コンデュイット
和名:コンデュイット |
英名:Conduit |
2005年生 |
牡 |
栗毛 |
父:ダラカニ |
母:ウェルヘッド |
母父:サドラーズウェルズ |
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BCターフ2連覇・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS制覇など欧米の大競走で活躍を続けた近年最強の英セントレジャー優勝馬 |
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競走成績:2~4歳時に英米仏日で走り通算成績15戦7勝2着2回 |
英国最古のクラシック競走である「ザ・セントレジャー・ステークス」は、かつて数々の歴史的名馬が勝ち馬にその名を連ねた英国有数の大競走だったが、長距離競走の権威が低下するに伴って徐々にその地位も低下していった。特に1990年代からは欧州を代表する名馬の地位を既に確立していた馬が目指すレースではなくなり、このレースの勝ち馬が欧州を代表する名馬に出世する事もほぼ皆無となってしまった。そんな中にあって、2008年の勝ち馬である本馬のみは例外的存在であり、英セントレジャー勝利後に欧州を代表する名馬として活躍を続けたから、本馬は近年最強の英セントレジャー勝ち馬であると言えるのではないだろうか。
誕生からデビュー前まで
トロイ、サンプリンセス、ピルサドスキー、ゴーラン、イズリントンなどの名馬を送り出した故アーノルド・ウェインストック卿が所有していた愛国バリーマコールスタッドファームの生産・所有馬である。母ウェルヘッドは本馬を産んですぐに16歳で他界したため、乳母代わりの牝馬が用意されるまでの期間は人の手によって育てられた。
実母がいない環境が影響したのかは定かではないが、幼少期の本馬は非常に気性が激しい乱暴者だった。特に同世代のタータンベアラーという牡馬に対して攻撃的だったため、本馬は他馬達と分けられて放牧されるようになった。成長した本馬はタータンベアラーと共に英国屈指の名伯楽サー・マイケル・スタウト調教師に預けられた。
競走生活(2歳時)
2歳8月にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、主戦となるライアン・ムーア騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ8倍で20頭立ての3番人気に推された本馬は先行して粘り込む競馬を見せたが、ゴール前の瞬発力勝負に敗れて、勝ち馬タンウィーアから2馬身3/4差の7着に敗れた。
7着と言っても勝ち馬との差はそれほど大きくなく、それから19日後に出走したケンプトンパーク競馬場オールウェザー8ハロンの未勝利ステークスでは、単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。ここでムーア騎手は前走と異なり抑える戦法を採り、残り3ハロン地点からスパートして先行馬勢に迫っていった。しかし前を行くシティオブザキングスとヤッドレーの2頭に届かず、勝ったシティオブザキングスから2馬身1/4差の3着に終わった。
翌9月にはウルヴァーハンプトン競馬場オールウェザー8ハロン141ヤードの未勝利ステークスに出走。ウルヴァーハンプトン競馬場と言っても日本の競馬ファンには全く馴染みが無いだろうが、イングランド中部のウェストミッドランズ郡ウルヴァーハンプトン市に19世紀からある競馬場で、英国で初めてナイター競馬を導入した場所でもある。左回りで1周が1マイルしかなく、しかもオールウェザーを導入している事から、英国よりもむしろ米国の競馬場に近い特徴を有している。いずれにしてもローカル競馬場であるためか、この年の春先に腕を骨折して長期休養を強いられていたムーア騎手は無理にこの競馬場の開催に参加する事はせず、本馬には代わりにジェイミー・スペンサー騎手が騎乗した。これといった対戦相手はいなかったため、本馬が単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持された。前走と同じく控える戦法を採った本馬は、四角を回りながら大外に膨らんでしまったが、直線に入ると内側に切れ込みながらも伸びて残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着オーバリンに3/4馬身差で勝利した。
