、2009年の全日本首位種牡馬は完全な長距離馬のマンハッタンカフェ(勿論スピードも持ち合わせていたけれども)だったではないか。それにも関わらず、GⅠ競走勝ちが菊花賞や天皇賞春だけという馬は、種牡馬入りのチャンスさえも与えてもらえない事が多い。

日本でも競馬人気が低下傾向にあるのは周知の事実である。馬券の売り上げ時代はここ数年右肩上がりだが、全盛期に比べるとまだまだである。その最大の理由はエンターテイメントの多様化だとは思うが、活躍馬がどれもサンデーサイレンスの血を受けた似た血統の馬ばかりで個性を見出せなくなった事も一因ではないだろうか(少なくとも筆者はそうである)。馬に個性が無いなら、せめて関係する人間に個性があればよいのだが、一部の有力馬主が幅を利かせすぎていたり、活躍するのは外国人騎手や地方出身騎手ばかりだったりという有様である。この状況が改善する兆しは今のところ見えない。

あまりにも繁栄しすぎたサンデーサイレンスの直系は10数年中に著しく衰退するであろう事は、過去の歴史から見て明らか(実際にサンデーサイレンスの孫世代の種牡馬は大勢いるのにあまり活躍していない)であり、その後になって様々な血統から個性的な馬達が登場するようになるまでは、日本競馬は雌伏の時を過ごすことになるのだろう。それまで筆者が生きているかどうかの自信は無いが、気長に待つしかないだろう。

血統

Persian Heights Persian Bold Bold Lad Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Barn Pride Democratic
Fair Alycia
Relkarunner Relko Tanerko
Relance
Running Blue Blue Peter
Run Honey
Ready and Willing Reliance Tantieme Deux-Pour-Cent
Terka
Relance Relic
Polaire
No Saint Narrator Nearco
Phase
Vellada Tourbillon
Tsianina
Rum Cay Our Native Exclusive Native Raise a Native Native Dancer
Raise You
Exclusive Shut Out
Good Example
Our Jackie Crafty Admiral Fighting Fox
Admiral's Lady
Rakahanga Polynesian
Mohduma
Oraston Morston Ragusa Ribot
Fantan
Windmill Girl Hornbeam
Chorus Beauty
Orange Cap Red God Nasrullah
Spring Run
Hymette Djebel
Kudos

父パーシャンハイツは現役時代、セントジェームスパレスS(英GⅠ)を勝ち、英チャンピオンS(英GⅠ)で2着、ミドルパークS(英GⅠ)・英国際S(英GⅠ)・クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ)で3着など9戦4勝の成績を挙げた。種牡馬としてはそれほど好成績を挙げていない。パーシャンハイツの父パーシャンボールドはクーヨンガの項を参照。

母ラムケイは現役成績2戦2勝。本馬の半兄アイランドマジック(父インディアンリッジ)【ソラリオS(英GⅢ)】も産んでいる。本馬の半妹バーボネラ(父レインボークエスト)の子には、アクラーム【ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)・サマーマイルS(英GⅡ)・ジャージーS(英GⅢ)】がいる。ラムケイの母オラストンはリディアテシオ賞(伊GⅠ)の勝ち馬。オラストンの5代母は、名馬クサールの母である20世紀初頭仏国の名牝キジルクールガンで、さらに遡ると19世紀英国の大繁殖牝馬ポカホンタスに行きつくという伝統牝系である。→牝系:F3号族①

母父アワーネイティヴは、現役成績37戦14勝。フラミンゴS(米GⅠ)・モンマス招待H(米GⅠ)・オハイオダービー(米GⅡ)などを制した一流馬だが、同期にセクレタリアトがいたせいで米国三冠競走では引き立て役になってしまった不運な馬。種牡馬としては複数のGⅠ競走勝ち馬を出して実績を挙げている。アワーネイティヴの父エクスクルシヴネイティヴはアファームドの項を参照。

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