イマジン
和名:イマジン |
英名:Imagine |
1998年生 |
牝 |
鹿毛 |
父:サドラーズウェルズ |
母:ドフザダービー |
母父:マスターダービー |
||
英ダービーなどを勝った名馬ジェネラスの妹として英オークスを優勝し、繁殖牝馬としても活躍している良血馬 |
||||
競走成績:2・3歳時に愛英で走り通算成績10戦4勝2着2回3着2回 |
誕生からデビュー前まで
愛国バロンズタウンスタッドと、クールモアグループ傘下のオーペンデール社の共同生産馬である。バロンズタウンスタッドが所有していた母ドフザダービーは名馬ジェネラスの母として名を馳せた繁殖牝馬であり、それにクールモアグループが繋養していた大種牡馬サドラーズウェルズを交配させた結果誕生したという、世界的良血馬だった。クールモアグループの総裁ジョン・マグナー氏のスーザン夫人と、バロンズタウンスタッドの所有者の一人ダイアン・ネーグル女史の共同名義で競走馬となり、愛国エイダン・パトリック・オブライエン調教師に預けられた。
競走生活(2歳時)
2歳8月にカラー競馬場で行われたリステッド競走デビュータントS(T7F)で、P・J・スキャラン騎手を鞍上にデビュー。対戦相手は既に勝ち上がった馬ばかりであったため、単勝オッズ11倍で13頭立ての6番人気だった。好スタートから果敢に先頭に立って逃げ、ゴール前でそれなりに粘って、勝ったアファイアンストと短頭差2着となった同厩馬セクォイアの接戦から3馬身差の3着と、まずまずの結果だった。
その2週間後には未勝利の身でモイグレアスタッドS(愛GⅠ・T7F)に挑戦。前走2着の同厩馬セクォイアが単勝オッズ3.25倍の1番人気に支持される一方で、ジョージ・ダフィールド騎手騎乗の本馬は単勝オッズ11倍で10頭立ての6番人気と、あまり評価されていなかった。実際にここでは荷が重かったのか、スタートから3番手を走るも残り2ハロン地点で失速して、セクォイアの8馬身差6着という結果に終わった。
その11日後にはゴーランパーク競馬場芝8ハロンの未勝利戦に、マイケル・キネーン騎手を鞍上に出走。未勝利馬の中では頭一つ抜けた実績があり、単勝オッズ1.44倍という断然の1番人気に支持された。ここでは2番手を先行して残り2ハロン地点で先頭に立ち、2着ダンスティルドーンに2馬身差で勝ち上がった。
その9日後にはアスコット競馬場で行われたフィリーズマイル(英GⅠ・T8F)に参戦。プレステージS2着馬サマーシンフォニー、モイグレアスタッドS2着馬ホテルジーニドットコム、2戦2勝のクリスタルミュージックなどが対戦相手となり、キネーン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ15倍で9頭立ての6番人気という低評価だった。ここではスタートから先頭に立って馬群を先導。残り2ハロン地点で仕掛けて粘り込みを図ったが、残り1ハロン地点で失速して、クリスタルミュージックの4馬身半差4着に終わった。
その1週間後にはカラー競馬場で行われたウェルドパークS(愛GⅢ・T7F)に、スキャラン騎手と共に出走。このレースでは単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持された。ここでもスタートから逃げを打つと、今回は最後まで粘り切り、2着キャサリンシーモアの追撃を半馬身差で抑えて勝利を収めた。
その2週間後にはニューマーケット競馬場で行われたロックフェルS(英GⅡ・T7F)に出走。ゴドルフィンが送り込んできた期待馬スモールチェンジ、メイヒルS2着馬で後の英1000ギニー馬アミーラット、キャサリンシーモア、オーソーシャープSを勝ってきたリリウムなどが対戦相手となった。スモールチェンジが単勝オッズ3.25倍の1番人気に支持される一方で、キネーン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ13倍で、前走で負かしたキャサリンシーモア(単勝オッズ8倍)より低い16頭立ての6番人気だった。スタートが切られると単勝オッズ26倍の12番人気馬セイエダーが先頭を伺い、本馬もそれを見るように先行した。そして残り2ハロン地点で仕掛けたが、横を走っていたキャサリンシーモアが右側によれた際に不利を受けてしまった。そのために、逃げたセイエダーとキャサリンシーモアの2頭に届かずに、1位入線のセイエダーから半馬身差の3位入線だった。そして2位入線のキャサリンシーモアが進路妨害で3着に降着となったために繰り上がって2着という結果となった。