勝つには勝ったがこの程度の対戦相手のレベルでこの着差では、とても上のランクのレースで勝ち負けになりそうになかった。それで2歳戦はこれが最後のレースとなり、この年の成績は3戦1勝となった。
競走生活(3歳時)
3歳時は4月にサンダウンパーク競馬場で行われた芝10ハロン7ヤードのハンデ競走から始動した。ムーア騎手が鞍上に戻ってきた本馬は単勝オッズ4倍で2番人気となった。レースではやはり後方待機策を採り、残り2ハロン地点から内側を突いて伸びてきた。しかし全馬をごぼう抜きにするほどの末脚ではなく、勝ったコロニーから2馬身半差の3着に敗れた。
その後は英ダービーと同日に同じエプソム競馬場で行われた3歳馬限定ハンデ競走ヘリテージH(T10F18Y)に出走した。本馬の斤量は118ポンドであり、既に4勝を挙げていたトップハンデ馬コボベイの133ポンドと比べると斤量面ではかなり優遇されていた。それもあってか、本馬は単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持された。レースでは相変わらずの後方待機策、それも最後方に陣取った。そして直線入り口でもまだ最後方だったが、ここから外側を「暴風のような勢いで」豪快に伸びてきた。残り1ハロン地点で先頭に立ったところで左側によれる場面もあったが、それでも後続をさらに引き離し、2着ラモナチェイスに6馬身差をつけて圧勝した。ちなみに同日の英ダービーでは、幼少期の本馬に苛められていたタータンベアラーがニューアプローチの2着に入っている。
次走はキングエドワードⅦ世S(英GⅡ・T12F)となった。ロイヤルロッジS勝ち馬でレーシングポストトロフィー2着のシティリーダー、4連勝中のブロンズキャノン(翌年にジョッキークラブS・ハードウィックSを勝利)、ガリニュールS勝ち馬ヘブリディーン、チェスターヴァーズ2着馬オールジエーシズ、リングフィールドダービートライアルS3着馬キャンプアノロジスト(後にドイツ賞・ラインラントポカル・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞とGⅠ競走を4勝)などが出走してきて、今まで本馬が出てきたレースとは格が数枚上手だったが、前走の圧勝ぶりが評価されたのか、本馬が単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持された。ここでは馬群の中団を進み、残り5ハロン地点から徐々に加速していった。しかし残り3ハロン地点で前が塞がって立ち往生するアクシデント。残り1ハロン地点で外側に持ち出してようやく追い上げてきたが時既に遅く、キャンプアノロジストの3/4馬身差2着に敗れた。不利が無ければ多分勝っていたと思われる内容だった。
その後はゴードンS(英GⅢ・T12F)に向かった。対戦相手のレベルはキングエドワードⅦ世Sから明らかに落ちており、本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、キングエドワードⅦ世Sで9着最下位だったヘブリディーンが単勝オッズ6倍の2番人気となった。この程度のメンバー構成なら不利を受ける危険を冒して後方に下げないほうが良いと考えたのか、ムーア騎手は本馬を先行させた。そして残り3ハロン地点で仕掛けて残り2ハロン地点で先頭に立つところまでは理想的だったのだが、ここで同じく先行していた単勝オッズ15倍の5番人気馬ドニゴールに並びかけられて叩き合いに持ち込まれた。ゴール前で何とか前に出て頭差で勝利を収め、グループ競走初勝利とはなったが、内容的には今ひとつだった。
次走が英セントレジャー(英GⅠ・T14F132Y)となった。対戦相手は、愛ダービー馬フローズンファイア、英オークス馬ルックヒアー、チェスターヴァーズ勝ち馬で英ダービー4着のドクターフレマントル、リングフィールドダービートライアルS勝ち馬で愛ダービー3位入線(4着に降着)のアレッサンドロボルタ、2か月前にデビューしたばかりながら愛国のGⅢ競走ギブサンクスSなど2戦2勝のアンサングヒロイン、キングエドワードⅦ世Sで最低人気ながら本馬から1馬身差の3着と好走し、その後に独ダービー3着・グレートヴォルティジュールS2着と堅実に走ってきたトップロックなど13頭だった。フローズンファイアが単勝オッズ3.25倍の1番人気、ルックヒアーが単勝オッズ3.75倍の2番人気、ドクターフレマントルが単勝オッズ7.5倍の3番人気、アレッサンドロボルタが単勝オッズ8.5倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ9倍の5番人気だった。
