ディラントーマス

和名:ディラントーマス

英名:Dylan Thomas

2003年生

鹿毛

父:デインヒル

母:ラグリオン

母父:ダイイシス

古馬として49年ぶり史上3頭目となるキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・凱旋門賞の同一年ダブル制覇を達成する

競走成績:2~4歳時に愛英米仏香で走り通算成績20戦10勝2着4回3着1回

誕生からデビュー前まで

愛国の馬産団体タワーブラッドストックにより生産された愛国産馬で、クールモアグループの所有馬として、愛国エイダン・パトリック・オブライエン調教師に預けられた。成長すると体高16.2ハンドに達した大柄な見栄えの良い馬だった。半姉にカルティエ賞最優秀2歳牝馬クイーンズロジックがいる上に、父がデインヒルという快速血統だったが、陣営は早い段階から本馬は距離が伸びたほうがよいと判断していたようである。

競走生活(2歳時)

2歳6月に愛国ティペラリー競馬場で行われた芝7ハロン100ヤードの未勝利戦で、キーレン・ファロン騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。レースでは逃げる単勝オッズ3.25倍の2番人気馬ガランタスを追って2番手を走った。そして残り2ハロン地点で先頭に立つと、2着に粘ったガランタスに1馬身差をつけて勝ち上がった。

次走は9月にレパーズタウン競馬場で行われたレヴィS(T7F)となった。ここでもファロン騎手を鞍上に、単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。今回も2番手を追走し、残り2ハロン地点で先頭に立った。その後に大きく右によれる場面があったが、後方から追ってきた単勝オッズ11倍の5番人気馬ロイヤルパワー(後の独2000ギニー馬)の追撃をなんとか3/4馬身抑えて勝利した。

オブライエン師の管理馬としては珍しく2歳シーズン暮れに英国に向かい、10月のオータムS(英GⅢ・T8F)に出走。ジョニー・ムルタ騎手を鞍上に迎え、単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持された。今回も先行した本馬は残り1ハロン地点で先頭に立って押し切ろうとしたが、ゴール前で単勝オッズ21倍の8番人気馬ブリッツクリーグに首差かわされて2着に敗れた(ここでは単勝オッズ151倍の最低人気だった、後のドバイワールドCの勝ち馬ウェルアームドは本馬から1馬身半差の4着だった)。

それから2週間後にはレーシングポストトロフィー(英GⅠ・T8F)に出走した。ベレスフォードSを勝ってきた同厩馬セプティムス、2戦無敗のウイングドキューピッド、前走オータムSで3着だったアラビアンプリンスなどが対戦相手となった。セプティムスが単勝オッズ1.83倍の1番人気、ウイングドキューピッドが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ムルタ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ6倍の3番人気となった。スタートが切られるとウイングドキューピッドが先頭に立ち、本馬はセプティムスと共にそれを追って先行した。しかし残り2ハロン地点で失速してしまい、やはり先行して残り1ハロン地点で先頭に立って勝利した単勝オッズ21倍の最低人気馬パレスエピソードから6馬身3/4差の6着に敗れた。

2歳時の成績は4戦2勝で、同父同馬主同厩のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ジョージワシントンや、やはり同父同馬主同厩でジャンリュックラガルデール賞・愛フューチュリティS・スーパーレイティヴSなど4連勝したホレーショネルソンの陰に隠れた存在だった。

競走生活(3歳時)

3歳時は英ダービーを目標として、5月のデリンズタウンスタッドダービートライアルS(愛GⅡ・T10F)から始動した。レパーズタウン2000ギニートライアルS2着馬エリオスタティック(後に本馬と対戦することになるソルジャーオブフォーチュンの全兄)、ベレスフォードS2着・レパーズタウン2000ギニートライアルS3着のレカーブ、愛ナショナルS・バリサックスS2着のゴールデンアロー、ベレスフォードS・バリサックスS3着のアルティウスなどが主な対戦相手となった。エリオスタティックが単勝オッズ3.75の1番人気、レカーブが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ゴールデンアローが単勝オッズ5.5倍の3番人気、シーミー・ヘファーナン騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ6.5倍の4番人気止まりだった。

