フェイヴァリットトリック

和名:フェイヴァリットトリック

英名:Favorite Trick

1995年生

黒鹿

父:フォーントリック

母:エイヴィルエレーン

母父:メディヴァルマン

2歳時8戦全勝の成績で2歳にしてエクリプス賞年度代表馬に選ばれた早熟の天才の最期は牧場の火事で焼死するという悲劇的なものだった

競走成績:2・3歳時に米で走り通算成績16戦12勝3着1回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州ウィンターグリーンファームにおいて、マックス・ウッド氏とシルヴィア・ウッド夫人の夫婦により生産された。2歳2月のセリにおいて、パトリック・B・バーン調教師により見出され、それまでは他者と共同で馬を所有する事が殆どだった米国の事業家ジョセフ・P・ラコンブ氏の単独所有馬となり、バーン師の管理馬となった。主戦は一貫してパット・デイ騎手で、本馬の全レースに騎乗している。

競走生活(2歳時)

仕上がりが早いフォーントリック産駒らしく本馬もデビューはかなり早く、2歳4月にキーンランド競馬場で行われたダート4.5ハロンの未勝利戦がデビュー戦となり、単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。スタート直後は2~3番手につけると、直線入り口では先頭に立ち、そのまま押し切って、2着となった単勝オッズ2.9倍の2番人気馬ブライトノヴァに1馬身半差で勝利した。

翌5月初めにチャーチルダウンズ競馬場で出走した次走は、前走から少し距離が伸びたスリーチムニーズジュヴェナイル(D5F)となった。ここでは、未勝利戦を8馬身差で勝ってきたジェスエムが単勝オッズ3.2倍の1番人気、未勝利戦を5馬身半差で勝ってきたワールドシリーズが単勝オッズ4.7倍の2番人気、未勝利戦を3馬身半差で勝ってきたダブニーカーが単勝オッズ5.4倍の3番人気と、前走楽勝組が人気を集めており、本馬は単勝オッズ8倍の4番人気だった。ここでもスタート後はしばらく3~4番手辺りで様子を見ていたが、四角で単勝オッズ29.4倍の8番人気馬カウボーイダンと一緒に先頭に立った。ここから後続馬を7馬身も引き離す2頭の一騎打ちが始まり、最後は本馬がカウボーイダンを首差の2着に抑えて勝利した。カウボーイダンはこのレースでは人気薄だったが、後にアーリントンワシントンフューチュリティを勝っており、決して弱い馬ではなかった。ちなみにこのレースで人気を集めた3頭は全て着外だった。

その後も距離適性を確かめるかのように、少しずつ距離を伸ばしてレースに出走していく。

3戦目は5月末にチャーチルダウンズ競馬場で行われたケンタッキーBCS(D5.5F)となった。ここでは、前走で8着に終わっていたジェスエム、未勝利戦を5馬身半差で勝ってきたセルラートゥー、後のスワップスS・デルマーBCH・カリフォルニアンSの勝ち馬オールドトリエステなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.4倍の1番人気、ジェスエムが単勝オッズ2.6倍の2番人気、セルラートゥーが単勝オッズ5.1倍の3番人気、オールドトリエステが単勝オッズ10.9倍の4番人気となった。ここでも本馬は馬群の4番手辺りの好位につけて慎重にレースを進め、四角で一気に位置取りを上げて先頭に躍り出た。あとは後続馬を引き離す一方で、2着ジェスエムに8馬身半差をつけて圧勝した。

4戦目は6月末にチャーチルダウンズ競馬場で行われたバッシュフォードマナーS(GⅢ・D6F)となった。スリーチムニーズジュヴェナイルから直行してきたカウボーイダン、後のウィザーズSの勝ち馬ダイスダンサー、後のサプリングSの勝ち馬ダブルオナー、後のフロリダダービーの勝ち馬ケープタウンなどが対戦相手となった。しかし前走の勝ち方からしてもこの時点で本馬に対抗できそうな馬はおらず、他馬勢より3~8ポンド斤量が重い121ポンドの本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持され、118ポンドのカウボーイダンが単勝オッズ6.9倍の2番人気、115ポンドのダイスダンサーが単勝オッズ8.3倍の3番人気、115ポンドのダブルオナーが単勝オッズ9倍の4番人気となった。本馬はここでも2~3番手につける優等生的な競馬を見せた。そして直線入り口で先頭のダブルオナーに並びかけると一気に突き放し、最後は2着ダブルオナーに4馬身半差をつけて圧勝した。