ムーア騎手が同じスタウト厩舎所属のドクターフレマントルに騎乗したため、本馬には最初で最後のコンビとなるランフランコ・デットーリ騎手が騎乗した。通常以上にスタミナを要求される湿った馬場の中でスタートが切られると、フローズンファイアやアレッサンドロボルタと同じくエイダン・オブライエン厩舎所属のヒンドゥークシュ、それにメイドストーンミクスチャー、エンローラーといった単勝オッズ100倍以上の人気薄勢が先頭を引っ張り、本馬やルックヒアーは中団、フローズンファイアは後方からレースを進めた。そのままの体勢で直線に入ると、残り4ハロン地点で仕掛けた本馬が馬群の中から末脚を伸ばし、残り2ハロン地点で先頭に立った。本馬と同時に内側から仕掛けて上がってきたルックヒアーはここでやや伸びを欠いて脱落し、フローズンファイアも伸びてこない中、本馬の直後にいたアンサングヒロインの1頭のみが本馬を追いかけてきた。しかし本馬は残り1ハロン地点で右側によれながらも力強い末脚を伸ばし続け、2着アンサングヒロインに3馬身差、3着ルックヒアーにはさらに3馬身1/4差をつけて完勝した。
デットーリ騎手にとっては5度目の英セントレジャー勝利だったが、スタウト師にとっては24回目の挑戦で初の英セントレジャー勝利であり、これで彼は英国クラシック競走完全制覇を成し遂げた。
英セントレジャーを勝った馬はそのまま休養入り(又はそのまま引退)するか凱旋門賞に向かうかのいずれかである場合が多かった。スタウト師も当初は本馬をそのまま休養入りさせる腹積もりだったらしいのだが、調子が非常に良かったために、彼は本馬を米国サンタアニタパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に直行させた。
対戦相手は、前年の愛ダービーとこの年のコロネーションCなどを勝ち前走の凱旋門賞でザルカヴァの3着してきたソルジャーオブフォーチュン、ソードダンサー招待S2回・ターフクラシック招待Sと北米GⅠ競走3勝のグランドクチュリエ、2年前に英セントレジャー3着から直行したBCターフを優勝した馬で、前走のマンノウォーSで米国最強馬カーリンを2着に破ってGⅠ競走2勝目を挙げてきたレッドロックス、ベレスフォードS・ロイヤルホイップS・ジョエルSの勝ち馬で前年の英ダービー・英チャンピオンS2着のイーグルマウンテン、アメリカンH・オークツリーマイルSの勝ち馬でエディリードH・ターフクラシックS・マンハッタンH・クレメントLハーシュ記念ターフCSSとGⅠ競走2着4回のアウトオブコントロール、セクレタリアトSを勝ってきたウィンチェスター、サンルイオビスポH・デルマーHなどの勝ち馬スプリングハウス、マンハッタンH・エルクホーンSの勝ち馬ダンシングフォーエヴァー、4年前のBCターフ優勝馬で、ソードダンサー招待H・ユナイテッドネーションズS・マンノウォーS・マンハッタンHと合計GⅠ競走5勝のベタートークナウなど10頭だった。
ソルジャーオブフォーチュンが単勝オッズ2.6倍の1番人気、グランドクチュリエが単勝オッズ6.1倍の2番人気、本馬の鞍上を二度と他者に譲らなくなるムーア騎手騎乗の本馬が単勝オッズ6.8倍の3番人気、レッドロックスが単勝オッズ8.5倍の4番人気、イーグルマウンテンが単勝オッズ10.3倍の5番人気となった。
スタートが切られると、ソルジャーオブフォーチュンを管理するオブライエン師が出走させたペースメーカー役のレッドロックキャニオンが先頭に立ち、ソルジャーオブフォーチュンとアウトオブコントロールの2頭が少し離れた2~3番手、本馬は馬群の中団後方につけた。三角手前でソルジャーオブフォーチュンがレッドロックキャニオンをかわして先頭に立つと、イーグルマウンテン、ダンシングフォーエヴァーといった先行馬勢も進出を開始。本馬も馬群の間を縫うようにして上がってきた。そして6番手で直線に入ってくると鋭い末脚を繰り出し、前を行く馬達を大外から次々と差し切り、2着イーグルマウンテンに1馬身半差をつけて優勝。
勝ちタイム2分23秒42は、1997年にチーフベアハートが計時した2分23秒92を更新するBCターフ最速タイムとなった。また、英セントレジャー勝ち馬としては史上初めてのBCターフ優勝でもあった。
3歳時の成績は6戦4勝で、この年のエクリプス賞最優秀芝牡馬に選出された。
競走生活(4歳前半)
