エアシャー

和名:エアシャー

英名:Ayrshire

1885年生

黒鹿

父:ハンプトン

母:アタランタ

母父:ガロピン

名長距離馬ハンプトン直子でありながら距離が長くて英セントレジャーを負けてしまったが母系に入って後世に大きな影響を残した英2000ギニー・英ダービー優勝馬

競走成績:2~4歳時に英で走り通算成績16戦11勝2着1回3着3回

誕生からデビュー前まで

セントサイモンの所有者として知られる第6代ポートランド公爵ウィリアム・キャベンディッシュ・ベンティンク卿の生産・所有馬。ベンティンク卿は英国クラシック優勝馬を7頭所有する事になるが、本馬はその最初のクラシック優勝馬である。ベンティンク卿は本馬を「美しく均整が取れた馬体の持ち主」であると評している。

競走生活(2歳時)

ジョージ・ドーソン調教師に預けられた本馬は、2歳時にマンチェスター競馬場で行われたウィットサンデープレート(T5F)でデビュー戦を迎えた。単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持されたのだが、後に英1000ギニー・ヨークシャーオークスを勝つブライアールート、当時は名前が付けられていなかった牡馬(母エランゴワンの名前からエランゴワンの牡馬と呼ばれていた。後にカラヴァロックと命名されている)との三つ巴の大激戦に屈して、勝ったブライアールートから半馬身差の3着に敗れた。次走はアスコット競馬場で行われたニューS(T5F136Y)となったが、本馬と同じくベンティンク卿の所有馬だったフライアーズバルサムが2着シーブリーズに3馬身差をつけて快勝し、本馬は3着に終わった。

6月末に出走したバイブリーホームブレッドフォールプレートでは、2着チャレングに3/4馬身差をつけて初勝利を挙げた。ウィンザー競馬場で出走した次走のロイヤルプレートも勝利。7月にはニューマーケット競馬場でチェスターフィールドS(T5F)に出走。単勝オッズ2倍の1番人気に応えて、2着バルチザンに半馬身差で勝利を収めた。同月末にはグッドウッド競馬場でプリンスオブウェールズSに出走して、これも勝利した。さらに9月にドンカスター競馬場で出走した英シャンペンS(T5F152Y)では、カラヴァロックなどを抑えて単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持されると、2着マーミトンに2馬身差をつけて勝利した(カラヴァロックは3着だった)。これで5連勝となった本馬は、この年の2歳馬の中でもフライアーズバルサムに次ぐ存在という評価を得るようになった。

しかし故障を発生したため、ミドルパークプレートなど秋の重要な2歳戦には出走できず、2歳時を7戦5勝の成績で終えた。

競走生活(3歳時)

3歳時はニューマーケット競馬場で行われたリドルスワースポストSから始動して、唯一の対戦相手に20馬身差をつけて勝利した。

次走の英2000ギニー(T8F17Y)では、2歳時にニューS・ハーストボーンS・リッチモンドS・ジュライS・モールコームS・ミドルパークプレート・デューハーストプレートと7戦全勝の成績を残したフライアーズバルサムが大本命と目されており、複数のブックメーカーがフライアーズバルサムの単勝に賭けるのを禁止するほどだった。しかしフライアーズバルサムはレース前に顎に口内炎を起こして出血しており、フライアーズバルサムを管理していたジョン・ポーター調教師はそれに気付かなかった(又は気付いていたが気に留めなかった)。レースは単勝オッズ9倍で出走した本馬が、当時55歳のベテラン騎手ジョン・オズボーン・ジュニア騎手の手綱さばきにより、ペースメーカー役として馬群を牽引して粘った同厩馬ジョニーモルガンを2馬身差の2着に、クレイヴンSを勝ってきたオービット(後にこの年のエクリプスSを勝っている)をさらに首差の3着に退けて勝利した。ゴール前では馬なりで走っており、完勝と言える内容だった。

一方のフライアーズバルサムは5着に終わった(完走できなかったとする資料もある)。フライアーズバルサムは3歳暮れになって英チャンピオンSを勝つが、英国クラシック競走は棒に振る事になった。フライアーズバルサムが英ダービーを回避する事が発表されると、本馬の英ダービーの前売りオッズは8倍から一気に2.5倍に下がり、本馬が英ダービーの本命馬となった。