ケンタッキー州で4戦全勝の成績を残した本馬はニューヨーク州に移動。次走は8月のサラトガスペシャルS(GⅡ・D6.5F)となった。対戦相手は、ハリウッドジュヴェナイルCSS勝ちなど3戦無敗のケーオーパンチ、コリンSを4馬身差で快勝してきたケースディスミスドなど4頭のみだった。本馬が他馬勢より3~8ポンド重い122ポンドの斤量ながらも単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、119ポンドのケーオーパンチが単勝オッズ3.05倍の2番人気、114ポンドのケースディスミスドが単勝オッズ6.3倍の3番人気となった。本馬にとっては初となる重馬場の中でスタートが切られると、出走馬5頭中4頭が固まって先行し、その中で本馬は3番手につけた。そして直線に入ると悠々と抜け出し、2着ケースディスミスドと3着ケーオーパンチの首差接戦を尻目に、3馬身半差で快勝した。

次走は8月末のホープフルS(GⅠ・D7F)となった。デビュー2連勝中のコロナドズクエスト、ケーオーパンチ、後のペガサスHの勝ち馬トゥモローズキャットなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.45倍の1番人気、コロナドズクエストが単勝オッズ4.65倍の2番人気、ケーオーパンチが単勝オッズ7.1倍の3番人気、トゥモローズキャットが単勝オッズ11.3倍の4番人気となった。ここでも本馬のレースぶりは4番手の好位につけて直線で抜け出すという、憎らしいまでの近代的な走りだった。直線ではケーオーパンチが追いすがってきたのだが、影は踏ませなかった。最後は2着ケーオーパンチに1馬身半差をつけて完勝し、GⅠ競走初勝利を挙げた。

ここまでは慎重に半ハロンずつ距離を延ばしてきていたが、今度は11月のBCジュヴェナイルを見据えて、BCジュヴェナイルと同距離で行われる10月のブリーダーズフューチュリティ(GⅡ・D8.5F)に出走した。ケンタッキーカップジュヴェナイルSを5馬身半差で圧勝してきたレイダウン、ケンタッキーカップジュヴェナイルS2着のタイムリミットなど4頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、レイダウンが単勝オッズ3.3倍の2番人気、タイムリミットが単勝オッズ8.3倍の3番人気となった。タイムリミットとレイダウンの2頭を先に行かせた本馬は、ここでも3番手の好位を追走。そして直線に入ると例によって悠々と抜け出し、2着タイムリミットと3着レイダウンの首差接戦を尻目に、3馬身差で完勝した。

そして本馬は今まで主戦場だったケンタッキー州やニューヨーク州を離れて、ブリーダーズカップが行われるカリフォルニア州ハリウッドパーク競馬場へ向かい、最大目標のBCジュヴェナイル(GⅠ・D8.5F)に登場した。本馬の強さを恐れたのか例年以上に回避馬が多く、対戦相手は、ベルモントフューチュリティS・シャンペンSとGⅠ競走を2連勝してきたグランドスラム、デルマーフューチュリティ・ノーフォークSを連勝してきたスーヴェニアコピー、タイムリミット、バッシュフォードマナーS2着後にサプリングSを勝っていたダブルオナー、未勝利戦を5馬身半差で勝ってきたジョンビル、8戦未勝利2着5回3着2回のナショナロー、加国のGⅢ競走グレイBCSで2着してきたドーソンズレガシーの7頭のみであり、現在でもBCジュヴェナイル史上最少記録タイとして残っている8頭立てとなった。過去の実績などからしても、このレースで本馬に対抗できそうなのはグランドスラム、スーヴェニアコピーの2頭だけなのは一目瞭然であり、本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気、グランドスラムが単勝オッズ3倍の2番人気、スーヴェニアコピーが単勝オッズ3.8倍の4番人気で、圧勝とは言え未勝利戦を勝っただけのジョンビルが単勝オッズ14.9倍の4番人気と、完全なる3強対決ムードだった。