2歳時はこのレースを最後に休養に入り、成績は6戦2勝だった。僅か2か月足らずの間に6戦、しかもわざわざ愛国と英国を行き来させながら出走させた陣営の意図は定かでは無いが、本馬は太りやすい体質(翌年にその証拠がある)だったため、体重を絞るためにこのような使い方をしたのではないかと筆者は考えている。
競走生活(3歳時)
翌3歳時は英国で発生した口蹄疫の流行により、愛国から英国への馬の移動が制限されたため、愛1000ギニーを目標とした。まずは4月のリステッド競走レパーズタウン1000ギニートライアルS(T7F)から始動。このレースでは後のプリティポリーS・タタソールズ金杯勝ち馬リベラインという強敵が出現したが、本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、リベラインが単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。ここでも逃げ馬を見るように2番手を追走。そして残り1ハロン半地点で仕掛けたのだが、本馬をマークするように3番手を走っていたリベラインにかわされると一気に置き去りにされてしまい、勝ったリベラインから5馬身半差をつけられて2着に敗れた。
続いて5月のリステッド競走アサシS(T7F)に出走。後の仏1000ギニー馬勝ち馬ローズジプシーやキャサリンシーモアなどを抑えて、単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持された。ここでも逃げ馬を見るように先行して、残り2ハロン地点で先頭に立った。しかしここから伸びを欠き、クールクラリティ、ローズジプシーの2頭に遅れを取って、クールクラリティの3馬身差3着に敗れた。
次走の愛1000ギニー(愛GⅠ・T8F)では、英1000ギニーで4着だったクリスタルミュージック、チェヴァリーパークS2着・英1000ギニー3着のトロカ、クールクラリティ、リベライン、メイヒルS勝ち馬カラスタ、これが3歳初戦となるセコイアなどが対戦相手となった。しかし英1000ギニー馬アミーラットも仏1000ギニー馬ローズジプシーも不参戦だったため、本命不在の混戦となっていた。しかしそんな中でも本馬は過去の戦績からして実力不足と考えられ、単勝オッズ17倍で16頭立ての10番人気という低評価だった。クリスタルミュージックが単勝オッズ5.5倍の1番人気で、トロカが単勝オッズ6.5倍の2番人気、クールクラリティが単勝オッズ7倍の3番人気と続いていた。
過去2戦で本馬に騎乗したキネーン騎手がトロカに騎乗したため、本馬の鞍上はシェイミー・ヘファーナン騎手に乗り代わっていた。過去の本馬は先行するレースが多かったが、ヘファーナン騎手は本馬を抑える戦法を採った。そして残り3ハロン地点で仕掛けて残り2ハロン地点では4番手まで押し上げると、残り1ハロン地点でインコースから素晴らしい末脚を繰り出した。そして先に抜け出したクリスタルミュージックを一気に差し切ると、最後は2馬身差をつけて優勝した。この勝利は父サドラーズウェルズにとって、豪州の大種牡馬サートリストラムが保持していた産駒のGⅠ競走勝利数世界記録45勝に肩を並べる記念の勝利でもあった。
この直後に口蹄疫の流行に伴う愛国から英国への馬の移動制限が一部緩和されたため、次走は12日後の英オークス(英GⅠ・T12F10Y)となった。本馬以外の出走馬は、英国エリザベスⅡ世女王陛下の持ち馬フライトオブファンシー、伊オークス馬ザンジバル、ムシドラS2着馬レリッシュザソート、リステッド競走プリティポリーS2着馬で後のGⅡ競走プリティポリーS勝ち馬ターフシ、リステッド競走プリティポリーS勝ち馬モージュスト、チェシャーオークス2着馬ゲイヒロインなどであり、このレースも本命不在の混戦模様だった。しかし前走で豪脚を見せた本馬が単勝オッズ4倍で14頭立ての1番人気に支持され、フライトオブファンシーが単勝オッズ4.33倍の2番人気、ザンジバルが単勝オッズ10倍の3番人気となった。
