ニューアプローチ

和名:ニューアプローチ

英名:New Approach

2005年生

栗毛

父:ガリレオ

母:パークエクスプレス

母父:アホヌーラ

2歳限りで競馬場を去った1歳年上の同厩馬テオフィロと同成績でカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれ、逃げから追い込みに転換した英ダービーも制覇

競走成績:2・3歳時に愛英で走り通算成績11戦8勝2着2回

誕生からデビュー前まで

愛国キルケニー郡にあるロッジパークスタッドにおいてシェイマス・バーンズ氏により生産された愛国産馬で、1歳時のゴフスセールにおいて43万ユーロ(当時の為替レートで約6450万円)で落札された。本馬を購入したのは愛国の馬主ジェイムズ・ボルジャー氏で、彼は競走馬の生産及び調教も手掛けていた。本馬はボルジャー氏の知人ジョン・コーコラン氏とボルジャー夫人の共同名義で走る事になり、調教はボルジャー師が担当した。

本馬がボルジャー師に買われた頃、ボルジャー厩舎には同じガリレオ産駒で、本馬より1歳年上のテオフィロという期待馬がいた。テオフィロは2歳時にタイロスS・愛フューチュリティS・愛ナショナルS・デューハーストSなど5戦全勝の成績でカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれ、ボルジャー師をして英国三冠馬を狙うと言わしめた逸材だったが、脚部不安のため、本馬が競走馬としてデビューするのと前後して、3歳時1戦もすることなく引退に追い込まれていた。

ボルジャー師は、テオフィロの雪辱を本馬で果たすべく、本馬の2歳時における日程をテオフィロに倣って組んだ。主戦はテオフィロの全レースに騎乗したケヴィン・マニング騎手で、やはり本馬の全レースに騎乗した。

競走生活(2歳時)

2歳7月にカラー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利戦(愛オークスと同日。ちなみにテオフィロのデビュー戦も愛オークスと同日だった)でデビューして、単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。単勝オッズ3.75倍の1番人気に推されていたのは、愛国の世界的馬産団体クールモアグループ所有のルシファーサムという馬で、父が名種牡馬ストームキャット、叔父に名種牡馬マキャヴェリアンやジャックルマロワ賞勝ち馬イグジットトゥノーウェアがいるという良血馬だった。

不良馬場の中でスタートが切られるとマニング騎手は本馬を押して先行させた。そしてレース中盤で完全に先頭に立ち、そのまま逃げ込みを図った。残り1ハロン地点で本馬を追うように先行したルシファーサムがやって来たためいったん先頭を譲ったが、ここからさらに伸びた本馬とは対照的にルシファーサムは最後の踏ん張りが効かずに脱落。本馬が2着ルシファーサムに2馬身差をつけて完勝する結果となった。

次走は13日後のタイロスS(愛GⅢ・T7F)となった。出走馬は本馬を含めて僅か4頭だったが、対戦相手の中には、大種牡馬サドラーズウェルズとフィリーズマイル勝ち馬テジャーノの間に産まれたクールモア期待の良血馬ミネアポリスもいた。本馬が単勝オッズ2倍の1番人気で、ミネアポリスが単勝オッズ2.625倍の2番人気という一騎打ちムードだった。

スタートが切られると即座に本馬が先頭に立ち、単勝オッズ7倍の3番人気馬ブラジリアンスター(後に本馬の好敵手となるヘンリーザナヴィゲーターの母セコイアの従兄弟に当たる)が2番手、ミネアポリスが3番手を追ってきた。残り2ハロン地点で本馬に並びかけてきたのはブラジリアンスターであり、ミネアポリスはこの段階で既に脚色が怪しくなっていた。残り1ハロン地点まで本馬とブラジリアンスターの競り合いが続いたが、ここから本馬が得意の二の脚を使ってブラジリアンスターを突き放し、2馬身差をつけて快勝した。