スタートが切られるとまずは単勝オッズ35.6倍の5番人気馬タイムリミットが先頭に立ち、単勝オッズ79倍の最低人気馬ドーソンズレガシーが2番手、本馬が3番手、スーヴェニアコピーとグランドスラムの2頭は共に中団につけた。馬群が最初のコーナーを回る際に、何頭かが接触する事故があり、対抗馬の1頭グランドスラムはここで負傷しながらレースを続けた。各馬そのままの位置取りでレースは進んでいき、三角手前で本馬が動いて内側から先頭に並びかけていった。対抗馬のうちスーヴェニアコピーは本馬を追いかけて上がってきたが、負傷していたグランドスラムは走り方がおかしくなり、直線に入ったところで競走を中止(生命には別状なく、その後も現役を続けている)。一方、三角では既に先頭に立っていた本馬は、直線に入ると、どんどん後続馬を引き離していった。そして最後は2着に粘ったドーソンズレガシーに5馬身半差をつけて圧勝した。

この5馬身半差という着差は、BCジュヴェナイル史上当時最大だった(現在は2006年にストリートセンスが記録した10馬身差、2014年にテキサスレッドが記録した6馬身半差に次ぐ史上3位)。勝ちタイム1分41秒47は、ダート8.5ハロンで施行されたBCジュヴェナイル史上最速だった(現在でも破られていない。2008年の同競走でミッドシップマンが1分40秒94を計時しているが、このときはオールウェザーである)。

この年の本馬は8戦全勝という非の打ち所が無い成績を収め、エクリプス賞最優秀2歳牡馬のタイトルを受賞した。そして、エクリプス賞年度代表馬の選考においても、299票中118票を獲得し、88票で次点だったBCクラシックの勝ち馬スキップアウェイや、ケンタッキーダービー・プリークネスSの勝ち馬シルバーチャームなどを抑えて年度代表馬に選出された。米国の年度表彰がエクリプス賞として行われるようになって以降、2歳で年度代表馬になったのは1972年のセクレタリアト以来25年ぶり2頭目だった。エクリプス賞創設以前を含めても、過去には1893年のドミノ、1900年のコマンド、1907年のコリンの親子三代と、1952年のネイティヴダンサー、1965年の牝馬モカシンしかいない。

本馬の8戦全勝という成績は、米国競馬の2歳一線級においては、ネイティヴダンサーの9戦全勝以降最多の無敗記録だった。2歳時フリーハンデ(エクスペリメンタルフリーハンデ)においては128ポンドの評価であり、セクレタリアトの129ポンドより1ポンドだけ下だったが、近年のエクリプス賞最優秀2歳牡馬の評価はせいぜい126ポンドまでであり、かなり高い評価だった。

そんなわけで、体格、走法、血統、賢さ、カリスマ性、育成環境などあらゆる観点から、本馬とセクレタリアトを比較する議論が各方面で盛んに行われるようになり、本馬はケンタッキーダービーの大本命に挙げられた。本馬にとってケンタッキーダービーは距離が長いのではないかとする意見も散見されたが、セクレタリアトも米国三冠競走前はスタミナの不安を指摘する人がいたくらいだから、本馬の距離不安を指摘する声が大きくなることは無かった。

競走生活(3歳時)

本馬が3歳になった頃、管理していたバーン師が加国の馬主フランク・ストロナック氏の専属調教師になることになったため、本馬はウィリアム・モット厩舎に転厩した。

3歳時は3月にガルフストリームパーク競馬場で行われたスウェイルS(GⅢ・D7F)から始動した。実績的に目立つ馬は他にほとんどおらず、前走の一般競走を6馬身半差で勝ってきたダイアモンドスタッズ、ファーストステートS・グレートナヴィゲーターSとノングレードのステークス競走を2勝していたサザンボストニオンがいるくらいだった。そのため、他馬勢より5~10ポンド重い122ポンドを課せられた本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持され、112ポンドのダイアモンドスタッズが単勝オッズ4.9倍の2番人気となった。スタートが切られると、単勝オッズ14.2倍の4番人気馬サザンボストニオンなどが先頭に立ち、本馬は3~4番手の好位を進んだ。そして直線入り口で先頭に立つと、そのまま押し切って、2着となった単勝オッズ11.8倍の3番人気馬グッドアンドタフに1馬身3/4差で勝利した。