本馬の鞍上はキネーン騎手に戻っていた。キネーン騎手は前走でヘファーナン騎手が採用した後方待機策を踏襲したため、序盤は馬群の最後方を走る事になった。少しずつ位置取りを上げていったものの、タッテナムコーナーを回る際もキネーン騎手ははまだ仕掛けを我慢していた。そして8番手で直線を向くと、残り2ハロン地点から外側を通って前走同様の末脚を繰り出した。先に抜け出したレリッシュザソートを残り150ヤード地点でかわすと、さらに後方から追い上げてきた2着フライトオブファンシーに1馬身1/4差をつけて優勝した。
この勝利により、本馬は10年前に英ダービーを制した兄ジェネラスと兄妹での英ダービー・英オークス制覇を達成した。母ドフザダービーは英ダービー馬と英オークス馬を両方産んだ事になるが、これは1911年の英ダービー馬サンスターと1914年の英オークス馬プリンセスドリーを産んだドリス以来1世紀近く達成されていなかった大記録である(フィフィネラの母シルヴァーフォウルのように英ダービーと英オークスを1頭で両方勝った馬の母は除く)。これは19世紀以前には散見される記録だが、20世紀以降ではドリスとドフザダービーの2例しかない。
また、この英オークスの上位3頭(本馬、フライトオブファンシー、レリッシュザソート)はいずれもサドラーズウェルズ産駒だった。翌日の英ダービーではサドラーズウェルズ産駒として初めてガリレオが勝利を収めており、この時期のサドラーズウェルズは種牡馬としてまさしく絶頂期を迎えていた。
英オークス後、本馬は挫石で脚を負傷したために休養入りした。秋は凱旋門賞を目標とする予定だったが、休養中に本馬は馬体重が激増し、まともにレースで走れる状態ではなくなってしまった。血統的に繁殖牝馬としての期待も高かったため、再びレースに出る事は無く、9月に現役引退が発表された。3歳時の成績は4戦2勝だった。
血統
Sadler's Wells | Northern Dancer | Nearctic | Nearco | Pharos |
Nogara | ||||
Lady Angela | Hyperion | |||
Sister Sarah | ||||
Natalma | Native Dancer | Polynesian | ||
Geisha | ||||
Almahmoud | Mahmoud | |||
Arbitrator | ||||
Fairy Bridge | Bold Reason | Hail to Reason | Turn-to | |
Nothirdchance | ||||
Lalun | Djeddah | |||
Be Faithful | ||||
Special | Forli | Aristophanes | ||
Trevisa | ||||
Thong | Nantallah | |||
Rough Shod | ||||
Doff the Derby | Master Derby | ダストコマンダー | Bold Commander | Bold Ruler |
High Voltage | ||||
Dust Storm | Windy City | |||
Challure | ||||
Madam Jerry | Royal Coinage | Eight Thirty | ||
Canina | ||||
Our Kretchen | Crafty Admiral | |||
Adjournment | ||||
Margarethen | Tulyar | Tehran | Bois Roussel | |
Stafaralla | ||||
Neocracy | Nearco | |||
Harina | ||||
Russ-Marie | Nasrullah | Nearco | ||
Mumtaz Begum | ||||
