トレヴ

和名:トレヴ

英名:Treve

2010年生

鹿毛

父:モティヴェイター

母:トレヴィス

母父:アナバー

36年ぶり史上6頭目の凱旋門賞2連覇を達成しただけでなく、史上初めて凱旋門賞3連覇の大偉業に挑戦した歴史的名牝

競走成績:2~5歳時に仏英で走り通算成績13戦9勝2着1回3着1回

「凱旋門賞2連覇」。口で言うのは簡単だが、実際には非常な難行である事はいまさら言うまでもない。1920年に創設された凱旋門賞を2連覇したのは2015年現在、1921・22年のクサール、1936・37年のコリーダ、1950・51年のタンティエーム、1955・56年のリボー、1977・78年のアレッジド、そして本項の主人公トレヴの6頭のみである。96年間(第二次世界大戦で2回休止しているから施行回数は94回)で6頭であるから、平均して15~16年に1頭しか達成できない偉業である。

それでは「凱旋門賞3連覇」はどうか。これも口で言うのは簡単だが、その難易度は凄まじい。当たり前だが、まず凱旋門賞を2連覇しなければ3連覇に挑めないからである。そして凱旋門賞を2連覇した馬はそれで競走馬を引退するのが一般的であり、上記6頭のうち5頭は凱旋門賞の2連覇を達成した年限りで競走馬を引退している。唯一の例外が本馬であり、凱旋門賞2連覇を達成した翌年も現役を続け、実際に凱旋門賞3連覇に挑戦した。結果は残念ながら敗戦に終わったが、本馬は「凱旋門賞3連覇に実際に挑戦した史上唯一の馬」であり、その意味においてサラブレッド史上有数の名馬と言ってしまってよい存在である。本馬の性別は牝馬であり、21世紀に世界各国で大量に登場した歴史的名牝の1頭であるが、その中でも屈指の馬であり、凱旋門賞が世界一の大競走の地位を保つ限り、未来永劫に語り継がれる馬であろう。

誕生からデビュー前まで

仏国の名門牧場ケスネー牧場において、同牧場の所有者である元調教師アレック・ヘッド氏により生産された。ヘッド氏は本馬をアルカナセールに出品したが、誰からも見向きもされなかったために、2万2千ユーロで買い戻した。結局本馬はケスネー牧場の名義で走ることになり、ヘッド氏の娘であるクリスティアーヌ・ヘッド調教師の管理馬となった。

競走生活(2・3歳時)

2歳9月にロンシャン競馬場で行われたコロンブ賞(T1600m)で、主戦となるティエリ・ジャルネ騎手を鞍上にデビューした。ここでは単勝オッズ6.3倍で10頭立ての3番人気といった程度の評価だったが、2着となった単勝オッズ12倍の5番人気馬ホーリーソルトに1馬身半差をつけて勝ち上がった。2歳時はこの1戦のみで終えた。

3歳時は5月にサンクルー競馬場で行われたペリューシュブルー賞(T1600m)から始動した。距離だけ見れば仏1000ギニーを視野に入れていたのではと思われるかもしれないが、仏1000ギニーはペリューシュブルー賞の3日前に既に終わっていたために、それは絶対に無い。それでは仏オークスを視野に入れていたのかと言うと、それも距離的に少し微妙である。仏1000ギニーからの臨戦組以外で仏オークスを狙う馬は、サンタラリ賞、クレオパトル賞、ヴァントー賞などの2000m前後の距離のレースを前哨戦に使うのが一般的だったからである。もしかしたら陣営はこの段階でも本馬をあまり評価しておらず(セリに出そうとした上に売れ残ったくらいだから幼少期の評価が低かったのはほぼ確実である)、たまたま出したレースがこのペリューシュブルー賞だったに過ぎなかったのかもしれない。

このレースには、亜国のGⅠ競走オノール大賞の勝ち馬ボナベンチュラの姪に当たるバヤーガルという馬が、このペリューシュブルー賞と同格の条件競走2勝の実績を引っ提げて参戦しており、単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持されていた。本馬は単勝オッズ4.3倍の2番人気だった。スタートが切られると本馬は出遅れてしまったが、すぐに加速して挽回し、5頭立ての3番手を追走した。そして残り400m地点でスパートすると、残り200m地点で先頭に立ち、2位入線のバヤーガル(進路妨害で最下位に降着)に3馬身半差をつけて完勝した。