レースでは単勝オッズ17倍の最低人気だったアルティウスが逃げを打ち、本馬は2番手を追走した。レース中盤でアルティウスが失速すると代わりに先頭に立ち、そのまま先頭で直線に入ると押し切り、2着となった同厩の単勝オッズ9倍の4番人気馬マウンテンに1馬身半差をつけて勝利した。本馬より人気を集めていた3頭は揃って惨敗した。また、後に本馬と幾度も対戦するユームザインはここでは単勝オッズ10倍の5番人気で、結果はマウンテンから短頭差の3着だった。

その後はムルタ騎手とコンビを組んで英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に向かった。この年の英ダービーは、英2000ギニーを制したジョージワシントンがマイル路線に向かったため不在だった事も手伝って非常な混戦模様であり、主な出走馬は、大物の誉れ高いシンダー産駒のグレフュール賞の勝ち馬ヴィシンダー、2歳時に4連勝したがデューハーストS2着・英2000ギニー8着と調子落ちだったホレーショネルソン、デビューからヴィンテージS・デューハーストSなど4連勝して前走の英2000ギニーで2着だったサーパーシー、本馬が惨敗したレーシングポストトロフィーで3着後にダンテSを8馬身差で勝ってきた同厩馬セプティマス、1戦1勝ながら近親にグループ競走の勝ち馬が多数いた期待馬ハラベック、クリテリウムドサンクルー・コンデ賞・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬リンダズラッド、3連勝でチェスターヴァーズを勝ってきたペイパルブル、ダンテS2着馬ベストアリバイ、マウンテン、後の英セントレジャー馬シックスティーズアイコンなどだった。ヴィシンダーが単勝オッズ3倍の1番人気、ホレーショネルソンが単勝オッズ6.5倍の2番人気、サーパーシーが単勝オッズ7倍の3番人気と続いていたが、どの馬が勝ってもおかしくない状況だった。その中でも本馬は単勝オッズ26倍で9番人気の低評価だった。

スタートが切られるとアトランティックウェーヴスが逃げを打ち、本馬も先行集団に加わった。そしてレース中盤で早くも先頭に立ち、そのままタッテナムコーナーを回って直線に入ってきた。そして外側から並びかけてきた単勝オッズ67倍の13番人気馬ドラゴンダンサーと叩き合いながらゴールを目指した。そこへ後方外側からハラベックとヴィシンダーが叩き合いながらやって来て、さらには11番手で直線を向いたサーパーシーも内側から追い上げてきた。ゴール前ではこの5頭のうち僅かに遅れたヴィシンダーを除く4頭が横一線の大接戦となったが、最内のサーパーシーが僅かに前に出て優勝。短頭差の2着にドラゴンダンサー、さらに頭差の3着に本馬、さらに短頭差の4着にゴール前で外側によれたハラベックが入り、1番人気のヴィシンダーはハラベックから2馬身差の5着、2番人気のホレーショネルソンは直線で故障して競走中止・予後不良となった。

次走の愛ダービー(愛GⅠ・T12F)では、仏ダービー馬ダルシ、伊ダービー・ノアイユ賞の勝ち馬ジェントルウェーヴ、ガリニュールSを勝ってきたプエルトリコ、仏ダービー2着馬ベストネーム、英ダービー2着馬ドラゴンダンサー、同6着馬ベストアリバイ、同8着馬マウンテン、デリンズタウンスタッドダービートライアルSでは本馬の8着最下位に終わっていたエリオスタティックなどが対戦相手となった。英ダービーの上位人気組が揃って不在だったため、本馬が押し出されて単勝オッズ5.5倍の1番人気となり、ダルシが単勝オッズ6倍の2番人気、ジェントルウェーヴが単勝オッズ6.5倍の3番人気、ベストネームが単勝オッズ7.5倍の4番人気、ドラゴンダンサーが単勝オッズ8倍の5番人気となった。

今回はドラゴンダンサーがスタートから先頭に立って逃げた。一方、今までは先行する場合が殆どだった本馬だが、ここで騎乗したファロン騎手は、馬群の中団につけた。そして6番手で直線を向くと、残り2ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着に追い上げてきたジェントルウェーヴに3馬身半差をつける完勝で、GⅠ競走初勝利を挙げた。