そして迎えた英ダービー(T12F29Y)では、本馬が単勝オッズ1.83倍の1番人気に支持された。エプソム競馬場に詰めかけた15万人の観衆が見つめる中でスタートが切られると、ヴァンディーマンズランドが先頭に立った。フレッド・バレット騎手が騎乗する本馬は好スタートから少し下げて9頭立ての4番手につけた。そしてタッテナムコーナー前で仕掛けて直線に入り、残り2ハロン地点で前を行くヴァンディーマンズランドとオービットをかわして先頭に立った。そして後方から追い上げてきたクイーンズスタンドプレートの勝ち馬で後のパリ大賞2着馬クロウベリーを2馬身差の2着に、3着に粘ったヴァンディーマンズランドにはさらに5馬身差をつけて楽勝した。勝ちタイム2分43秒0は前年にメリーハンプトンが計時したレースレコードと同タイムだったが、スポーティング・ライフ誌の計測では2分42秒2であり、これならレースレコード更新となる。

レース後に本馬は脚を痛めてしまったために、夏場は完全休養に充て、秋は英国三冠を目指して英セントレジャー(T14F132Y)に直行した。主な対戦相手は、前年のニューSで本馬に先着する2着した後に英オークス・コロネーションSを勝ち英1000ギニーで2着していたシーブリーズ、サセックスS・ナッソーSを勝っていたザンジバル、ジュライSでフライアーズバルサムとシーブリーズに続く3着していたチリントンだった。レースではシーブリーズが先行して、本馬は中団を追走。そして直線入り口では逃げるシーブリーズに並びかけようとしたのだが、ここで本馬はスタミナが切れて失速。レースはシーブリーズがそのまま逃げ切って勝利を収め、チリントンが3馬身差の2着、ザンジバルがさらに頭差の3着で、6着と大敗を喫した本馬は英国三冠馬の栄誉を手にすることが出来なかった。

これはやはり距離が長かったのが原因と判断されたようで、次走は7日後にマンチェスター競馬場で行われたランカシャープレート(T7F)となった。このレースにもシーブリーズの姿があり、本馬は138ポンド、シーブリーズは135ポンドを課せられた。今回はスタートから本馬が積極的にシーブリーズに絡んで先頭争いを展開。2頭の戦いはゴール直前まで続いたが、最後にシーブリーズが競り勝って勝利を収め、本馬は3/4馬身差の2着に敗れた。それでも、仏国から参戦してきたダリュー賞の勝ち馬ルサンシー(後にイスパーン賞・ドーヴィル大賞2回・サブロン賞・エドヴィユ賞を勝利して仏国有力古馬として活躍する)など22頭には先着している。それから3日後にニューマーケット競馬場で出走したグレートフォールS(T10F73Y)では、ドンカスターCを勝ってきた6歳馬グラフトンを2着に破って勝利を収め、3歳時を6戦4勝の成績で終えた。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月にケンプトンパーク競馬場で行われたロイヤルS(T10F)から始動した。このレースにはフライアーズバルサム、シーブリーズが出走していた。1番人気は単勝オッズ2倍のフライアーズバルサムで、シーブリーズが2番人気、141ポンドという厳しい斤量が課された本馬は単勝オッズ7倍の3番人気だった。しかしジャック・ワット騎手が騎乗する本馬は直線入り口で前を行くフライアーズバルサムに並びかけて競り落とすと、後方から追い上げてきたシーブリーズを1馬身差の2着に抑えて勝利した。

4歳2戦目はエクリプスS(T10F)となった。主な対戦相手は、シーブリーズ、プリンスオブウェールズSの勝ち馬で英ダービー3着の3歳牡馬エルドラド、モールコームS・コロネーションSの勝ち馬で英オークス3着の3歳牝馬シクルージョンなどだった。ここでは前走よりも重い142ポンドを課せられたが、それでも単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。そしてレースでは馬なりのまま走り、15ポンドのハンデを与えたエルドラドを2馬身差の2着に、18ポンドのハンデを与えたシクルージョンを3着に破って勝利した。

その後は英チャンピオンS(T10F)に出走したが、9ポンドのハンデを与えたウッドコートSの勝ち馬ゴールド(翌年のアスコット金杯の勝ち馬)と、12ポンドのハンデを与えたヨークシャーオークスの勝ち馬アンティーブの2頭の3歳馬との接戦に敗れて、ゴールドの3/4馬身差3着となり、これを最後に4歳時3戦2勝の成績で競走馬を引退した。

血統

Hampton Lord Clifden Newminster Touchstone Camel
Banter
Beeswing Doctor Syntax
Ardrossan Mare
The Slave Melbourne Humphrey Clinker
Cervantes Mare
Volley Voltaire
Martha Lynn
Lady Langden Kettledrum Rataplan The Baron
Pocahontas
Hybla The Provost
Otisina
Haricot Lanercost Liverpool
Otis
Queen Mary Gladiator
Plenipotentiary Mare 
Atalanta Galopin Vedette Voltigeur Voltaire
Martha Lynn
Mrs. Ridgway Birdcatcher
Nan Darrell
Flying Duchess The Flying Dutchman Bay Middleton
Barbelle
Merope Voltaire
Juniper Mare
Feronia Thormanby Windhound Pantaloon
Phryne
Alice Hawthorn Muley Moloch
Rebecca
Woodbine Stockwell The Baron
Pocahontas
Honeysuckle Touchstone
Beeswing