このレース内容を見た陣営はここで初めて本馬の能力を認めたようで、それからちょうど1か月後の仏オークス(仏GⅠ・T2100m)に本馬を向かわせた。対戦相手は、BCジュヴェナイルフィリーズターフ・仏1000ギニーの勝ち馬フロティラ、ヴァントー賞の勝ち馬で仏1000ギニー2着のエソテリック、マルセルブサック賞・サンタラリ賞の勝ち馬でヴァントー賞2着のシラソル、レゼルヴォワ賞の勝ち馬でグロット賞2着・仏1000ギニー3着のタサダイ、サンタラリ賞2着・マルセルブサック賞3着のオルタライト、クレオパトル賞の勝ち馬でペネロープ賞2着のバルチックバロネスなどだった。フロティラが単勝オッズ3.25倍の1番人気、エソテリックが単勝オッズ3.5倍の2番人気、シラソルが単勝オッズ4.5倍の3番人気、本馬が単勝オッズ12倍の4番人気、タサダイとオルタライトが並んで単勝オッズ13倍の5番人気と、本馬は上位人気3頭から離された存在だった。

スタートが切られるとバルチックバロネスが先頭に立ち、上位人気3頭は揃って馬群の中団につけた。一方の本馬はスタートで躓いて出遅れてしまい、そのまま後方からの競馬となっていた。それでも道中で内側を通って少しずつ位置取りを上げて、直線には11頭立ての6番手で入ってきた。そして残り400m地点で前方馬群の隙間を突いて先頭に躍り出た。そして内埒沿いを爆走して、そのまま後続を突き放した。最後は、最後方待機策から直線の追い込みに賭けた単勝オッズ26倍の9番人気馬チキータに4馬身差をつけて圧勝。勝ちタイムの2分03秒77は、前年の同競走でアヴニールセルタンが計時した2分05秒37を1秒6も更新する驚異的なコースレコードだった。上位人気3頭はシラソルがチキータから短首差の3着に入ったのが最上位で、残り2頭は馬群に沈んだ。

本馬の勝ち方は英レーシングポスト紙をして滅多に使わない“very impressive”という表現を使用せしめたほど素晴らしく、本馬は一躍スターダムになった。ここで2着に入ったチキータは実は未勝利馬だったのだが、仏オークスに引き続き出走した愛オークスを勝利しており、それもまた本馬の評価を押し上げる一因となった。そして本馬はカタールの王族シェイク・ジョアン・アル・タニ殿下に購入され、以降はタニ殿下の名義で走ることになった。

本馬は夏場を完全休養に充て、秋のヴェルメイユ賞(仏GⅠ・T2400m)に直行した。対戦相手は、愛国のGⅢ競走ギブサンクスSの勝ち馬で愛オークス・ヨークシャーオークス2着のヴィーナスデミロ、仏オークス4着後にノネット賞・プシシェ賞を連勝していたタサダイ、仏オークス3着後に出走したギョームドルナノ賞で4着に終わっていたシラソル、独オークス馬ペネロパといった3歳馬勢と、パークヒルS・リリーラントリーS・ブラックロックフィリーズSの勝ち馬ワイルドココ、ジャンロマネ賞・ノネット賞・アレフランス賞の勝ち馬ロマンチカ、ポモーヌ賞2連覇のラポムダムールといった古馬勢だった。本馬が単勝オッズ2.1倍の1番人気、ヴィーナスデミロとタサダイが並んで単勝オッズ7倍の2番人気、ワイルドココが単勝オッズ9倍の4番人気、シラソルとロマンチカが並んで単勝オッズ13倍の5番人気となった。

このレースではジャルネ騎手ではなく、タニ殿下の所有馬に多く乗っていたF・デットーリ騎手が本馬に騎乗した。スタートが切られるとワイルドココが先頭に立ち、ヴィーナスデミロなどがそれを追って先行。本馬は馬群の中団内側につけ、タサダイは馬群の後方外側につけた。本馬は馬群の中に閉じ込められていたために道中はひたすら我慢して末脚を溜めていた。そして直線に入って残り400m地点からスパートを開始。そして残り150m地点でワイルドココを並ぶ間もなくかわして先頭に立つと、その後にデットーリ騎手は手と足だけで本馬を追った。最後は2着に逃げ粘ったワイルドココに1馬身3/4差、3着タサダイにはさらに3馬身半差をつけて快勝した。

凱旋門賞(3歳時)