次走のアーカンソーダービー(GⅡ・D9F)では、レベルSを勝ってきたヴィクトリーギャロップ、エルカミノリアルダービーで2着してきたポストアノート、ローレルフューチュリティの勝ち馬ファイトフォーマイレディ、サウスウエストSの勝ち馬ホットウェルズなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、未勝利戦しか勝ち鞍が無かったクエイクが単勝オッズ5.8倍の2番人気、ヴィクトリーギャロップが単勝オッズ8.8倍の3番人気、ポストアノートが単勝オッズ16.2倍の4番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ132.8倍の最低人気馬バトルロワイヤルが先頭に立ち、本馬は直後の2番手につけた。しかし無理矢理に先頭に立ったバトルロワイヤルは早々に失速してしまい、レース中盤で本馬が先頭に押し出されてしまった。そのまま直線に入ってきたのだが、本馬をマークするように追走してきたヴィクトリーギャロップとハヌマーンハイウェイの2頭に並びかけられると競り負けて、勝ったヴィクトリーギャロップから首差の3着に終わり、デビューからの連勝は9で止まってしまった。

それでも僅差の敗戦であり、そう悲観するような内容では無かったため、次走は予定どおりケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)となった。サンタアニタダービーを勝ってきた4戦無敗のインディアンチャーリー、前年のバッシュフォードマナーSで本馬の6着に敗れた後にケンタッキージョッキークラブS・ホーリーブルS・フロリダダービーを勝っていたケープタウン、レムセンS2着・シャンペンS・ファウンテンオブユースS・フロリダダービー3着と堅実な走りが持ち味のブルーグラスSの勝ち馬ハロリーハンター、サンフェリペS・サンタアニタダービーで続けて2着してきたハリウッドフューチュリティの勝ち馬リアルクワイエット、サンタカタリナS・サンフェリペSの勝ち馬でハリウッドフューチュリティ2着・サンタアニタダービー3着のアータックス、ヴィクトリーギャロップ、ハヌマーンハイウェイ、タンパベイダービーの勝ち馬パレードグラウンド、前年のケンタッキーBCSで本馬の7着に敗れた後にノーフォークSで2着していたオールドトリエステなどが対戦相手となった。インディアンチャーリーが単勝オッズ3.7倍の1番人気に支持され、単勝オッズ5.4倍の2番人気となった本馬は、スリーチムニーズジュヴェナイル以来久しぶりに他馬に1番人気の座を明け渡した。ケープタウンが単勝オッズ5.6倍の3番人気、ハロリーハンターが単勝オッズ7.6倍の4番人気、リアルクワイエットが単勝オッズ9.4倍の5番人気と続いていた。

レースではロックアンドロールやオールドトリエステなどが先頭を引っ張り、本馬は4番手の好位を進んだ。三角手前で本馬が仕掛けると、本馬の少し後方にいたインディアンチャーリーやリアルクワイエットなども一斉に仕掛けて上がってきた。しかし本馬の手応えは非常に悪く、リアルクワイエットやインディアンチャーリーに瞬く間に抜き去られてしまった。そして直線に入ってもまるで伸びずに、勝ったリアルクワイエットから12馬身1/4差も離された8着と惨敗してしまった。この敗戦を受けて、プリークネスSやベルモントSは回避する事となった。