ハンプトンは当馬の項を参照。

母アタランタは幼少期に怪我を負っていたが、ベンティンク卿はそれでもアタランタを購入し、現役時代はグレートイースタンHを勝ち、スチュワーズCで3着に入る成績を残した。引退後はポートランドスタッドで繁殖入りした。母としては、本馬の全弟トルーン【セントジェームズパレスS・サセックスS】も産んだ。しかし、トルーンはレース中に転倒して予後不良となっている。

アタランタの牝系子孫はかなり発展している。本馬の半姉フライングフットステップ(父ドンカスター)の曾孫には伊首位種牡馬11回のアヴレサック、牝系子孫には、コメディオブエラーズ【英チャンピオンハードル2回・エイントリーハードル】、マレク【タンテオデポトリジョス賞(智GⅠ)・智グランクリテリウム(智GⅠ)・サンタアニタH(米GⅠ)】などが、本馬の半妹ケイスネス(父ベンドア)の曾孫にはマスケット【ベルモントフューチュリティS・メイトロンS・アラバマS・ガゼルH】、玄孫世代以降にはバブリングオーバー【ケンタッキーダービー・シャンペンS】、ワーラウェイ【ケンタッキーダービー・プリークネスS・ベルモントS・サラトガスペシャルS・ホープフルS・ブリーダーズフューチュリティS・ドワイヤーS・トラヴァーズS・アメリカンダービー・ブルックリンH・ジョッキークラブ金杯・ピムリコスペシャル】、ハネムーン【ハリウッドオークス・ハリウッドダービー・ヴァニティH・トップフライトH】、ワールアバウト【テストS・ガゼルH・ダイアナH・サンタバーバラH】、ダマスカス【プリークネスS・ベルモントS・ウッドワードS・レムセンS・ウッドメモリアルS・ドワイヤーH・アメリカンダービー・トラヴァーズS・ジョッキークラブ金杯・マリブS・サンフェルナンドS・ブルックリンH】、ポッセ【サセックスS(英GⅠ)】、コンキスタドールシエロ【ベルモントS(米GⅠ)・メトロポリタンH(米GⅠ)】、グッバイヘイロー【デモワゼルS(米GⅠ)・ハリウッドスターレットS(米GⅠ)・ラスヴァージネスS(米GⅠ)・ケンタッキーオークス(米GⅠ)・マザーグースS(米GⅠ)・CCAオークス(米GⅠ)・ラカナダS(米GⅠ)】、ジルザル【サセックスS(英GⅠ)・クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ)】、ポリッシュプレシデント【ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)】、オウインスパイアリング【フラミンゴS(米GⅠ)・アメリカンダービー(米GⅠ)】、カルチャーヴァルチャー【仏1000ギニー(仏GⅠ)・フィリーズマイル(英GⅠ)・マルセルブサック賞(仏GⅠ)】、ヴァルズプリンス【ターフクラシック招待S(米GⅠ)・マンノウォーS(米GⅠ)・ターフクラシック招待S(米GⅠ)】、インティカブ【クイーンアンS(英GⅡ)】、バンシーブリーズ【CCAオークス(米GⅠ)・アラバマS(米GⅠ)・スピンスターS(米GⅠ)・アップルブロッサムH(米GⅠ)・ゴーフォーワンドH(米GⅠ)】、モティヴェイター【英ダービー(英GⅠ)・レーシングポストトロフィー(英GⅠ)】、ウェルアームド【ドバイワールドC(首GⅠ)・グッドウッドS(米GⅠ)】、リチャーズキッド【パシフィッククラシックS(米GⅠ)2回・グッドウッドS(米GⅠ)】、トゥワイスオーヴァー【英チャンピオンS(英GⅠ)2回・エクリプスS(英GⅠ)・英国際S(英GⅠ)】、日本で走ったキヨタケ【桜花賞】、キングヘイロー【高松宮記念(GⅠ)】、シンボリクリスエス【天皇賞秋(GⅠ)2回・有馬記念(GⅠ)2回】、レインボーダリア【エリザベス女王杯(GⅠ)】、マジェスティバイオ【中山大障害(JGⅠ)・中山グランドジャンプ(JGⅠ)】など活躍馬が多数いる。