そして次走が凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。対戦相手は、英ダービー・チェスターヴァーズの勝ち馬で前哨戦ニエル賞2着のルーラーオブザワールド、仏ダービー・メシドール賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬で仏2000ギニー・ジャックルマロワ賞3着のアンテロ、英セントレジャー・ガリニュールS・クイーンズヴァーズなど5連勝中のリーディングライト、タタソールズ金杯・プリンスオブウェールズS・エクリプスS・ジョッキークラブS・ゴードンリチャーズSの勝ち馬で愛チャンピオンS2着・英国際S3着のアルカジーム、パリ大賞・リス賞の勝ち馬フリントシャー、グレフュール賞の勝ち馬でパリ大賞3着のオコヴァンゴ、パリ大賞・サンクルー大賞・ベルリン大賞・オイロパ賞の勝ち馬で香港ヴァーズ・ベルリン大賞・バーデン大賞3着のメオンドル、エドヴィル賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞2着のピリカ、カタールのGⅠ競走HHエミールズトロフィー・首長殿下トロフィーの勝ち馬でドバイシーマクラシック3着のベリーナイスネーム、亜国のGⅠ競走カルロスペレグリーニ大賞の勝ち馬でロワイヤルオーク賞2着のゴーイングサムウェア、加国際S2回・ロイヤルロッジS・ケルゴルレイ賞の勝ち馬で加国際S2着・バーデン大賞・コロネーションC3着のジョシュアツリー、そして日本から参戦してきた皐月賞・東京優駿・菊花賞・有馬記念・宝塚記念・スプリングS・神戸新聞杯・産経大阪杯・フォワ賞2回の勝ち馬で前年の凱旋門賞2着の中央競馬牡馬三冠馬オルフェーヴル、東京優駿・京都新聞杯・毎日杯の勝ち馬で前哨戦のニエル賞も勝って4連勝としてきたキズナだった。

前年に九分九厘勝ったと思われたところをソレミアに差されて惜敗した雪辱を期するオルフェーヴルが単勝オッズ3倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5.5倍の2番人気、キズナとルーラーオブザワールドが並んで単勝オッズ8倍の3番人気、アンテロが単勝オッズ10倍の5番人気となった。

元々はこの凱旋門賞でもデットーリ騎手が本馬に騎乗する予定だったのだが、肝心のデットーリ騎手が別のレース中の落馬事故で足を骨折して騎乗不可になっていたために、本馬の鞍上はジャルネ騎手に戻っていた。なお、本馬は凱旋門賞の初期登録が無かった(この一事をもってしても本馬が当初は期待馬では無かった事が伺える)ため、10万ユーロの追加登録料を支払っての参戦だった。

スタートが切られると、単勝オッズ101倍の13番人気馬ジョシュアツリーが先頭に立ち、オルフェーヴルは馬群の中団、キズナは馬群の最後方辺りにつけた。レース前から発汗が見られてやや焦れ込んでいた本馬はスタートで後手を踏んでいたが、それでも馬群の好位6~7番手辺りまで押し上げて外目を走った。そして四角を回りながら加速して3番手で直線に突入すると、残り400m地点で先頭に立った。本馬の直後からオルフェーヴルとアンテロの2頭が叩き合いながら追ってきたが、内埒沿いに馬体を寄せて先頭を力強く走る本馬との差は縮まるどころか逆に広がっていった。そして最後は本馬が2着オルフェーヴルに5馬身差をつけて圧勝。オルフェーヴルからさらに首差の3着にアンテロが入り、キズナはさらに2馬身差の4着だった。

これでオルフェーヴルは2年連続凱旋門賞2着になってしまったが、前年と異なり今回は勝ち馬との着差が大きかったために、このレースをリアルタイムで見ていた筆者は前年のように絶叫して天を仰ぐような口惜しさを感じることは無く、淡々と結果を受け入れることが出来た。このレースでもレーシングポスト紙は本馬の走りを“very impressive”と表現しており、この年の凱旋門賞は日本馬2頭より断然強い馬が1頭いたという事だった。

3歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は4戦4勝と少なめだったが、凱旋門賞の内容が評価されてこの年のカルティエ賞年度代表馬及び最優秀3歳牝馬を受賞した。

競走生活(4歳時)

5年前にやはり無敗のまま凱旋門賞を制したザルカヴァは3歳限りで競走馬生活から退いたが、活躍した3歳馬をさっさと引退させる傾向が強いザルカヴァの所有馬アガ・カーンⅣ世殿下と異なり、タニ殿下はそういう考え方の持ち主ではなかったようで、本馬に4歳時も現役を続行させた。