夏場も休まず走り、英国際S(英GⅠ・T10F88Y)に出走した。前走エクリプスSで3着してきたラクープの勝ち馬ブルーマンデー、伊ジョッキークラブ大賞・ラインラントポカル・ドーヴィル大賞の勝ち馬で一昨年の凱旋門賞ではバゴの2着していたチェリーミックス、エクリプスSで2着してきたアールオブセフトンS・ブリガディアジェラードSの勝ち馬ノットナウケイト、ハードウィックS・ゴードンS・ハクスレイS2回の勝ち馬で前年の英国際S・英チャンピオンS3着のマラーヘル、イスパーン賞・フォンテーヌブロー賞の勝ち馬で前走ダルマイヤー大賞2着のレイヴロックなど6頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.83倍の1番人気、ブルーマンデーが単勝オッズ6.5倍の2番人気、チェリーミックスが単勝オッズ8倍の3番人気、ノットナウケイトが単勝オッズ9倍の4番人気と、本馬が抜けた人気となった。

マイケル・キネーン騎手とコンビを組んだ今回は愛ダービーと異なり、それまでどおりの先行策に戻った。そして直線に入ると逃げるチェリーミックスをかわして残り2ハロン地点で先頭に立った。しかしスローペースで上がりの競馬となった事が災いして、最後の末脚勝負で後れを取ってしまい、ノットナウケイト、マラーヘル、ブルーマンデーの3頭に差されて、勝ったノットナウケイトから3馬身3/4差をつけられた4着と完敗した。スローペースで折り合いを欠いた事も敗因だと言われたが、オブライエン師はその見解を否定した。

次走の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)ではノットナウケイトこそ不在だったが、英オークス・愛オークス・BCフィリー&メアターフ・香港ヴァーズ・プリンスオブウェールズS・ナッソーSの勝ち馬でこの年に2度目のカルティエ賞年度代表馬に選ばれる事になるウィジャボード、オペラ賞・香港C・プリティポリーS2回・ナッソーSとGⅠ競走5勝のアレクサンダーゴールドランという、当時の欧州を代表する2頭の名牝が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.625倍の1番人気、ウィジャボードが単勝オッズ3.75倍の2番人気、アレクサンダーゴールドランが単勝オッズ4倍の3番人気、ロイヤルホイップS・グラッドネスS・愛国際Sの勝ち馬ムスタミートが単勝オッズ9倍の4番人気となった。

スタートが切られると、オブライエン師が用意したペースメーカー役のエース(ペースメーカー役と言っても、前年のBCターフでシロッコの2着した実力馬)が逃げを打ち、ファロン騎手が騎乗した本馬はエースを見るように2番手を追走。そして失速したエースと入れ代わるように直線入り口で先頭に立った。しかし直線入り口では本馬の直後まで来ていたウィジャボードに外側から並びかけられてゴールまで1ハロン半に及ぶ叩き合いに持ち込まれた。途中までは明らかにウィジャボードのほうが脚色は良く、半馬身ほど前に出たのだが、残り半ハロン地点で本馬が差し返し、首差で勝利を収めた。

その後陣営はこの年にチャーチルダウンズ競馬場で行われることになっていたBCクラシック参戦を目標として(BCターフでないのは、同厩のハリケーンランと出走レースが被るのを避けたためらしい)本馬を渡米させた。そして前哨戦としてジョッキークラブ金杯(米GⅠ・D10F)に参戦した。プリークネスS・ジムダンディS・トラヴァーズS・ウィザーズSなど5連勝中のバーナーディニ、ブルックリンH・マインシャフトH・ベンアリS・アリシーバSの勝ち馬でピムリコスペシャルH2着のワンデリンボーイ、フレッドWフーパーHの勝ち馬でベルモントS2着・ドンH・サバーバンH3着のアンドロメダズヒーローの3頭だけが対戦相手となった。バーナーディニが単勝オッズ1.15倍の1番人気、ジョン・ヴェラスケス騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ5.4倍の2番人気、ワンデリンボーイが単勝オッズ10倍の3番人気、アンドロメダズヒーローが単勝オッズ18.6倍の最低人気となった。スタートが切られるとワンデリンボーイが先頭に立ち、バーナーディニ、アンドロメダズヒーローがそれを追っていった。ところが本馬は他の3頭に付いていくことが出来ず、スタート直後から離された最後方。そしてどんどん差を広げられていき、結局スタートからゴールまで一貫して最後方のままで、勝ったバーナーディニから32馬身1/4差の4着最下位に沈没してしまった。

全くダートに適応できなかったあまりの惨敗ぶりにBCクラシック出走は御破算となってしまい、そのまま帰国して休養入りした。3歳時の成績は6戦3勝だった。

競走生活(4歳前半)

