ダイイシス
和名:ダイイシス |
英名:Diesis |
1980年生 |
牡 |
栗毛 |
父:シャーペンアップ |
母:ダブリーシュア |
母父:リライアンス |
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ミドルパークSとデューハーストSを両方勝った過去100年間で唯一の馬は全兄クリスと共にエタン直系の血を後世に広める功労馬となる |
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競走成績:2・3歳時に英で走り通算成績5戦3勝2着1回(異説あり) |
誕生からデビュー前まで
全兄クリスの生産・所有者でもあった第9代ハワード・デ・ウォルデン男爵ジョン・スコット・エリス卿により生産された英国産馬で、サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラ王子の所有馬となり、クリスも管理した英国ヘンリー・セシル調教師に預けられた。主戦はレスター・ピゴット騎手が務めた。
競走生活(2歳時)
2歳8月にニューマーケット競馬場で行われたライズジェンキンズ&スタンディングS(T6F)でデビューし、7馬身差で勝ち上がった。翌月に出走した2戦目のミドルパークS(GⅠ・T6F)では、単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持された。そして、まるで単走のようにも見えたと評されるほど楽々と走って、2着オリシコに2馬身半差をつけて完勝した。
さらに翌月に出走した3戦目のデューハーストS(GⅠ・T7F)には、大物の誉れ高いゴライタスも参戦してきた。ディック・ハーン厩舎所属のゴライタスは、英国三冠馬ニジンスキーと、英1000ギニー馬グラッドラグズの間に産まれた良血馬で、デビュー戦のエイコムSを7馬身差で、2戦目の英シャンペンSを5馬身差で勝利してきた2戦無敗の素質馬であり、このレースでも単勝オッズ1.5倍という断然の1番人気に支持されていた。しかし結果は、単勝オッズ3倍の2番人気だった本馬が、道中最後方から強烈な末脚を繰り出して、2着となった単勝オッズ34倍の3番人気馬ゴーディアンに5馬身差、3着となった単勝オッズ201倍の最低人気馬タフコマンダーにさらに2馬身差をつけて圧勝した。
ミドルパークSとデューハーストSを1頭の馬が両方勝つというのは、20世紀初頭までは時々見受けられたが、1909年のレンベルグを最後に長らく出ておらず、本馬のそれはなんと73年ぶりの快挙であった。そして本馬以降にこの2競走を両方勝った馬は2015年現在1頭も出ていないから、過去100年間で本馬のみという事になる。
一方、タフコマンダーからなんと30馬身差の4着最下位に終わったゴライタスに関しては、そのあまりに不可解な惨敗ぶりとレース後の様子(レース直後は消耗しきっていたが、24時間後にはすっかり回復していた)などから、何者かに薬物を投与されて体調を崩していた疑いが浮上したために大騒ぎとなった。様々な憶測が流れ、英国ジョッキークラブも調査に乗り出したが、結局真相は明らかにならなかった。しかし現在もこのレースでゴライタスは薬物を盛られていたのだと広く信じられているようである。
それはともかくとして、本馬は2歳時3戦全勝の成績で、英最優秀2歳牡馬に選出された。
競走生活(3歳時)
本馬が3歳を迎えた冬から春にかけては、英国中が非常に厳しい寒気と湿気に見舞われていた。そのため、セシル師を始めとする多くの調教師が管理馬の体調管理に悪戦苦闘した。本馬も体調を崩してしまい、さらに4月上旬には跛行を起こしてしまった。それでもぶっつけ本番で参戦した英2000ギニー(GⅠ・T8F)では、やはりぶっつけ本番ながら事前の調教で優れた動きを見せていたゴライタス、クレイヴンSを勝ってきたムスカタイト、米国三冠馬シアトルスルーの半弟であるグラッドネスSの勝ち馬ロモンド、後にこの年のアーリントンミリオンを勝利するトロメオなどを抑えて、単勝オッズ4.33倍の1番人気に支持された。そしてゴライタスが単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。しかし結果は単勝オッズ10倍のロモンドが優勝し、本馬は16頭立ての8着、ゴライタスは本馬には先着したものの、ロモンドから3馬身半差の5着に終わった。
その翌月のヘロンS(T7F)では、単勝オッズ1.33倍という断然の1番人気に支持されながらも、ザノーブルプレイヤーの3/4馬身差2着に敗退。このレースを最後に3歳時2戦未勝利の成績で競走馬を引退した。
なお、本馬の競走成績は資料によって異なり、6戦3勝(2歳時にデビュー戦で5着に負けた後に3連勝したとする説)とするものや、7戦4勝(残り1勝は何なのか不明)とするものもある。そんなに大昔の馬でもないのに、競走成績に異説があるというのも不可解な話である。本馬の2歳時に関しては大半の海外の資料で無敗だったと記されている(6戦3勝説は日本の資料でしか見かけなかった)ため、本項では5戦3勝説を採用した。
馬名に関して