4歳時は5月のブリガディアジェラードS(英GⅢ・T10F7Y)から始動した。ゴードンリチェーズSで2着してきたヨークS勝ち馬パイプドリーマー、前年の伊ダービー馬チマデトリオンフ、前年のキングエドワードⅦ世Sで本馬を破ったキャンプアノロジスト、セレクトS・ウインターヒルSの勝ち馬ストッツフォールドなどが対戦相手となった。実績では本馬が最上位だったのだが、他の出走全馬より7ポンド重い133ポンドの斤量と久々の分だけ割り引かれて、単勝オッズ3.75倍の2番人気。パイプドリーマーが単勝オッズ2.875倍の1番人気、チマデトリオンフが単勝オッズ5倍の3番人気となった。レースでは逃げ馬を見るように好位を追走。そして残り2ハロン地点で仕掛けて残り半ハロン地点で先頭に立ったのだが、内側を強襲してきたチマデトリオンフに鼻差かわされて2着に敗れた。
次走は前走と同コースのエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)となった。対戦相手はチマデトリオンフ、クレイヴンS・ユジェーヌアダム賞の勝ち馬トゥワイスオーヴァー、それに英2000ギニー・英ダービーを連勝してきたシーザスターズ、英2000ギニー・英ダービー共に4着だったタイロスS勝ち馬リップヴァンウィンクル、ロイヤルロッジS勝ち馬ジュークボックスジュリーといった3歳馬勢だった。シーザスターズが単勝オッズ1.57倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5.5倍の2番人気、素質が評価されていたリップヴァンウィンクルが単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。スタートが切られるとリップヴァンウィンクルを管理するオブライエン師が用意したコーニッシュ、スタウト師が用意したラングシャイニングのペースメーカー役2頭が先頭を争い、オブライエン師が用意したもう1頭のペースメーカー役マリブベイも先行。シーザスターズは5番手、リップヴァンウィンクルと本馬は後方からレースを進めた。残り3ハロン地点でシーザスターズが仕掛けると本馬もスパートを開始したが、シーザスターズを捕らえるほどの伸びは無く、すぐ前を走っていたリップヴァンウィンクルに残り1ハロン地点で置き去りにされてしまった。レースはシーザスターズがリップヴァンウィンクルを1馬身抑えて勝ち、本馬はシーザスターズから5馬身半差の3着と完敗した。
雪辱を期する本馬の次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(英GⅠ・T12F)となったのだが、レース数日前に事件が起きた。バリーマコールスタッドファームに対して何者かが電子メールにより脅迫状を送り付け、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを回避しなければ本馬を殺害すると警告したのである。バリーマコールスタッドファームのマネージャーだったピーター・レイノルズ氏は警察に通報し、ニューマーケットのスタウト厩舎からアスコット競馬場に移動する途中の本馬の周囲には警察官や警備員が配置されて厳重な警戒態勢が敷かれた。ちなみに犯人のアンドリュー・ロジャーソンという男は翌8月に逮捕された。動機は自分が所属する犯罪組織から同競走で本馬に賭けるように言われて預かっていたお金を賭け忘れてしまい、本馬が勝ってしまうと配当金5万ポンドを上乗せしたお金を組織に返さなければならなかったためであった。本当に殺害するつもりは無かったようで、組織に報復される事を恐れたための犯行である事が考慮され、翌年1月に執行猶予付きの有罪判決を受けている。
さて、無事に迎えたレースではシーザスターズが不在であり、ダンテS・ゴードンリチャーズSの勝ち馬で、前年の英ダービーと前走のプリンスオブウェールズSで2着していたタータンベアラー(幼少期の本馬が苛めていた馬である)、愛ダービーでフェイムアンドグローリーの2着してきたチェスターヴァーズ勝ち馬ゴールデンソード、前年の英セントレジャー3着後にコロネーションC・プリティポリーSでも3着と堅実に走っていたルックヒアー、コロネーションC・ヨークシャーC・オーモンドS・カンバーランドロッジS・ゴードンリチャーズSの勝ち馬アスク、プリンセスオブウェールズSで2着してきたアルワーリー、英セントレジャー7着後は精彩を欠いていたフローズンファイア、伊グランクリテリウム・シャンティ大賞の勝ち馬シンティロなど8頭が対戦相手となった。
本馬が単勝オッズ2.625倍の1番人気、タータンベアラーが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ゴールデンソードが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ルックヒアーが単勝オッズ8倍の4番人気、アスクが単勝オッズ10倍の5番人気となった。