まずは4月のガネー賞(仏GⅠ・T2100m)から始動した。対戦相手は、英チャンピオンS・ドバイシーマクラシック・ガネー賞・コンセイユドパリ賞・ドラール賞3回・ドーヴィル大賞・プランスドランジュ賞・ラクープ・ヴィシー大賞・ゴントービロン賞・ラクープドメゾンラフィットを勝ちイスパーン賞・サンクルー大賞・英チャンピオンS2回・ドバイシーマクラシック2着・ガネー賞・香港C3着の実績もあった2011年のカルティエ賞最優秀古馬シリュスデゼーグル、アルクール賞を勝ってきたスモーキングサン、コンセイユドパリ賞・エクスビュリ賞の勝ち馬ノーズキング、ユジェーヌアダム賞・フォルス賞の勝ち馬トリプルスレート、ブランドフォードSの勝ち馬で英チャンピオンズフィリー&メアS2着のベルドクレシー、前年の仏オークスで本馬の4着に敗れた後は2戦していずれも4着だったバルチックバロネス、前年の凱旋門賞で13着に敗れた直後に加国際S3勝目を挙げていたジョシュアツリーだった。怪我を治してきたデットーリ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気、8歳の古豪シリュスデゼーグルが単勝オッズ4.5倍の2番人気、スモーキングサン、ノーズキング、トリプルスレートの3頭が並んで単勝オッズ21倍の3番人気であり、親子ほども年齢が違う牝馬と騙馬の2強対決となった。

スタートが切られると、本馬と同厩のベルドクレシーが先頭に立って後続を引き離し、シリュスデゼーグルは好位につけ、本馬は最後方に陣取った。得意の後方待機策ではあったが、当然いつまでも最後方にいるわけにもいかず、レース中盤から徐々に外側を通って加速していった。そして直線に入ったところで本格的にスパートを開始。一足先に先頭に立っていたシリュスデゼーグルに残り400m地点で並びかけた。しかしここから歴戦の強豪シリュスデゼーグルが素晴らしい粘りを披露し、ゴールまで2頭の大激闘が延々と展開された。いったんは本馬が前に出る場面もあったのだが、シリュスデゼーグルが差し返して競り勝ち、短首差の2着に敗れた本馬は初黒星を喫した。しかし3着ノーズキングには4馬身半差をつけていたし、シリュスデゼーグルは引き続きイスパーン賞・コロネーションCを連勝したり、翌年のガネー賞も勝って2連覇を果たしたりなど、老いてなお欧州競馬のトップクラスに君臨する強豪だったから、恥ずかしい敗戦では無かった。

本馬の次走として設定されたのは、そのシリュスデゼーグルが向かったイスパーン賞ではなく、英国のプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)だった。対戦相手は、ナッソーS・ヨークシャーオークス・愛チャンピオンS・ムシドラSの勝ち馬でBCターフ・ヨークシャーオークス・香港ヴァーズ2着・英オークス・BCフィリー&メアターフ・プリンスオブウェールズS3着の実績もあった一昨年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬ザフューグ、BCターフ・愛2000ギニー・ディーS・ムーアズブリッジSの勝ち馬で前走タタソールズ金杯2着の前年のカルティエ賞最優秀3歳牡馬マジシャン、ヨークS・ブリガディアジェラードSの勝ち馬で前年のプリンスオブウェールズS・前走のドバイワールドC2着・エクリプスS3着のムカドラム、BCフィリー&メアターフ・ビヴァリーDS・エステートS・アタランタS・ダリアSの勝ち馬で前走ドバイデューティーフリー3着の前年のエクリプス賞最優秀芝牝馬ダンク、デューハーストS・ダイアモンドSの勝ち馬パリッシュホールなどだった。本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気、ザフューグが単勝オッズ6.5倍の2番人気、マジシャンとムカドラムが並んで単勝オッズ7倍の3番人気、ダンクが単勝オッズ11倍の5番人気となった。