その後は2か月半の調整期間を経て、7月にモンマスパーク競馬場で行われたロングブランチBCS(D8.5F)で復帰した。主な対戦相手は、タンパベイダービー2着馬ミドルセックスドライヴ、ホープフルSで本馬から18馬身半差の5着だったトゥモローズキャット、ボブジャクソン記念S・ウッドローンSとノングレードのステークス競走2勝のプールマンなどだった。斤量的には本馬と他馬勢には大差なかった(本馬は斤量トップですらもなかった。トップハンデはプールマンの120ポンドで、本馬は116ポンドの2位だった)。そのために本馬が単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に支持され、112ポンドのミドルセックスドライヴが単勝オッズ7.8倍の2番人気、113ポンドのトゥモローズキャットが単勝オッズ9.8倍の3番人気、プールマンが単勝オッズ12.5倍の4番人気となった。ここでは逃げ馬がいなかったため、スタートから本馬が先頭を走り、トゥモローズキャットがスッポンのように2番手を付いてくるという展開となった。そのまま直線に入っても本馬とトゥモローズキャットの位置関係は最後まで変わらず、本馬が頭差で勝利した。しかしホープフルSで18馬身半差をつけた相手に頭差では、満足できる内容では無かった。

翌8月に出走したジムダンディS(GⅡ・D9F)では、加国の三冠競走クイーンズプレートS・プリンスオブウェールズSを連勝した後に三冠最終戦のブリーダーズSを捨てて向かってきたアーチャーズベイ、ドワイヤーSでコロナドズクエストの3着してきたスキャットマンデュ、一般競走を2連勝してきたデピュティダイアモンド、フラミンゴS2着・ベルモントS5着だったラフィーズマジェスティーなどが対戦相手となった。前走に比べると対戦相手のレベルは上昇していた上に、前走と異なり今回は本馬が119ポンドの最重量(他馬とは3~5ポンドの差)だった。そのために人気はかなり割れたが、それでも本馬が単勝オッズ2.95倍の1番人気に支持され、116ポンドのアーチャーズベイが単勝オッズ3倍の2番人気、116ポンドのスキャットマンデュが単勝オッズ3.9倍の3番人気、114ポンドのデピュティダイアモンドが単勝オッズ10.1倍の4番人気となった。ケンタッキーダービーで大差の14着に沈んでいたロックアンドロールが今回も先頭を飛ばし、スキャットマンデュが2番手、本馬が3番手、かなり離れた4番手にアーチャーズベイとデピュティダイアモンドがつけた。今回の本馬はあまり早い段階で先頭に並びかけることはせず、直線に入るまで仕掛けを我慢した。その間に後方から上がってきたデピュティダイアモンドが先頭を奪ったが、ここでようやく仕掛けた本馬がデピュティダイアモンドに並びかけ、さらに後方から来たラフィーズマジェスティーとの三つ巴の勝負を制して、2着デピュティダイアモンドに鼻差で勝利した。

勝つには勝ったが、このまま9~10ハロンの距離で戦っていくのは困難であると陣営は判断したようで、次走は同月末のキングズビショップS(GⅡ・D7F)となった。対戦相手は、ベイショアSの勝ち馬でウィザーズS3着のリミットアウト、前走で4着だったスキャットマンデュ、アムステルダムSを同着で勝ってきたミントとシークレットファームの2頭などだった。他馬勢より3~8ポンド重い124ポンドの本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、121ポンドのリミットアウトが単勝オッズ3.55倍の2番人気、116ポンドのスキャットマンデュが単勝オッズ7.5倍の3番人気、121ポンドのミントが単勝オッズ10.7倍の4番人気、121ポンドのシークレットファームが単勝オッズ11倍の5番人気となった。しかし本馬はこの短距離戦では先行できずに馬群の中団を追走することになった。さらには直線で進路を失って立ち往生するというちぐはぐなレースぶりで、勝ったシークレットファームから2馬身差の5着に敗れてしまった。

陣営はこの敗戦を受けて、短距離路線も諦め、今度は芝競走に活路を求めた。というわけで、次走は10月のキーンランドBCマイルS(GⅡ・T8F)となった。対戦相手は僅か4頭と少なかったが、ETターフクラシックS・エクスプローシヴビッドHなど4連勝中のジョユーダンスール、アーリントンH・キーンランドBCマイルS・フォースターデイヴHの勝ち馬ワイルドイヴェント、欧州所属時代にロッキンジS2回・香港国際ボウル・キヴトンパークS・スプリームS勝ちなどの実績を挙げた後に米国に移籍してファイアクラッカーBCH・フォースターデイヴH・ロバートFケアリー記念Hを勝っていたソヴィエトラインといった、既に芝で実績を残していた古馬勢が相手だった。ジョユーダンスールが単勝オッズ1.6倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、ワイルドイヴェントが単勝オッズ4.8倍の3番人気、ソヴィエトラインが単勝オッズ9.9倍の4番人気となった。このレースで本馬はスタートから小細工無用で先頭に立ち、そのまま馬群を牽引した。そして直線に入っても脚色は衰えず、そのまま2着ソヴィエトラインに3馬身半差をつけて鮮やかに逃げ切った。