次走は4週間後の愛フューチュリティS(愛GⅡ・T7F)となった。このレースは5頭立てであり、その中で有力視されていたのは本馬と、名種牡馬キングマンボとモイグレアスタッドS勝ち馬セコイアの間に産まれたヘンリーザナヴィゲーターだった。ヘンリーザナヴィゲーターもクールモアの所有馬であり、過去2戦で管理馬が本馬の前に歯が立たなかったクールモアの専属調教師エイダン・オブライエン師は、既にGⅡ競走コヴェントリーSを勝っていたヘンリーザナヴィゲーターを本馬にぶつけてきたのだった。本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気、ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ2.1倍の2番人気となった。

スタートが切られると当然のように本馬が先頭に立ったが、オブライエン師は本馬を楽に逃がさないためにワルシャワという馬をラビット役として出走させており、それが本馬に競り掛けてきた。そしてヘンリーザナヴィゲーターは前2頭を見るように3番手を進んだ。残り2ハロン地点でヘンリーザナヴィゲーターが仕掛けて、残り1ハロン地点でワルシャワをかわして2番手に上がってきた。しかしワルシャワに競られたにも関わらず本馬にはまだ余裕があり、ここから二の脚を使って引き離しにかかった。そしてヘンリーザナヴィゲーターは先に根を上げて失速し、その隙を突いて単勝オッズ41倍の伏兵カーテンコールが2番手に上がったが、その時点で本馬は既にゴールラインを駆け抜けていた。2着カーテンコールに3馬身差をつけた本馬が快勝し、ヘンリーザナヴィゲーターは3着に終わった。

次走は3週間後の愛ナショナルS(愛GⅠ・T7F)となった。ここにもクールモアの所有馬が大挙5頭も姿を見せていたが、その中で強敵と言えたのは5頭中唯一オブライエン厩舎ではなくT・スタック厩舎に所属していたマイボーイチャーリーで、モルニ賞・アングルシーSなど3戦全勝の成績を誇っていた。もう1頭の強敵と目されたのは、クールモアの宿敵であるゴドルフィンが送り込んできたヴィンテージS勝ち馬リオデラプラタだった。本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気、マイボーイチャーリーとリオデラプラタが並んで単勝オッズ3.5倍の2番人気、後にロイヤルホイップS・レパーズタウン2000ギニートライアル・愛国際S3回・デスモンドS・アメジストS3回・メルドS3回・ソロナウェイSと愛国のグループ競走を実に13勝もするフェイマスネーム(ただし愛国外ではグループ競走勝利無しの内弁慶だった)が単勝オッズ9倍の4番人気となった。

スタートが切られると例によって本馬が先頭に立ったが、オブライエン師が送り込んできたグレートバリアリーフなど4頭が本馬を潰すために競り掛けてきた。マイボーイチャーリーとリオデラプラタはいずれも馬群の中団後方からレースを進めており、平素は宿敵関係にあるクールモアとゴドルフィンが打倒本馬のためにここでは結束したかのようだった(後述するようにこの段階で本馬の権利の半分はゴドルフィンの創設者であるドバイのシェイク・モハメド殿下のものとなっていたから、本当に裏取引が行われた可能性はまず無い)。そして残り2ハロン地点でマイボーイチャーリーとリオデラプラタが揃って仕掛けたのだが、ほぼ同時に本馬も二の脚を使ってラストスパートを開始。マイボーイチャーリーよりもリオデラプラタのほうが脚色は良く、残り1ハロン地点で2番手まで上がってきたのが、それまでだった。2着リオデラプラタに1馬身3/4差、3着マイボーイチャーリーにもさらに1馬身3/4差をつけた本馬が完勝し、4連勝でGⅠ競走を制覇した。

この愛ナショナルSから2週間後のGⅡ競走ベレスフォードSを、愛フューチュリティSで本馬の2着だったカーテンコールが4馬身差で圧勝したり、ベレスフォードSから1週間後の仏国GⅠ競走ジャンリュックラガルデール賞をリオデラプラタが2馬身半差で完勝したりしたため、本馬の評価はうなぎのぼりだった。