このレースでは各馬のスタートがかなりばらけており、出遅れた馬が多数出た。その中の1頭だったエルカーイドはムカドラム陣営が用意したペースメーカー役であり、出遅れながらも強引に加速して2ハロンほど走ったところでようやく先頭に立ち、その勢いのまま後続に10馬身ほどの差をつける大逃げを打った。いつもはあまりスタートが良くない本馬は今回普通にゲートを出ていたが、鞍上のデットーリ騎手が抑えたために馬群の中団やや後方を進むことになった。そして徐々に前との差を詰めていき、残り2ハロン地点で本格的にスパートをしようとした。ところがここで左側によれるなどして今ひとついつもの強烈な脚を発揮できなかった。結局レースは中団から早めに抜け出したザフューグが勝ち、好位からいったん先頭に立って粘ったマジシャンが1馬身3/4差の2着で、本馬はさらに1馬身差の3着に敗れた。本馬はどうやらレース前に背中を痛めていたようで、ここでは本調子では無かったようである。

前年に続いて夏場は休養に充て、秋は前年と同じくヴェルメイユ賞(仏GⅠ・T2400m)から始動した。対戦相手は、ランカシャーオークス・ミネルヴ賞の勝ち馬ポモロジー、ナッソーS・ピナクルSの勝ち馬サルタニナ、コリーダ賞の勝ち馬シルジャンズサガ、ガネー賞で6着に終わるも出走するレースの格を下げて2連勝してきたバルチックバロネス、ポモーヌ賞2年連続2着のシャルネッタといった古馬勢と、マルレ賞など3連勝中のドルニヤ、ムシドラSの勝ち馬マダムシャンの3歳馬2頭だった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、ポモロジーが単勝オッズ5.5倍の2番人気、サルタニナとドルニヤが並んで単勝オッズ8倍の3番人気、シルジャンズサガが単勝オッズ21倍の5番人気となった。

本馬の鞍上は過去2戦で騎乗したデットーリ騎手からジャルネ騎手に戻っていた。これは、デットーリ騎手が2連敗で動揺していると感じたヘッド師が、主戦をジャルネ騎手に戻すようにタニ殿下に進言して、タニ殿下がそれを受け入れたからだという。スタートが切られるとポモロジーとサルタニナの2頭が先頭に立ち、今回はスタートで後手を踏んだ本馬は最後方からの競馬となった。そのまま後方を進むと、直線入り口で大外に持ち出して追い込んできた。しかし残り200m地点からの伸びが明らかに悪く、それでもそれなりに脚を伸ばしてはきたものの、勝ち馬から1馬身半差の4着と、生涯初の着外を喫してしまった。勝ったのは先行してゴール前とのポモロジーとの叩き合いを短頭差で制した単勝オッズ23倍の6番人気馬バルチックバロネスだった。過去2度の対戦で相手にもしなかったバルチックバロネスに敗れてしまった事で、本馬の目標だった凱旋門賞2連覇には赤信号寸前の黄信号が点灯する事になった。

凱旋門賞(4歳時)

それでも凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)には出走した。対戦相手は、英オークス・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの勝ち馬でヨークシャーオークス2着のタグルーダ、クリテリウム国際・ニエル賞・シェーヌ賞・フォンテーヌブロー賞など6連勝中のエクト、仏1000ギニー・仏オークス・ノネット賞など6戦無敗のアヴニールセルタン、ヨークシャーオークス・デビュータントSの勝ち馬でモイグレアスタッドS・愛オークス2着のタペストリー、前年の凱旋門賞7着後に英チャンピオンSで3着して前哨戦のフォワ賞を勝ってきたルーラーオブザワールド、前走ヴェルメイユ賞で本馬に頭差先着する3着だったドルニヤ、前年の凱旋門賞8着後に勝ち星は無かったがコロネーションC・フォワ賞で2着していたフリントシャー、バーデン大賞・ウニオンレネン・ゲルリング賞の勝ち馬アイヴァンホウ、レーシングポストトロフィー・英セントレジャー・オータムSの勝ち馬で英ダービー2着の前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬キングストンヒル、クリテリウムドサンクルー・グレフュール賞の勝ち馬でパリ大賞2着・仏ダービー3着のプリンスジブラルタル、前年の仏オークスで本馬の2着した後に愛オークスで初勝利を挙げるもその後は長期休養入りしてこれが復帰2戦目だったチキータ、この年のサンクルー大賞で1位入線するも薬物検査に引っ掛かって失格となっていたシャンティ大賞・エドヴィル賞の勝ち馬スピリットジム、オカール賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬フリーポートラックス、前年の凱旋門賞6着後にウィンターヒルSを勝っていたアルカジーム、前走ヴェルメイユ賞で7着に終わっていたシルジャンズサガ、そして日本から参戦してきた、天皇賞秋・ドバイデューティーフリー・安田記念・中山記念・アーリントンCの勝ち馬でワールド・サラブレッド・レースホース・ランキングにおいて当時世界1位の130ポンドの評価を得ていたジャスタウェイ、桜花賞・札幌記念・新潟2歳S・チューリップ賞の勝ち馬で阪神ジュベナイルフィリーズ・優駿牝馬2着のハープスター、皐月賞・菊花賞・有馬記念・宝塚記念2回・神戸新聞杯・阪神大賞典2回の勝ち馬ゴールドシップだった。