この勝利により芝適性を証明した本馬の目標は、チャーチルダウンズ競馬場で行われるBCマイル(GⅠ・T8F)に確定した。地元米国からは、ハリウッドダービー・ウッドバインマイル・アメリカンH・エルリンコンH・シューメーカーBCマイルS・サンシメオンHの勝ち馬でETターフクラシックS2着のラビーブ、前走で4着だったジョユーダンスール、ジャージーダービー・デルマー招待ダービー・ベストターンS・フォースターデイヴHを勝った後に一昨年のBCマイルを制したがその後の故障により2年近くレースに出られず前月に復帰したばかりだったダホス、アーケイディアH・エルリンコンH・サンフランシスコマイルH・ベイメドウズH・オークツリーBCマイルSの勝ち馬でETターフクラシックS・エディリードH3着のホークスリーヒルなどが、欧州からは、愛2000ギニー・ムーランドロンシャン賞・クイーンエリザベスⅡ世Sの勝ち馬でセントジェームズパレスS2着・仏2000ギニー3着のデザートプリンス、メシドール賞・ロンポワン賞を連勝してきたフライトゥザスターズ、ロッキンジSの勝ち馬でジャックルマロワ賞3着のケープクロス、ムーランドロンシャン賞・クイーンエリザベスⅡ世Sで連続3着してきた仏グランクリテリウム・シェーヌ賞・デズモンドSの勝ち馬セカンドエンパイア、サセックスS・セレブレーションマイル・ジャージーSの勝ち馬でジャックルマロワ賞2着のアマングメンなどが出走してきた。復活を願うファンの応援票も受けた本馬が単勝オッズ3.6倍の1番人気、デザートプリンスが単勝オッズ4倍の2番人気、ラビーブが単勝オッズ4.4倍の3番人気で、この3頭に人気が集まった。

好スタートを切った本馬は前走と同様にすぐさま先頭に立った。そしてフライトゥザスターズやアマングメンなどを引き連れて馬群を引っ張っていたが、向こう正面に入ったところでいきなり上がってきたケープクロスに先頭を奪われてしまい、アマングメンにも抜かれて3番手に下がった。三角に入ったところで仕掛けて先頭を奪い返し、そのまま先頭で直線に入ってきたが、外側から差してきたダホスに抜かれるとそのまま失速してしまい、ホークスリーヒルとの激しい叩き合いを制して勝ったダホスから7馬身半差の8着と完敗。この敗戦により本馬の競走馬としての目標は失われ、3歳時8戦4勝の成績で現役引退となった。

血統

Phone Trick Clever Trick Icecapade Nearctic Nearco
Lady Angela
Shenanigans Native Dancer
Bold Irish
Kankakee Miss Better Bee トリプリケート
S. Bee
Golden Beach Djeddah
Wise Ally
Over the Phone Finnegan Royal Charger Nearco
Sun Princess
Last Wave Bull Lea
Nellie Flag
Prattle Mr. Busher War Admiral
Baby League
Tsumani Cientifico
Ocean Brief
Evil Elaine Medieval Man Noholme Star Kingdom Stardust
Impromptu
Oceana Colombo
Orama
Peaceful Sky Tim Tam Tom Fool
Two Lea
Curly Sky Honeyway
Fragrant View
Distinctive Elaine Distinctive Never Bend Nasrullah
Lalun
Precious Lady Requested
Albania
Jackie Dare Prince Dare Princequillo
Penny Dare
Jacoenda Endeavour
Jaconora