その後は英国に向かい、デューハーストS(英GⅠ・T7F)に出走。未勝利戦・タイロスS・愛フューチュリティS・愛ナショナルS・デューハーストSという出走日程は前年のテオフィロと全く同じとなり、これを本馬が勝てば成績もテオフィロと全く同じになるところまで来た。しかしこのレースには新たな強敵が1頭参戦していた。それは3戦全勝のレイヴンズパスという馬であり、前走ソラリオSでは、ロイヤルロッジSを勝つシティリーダーを7馬身差の2着に葬り去り、本馬に引けを取らない高評価を得ていた。他にも、2週間前のジャンリュックラガルデール賞を勝ってきたリオデラプラタ、ミルリーフS・ミドルパークSを連勝してきたダークエンジェル、英シャンペンSなど3連勝中のマッカートニー、エイコムSなど2戦2勝のファストカンパニー、ゴフスミリオンを勝ってきたラックマネーと有力馬が目白押しだった。その中で単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持されたのは本馬であり、レイヴンズパスが単勝オッズ4倍の2番人気、リオデラプラタが単勝オッズ5.5倍の3番人気で、前走でGⅠ競走を勝ってきたダークエンジェルが単勝オッズ26倍の7番人気に留まるほどのレベルだった。

今まではそれほどレース前に焦れ込む事が無かった本馬だが、この時期から気性の激しさが顔を出し始めており、レースが始まるまで隣にポニーを配置して落ち着かせる必要があった。この焦れ込みが影響したのか、今回はゲートの出が悪かった。そのためにまずは先頭に立ったのはダークエンジェルとラックマネーの2頭だった。本馬は3番手まで位置取りを上げたが、そこから無理に先頭を奪おうとせずに、前2頭を見るように先行。レイヴンズパスも本馬をマークするように先行し、リオデラプラタは馬群の中団後方につけた。残り2ハロン地点で本馬より先にレイヴンズパスが先頭に立って押し切ろうとしたが、残り1ハロン地点でよれて失速。残り2ハロン地点で本格的にスパートした本馬が代わりに先頭に立った。そこへ最後方で脚を溜めていたファストカンパニーが猛然と追い上げてきて、本馬に並びかけてきた。しかし本馬が凌ぎきって半馬身差で勝利を収めて2歳時最後のレースを飾り、前年のテオフィロと全く同じ内容の5戦全勝の成績となった。

当然、テオフィロに続いてカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選出された。そして翌年の英2000ギニーや英ダービーの前売りオッズでも断然の人気を集めた(前者は単勝2.75倍、後者は単勝4倍)。

競走生活(3歳初期)

なお、愛ナショナルSの前にドバイのシェイク・モハメド殿下が本馬の権利の半分を購入していたが、3歳になった本馬は、残り半分の権利もモハメド殿下に購入された(厩舎は変更されず、引き続きボルジャー師が調教を担当した)。そのためテオフィロとは異なり、英国三冠馬を目指すような事はせず、ひとまずマイル路線を目標とする事になり、英ダービーに出走する可能性は低い旨が事前に発表されていた。

3歳時はぶっつけ本番で英2000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走した。主な対戦相手は、レーシングポストトロフィー・オータムSなど4連勝中のイブンカルダン、デューハーストS3着・クレイヴンS2着ともう一息だったレイヴンズパス、愛フューチュリティS3着から直行してきたヘンリーザナヴィゲーター、ヨーロピアンフリーH勝ち馬でホーリスヒルS2着のスティミュレーション、リッチモンドS勝ち馬でミルリーフS・ミドルパークS2着のストライクザディールなどだった。本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気、イブンカルダンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、レイヴンズパスが単勝オッズ5倍の3番人気、ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ12倍の4番人気となった。