タグルーダが単勝オッズ5.5倍の1番人気、エクトが単勝オッズ7倍の2番人気、ジャスタウェイが単勝オッズ8倍の3番人気、ハープスターとアヴニールセルタンが並んで単勝オッズ9倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ12倍の6番人気止まりだった。

デットーリ騎手はルーラーオブザワールドに騎乗しており、本馬の鞍上は今回もジャルネ騎手だった。スタートが切られると、アヴニールセルタン陣営が用意したペースメーカー役のモントヴィロンが先頭に立った。このレースでもスタートで後手を踏んだ馬が複数おり、ゴールドシップのようにそのまま後方を進んだ馬、無理矢理に前に行こうとしたルーラーオブザワールドなどに分かれた。本馬は普通にスタートを切っており、そのまま馬群の好位内側をロスなく進んだ。5~6番手で直線に入ってきた段階でも馬群の内側だったが、前の馬達が外側に膨らんだたために最内に隙間が出来ていた。そこを突いた本馬は残り400m地点で馬なりのまま先頭に立つと、満を持してスパートを開始。前年ほどの目を見張るような脚では無かったが、それでも過去2戦の内容が嘘のような力強い持続力がある末脚で先頭を維持し、中団から2着に上がった単勝オッズ17倍の10番人気馬フリントシャーに2馬身差、3着タグルーダにはさらに1馬身1/4差をつけて優勝。1978年のアレッジド以来36年ぶり史上6頭目、牝馬としては1937年のコリーダ以来77年ぶり史上2頭目となる凱旋門賞2連覇を見事に達成した。日本馬はハープスターの6着が最高で、ジャスタウェイは8着、ゴールドシップは14着に敗れた。

筆者はこのレースもリアルタイムで観戦していた。この3頭を応援していたファンには申し訳ないことを書くと、一昨年や前年と異なり今回の日本馬に勝ち目は低いと思っていた。しかしさすがに本馬が勝つとは思っておらず、タグルーダ、エクト、アヴニールセルタンのいずれかの3歳馬が勝つと思っていたから、これは正直驚いた。しかしレース後に涙を流して喜ぶヘッド師やジャルネ騎手の様子を見ていると、不調だった本馬をここまで立て直した彼女等の努力に見事に応えた本馬の底知れない実力を改めて感じ取ることが出来た。

本馬はこれが4歳時最後のレースで、この年の成績は4戦1勝だった。

競走生活(5歳時)

過去に凱旋門賞を2連覇した馬は全てその年限りで競走馬を引退していたのだが、本馬は凱旋門賞3連覇を目指して5歳時も現役を続行する事になった。タニ殿下やヘッド師は4歳限りで引退させるつもりで、実際にその旨を公言していたのだが、ヘッド師の父である生産者ヘッド氏の進言により現役続行が決まったそうである。本馬を管理するヘッド師の兄フレデリック・ヘッド調教師が管理していたゴルディコヴァが過去にBCマイル3連覇を達成しており、本馬の凱旋門賞3連覇も十分に可能という目算があったのではないかと筆者は推察している。

まずは5月のコリーダ賞(仏GⅡ・T2100m)から始動した。鞍上は、この年は一貫して本馬に騎乗する事になるジャルネ騎手だった。前年のオペラ賞の勝ち馬ウィアー、前年の独オークス馬フェオドラ、アレフランス賞を勝ってきたメイヘム、ドーヴィル大賞・ゴントービロン賞の勝ち馬カクテルクイーン、前年の凱旋門賞で12着に終わっていたシルジャンズサガなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.44倍の1番人気、ウィアーが単勝オッズ5倍の2番人気、フェオドラやメイヘムなど3頭が並んで単勝オッズ15倍の3番人気だった。