4歳時は4月にカラー競馬場で行われたリステッド競走アレッジドS(T10F)から始動した。目立つ対戦相手と言えば、前年の愛ダービーで本馬の7着に敗れた後にメルドSを勝っていたエリオスタティック、デリンズタウンスタッドダービートライアルS・サンダウンクラシックトライアルSの勝ち馬でラインラントポカル2着の5歳馬フラカスくらいだった。ヘファーナン騎手が騎乗する本馬が134ポンドのトップハンデながらも単勝オッズ1.53倍の1番人気に支持され、132ポンドのエリオスタティックが単勝オッズ5倍の2番人気、127ポンドのフラカスが単勝オッズ10倍の3番人気となった。スタートが切られるとエリオスタティックが先頭に立ち、フラカスがそれを追って先行したが、ヘファーナン騎手は本馬を意図的に抑えた。そして5番手で直線を向くと、残り2ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点であっさりと抜け出し、2着フラカスに3馬身差で勝利した。それまでは先行する場合が多かった本馬だが、このアレッジドS以降は中団待機策が増えることになる。

次走は同月末のガネー賞(仏GⅠ・T2100m)となった。対戦相手は、ドーヴィル大賞の勝ち馬アイリッシュウェルズ、ハンザ賞などの勝ち馬でバーデン大賞・オイロパ賞2着のエジャートン、アルクール賞・ギシュ賞の勝ち馬ボリスデドーヴィル、エクスビュリ賞を勝ってきたパールスカイ、この時点では殆ど無名だったドクターディーノなど実績的に本馬より格下の馬ばかりだった。クリストフ・スミヨン騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ1.44倍の1番人気に支持され、アイリッシュウェルズが単勝オッズ6倍の2番人気、エジャートンが単勝オッズ10倍の3番人気となった。ここでは馬群の好位4番手を追走し、直線に入ると残り400m地点で仕掛けて、残り150m地点で難なく抜け出した。そして2着アイリッシュウェルズに2馬身差をつけて、2分07秒9のコースレコードで完勝した。

次走はタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)となった。対戦相手は前走ガネー賞よりも一枚上手であり、前年の英国際Sで本馬を破ったノットナウケイト、デリンズタウンスタッドダービートライアルSで本馬の3着した後にオイロパ賞・グレートヴォルティジュールSを勝ち前走ドバイシーマクラシックで3着してきたユームザイン、アメジストSを勝ってきたダナク、前年の愛チャンピオンSで本馬の4着に敗れた後に2度目のグラッドネスS制覇を果たしてきたムスタミート、アレッジドS2着後に出走したムーアズブリッジSでも2着だったフラカス、愛1000ギニー馬ナイタイムなどが出走してきた。しかし英チャンピオンS・ゴードンリチャーズSと続けて着外だったノットナウケイトよりも連勝中の本馬のほうが評価は高く、本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持され、ノットナウケイトとユームザインが並んで単勝オッズ8倍の2番人気となった。レースは好スタートを切ったノットナウケイトが2番手を先行して、ヘファーナン騎手騎乗の本馬はそれを見るように3~4番手を追走した。そして直線に入ると先に抜け出したノットナウケイトを追撃したが、最後まで追いつくことが出来ずに、頭差の2着に敗れた(3着ユームザインには4馬身先着した)。

次走のプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)には、ノットナウケイト、前年のBCターフでハリケーンランを着外に沈めて勝っていたゴードンリチャーズSの勝ち馬レッドロックス、英ダービー以降3戦続けて着外と不振に陥っていたサーパーシーに加えて、イスパーン賞・ジャックルマロワ賞2着・ガネー賞・プリンスオブウェールズS・ムーランドロンシャン賞3着など7戦連続2・3着の善戦馬状態からアールオブセフトンS・イスパーン賞と連続圧勝して開花した独国出身の大物マンデュロも出走していた。アンドレ・ファーブル調教師をして「かつて私が手掛けた最高の馬」とまで言わしめたマンデュロが単勝オッズ2.875倍の1番人気に支持され、ムルタ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、レッドロックスが単勝オッズ5倍の3番人気、ノットナウケイトが単勝オッズ7.5倍の4番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ12倍の5番人気まで評価を落としていたサーパーシーが逃げを打ち、ノットナウケイトやマンデュロが先行。スミヨン騎手騎乗の本馬はそれをマークするように4番手を追走した。そして直線に入るとノットナウケイトを置き去りにして抜け出したマンデュロを追撃したが、またしても最後まで追いつくことが出来ずに、1馬身1/4差の2着に敗れた(3着ノットナウケイトには4馬身先着した)。