スタートが切られるとフローズンファイア陣営のペースメーカー役ロックハンプトンが先頭に立ち、好スタートを切った本馬は徐々に下げて後方馬群に落ち着いた。そのまま後方で脚を溜めると、残り3ハロン地点でスパートを開始した。前方では直線入り口で先頭に立ったゴールデンソードに外側から残り2ハロン地点で並びかけたタータンベアラーが先頭に立ち、さらにゴールデンソードとタータンベアラーの間を突いてアスクも伸びてきた。しかし残り1ハロン地点で外側から差してきた本馬が右側に切れ込みながらタータンベアラーに並びかけた。本馬の勢いに怯えたようにタータンベアラーが失速した隙を突いて先頭を奪うと、2着タータンベアラーに1馬身3/4差、3着アスクにさらに頭差をつけて勝利した。タータンベアラーだけでなくアスクもスタウト師の管理馬であり、上位3頭をスタウト厩舎の所属馬で独占した形となった。
しかし残り1ハロン地点で斜行してタータンベアラーの進路を狭くする場面があったため、ムーア騎手は3日間の騎乗停止処分を受けた。本馬の斜行は、まるでタータンベアラーを再び苛めようとするかのように見えたが、実際にバリーマコールスタッドファームは本馬とタータンベアラーが非常に不仲だった事を斜行の理由として挙げている。
競走生活(4歳後半)
その後は前年に不参戦だった凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に直行した。対戦相手は、英国際S・愛チャンピオンSも勝って目下GⅠ競走5連勝中のシーザスターズ、愛ダービー・クリテリウムドサンクルー・デリンスタウンスタッドダービートライアルSなどの勝ち馬で英ダービー・愛チャンピオンS2着のフェイムアンドグローリー、パリ大賞・ニエル賞を連勝してきたカヴァルリーマン、ガネー賞・プリンスオブウェールズSを勝っていた前年の仏ダービー馬ヴィジョンデタ、サンタラリ賞・仏オークス・ヴェルメイユ賞など6戦全勝のスタセリタ、凱旋門賞2年連続2着中のオイロパ賞・サンクルー大賞・グレートヴォルティジュールS勝ち馬ユームザイン、プリティポリーS・ヨークシャーオークスの勝ち馬で前走ヴェルメイユ賞では1位入線するも5着降着となっていたダーレミ、ドイツ賞・バーデン大賞・ケルゴルレイ賞・ジョッキークラブS・ドーヴィル大賞の勝ち馬ゲッタウェイなどだった。シーザスターズが単勝オッズ1.67倍の1番人気、フェイムアンドグローリーが単勝オッズ7倍の2番人気、本馬が単勝オッズ9倍の3番人気となった。
スタートが切られるとフェイムアンドグローリー陣営のペースメーカー役コーニッシュとグランドデュカルの2頭が後続を大きく引き離して先頭を引っ張り、フェイムアンドグローリーが好位、本馬が馬群の中団で、スタートが良すぎたシーザスターズは無理矢理に抑えて本馬と同じく中団まで下げてきた。そのままの態勢で直線に入ると、本馬は外側から、シーザスターズは内側からスパートした。本馬の末脚も決して悪くは無かったのだが、的確に馬群の隙間を抜けていったシーザスターズの脚色のほうが良く、徐々に差を広げられていった。ゴール前では本馬より後方から追い上げてきたユームザイン、好位から抜け出したカヴァルリーマンとの2着勝負となったが、これにも敗れて、勝ったシーザスターズから2馬身半差の4着に敗退した。
このレースの後、この年限りで競走馬を引退し、来年から日本のビッグレッドファームで種牡馬入りすることが発表された。
そのためこのまま引退するのではとの憶測も流れたが、渡米して前年と同じくサンタアニタパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に参戦した。サンクルー大賞・フォワ賞を連勝しながらも凱旋門賞を回避してこちらに目標を絞ってきたスパニッシュムーン、凱旋門賞で本馬から1馬身差の5着だったダーレミ、ユナイテッドネーションズS2回・クレメントLハーシュ記念ターフCSS・WLマックナイトH2回・マックディアーミダSなどを勝っていた米国芝路線の実力馬プレシャスパッション、ソードダンサー招待S勝ち馬テリング、エディリードH勝ち馬モンザント、前年のBCターフ10着以降は全く活躍できていなかったレッドロックスの6頭だけが対戦相手であり、出走頭数7頭はBCターフ史上最少だった。
本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、スパニッシュムーンが単勝オッズ4.2倍の2番人気、ダーレミが単勝オッズ6.7倍の3番人気、プレシャスパッションが単勝オッズ6.9倍の4番人気となった。