スタートが切られると本馬と同厩のシルヴァプラナがペースメーカー役となって逃げを打ち、本馬は馬群の中団内側につけた。そして直線に入って残り400m地点で満を持して仕掛けると、あっという間に馬群の隙間を突き抜けて、残り200m地点では先頭。そして後続を引き離し、2着ウィアーに4馬身差をつけて完勝した。

次走はサンクルー大賞(仏GⅠ・T2400m)となった。対戦相手は、前年の凱旋門賞で5着に終わるもこの年はドバイシーマクラシックを勝ちコロネーションC2着と実力を発揮していたドルニヤ、前年の凱旋門賞2着後に出走したBCターフでも2着だったが暮れの香港ヴァーズを勝ちこの年もドバイシーマクラシック2着・コロネーションC3着と活躍していたフリントシャー、コンセイユドパリ賞・シャンティ大賞の勝ち馬マナティー、エドヴィル賞を勝ってきたメレアグロス、前走4着のフェオドラなどだった。本馬が前走と同じ単勝オッズ1.44倍の1番人気、ドルニヤが単勝オッズ5倍の2番人気、フリントシャーが単勝オッズ8倍の3番人気、マナティーが単勝オッズ13倍の4番人気となった。

スタートが切られると本馬と同厩のアルタイラがペースメーカー役となって逃げを打ち、本馬はやはり馬群の中団につけた。そして先行して残り400m地点で先頭に立ったフリントシャーを、残り50m地点で少し離れた外側から並ぶ間もなくかわし、2着フリントシャーに1馬身1/4差、3着ドルニヤにはさらに2馬身半差をつけて勝利した。

その後は夏場の休養を経て、秋は3年連続出走となるくヴェルメイユ賞(仏GⅠ・T2400m)から始動した。英国際S・ダッチェスオブケンブリッジS・プリンセスエリザベスSの勝ち馬でナッソーS3着のアラビアンクイーン、マルレ賞の勝ち馬シーカリシ、プリティポリーの勝ち馬ダイアモンドサンドルビーズ、ロワイヤリュー賞・フィユドレール賞の勝ち馬フリン、ミネルヴ賞を勝ってきたカンダーリヤなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、アラビアンクイーンが単勝オッズ7.5倍の2番人気、シーカリシ、ダイアモンドサンドルビーズなど3頭が並んで単勝オッズ13倍の3番人気となった。

スタートが切られると本馬と同厩のディーナがペースメーカー役となって逃げを打ち、本馬はやはり馬群の中団につけた。そして残り800m地点から徐々に加速を開始。3~4番手で直線に入ると外側を通って豪快な末脚を伸ばし、残り400m地点では早くも先頭に立ってしまった。ここから右側によれて内埒沿いまで行ってしまったが、後続との差は広げ続け、2着となった単勝オッズ17倍の6番人気馬カンダーリヤに6馬身差をつけて圧勝した。

凱旋門賞(5歳時)

そしていよいよ史上初の3連覇をかけて、凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に参戦した。今回は2009年以来6年ぶりに日本馬の参戦は無く、対戦相手は、英ダービー・エクリプスS・愛チャンピオンS・ダンテSの勝ち馬で英国際S2着のゴールデンホーン、仏ダービー・ギョームドルナノ賞・ニエル賞と3連勝してきた仏2000ギニー2着馬ニューベイ、プリンスオブウェールズS・エンタープライズSの勝ち馬で英チャンピオンS・愛チャンピオンS3着のフリーイーグル、サンクルー大賞で本馬の2着に敗れた後に米国に遠征してソードダンサーSを勝っていた前年の凱旋門賞2着馬フリントシャー、サンクルー大賞で本馬の3着に敗れた後に休養して前哨戦のフォワ賞では4着だったドルニヤ、マルセルブサック賞・ロイヤルホイップSの勝ち馬で愛1000ギニー・コロネーションS・愛チャンピオンS2着・モイグレアスタッドS3着のファウンド、パリ大賞・リス賞の勝ち馬イラプト、前走バーデン大賞を勝ってきた前年の凱旋門賞7着馬プリンスジブラルタル、キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS2着のイーグルトップ、前年の凱旋門賞13着惨敗後は長期休養に入り前月のブランドフォードS2着が復帰戦だったタペストリー、サンクルー大賞で本馬の4着に敗れて以来の実戦となるマナティー、前走ヴェルメイユ賞4着のフリン、フォルス賞の勝ち馬シルヴァーウェーブ、コリーダ賞で本馬の5着に敗れた後にドーヴィル大賞など2連勝していたシルジャンズサガ、オマール賞の勝ち馬シャハー、前年の凱旋門賞16着後は迷走が続いたが前哨戦のフォワ賞で2着して参戦してきたスピリットジムだった。