スタートが切られると即座に本馬が先頭に立ち、イブンカルダンが先行。レイヴンズパスやヘンリーザナヴィゲーターは中団に控えた。残り1ハロン地点で本馬は得意の二の脚を使い、後続を引き離しにかかった。殆どの馬は本馬に付いてくることが出来なかったが、ヘンリーザナヴィゲーターだけは例外であり、みるみるうちに本馬との差を詰めると並びかけて叩き合いに持ち込み、2頭が殆ど並んでゴールインした。写真判定の結果、ヘンリーザナヴィゲーターが本馬を鼻差破って勝利しており、本馬は初黒星を喫してしまった。

続いて愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)に出走。対戦相手はヘンリーザナヴィゲーター、キラヴーランSなど2戦2勝のジュピタープルヴィアス、英2000ギニーで単勝オッズ101倍の超人気薄を覆して本馬から4馬身差の3着に入ったスタブッスアート、前年の第1回BCジュヴェナイルターフを勝利したナウナウナウの4頭だった。本馬が単勝オッズ2.1倍の1番人気、ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ2.25倍の2番人気、ジュピタープルヴィアスが単勝オッズ8倍の3番人気となった。

スタートが切られると即座に本馬が先頭に立ち、スタブッスアートが2番手、ヘンリーザナヴィゲーターが3番手につけた。本馬は残り2ハロン地点から二の脚を使って後続を引き離しにかかったのだが、残り1ハロン地点で外側から来たヘンリーザナヴィゲーターに一瞬にしてかわされてしまい、1馬身3/4差の2着に敗れた。陣営はこの敗因を堅すぎる高速馬場に求めた。

本馬陣営は3歳当初から本馬をマイル~10ハロン路線に進ませる予定だったのだが、英2000ギニーと愛2000ギニーを連敗してしまったために、方針転換をするべきか頭を悩ませることになった。

英ダービー

陣営が次走として考えていたのは愛ダービーだった。ところがボルジャー師が登録したのは愛ダービーではなく英ダービーのほうだった。これについては、ボルジャー師の登録ミスであるとする資料が存在するのだが、いくらなんでも愛ダービーと間違えて英ダービーに登録したなどという話は俄かには信じ難く、元々ボルジャー師の脳裏には、前年にテオフィロが出走さえ出来なかった英ダービーがあったのだろうと筆者は考えている。この件に関しては、出走予定馬が固まりつつあったために既に本馬以外の馬にお金を賭けていた人も多かった事から英国内で議論を呼び、不意打ち的な参戦を非難する論調も出た。

ただ、英ダービーは愛2000ギニーから僅か2週間後の強行軍だった。陣営は協議の末、英ダービーにはそのまま登録するが、本馬が苦手な堅い馬場になった場合は回避するという結論を出した。英ダービーのレース当日は良馬場発表だったが、直前に降雨があったために実際には馬場は湿っていた。そのため陣営は本馬の英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)参戦を正式に決定した。なお、ヘンリーザナヴィゲーターも英ダービーに出走予定だったのだが、こちらは本馬とは逆に重馬場が不得手だったため、降雨により馬場状態が悪化していくのを見た陣営の判断により回避した。

本馬以外の出走馬は、デリンズタウンスタッドダービートライアルSを6馬身差で圧勝してきた2戦2勝馬カジュアルコンクェスト、チェスターヴァーズを勝ってきたドクターフレマントル、ダンテSを勝ってきたタータンベアラー、ディーSを勝ってきたタジャーウィード、ニューマーケットSを勝ってきたカンダハールラン、リングフィールドダービートライアルSを勝ってきたアレッサンドロボルタ、ベレスフォードS勝利後のレーシングポストトロフィーは5着に終わるも前走の条件ステークスを6馬身差で圧勝してきたカーテンコール、デューハーストS4着から直行した仏2000ギニーで2着してきたリオデラプラタ、ダンテS2着馬フローズンファイア、リングフィールドダービートライアルS2着馬キングオブローマ、デリンズタウンスタッドダービートライアルS2着馬ワシントンアーヴィングなど15頭だった。カジュアルコンクェストが単勝オッズ4.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ6倍の2番人気、ドクターフレマントルが単勝オッズ6.5倍の3番人気、タータンベアラーが単勝オッズ7倍の4番人気、カーテンコールが単勝オッズ8倍の5番人気で、やや混戦模様だった。