スタートが切られるとプレシャスパッションが猛然と先頭を飛ばして瞬く間に後続を引き離し、大きく離された2番手がスパニッシュムーン、ダーレミが3番手で、本馬は最後方からレースを進めた。プレシャスパッションの逃げは凄まじく、スパニッシュムーンに最大で10馬身は優につける大逃げとなった。向こう正面で本馬が外側を通って加速を始めると他馬勢も加速して、プレシャスパッションとの差がどんどん縮まっていった。しかしいったんは減速したように見えたプレシャスパッションにはまだ余力があり、三角と四角を回って直線に入ってきてもまだ先頭を死守していた。一方の本馬は三角から四角にかけて位置取りを上げると、直線入り口で内を走っていたダーレミにぶつけられて体勢を崩しながらも2番手で直線に入ってきて、必死にプレシャスパッションを追いかけた。そして残り半ハロン地点で並びかけると、半馬身かわして優勝。2003年のハイシャパラル以来6年ぶり史上2頭目のBCターフ2連覇を達成した。平素は無口なムーア騎手も「彼は非常に勇敢です。私にとっては生涯に1度出会えるかどうかの偉大な馬です」と賞賛の声を惜しまなかった。
既に日本での種牡馬入りが決まっていたため、現役最後のレースはジャパンC(日GⅠ・T2400m)となった。対戦相手は、64年ぶり史上3頭目の牝馬の東京優駿覇者にして阪神ジュベナイルフィリーズ・安田記念2回・天皇賞秋・ヴィクトリアマイルも勝っていた歴史的名牝ウオッカ、前走の京都大賞典を快勝してきた前年の菊花賞馬オウケンブルースリ、前走の天皇賞秋でカンパニーの2着に入っていた前年のジャパンC・アルゼンチン共和国杯勝ち馬スクリーンヒーロー、この年の東京優駿2着馬リーチザクラウン、桜花賞・優駿牝馬でいずれもブエナビスタの2着に敗れた雪辱を前走の秋華賞で晴らしたレッドディザイア、半年前の天皇賞春を勝利したマイネルキッツ、前年の宝塚記念勝ち馬エイシンデピュティ、菊花賞・京都記念・阪神大賞典などを勝っていたアサクサキングス、シンガポール航空国際Cの勝ち馬コスモバルクといった日本馬13頭と、加国際S・ノーザンダンサーターフSの勝ち馬マーシュサイド、本馬が勝ったキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSで9着最下位だったシンティロなどの海外馬4頭だった。
ウオッカが単勝オッズ3.6倍の1番人気、オウケンブルースリが単勝オッズ4.7倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.9倍の3番人気、スクリーンヒーローが単勝オッズ7.5倍の4番人気、リーチザクラウンが単勝オッズ8.6倍の5番人気、レッドディザイアが単勝オッズ9.6倍の6番人気で、ここまでが単勝一桁台。7番人気馬マイネルキッツは単勝オッズ32.1倍で、本馬以外の海外馬勢は軒並み人気薄だった。
スタートが切られるとアサクサキングスが先頭に立ち、それにリーチザクラウン、エイシンデピュティが絡み、ウオッカは4番手、レッドディザイアは中団、本馬は馬群の中団後方、オウケンブルースリはさらに後方からレースを進めた。二角でリーチザクラウンがアサクサキングスから先頭を奪うなど激しい先陣争いが展開されたために、特に最初の200~400m通過のラップは10秒5と速くなり、1000m通過が59秒という速い流れでレースが進んだ。このハイペースのために直線に入ると逃げ・先行馬勢の大半は失速していったが、残り300m地点で先頭に立ったウオッカのみは驚異的な頑張りを見せて粘っていた。そこへウオッカの直後から本馬、さらに大外からオウケンブルースリ、本馬の外側からレッドディザイアといった馬達が追い上げてきた。しかし本馬よりオウケンブルースリやレッドディザイアの脚色のほうが良く、本馬は徐々に差をつけられた。レースはウオッカがオウケンブルースリの追撃を僅か2cm抑えて優勝し、さらに1馬身半差の3着にレッドディザイア、本馬はさらに1馬身1/4差の4着に敗れた。
本馬のラスト600mの走破タイムは35秒0と決して悪くなかったが、前にいたウオッカに34秒8の脚を使われては如何ともできなかった。もっとも、過去にジャパンCに参戦したキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS勝ち馬としては最上位の成績だった(1990年のベルメッツが7着、1996年のペンタイアが8着、2002年のゴーランが7着)から、そう悪い結果ではなかった。