次走は、愛ダービー以来の12ハロン戦となるキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(英GⅠ・T12F)となった。対戦相手は、パリ大賞・英セントレジャー・コロネーションCの勝ち馬で愛ダービー2着の同厩の5歳馬スコーピオン、前年の英国際Sで本馬に先着する2着した後にハードウィックS・ジョンポーターS・ハクスレイSを勝っていたマラーヘル、バーデン大賞・メルセデスベンツ大賞の勝ち馬で前走サンクルー大賞3着のプリンスフローリ、前年の英国際S5着後に伊ジョッキークラブ大賞を勝っていたレイヴロック、タタソールズ金杯3着後に出走したサンクルー大賞では5着だったユームザイン、カドラン賞・ロンズデールC・ドンカスターC・ヨークシャーCの勝ち馬サージェントセシルの計6頭だった。しかし同年の欧州クラシック競走勝ち馬の参戦なども無く、はっきり言ってしまうと同競走としてはかなり層が薄かった(前年まで30年以上同競走のスポンサーだったダイヤモンド会社デビアスが撤退して賞金が下がったことが影響しているかもしれない)。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、スコーピオンが単勝オッズ4倍の2番人気、マラーヘルが単勝オッズ7倍の3番人気、プリンスフローリが単勝オッズ11倍の4番人気となった。

レースは2番人気ながらも半ば本馬のペースメーカー役としての出走だったらしいスコーピオンがスタートから先頭に立ち、ムルタ騎手騎乗の本馬は中団待機策を選択した。そして残り3ハロン地点で仕掛けて直線に入ってきた。そして先に先頭に立っていたマラーヘルを残り1ハロン地点でかわして先頭に立ち、2着に追い上げてきたユームザインに4馬身差をつけて圧勝した。

競走生活(4歳後半)

これで本馬は12ハロンが一番強い事を示したとも言えるのだが、この後はしばらく12ハロンの適当なレースが無かったので、次走は10ハロン戦の英国際S(英GⅠ・T10F88Y)であった。このレースのほうがキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSよりも確実に層が厚く、英ダービー・レーシングポストトロフィー・ダンテSの勝ち馬オーソライズド、そのオーソライズドを前走エクリプスSにおいて伝説的奇襲攻撃で破っていたノットナウケイト、セントジェームズパレスS2着馬で翌年にカルティエ賞最優秀古馬に選ばれる同厩馬デュークオブマーマレード、UAEダービー・UAE2000ギニーの勝ち馬アジアティックボーイ、チェスターヴァーズの勝ち馬でローマ賞・ミラノ大賞2着のハッタンなどが出走してきた。オーソライズドが単勝オッズ2.5倍の1番人気、ムルタ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、ノットナウケイトが単勝オッズ4.5倍の3番人気、デュークオブマーマレードとアジアティックボーイが並んで単勝オッズ13倍の4番人気となり、3強対決となった。レースでは先行したノットナウケイトを、直線で後方から追い上げた本馬とオーソライズドが捕らえた。最後はオーソライズドが本馬を1馬身差の2着に抑えて勝利し、ノットナウケイトは本馬から3馬身差の3着と、人気どおりの決着となった。

それでも10ハロンに拘る陣営は、次走に愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)を選択した。3か月前に英1000ギニー・愛1000ギニーを勝ち仏1000ギニー2着と大活躍したが強行軍が祟って前走コロネーションSでは惨敗していたマルセルブサック賞・ロックフェルSの勝ち馬フィンシャルベオ、英国際Sで4着だったデュークオブマーマレード、プリンスオブウェールズS4着以来の実戦となるレッドロックス、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS3着から直行してきたマラーヘルなど、好調のまま出走してきた馬はいない状態だった。ファロン騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ1.53倍の1番人気、フィンシャルベオが単勝オッズ6倍の2番人気、デュークオブマーマレードが単勝オッズ8.5倍の3番人気、レッドロックスが単勝オッズ11倍の4番人気となった。