スタート前に焦れ込むようになっていた本馬を宥めるために、ボルジャー師は本馬にポニーを同伴させようとしたのだが、不意打ち的な参戦が影響したのか他の調教師達から白い目で見られていたボルジャー師に対して、ポニーの同伴は不公正であると他馬陣営から異論が出て、レースは無意味に遅延する事になった。

さて、過去のレースでは全てスタートから先頭に立つ事を目指してきた本馬だが、マニング騎手は今回距離を意識したようで、後方待機策を選択した。いきなりの戦法転換だったためか本馬は激しく行きたがってしまい、マニング騎手が力づくで抑えて馬群の最後方辺りまで下げた。レースは最低人気馬メイドストーンミクスチャーとバシュキロフの2頭が先頭を引っ張り、ドクターフレマントルとカジュアルコンクェストは好位、スタートで出遅れたタータンベアラーは本馬と同じく後方待機策を採った。直線に入ると道中は3番手を走っていたカンダハールランがいったんは先頭に立ったが、しばらくして失速。代わりにドクターフレマントルが残り2ハロン地点で先頭に立ち、さらにそれをカジュアルコンクェストが追いかけていたが、そこへ直線入り口13番手だった本馬が内側から、直線入り口14番手だったタータンベアラーが外側から追い込んできて、ドクターフレマントルとカジュアルコンクェストを残り1ハロン地点でかわした。そして最後は本馬とタータンベアラーの2頭による争いとなった。本馬は先頭に立ったところで少し右側にふらつく場面もあったが、それでも失速する事は無く最後まで走り抜き、2着タータンベアラーに半馬身差をつけて優勝した。

ボルジャー師はテオフィロで取れなかった念願の英ダービーを取ったわけだが、レース前のいざこざが影響したのか、それほど喜びを爆発させる事は無かった。

競走生活(3歳後半)

その後は愛ダービーに参戦する計画もあったが、左後脚に外傷を負ったため回避した。

少し休養を取った本馬の次走は英国際S(英GⅠ・T10F)となった。対戦相手は、ガネー賞・タタソールズ金杯・プリンスオブウェールズS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSとGⅠ競走4連勝中の4歳馬デュークオブマーマレード、アールオブセフトンS勝ち馬でロッキンジS・プリンスオブウェールズS・エクリプスSとGⅠ競走3連続2着中のフェニックスタワー、ヨークS勝ち馬でプリンスオブウェールズS・エクリプスS3着のパイプドリーマーなどだった。実績的には本馬とデュークオブマーマレードの2頭が飛び抜けており、“clash of the titans(巨人の激突)”と評された。デュークオブマーマレードが単勝オッズ1.67倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3倍の2番人気となった。

なお、英国際Sは1972年にベンソン&ヘッジズ金杯の名称で創設されて以来一貫してヨーク競馬場で行われていたのだが、この時期のヨーク競馬場は雨天のため競走不可能なほど馬場状態が悪化しており、施行場所がニューマーケット競馬場に移されて予定より4日遅れで実施された。当日のニューマーケット競馬場は堅良馬場であり、重馬場が得意で堅良馬場が不得手な本馬にとっては、あまり嬉しくない開催場所変更だった。

スタートが切られると、デュークオブマーマレードを管理するオブライエン師が送り込んできたペースメーカー役のレッドロックキャニオンが先頭に立ち、デュークオブマーマレードが2番手を追走。一方の本馬はスタートがあまり良くなかった上に、またも道中で行きたがってしまい、マニング騎手が抑えて馬群の中団を追走した。そして残り2ハロン地点でスパートしたのだが、残り1ハロン地点で右側によれるなどもたついてしまい、デュークオブマーマレードだけでなく先行したフェニックスタワーにも及ばず、勝ったデュークオブマーマレードから3馬身1/4差の3着に敗れた。