これが現役最後のレースとなり、4歳時の成績は6戦2勝となった。前年はエクリプス賞最優秀芝牡馬を受賞した本馬だが、この年はアーリントンミリオンなどGⅠ競走を4勝したジオポンティがいたために次点に終わり、2年連続受賞は成らなかった。その代わりというわけではないが、英国馬主協会により英最優秀古馬に選ばれている。
血統
Dalakhani | Darshaan | Shirley Heights | Mill Reef | Never Bend |
Milan Mill | ||||
Hardiemma | ハーディカヌート | |||
Grand Cross | ||||
Delsy | Abdos | Arbar | ||
Pretty Lady | ||||
Kelty | ヴェンチア | |||
マリラ | ||||
Daltawa | Miswaki | Mr. Prospector | Raise a Native | |
Gold Digger | ||||
Hopespringseternal | Buckpasser | |||
Rose Bower | ||||
Damana | クリスタルパレス | Caro | ||
Hermieres | ||||
Denia | Crepello | |||
Rose Ness | ||||
Well Head | Sadler's Wells | Northern Dancer | Nearctic | Nearco |
Lady Angela | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
Fairy Bridge | Bold Reason | Hail to Reason | ||
Lalun | ||||
Special | Forli | |||
Thong | ||||
River Dancer | Irish River | Riverman | Never Bend | |
River Lady | ||||
Irish Star | Klairon | |||
Botany Bay | ||||
Dancing Shadow | ダンサーズイメージ | Native Dancer | ||
Noors Image | ||||
Sunny Valley | Val de Loir | |||
Sunland |
父ダラカニは当馬の項を参照。
母ウェルヘッドは不出走馬だが、後述するように血統的にはかなり優秀。本馬の半兄ハードトップ(父ダルシャーン)【グレートヴォルティジュールS(英GⅡ)】も産んだ他に、本馬の半姉スプリングシンフォニー(父ダルシャーン)の子にはグラスハーモニウム【マッキノンS(豪GⅠ)・イーグルファームC(豪GⅡ)・ゴードンリチャーズS(英GⅢ)】がいる。ウェルヘッドの半弟にはスペクトラム(父レインボークエスト)【愛2000ギニー(愛GⅠ)・英チャンピオンS(英GⅠ)】とストリームオブゴールド(父レインボークエスト)【マックディアーミダH(米GⅡ)】がおり、ウェルヘッドの半妹バレエシューズ(父エラマナムー)の子にはペトルシュカ【愛オークス(愛GⅠ)・ヨークシャーオークス(英GⅠ)・オペラ賞(仏GⅠ)・ネルグウィンS(英GⅢ)】がいる。ウェルヘッドの従兄弟にはミレナリー【英セントレジャー(英GⅠ)・ジョッキークラブS(英GⅡ)・プリンセスオブウェールズS(英GⅡ)2回・ヨークシャーC(英GⅡ)・ドンカスターC(英GⅡ)2回・ロンズデールC(英GⅡ)】が、ウェルヘッドの従姉妹エリンバード【伊1000ギニー(伊GⅡ)】の子には日本で走ったエリンコート【優駿牝馬(GⅠ)】がいる。
ウェルヘッドの母リヴァーダンサーの叔母にはサンプリンセス【英オークス(英GⅠ)・ヨークシャーオークス(英GⅠ)・英セントレジャー(英GⅠ)】、叔父にはサドラーズホール【コロネーションC(英GⅠ)】がおり、サンプリンセスの子であるプリンスオブダンス【デューハーストS(英GⅠ)】、孫であるフサイチコンコルド【東京優駿(GⅠ)】とアンライバルド【皐月賞(GⅠ)】、曾孫であるヴィクトリー【皐月賞(GⅠ)】なども近親である。→牝系:F1号族④
母父サドラーズウェルズは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬はビッグレッドファームで種牡馬生活を開始した。初年度は111頭の繁殖牝馬を集めた。2年目は96頭、3年目は79頭、4年目の2013年は69頭と一定の交配数が確保されていたが、この2013年にデビューした初年度産駒の成績が芳しくなかったため、5年目の交配数は15頭まで減少してしまった。