本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、ゴールデンホーンが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ニューベイが単勝オッズ6倍の3番人気、フリーイーグルが単勝オッズ15倍の4番人気、ファウンドが単勝オッズ19倍の5番人気となった。

スタートが切られると本馬と同厩のシャハーがペースメーカー役となって逃げを打ち、本馬はやはり馬群の中団につけた。この表現はこの年4回目であり、陣営は本馬の凱旋門賞3連覇のために一貫して同じ展開に持ち込もうとしていた事が伺える。そのまま馬群の中団外側を追走した本馬は、加速しながら直線に入って残り400m地点で満を持して仕掛けた。この段階ではそのまま突き抜けそうな雰囲気もあったのだが、過去4戦で見せていた豪快な末脚を繰り出す事が出来なかった。そして前を行くゴールデンホーンとフリントシャーを捕らえるどころか、ゴール前のニューベイとの3着争いでも首の上げ下げで後れを取り、勝ったデットーリ騎手騎乗のゴールデンホーンから2馬身1/4差の4着に敗退。ここに前人未到ならぬ前馬未到の凱旋門賞3連覇の夢は絶たれた。

前年は3連敗後に凱旋門賞を勝ったが、この年は3連勝後に凱旋門賞で負けるという真逆の結果となった。それでも明らかに前残りの展開で後方から追い上げて4着に入った内容は決して悪くなかったし、それよりも凱旋門賞3連覇という夢を見せてくれた陣営に筆者は拍手を送りたい。

レース後にヘッド師は本馬の競走馬引退を明言。タニ殿下が仏国に所有するブーケット牧場で繁殖入りすることになった。5歳時の成績は4戦3勝だった。

血統

Motivator Montjeu Sadler's Wells Northern Dancer Nearctic
Natalma
Fairy Bridge Bold Reason
Special
Floripedes Top Ville High Top
Sega Ville
Toute Cy Tennyson
Adele Toumignon
Out West Gone West Mr. Prospector Raise a Native
Gold Digger
Secrettame Secretariat
Tamerett
Chellingoua Sharpen Up エタン
Rocchetta
Uncommitted Buckpasser
Lady Be Good
Trevise Anabaa Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Balbonella ゲイメセン Vaguely Noble
Gay Missile
Bamieres Riverman
Bergamasque
Trevillari Riverman Never Bend Nasrullah
Lalun
River Lady Prince John
Nile Lily
Trevilla Lyphard Northern Dancer
Goofed
Trillion Hail to Reason
Margarethen

モティヴェイターは当馬の項を参照。

母トレヴィスは本馬と同じくケスネー牧場の生産・所有馬で、競走馬としては4戦1勝の成績だった。本馬以外にこれといった活躍馬を産んではいないが、本馬の4歳年上の半兄トレヴィミクス(父リナミックス)は競走馬としては2戦未勝利ながら、本馬が凱旋門賞を2連覇した頃に誘拐されて行方不明になったとして大騒ぎになった事で知られている。実際には、トレヴィミクスを繋養していた牧場の経営者夫婦が喧嘩をして、妻がトレヴィミクスを連れて家出をしただけだったという、何とも人騒がせな一件だった。

トレヴィスの母トレヴィラリは米国産馬だが競走馬としては仏国で走った。しかし13戦未勝利で2着が1回あるだけだった。しかしトレヴィラリは血統的にはなかなか優秀だった。トレヴィラリの全妹にはトレブル【サンタラリ賞(仏GⅠ)】が、トレヴィラリの半姉シネラベの子にはタマリスク【スプリントC(英GⅠ)】、孫には日本で走ったたトリリオンカット【朝日チャレンジC(GⅢ)】がいる。そしてトレヴィラリの母トレヴィラは名牝トリリオンの娘で、鉄の女トリプティクの半姉だった。この牝系からは、ジェネラスイマジンブリッシュラックムーンライトクラウド、フリオーソ、ディーマジェスティなども出ており、かなりの名門牝系であるが、その辺の詳細はトリリオンなどの項を参照してほしい。→牝系:F4号族④

母父アナバーは当馬の項を参照。

TOP