スタートが切られるとオブライエン師が用意したペースメーカー役のレッドロックキャニオンが先頭に立ち、これも半ば本馬のペースメーカー役だったデュークオブマーマレードが2番手で、本馬は馬群の中団やや後方に控える競馬となった。そして直線入り口3番手から追い上げて、残り1ハロン地点でデュークオブマーマレードを差し切った。最後は2着デュークオブマーマレードに1馬身半差をつけて勝利を収め、1976年の同競走創設以来史上初の2連覇を達成した。同競走史上初の3連覇を達成したファロン騎手は本馬を「私が今までに乗った中でも最高の馬です」と賞賛した。

次走は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。本馬を破った英国際Sから直行してきたオーソライズド、愛ダービーを9馬身差で圧勝し前哨戦のニエル賞も勝ってきたノアイユ賞・チェスターヴァーズの勝ち馬で同厩のソルジャーオブフォーチュン、パリ大賞の勝ち馬でニエル賞3着のザンベジサン、アスタルテ賞・ヴェルメイユ賞・オペラ賞・コリーダ賞の勝ち馬でサンクルー大賞・ナッソーS・フォワ賞2着の前年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬マンデシャ、ゲルリング賞・シャンティ大賞・ラインラントポカルと3連勝中のサデックス、直前に故障して回避したマンデュロの代役として出走してきたケルゴルレイ賞・リューテス賞の勝ち馬ゲッタウェイ、ニエル賞で2着してきたパリ大賞3着馬サガラ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS2着後に出走したバーデン大賞では4着だったユームザイン、前年の愛ダービーで本馬の4着に敗れた後は全体的に今ひとつだったドラゴンダンサーなどが対戦相手となった(日本から参戦予定だったウオッカとメイショウサムソンの2頭はいずれも回避した)。凱旋門賞は3歳馬と古馬の斤量差が大きいため、古馬よりも3歳馬のほうが優勢(実際に過去20年間で3歳馬が14勝していた)と判断され、オーソライズドが単勝オッズ2.1倍の1番人気、ソルジャーオブフォーチュンが単勝オッズ4.33倍の2番人気で、ファロン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ6.5倍の3番人気に留まった。また、数日前からの悪天候により馬場状態が悪化しており、陣営がそれを懸念していた事も人気を落とす一因となっていたようである。

スタートが切られると、オブライエン師が用意したペースメーカー役のソングオブハイアワサとイエローストーンの2頭が先頭を引っ張り、その2頭を見るようにソルジャーオブフォーチュンが3~4番手につけた。一方の本馬は後方4番手を走り、オーソライズドは異常に行き脚が悪く最後方からの競馬となっていた。そのままの態勢で直線に入ると、本馬は馬群の外側を通って豪快に伸びてきた。残り300m地点で右側に斜行して、ザンベジサンの進路と交差する場面があったが、ファロン騎手は構わずに本馬を追い続けた。残り200m地点で内埒沿いを走っていたソルジャーオブフォーチュンに並びかけて前に出たが、その際にもソルジャーオブフォーチュンの進路と一瞬交差する場面があった。ソルジャーオブフォーチュンをかわして先頭に立った本馬を目掛けて後方からユームザイン、サガラ、ゲッタウェイなどの人気薄勢が強襲してきた。特にユームザインが残り200m地点から繰り出した末脚は素晴らしく、本馬をかわすほどの勢いだった。最後はユームザインに頭差まで迫られたが何とか凌いでトップゴールを果たした。

しかし馬群を抜け出す際に、5位入線のソルジャーオブフォーチュンと8位入線のザンベジサンの進路を妨害したのではないかとして、30分間に及ぶ審議が行われた。なお、日本の資料においては、この審議対象はソルジャーオブフォーチュンだったとなっているが、レーシングポスト紙の基礎資料ではザンベジサンが審議対象となっており、ソルジャーオブフォーチュンに関しては記載が無い。両馬とも審議対象ではあったようだが、メインはザンベジサンであり、実際に映像を見ても不利を受けた程度はザンベジサンのほうが遥かに大きいと思われる。最後は一応到達順位の通り確定し、1995年のラムタラ以来12年ぶり史上6頭目の同一年キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・凱旋門賞ダブル制覇(古馬としては1958年のバリモス以来49年ぶり史上3頭目)を達成し、オブライエン師も凱旋門賞初勝利となったが、この決着に関しては異論も多く、何とも後味が悪い結果になった。