馬名は、通称「二重短剣符(ダブルダガー)」として知られる、書籍などで脚注をあらわす記号の「‡」のことである。日本では、伊国語で「#(音楽の楽譜で使用される半音上げる変化記号のシャープ)」という意味であるという説が言われているようである。しかし“Diesis”が伊国語で「#」を意味するのは事実だが、本馬は英国産の英国調教馬である上に、馬主のアブドゥッラ王子は自身の所有馬に英語名を付けることがほとんど(ダンシングブレーヴなど)であるから、本馬の名前も伊国語ではなく英語であると考えるのが妥当であろう。
血統
Sharpen Up | エタン | Native Dancer | Polynesian | Unbreakable |
Black Polly | ||||
Geisha | Discovery | |||
Miyako | ||||
Mixed Marriage | Tudor Minstrel | Owen Tudor | ||
Sansonnet | ||||
Persian Maid | Tehran | |||
Aroma | ||||
Rocchetta | Rockefella | Hyperion | Gainsborough | |
Selene | ||||
Rockfel | Felstead | |||
Rockliffe | ||||
Chambiges | Majano | Deiri | ||
Madgi Moto | ||||
Chanterelle | Gris Perle | |||
Shah Bibi | ||||
Doubly Sure | Reliance | Tantieme | Deux-Pour-Cent | Deiri |
Dix Pour Cent | ||||
Terka | Indus | |||
La Furka | ||||
Relance | Relic | War Relic | ||
Bridal Colors | ||||
Polaire | Le Volcan | |||
Stella Polaris | ||||
Soft Angels | Crepello | Donatello | Blenheim | |
Delleana | ||||
Crepuscule | Mieuxce | |||
Red Sunset | ||||
Sweet Angel | Honeyway | Fairway | ||
Honey Buzzard | ||||
No Angel | Nasrullah | |||
Fair Angela |
父シャーペンアップは当馬の項を参照。
母ダブリーシュアは現役成績5戦未勝利だが、繁殖牝馬としては本馬の全兄クリス【サセックスS(英GⅠ)・セントジェームズパレスS(英GⅡ)・クリスタルマイル(英GⅡ)・クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅡ)・ロッキンジS(英GⅡ)・ホーリスヒルS(英GⅢ)・グリーナムS(英GⅢ)・チャレンジS(英GⅢ)】、全弟キーン(種牡馬としてウッドワードS・ジョッキークラブ金杯の勝ち馬リヴァーキーンを輩出)、半弟ルディメンタリー(父ヌレイエフ)【トラストハウスフォルテマイル(英GⅡ)】などを産んで成功した。本馬の半姉プリス(父プリアモス)の子にはプリズマティック【ロッキンジS(英GⅡ)】、パーペンディキュラー【プリンスオブウェールズS(英GⅡ)・ドイツ統一賞(独GⅢ)】がいる。
ダブリーシュアの母ソフトエンジェルスは現役成績6戦2勝。勝ち星はロイヤルロッジS・プリンセスマーガレットSと、いずれも2歳戦だった。ソフトエンジェルスの半兄にはスウィートモス【ディーS・ダンテS・ゴードンS】、半弟にはスカーリー【カンバーランドロッジS】がいる。ソフトエンジェルスの母スウィートエンジェルの半妹バリーズミルの玄孫にはカウントデュボワ【伊グランクリテリウム(伊GⅠ)】、インディアンヘイヴン【愛2000ギニー(愛GⅠ)】がいる。→牝系:F2号族③
母父リライアンスは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は、エリス卿が所有する英国ソーントンスタッドで種牡馬入りしていたクリスと異なり、米国ケンタッキー州ミルリッジファームで種牡馬入りした。その理由は、父シャーペンアップが1981年から米国ケンタッキー州ゲインズウェイファームに移動して種牡馬生活を続けていた(エリス卿もシャーペンアップの種牡馬シンジケートの一員となっていた)こと、クリスと同血統の種牡馬をエリス卿がもう1頭所有していてもそれほど意味がないこと、本馬の直系先祖は米国の歴史的名馬ネイティヴダンサーだったために米国に回帰させる目的があったことなどが考えられる。初年度の種付け料は3万5千ドルに設定された(同年におけるシャーペンアップの種付け料は5万ドル)。
本馬は種牡馬として大きな成功を収め、クリスとともに父シャーペンアップの血を大きく広げる大活躍を示した。自身の競走成績から産駒は早熟短距離傾向が強いかと思われたが、産駒は成長力もあり、ある程度長い距離でも走った。また、米国で種牡馬生活を送った割には産駒の大半が欧州で活躍しており、芝向きの傾向が強かった。2006年に6頭の繁殖牝馬と交配(4頭が受胎)したのを最後に、種牡馬を引退。同年11月に繋養先のミルリッジファームで腰骨を骨折したために26歳で安楽死の措置が執られた。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
1985 |