アタランタの半弟にはセントサーフ(父セントサイモン)【サセックスS】がいる。

アタランタの半姉マカリア(父マカロニ)の牝系子孫には、ザパンサー【英2000ギニー】、ロイヤルランサー【英セントレジャー・愛セントレジャー】、ボールドルーラー【プリークネスS・ベルモントフューチュリティS・フラミンゴS・ウッドメモリアルS・ジェロームH・カーターH・サバーバンH・モンマスH】、タッチングウッド【英セントレジャー(英GⅠ)・愛セントレジャー(愛GⅠ)】、プライド【サンクルー大賞(仏GⅠ)・英チャンピオンS(英GⅠ)・香港C(香GⅠ)】、ウォールストリート【ソーンドンマイルH(新GⅠ)・ウィンザーパークプレート(新GⅠ)・スプリングクラシック(新GⅠ)・エミレーツS(豪GⅠ)】などがいる。

アタランタの半妹カミラ(父マカロニ)の牝系子孫には、オンファイアベイビー【アップルブロッサムH(米GⅠ)・ラトロワンヌS(米GⅠ)】、アンタパブル【BCディスタフ(米GⅠ)・ケンタッキーオークス(米GⅠ)・マザーグースS(米GⅠ)・コティリオンS(米GⅠ)・アップルブロッサムH(米GⅠ)】などがいる。

アタランタの全妹アレグラの牝系子孫には、スリーヴガリオン【英2000ギニー】などがいる。

アタランタの半妹ハンプトニア(父ハンプトン)の子にはセンプロニウス【クレイヴンS】、孫には豪首位種牡馬5回のヴァレー、イクシア【愛オークス】、プランタゴ【コロネーションC】、牝系子孫には、ファイントップ【フォレ賞2回】、日本で走ったアサクサデンエン【安田記念(GⅠ)】、ヴィクトワールピサ【皐月賞(GⅠ)・有馬記念(GⅠ)・ドバイワールドC(首GⅠ)】、ローブティサージュ【阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)】などがいる。→牝系:F8号族③

母父ガロピンは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は種牡馬になる事になったが、当時はベンティンク卿所有のセントサイモンが種牡馬として猛威を振るっていたため、本馬はリチャード・マーシュ調教師の元に送られ、エジャートンハウスで種牡馬入りした(一時的にサイリーンと一緒に居た事もある)。それでも本馬の種牡馬成績は良好で、エアーズアンドグレイシズ、アワーラッシーの2頭の英オークス馬を送り出したほか、米国に輸出されたボーリングブロークがベルモントSを勝つ活躍を見せるなど、産駒は各国で活躍した。本馬は1910年に25歳で他界した。

本馬の産駒は牝馬の活躍馬が目立ち、それらが繁殖牝馬としても活躍したため、当時から本馬は一般的にフィリーサイアーであると考えられた。実際に本馬の直系は繁栄せず、豪州でエアラディーが、独国でフェスティーノが、伊国でシミントンがサイアーラインを伸ばしたが、現在は途絶えている。しかし、本馬の血は母系に入って活躍している。本馬の牝駒バラントレーはジェベルの曾祖母となっており、アワーラッシーの牝系子孫からはカーレッドミルリーフブラッシンググルームが登場している。また、本馬の牡駒ロベールルディアブルは米国で種牡馬となり30頭のステークスウイナーを出し、日本の大繁殖牝馬フリッパンシー(セントライト、クリヒカリ、トサミドリ)の母父、ブレニムの祖母の父ともなった。また、ロベールルディアブルの直子ラックは米国三冠馬オマハの母父となっている。また、競走馬としても種牡馬としても振るわなかった本馬の牡駒シミントンも母父としてテトラテーマを出している。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1894

Ardeshir

サセックスS

1895

Airs and Graces

英オークス

1895

Ayah

英シャンペンS

1895

Bowling Brook

ベルモントS・メトロポリタンH

1895

Heir Male

チャレンジS

1895

Mauchline

ジムクラックS

1895

Orzil

コヴェントリーS

1895

Paladore

リッチモンドS

1896

Apex

ラクープ

1896

Solitaire

英チャンピオンS・ゴールドヴァーズ

1898

Cossack

オールエイジドS

1899

Ballantrae

ケンブリッジシャーH

1899

Doctrine

コロネーションS

1899

Robert le Diable

ドンカスターC

1900

Our Lassie

英オークス

1900

Skyscraper

チェヴァリーパークS

1901

Airlie

クレイヴンS

1901

Melayr

スチュワーズC

1902

Festino

ベルリン大賞

1904

Traquair

コヴェントリーS・ジュライS

1908

Almissa

VRCオーストラリアンC

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