汚名返上を期して本馬は再度米国に渡り、モンマスパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)にムルタ騎手とコンビを組んで参戦。ターフクラシックS・ユナイテッドネーションズS2回・ターフクラシック招待S2回・ヴァージニアダービーの勝ち馬でセクレタリアトS・ターフクラシック招待S・マンハッタンH・ソードダンサー招待H2着の米国芝王者イングリッシュチャンネル、愛チャンピオンS4着から直行してきた前年優勝馬レッドロックス、3年前のBCターフを筆頭にソードダンサー招待H・ユナイテッドネーションズS・マンノウォーS・マンハッタンH・ニッカーボッカーH・ディキシーS・スカイクラシックSを勝ち前年のBCターフで2着していた8歳馬ベタートークナウ、ソードダンサー招待Sの勝ち馬でマンノウォーS3着のグランドクチュリエ、セクレタリアトSの勝ち馬で仏ダービー3着のシャムディナンなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、イングリッシュチャンネルが単勝オッズ4倍の2番人気、レッドロックスが単勝オッズ6.6倍の3番人気、ベタートークナウが単勝オッズ9.1倍の4番人気となった。

レースではスタートで後手を踏んでしまい、ムルタ騎手が少し追って位置取りを上げて、馬群の中団やや後方につけた。そして三角から四角にかけて上がっていこうとしたが、反応がかなり悪く、位置取りを上げきれないまま4番手で直線を向くことになった。そして直線でも伸びずに、勝ったイングリッシュチャンネルから8馬身3/4差の5着に大敗。前年のジョッキークラブ金杯でも惨敗しており、本馬は米国で結果を残す事は出来なかった。

その後は引退して種牡馬入りする予定だったが、ジャパンCに招待されたため参戦を受諾、来日した。ところが来日後の検査で馬ウイルス性動脈炎(EVA)の陰性が確認できなかったため、日本と愛国両国間の衛生条件上の輸入規定により、日本への入国が許可されず、ジャパンC参戦が出来なくなってしまった。これは、欧州では種牡馬入りする際にEVAのワクチン接種が義務付けられており、元々BCターフ後に引退予定だった本馬は既にワクチン接種していたために陽性反応が出たものであった。

わざわざ東洋まで来て何もせずには帰れない本馬は、急遽香港に向かい、香港ヴァーズ(香GⅠ・T2400m)に参戦。香港競馬会は、本馬のEVA陽性反応はワクチン接種によるものであり、レース出走に問題はないという柔軟な対応を取った(香港競馬会と大きく異なる日本中央競馬会のお役所的対応に批判が出たのは言うまでもない)。BCターフで3着だったレッドロックス、本馬が勝ったこの年のガネー賞3着後に頭角を現してマンノウォーSを勝ちシンガポール航空国際C・アーリントンミリオン・英チャンピオンSで各3着していたドクターディーノ、バーデン大賞・ドバイシティオブゴールドの勝ち馬で加国際S3着のキハーノ、香港ダービー馬ヴァイタルキングなどが対戦相手となった。ムルタ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気、レッドロックスが単勝オッズ6.8倍の2番人気、ドクターディーノが単勝オッズ8.75倍の3番人気となった。しかしレースでは、臨戦過程の悪さに加えて、スタートの出遅れ、道中の不利など悪条件が重なり、直線入り口10番手から辛うじて7着まで追い上げてくるのが精一杯だった。本馬より4馬身3/4差ほど前でゴールして勝利したのはドクターディーノだった。

このレースを最後に4歳時10戦5勝の成績で競走馬を引退した。香港ヴァーズの数日前に発表された欧州競馬の年度表彰カルティエ賞においては、年度代表馬・最優秀古馬を受賞した。

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSは対戦相手の層が薄かったし、凱旋門賞はかなり後味が悪い結果ではあったが、それでも重い斤量を課せられる古馬になってこの2競走を制した事実には変わりが無く、「British Horseracing Authority(英国競馬統括機構)」のアンドリュー・スコット氏は、2000年以降の欧州競馬においてはトップクラスの名中距離馬であったと評している。

馬名は、英国ウェールズの詩人ディラン・トーマス(英語圏では20世紀で最も偉大な詩人の一人に数えられるが、過度の飲酒が原因で早世した)に由来すると思われるが、本馬とディラン・トーマスのいずれを紹介した海外の資料にも明記されていないため、筆者は確証を得ることが出来なかった。