Marguery | Sir Gallahad | |||
Marguerite |
父サドラーズウェルズは当馬の項を参照。
母ドフザダービーは不出走馬だが、繁殖牝馬としては非常に優秀で、本馬の半姉ウエディングブーケ(父キングスレイク)【パークS(愛GⅢ)・モンロヴィアH(米GⅢ)】、半兄ジェネラス(父カーリアン)【英ダービー(英GⅠ)・愛ダービー(愛GⅠ)・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(英GⅠ)・デューハーストS(英GⅠ)】、半兄で外国産馬として日本で走ったオースミタイクーン(父ラストタイクーン)【マイラーズC(GⅡ)・セントウルステークス(GⅢ)】、全姉ストロベリーローン【2着愛1000ギニー(愛GⅠ)】など活躍馬を続出させた。本馬はドフザダービーの最後の子であり、本馬を産んだ翌年にドフザダービーは18歳で他界している。
ウエディングブーケの孫には2013年のカルティエ賞最優秀古馬ムーンライトクラウド【モーリスドギース賞(仏GⅠ)3回・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・フォレ賞(仏GⅠ)】がいる他、本馬の半姉で日本に輸入されたマチカネベニザクラ(父ロイヤルアカデミー)の子にはマチカネオーラ【中京記念(GⅢ)】が、日本に競走馬として輸入された本馬の全姉シンコウエルメスの孫にディーマジェスティ【皐月賞(GⅠ)・共同通信杯(GⅢ)】がいる。
ドフザダービーの半姉にはトリリオン(父ヘイルトゥリーズン)【ガネー賞(仏GⅠ)・ドラール賞(仏GⅡ)2回・アルクール賞(仏GⅡ)・ミネルヴ賞(仏GⅢ)・ロワイヤリュー賞(仏GⅢ)・フォワ賞(仏GⅢ)】がおり、トリリオンの娘には鉄の女トリプティク【マルセルブサック賞(仏GⅠ)・愛2000ギニー(愛GⅠ)・英チャンピオンS(英GⅠ)2回・ガネー賞(仏GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)2回・マッチメイカー国際S(英GⅠ)・愛チャンピオンS(愛GⅠ)】、玄孫にはトレヴ【凱旋門賞(仏GⅠ)2回・仏オークス(仏GⅠ)・ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)2回・サンクルー大賞(仏GⅠ)】や日本で活躍したフリオーソ【全日本2歳優駿(GⅠ)・ジャパンダートダービー(GⅠ)・帝王賞(GⅠ)2回・川崎記念(GⅠ)・かしわ記念(GⅠ)】がいる。近親にはここに挙げた以外にも多くの活躍馬がおり、非常に優秀な牝系である。→牝系:F4号族④
母父マスターダービーはジェネラスの項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は愛国クールモアスタッドで繁殖入りした。本馬は繁殖牝馬としてもかなり優秀な成績を収めている。
初子の牡駒ホレーショネルソン(父デインヒル)が、ジャンリュックラガルデール賞(仏GⅠ)・愛フューチュリティS(愛GⅡ)・スーパーレイティヴS(英GⅢ)を勝ち、デューハーストS(英GⅠ)で2着する活躍を見せた。ホレーショネルソンは英2000ギニー(英GⅠ)・英ダービー(英GⅠ)でも人気を集めたが、前者はジョージワシントンの8着、後者はレース中に故障して競走中止という結果で、この故障が原因で他界している。
その後も本馬は、3番子の牝駒キティマッチャム(父ロックオブジブラルタル)【ロックフェルS(英GⅡ)】、4番子の牡駒ヴァイカウントネルソン(父ジャイアンツコーズウェイ)【アルファヒディフォート(首GⅡ)】といった活躍馬を産んでいる。
また、本馬の2番子の牡駒レッドロックキャニオン(父ロックオブジブラルタル)はグループ競走勝ちこそ無かったが、ディラントーマスやデュークオブマーマレードといった実力馬のペースメーカーとして活躍し、愛チャンピオンS(愛GⅠ)ではディラントーマスの3着、タタソールズ金杯(愛GⅠ)ではデュークオブマーマレードの3着に入っている。
現在も本馬はクールモアスタッドで繁殖生活を続けており、さらなる活躍馬の誕生が期待されている。