英オークス(英GⅠ)・愛オークス(愛GⅠ)・ヨークシャーオークス(英GⅠ)・フィリーズマイル(英GⅡ)・チェリーヒントンS(英GⅢ)・ムシドラS(英GⅢ) |
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1986 |
Kerrera |
チェリーヒントンS(英GⅢ) |
1987 |
Daarik |
レッドバンクH(米GⅢ) |
1987 |
Elmaamul |
エクリプスS(英GⅠ)・愛チャンピオンS(愛GⅠ) |
1987 |
Enharmonic |
エッティンゲンレネン(独GⅢ)・ダイオメドS(英GⅢ) |
1987 |
Keen Hunter |
アベイドロンシャン賞(仏GⅠ) |
1987 |
Pharian |
ランカシャーオークス(英GⅢ) |
1987 |
Rootentootenwooten |
デモワゼルS(米GⅠ) |
1988 |
Knifebox |
ローマ賞(伊GⅠ)・ドラール賞(仏GⅡ)・セレクトS(英GⅢ)2回・ラクープドメゾンラフィット(仏GⅢ)・ローズオブランカスターS(英GⅢ) |
1989 |
Diese |
コリーダ賞(仏GⅢ) |
1989 |
Pollen Count |
ユジェーヌアダム賞(仏GⅡ)・サンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ)・ハンガーフォードS(英GⅢ)・クインシー賞(仏GⅢ) |
1989 |
Suivi |
デルマーオークス(米GⅡ) |
1990 |
Husband |
ロスマンズ国際S(加GⅠ) |
1990 |
Marillette |
メイヒルS(英GⅢ)・ムシドラS(英GⅢ) |
1991 |
Eternal Reve |
愛メイトロンS(愛GⅢ) |
1991 |
Gneiss |
ジャージーS(英GⅢ) |
1991 |
エクリプスS(英GⅠ)2回・英国際S(英GⅠ)2回・イスパーン賞(仏GⅠ)・ケンブリッジシャーH |
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1992 |
Jahid |
レパーズダウンS(愛GⅢ) |
1992 |
Look Daggers |
ラトガーズH(米GⅢ) |
1993 |
Defacto |
ヤングアメリカS(米GⅢ) |
1993 |
Storm Trooper |
ハリウッドパークターフH(米GⅠ) |
1993 |
Wixim |
サンダウンマイル(英GⅡ) |
1993 |
スギノハヤカゼ |
スワンS(GⅡ)・CBC賞(GⅡ)・アーリントンC(GⅢ)・中日スポーツ賞四歳S(GⅢ) |
1993 |
マルカダイシス |
鳴尾記念(GⅡ) |
1994 |
Marathon |
ミュゲ賞(仏GⅡ)・クインシー賞(仏GⅢ)・エドモンブラン賞(仏GⅢ) |
1995 |
Altibr |
キーンランドターフマイルS(米GⅡ)・ドバイデューティーフリー(首GⅢ) |
1995 |
Barbola |
エクスビュリ賞(仏GⅢ) |
1995 |
Daggers Drawn |
リッチモンドS(英GⅡ)・英シャンペンS(英GⅡ) |
1995 |
Docksider |
ベルリンブランデンブルクトロフィー(独GⅡ)・香港マイル(香GⅡ)・ローランペリエマイレ(独GⅢ) |
1995 |
Duck Row |
キヴトンパークS(英GⅢ) |
1996 |
Ramruma |
英オークス(英GⅠ)・愛オークス(愛GⅠ)・ヨークシャーオークス(英GⅠ) |
1997 |
Diadella |
カナディアンS(加GⅡ) |
1997 |
Love Divine |
英オークス(英GⅠ) |
1997 |
Mahfooth |
シュマンドフェルデュノール賞(仏GⅢ) |
1997 |
Quality Team |
カラーC(愛GⅢ) |
1997 |
Sacred Song |
プリンセスロイヤルS(英GⅢ)・ランカシャーオークス(英GⅢ) |
1997 |
Warm Heart |
ノーフォークS(英GⅢ) |
1999 |
Continuously |
ハリウッドターフCS(米GⅠ) |
2000 |
Colorful Judgement |
スカイクラシックH(加GⅡ) |
2000 |
Magistretti |
マンノウォーS(米GⅠ)・ダンテS(英GⅡ) |
2000 |
Sea Dart |
愛国際S(愛GⅡ) |
2001 |
Eleusis |
ロングアイランドH(米GⅡ) |
2001 |
Three Valleys |
デルマーBCH(米GⅡ)・コヴェントリーS(英GⅢ)・オーシャンポートS(米GⅢ) |
2003 |
All the Good |
コーフィールドC(豪GⅠ)・エボアH |
2003 |
New Girlfriend |
ロベールパパン賞(仏GⅡ)・セーネワーズ賞(仏GⅢ) |
2005 |
Magical Fantasy |
デルマーオークス(米GⅠ)・ゲイムリーS(米GⅠ)・ジョンCメイビーH(米GⅠ)・イエローリボンS(米GⅠ)・サンタバーバラH(米GⅡ) |
2006 |
Debussy |
アーリントンミリオン(米GⅠ)・ユジェーヌアダム賞(仏GⅡ)・ハクスレイS(英GⅢ) |
2006 |
King of Sydney |
ヘンケルトロフィー(独GⅡ) |