次走は2週間後の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)となった。当初はデュークオブマーマレードも参戦予定だったが、馬場状態悪化を理由に回避。それ以外にこれといった有力馬はいなかった上に、本馬の得意な重馬場となった事もあって、本馬が単勝オッズ1.62倍の圧倒的1番人気に支持され、英ダービー12着後にメルドS・ロイヤルホイップSを連勝してきたキングオブローマが単勝オッズ6.5倍の2番人気、ギョームドルナノ賞・ローズオブランカスターSを勝ってきたマルチディメンショナルが単勝オッズ7倍の3番人気、バリサックスS・バリーローンS2回を勝ってきたモレスウェルズが単勝オッズ9倍の4番人気となった。

スタートが切られると、デュークオブマーマレードのペースメーカー役を務めるはずだったレッドロックキャニオンが僚馬キングオブローマのために逃げを打ち、キングオブローマは好位につけた。例によって引っ掛かった本馬をマニング騎手は今回無理に抑えずに2番手を先行させた。そして直線入り口手前で先頭に立つと、そのまま残り2ハロン地点でスパートを開始。ところがなかなか後続馬を引き離す事が出来ず、逆に単勝オッズ51倍の最低人気馬トラフィックガードが本馬を追い詰めてきた。トラフィックガードの追撃をなんとか半馬身凌いで勝利を収めたものの、内容的にははっきり言って今ひとつであり、レーティングにおいても110ポンドという極めて平凡な評価しか受けなかった。

次走は凱旋門賞という計画もあったのだが、愛チャンピオンSの不甲斐ない内容に不満を抱いた陣営は凱旋門賞を回避して再調整を施し、英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に向かわせた。主な対戦相手は、英国際Sで4着だったパイプドリーマー、ギョームドルナノ賞勝ち馬ラシアンクロス、クレイヴンS・ユジェーヌアダム賞の勝ち馬トゥワイスオーヴァー、ヴィットリオディカプア賞・ダルマイヤー大賞・アルファフィディフォート2回・ゴールデネパイチェの勝ち馬リンガリ、前走で本馬を追い詰めたトラフィックガード、ガリニュールS勝ち馬ヘブリディーン、ロイヤルロッジS勝ち馬でレーシングポストトロフィー2着のシティリーダー、クリテリウムドサンクルー・ノアイユ賞勝ち馬フルオブゴールドなど10頭だった。本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持され、パイプドリーマーとラシアンクロスが並んで単勝オッズ6倍の2番人気、トゥワイスオーヴァーが単勝オッズ9倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ201倍の最低人気馬アプトングレイが先頭に立ち、本馬が2番手、トゥワイスオーヴァーがその後方につけた。残り3ハロン地点でアプトングレイが失速すると本馬が入れ代わりに先頭に立ち、残り2ハロン地点から満を持してスパートを開始。ここから本馬が見せた走りは、近走のそれとはまるで異なる伸び伸びとしたものであり、“scintillating(煌めくように素晴らしい)”と評されたほどだった。そして本馬を追いかけてきたトゥワイスオーヴァー以下をどんどん引き離していくと、最後は2着トゥワイスオーヴァーに6馬身差をつけて圧勝。勝ちタイム2分00秒13はコースレコードだった。トゥワイスオーヴァーは翌年とそのまた翌年に英チャンピオンSを2連覇することになるのだが、生涯最高の走りを見せた本馬の前にはまるで歯が立たなかった。

これが現役最後のレースとなり、この年の成績は6戦3勝となった。この年にGⅠ競走4勝を含む7戦4勝の成績を挙げたヘンリーザナヴィゲーターとは対戦成績でもこの年2戦2敗だったのだが、それでもヘンリーザナヴィゲーターを抑えてこの年のカルティエ賞最優秀3歳牡馬を受賞した。