父フォーントリックは3・4歳時に米で走り10戦9勝。3歳2月のデビューから、サンカルロスH(米GⅡ)・ボールドルーラーS(米GⅡ)・トゥルーノースH(米GⅡ)など9連勝を果たしたが、10戦目のトムフールS(米GⅡ)で、後のエクリプス賞最優秀短距離馬グルーヴィから6馬身以上離された2着に敗退。その後の調教中に種子骨を骨折してそのまま引退した。種牡馬としては本馬の他に、1993年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬フォーンチャッター【BCジュヴェナイルフィリーズ(米GⅠ)・オークリーフS(米GⅠ)】、コーラーワン【ドバイゴールデンシャヒーン(首GⅠ)】などを出している。産駒はコーラーワンのような一部例外を除けば2歳戦の活躍が非常に目立っており、典型的な早熟種牡馬である。

フォーントリックの父クレヴァートリックはアイスカペイド産駒で現役成績29戦18勝。ティモニウムフューチュリティ・ドンレオンS・ドラグーンS・マールボロナーサリーS・シュガーボウルH・バチェラーS・トマスDナッシュ記念H・グレーヴセンドHとステークス競走を8勝しているが、全てノングレード競走であり、グレード競走には5回出走してイリノイダービー(米GⅢ)の5馬身差2着が最高成績だった。他にはローレルフューチュリティ(米GⅠ)で3着しているが、勝ち馬スペクタキュラービッドからは20馬身も離されており自慢は出来ない。種牡馬としてもフォーントリックが代表産駒という程度だった。

母エイヴィルエレーンは現役成績30戦4勝、コロナドSに勝っている。本馬の半姉クラフティーアンドエヴィル(父クラフティプロスペクター)の孫にティズフィズ【サンゴルゴーニオH(米GⅡ)】とフュリーカプコリ【プレシジョニストS(米GⅢ)】が、本馬の半妹トリッキーエレイン(父グラインドストーン)の子にフェイヴァリットテイル【ギャラントボブS(米GⅢ)】がいる。しかしエイヴィルエレーンの子孫たち以外に近親には全くと言ってよいほど活躍馬がいない。エイヴィルエレーンの8代母リゼッタの半妹ザリバはモルニ賞・フォレ賞・ジャックルマロワ賞などを勝った名牝で、ザリバの子には凱旋門賞2連覇のコリーダなど多くの一流馬がおり、この辺まで遡って俯瞰すれば活躍馬の名前がぞくぞく出てくるが、いずれにしても本馬の近親とは言えない。→牝系:F9号族②

母父メディヴァルマンは、ユースフルS・セレクトH・フィルモントH勝ちなど21戦7勝。メディヴァルマンの父ノホームは豪州の大種牡馬スターキングダム産駒で、現役成績は41戦12勝。豪州でシャンペンS・エプソムH・コックスプレート・オールエイジドS勝ちなど17戦10勝の成績を挙げて米国に移籍したが、その後は24戦2勝に終わった。引退後はそのまま米国に留まって種牡馬入りし、米最優秀ハンデ牡馬2回のノーダブルなどを出した。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、米国ケンタッキー州ウォルマック国際ファームで種牡馬入りした。しかし産駒成績は不振で、2004年にフロリダ州オカラのクローバーリーフファームに移動。さらに2005年にはニューメキシコ州ホンド近郊のJEHスタリオンステーションに移動。そして11歳になった翌2006年の6月6日、JEHスタリオンステーションで発生した火災に巻き込まれ、一緒に繋養されていた当時24歳のサラトガシックス(2歳時にデルマーフューチュリティなど4戦無敗で引退。種牡馬としては既に40頭のステークスウイナーを輩出していた)、当時12歳のゴーンハリウッド、3頭のクォーターホース種牡馬の合計5頭の種牡馬と共々焼死した(資料には火災の原因は調査中とあるだけで、その後に判明したかは不明)。

悲劇的な最期であったが、晩年はクォーターホース用種牡馬として供用されており、クォーターホースでは活躍馬を数多く出している(サラブレッドのステークスウイナーは16頭)。また、クォーターホースは人工授精での繁殖が認められているため、本馬の死後も保存された精液が活用されているのがせめてもの救いである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2003

Trick's Pic

トゥズラH(米GⅢ)

2004

Datrick

ケンタッキーBCS(米GⅢ)

TOP