血統

デインヒル Danzig Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Pas de Nom Admiral's Voyage Crafty Admiral
Olympia Lou
Petitioner Petition
Steady Aim
Razyana His Majesty Ribot Tenerani
Romanella
Flower Bowl Alibhai
Flower Bed
Spring Adieu Buckpasser Tom Fool
Busanda
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Lagrion Diesis Sharpen Up エタン Native Dancer
Mixed Marriage
Rocchetta Rockefella
Chambiges
Doubly Sure Reliance Tantieme
Relance
Soft Angels Crepello
Sweet Angel
Wrap It Up Mount Hagen Bold Bidder Bold Ruler
High Bid
Moonmadness Tom Fool
Sunset
Doc Nan Francis S. Royal Charger
Blue Eyed Momo 
Betty W. Mossborough
Doniazade

デインヒルは当馬の項を参照。

母ラグリオンは現役時代14戦したが未勝利。しかし繁殖牝馬としては非常に優秀で、2歳戦を圧倒的な強さで勝ち進んで2001年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたが3歳以降は肺の病気で1戦のみに終わった5戦無敗の本馬の半姉クイーンズロジック(父グランドロッジ)【チェヴァリーパークS(英GⅠ)・ロウザーS(英GⅡ)・クイーンメアリーS(英GⅢ)・フレッドダーリンS(英GⅢ)】、半妹ホームカミングクイーン(父ホーリーローマンエンペラー)【英1000ギニー(英GⅠ)・レパーズタウン1000ギニートライアル(愛GⅢ)】を産んでいる。クイーンズロジックの子にはレディオブザデザート【ロウザーS(英GⅡ)・ダイアデムS(英GⅡ)・プリンセスマーガレットS(英GⅢ)】が、本馬の半妹リメンバーウェン(父デインヒルダンサー)の子にはウエディングヴァウ【キルボイエステイトS(愛GⅡ)】がいる。ラグリオンの母ラップイットアップの半姉ギフトラップドの子には本邦輸入種牡馬リーチ【ロイヤルロッジS(英GⅡ)】、孫にはペイパーリング【リディアテシオ賞(伊GⅡ)】がいるが、近親には活躍馬があまり見当たらない。ラグリオンの8代母レディアメリカスはアメリカスガール(レディジョセフィンの母で、ムムタズマハルの祖母)の全妹であるが、さすがにここまで来ると近親とは言えない。→牝系:F9号族③

母父ダイイシスは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は愛国のクールモアスタッドで種牡馬入りした。豪州クールモア・オーストラリアにもシャトルされている。当初の産駒成績は寒かったが、2013年の暮れ辺りから少しずつ実績を上げてきている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2009

Blazing Speed

クイーンエリザベスⅡ世C(香GⅠ)・香港スチュワーズC・香港チャンピオンズ&チャターC・香港ジョッキークラブC(香GⅡ)

2009

Captain Cat

ソヴリンS(英GⅢ)・スペリオールマイル(英GⅢ)

2009

Dylan's Promise

ベッティングワールドオークス(南GⅡ)・ゴールドサークスS(南GⅡ)

2009

Furner's Green

レパーズタウン2000ギニートライアルS(愛GⅢ)

2009

Nymphea

ベルリン大賞(独GⅠ)

2009

Tannery

EPテイラーS(加GⅠ)・シープスヘッドベイS(米GⅡ)・キルボイエステイトS(愛GⅢ)

2010

Not Listenin'tome

ゼディタブS(豪GⅢ)

2010

Pether's Moon

コロネーションC(英GⅠ)・ボスフォラスC(土GⅡ)・グロリアスS(英GⅢ)・カンバーランドロッジS(英GⅢ)

2010

Porsenna

リボー賞(伊GⅡ)

2011

Dylan Mouth

伊ジョッキークラブ大賞(伊GⅠ)・ミラノ大賞(伊GⅠ)・ローマ賞(伊GⅠ)・伊ダービー(伊GⅡ)・フェデリコテシオ賞(伊GⅡ)2回・カルロダレッシオ賞(伊GⅢ)

2011

Final Score

リディアテシオ賞(伊GⅠ)・伊オークス(伊GⅡ)

2012

Nightflower

オイロパ賞(独GⅠ)・独オークストライアル(独GⅡ)

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