カルティエ賞年度代表馬の座は獲得できなかった(凱旋門賞などGⅠ競走4勝を含む5戦全勝のザルカヴァが受賞)が、ヘンリーザナヴィゲーター、カルティエ賞最優秀古馬デュークオブマーマレード、アスコット金杯・ロワイヤルオーク賞を勝ってカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれたイェーツなどを抑えて愛年度代表馬には選ばれた。

また、ワールド・サラブレッド・レースホース・ランキングにおいては130ポンドの評価を受け、これは米国調教馬カーリンと並んでこの年世界第1位だった(ただしカーリンとは年齢も主戦場も違うので単純比較は出来ない)。

血統

Galileo Sadler's Wells Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Fairy Bridge Bold Reason Hail to Reason
Lalun
Special Forli
Thong
Urban Sea Miswaki Mr. Prospector Raise a Native
Gold Digger
Hopespringseternal Buckpasser
Rose Bower
Allegretta Lombard Agio
Promised Lady
Anatevka Espresso
Almyra
Park Express Ahonoora Lorenzaccio Klairon Clarion
Kalmia
Phoenissa The Phoenix
Erica Fragrans
Helen Nichols Martial Hill Gail
Discipliner
Quaker Girl Whistler
Mayflower
Matcher Match Tantieme Deux-Pour-Cent
Terka
Relance Relic
Polaire
Lachine Grey Sovereign Nasrullah
Kong
Loved One Vigorous
Sama

ガリレオは当馬の項を参照。

母パークエクスプレスは現役成績14戦5勝。愛チャンピオンS(愛GⅠ)を筆頭に、ナッソーS(英GⅡ)・ランカシャーオークス(英GⅢ)などを勝ち、女傑と呼んで良い成績を残した。繁殖牝馬としても優秀で、日本で走った半兄シンコウフォレスト(父グリーンデザート)【高松宮記念(GⅠ)・阪急杯(GⅢ)・函館スプリントS(GⅢ)】、半姉ダズリングパーク(父ウォーニング)【愛メイトロンS(愛GⅢ)】も産んでいる。パークエクスプレスがシンコウフォレストを産んだのは10歳時で、本馬を産んだのは22歳時だったから、かなり長期に渡って優れた繁殖成績を残した事になるわけだが、晩年は目を悪くしており、本馬を産んだ直後には完全に失明してしまったらしい。ダズリングパークの孫にはアルフレッドノーベル【愛フェニックスS(愛GⅠ)】が、本馬の半姉アルーリングパーク(父グリーンデザート)の子にはワズ【英オークス(英GⅠ)】がいる。→牝系:F19号族①

母父アホヌーラは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はダーレーグループの傘下にある英国ダルハムホールスタッドで種牡馬入りした。また、豪州ヴィクトリア州のノースウッドパークスタッドファームにもシャトルされている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2010

Cap O'Rushes

ゴードンS(英GⅢ)

2010

Dawn Approach

英2000ギニー(英GⅠ)・愛ナショナルS(愛GⅠ)・デューハーストS(英GⅠ)・セントジェームズパレスS(英GⅠ)・コヴェントリーS(英GⅡ)

2010

Gamblin' Guru

チェアマンズS(豪GⅢ)

2010

Libertarian

ダンテS(英GⅡ)

2010

May's Dream

SAJCシュウェップスオークス(豪GⅠ)

2010

Messi

ニッカボッカーS(米GⅢ)

2010

Montsegur

TBVサラブレッドブリーダーズS(豪GⅢ)

2010

Newfangled

アルバニーS(英GⅢ)

2010

Sultanina

ナッソーS(英GⅠ)・ピナクルS(英GⅢ)

2010

Talent

英オークス(英GⅠ)

2010

Tha'ir

アナトリアトロフィー(土GⅡ)

2011

Ceisteach

ロバートGディック記念S(米GⅢ)

2011

Connecticut

ボスフォラスC(土GⅡ)

2011

Elliptique

コンデ賞(仏GⅢ)・ヴィシー大賞(仏GⅢ)

2011

Potemkin

ドイツ統一賞(独GⅢ)

2013

Herald the Dawn

愛フューチュリティS(愛GⅡ)

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