スピニングワールド

和名:スピニングワールド

英名:Spinning World

1993年生

栗毛

父:ヌレイエフ

母:インパーフェクトサークル

母父:リヴァーマン

現役最後のレースとなったBCマイルを筆頭に欧米でマイルGⅠ競走5勝を挙げた1990年代を代表する強豪マイラー

競走成績:2~4歳時に仏愛英加米で走り通算成績14戦8勝2着3回3着1回

誕生からデビュー前まで

ヌレイエフや、その代表産駒ミエスクなどを所有していたギリシアの海運王スタヴロス・ニアルコス氏が運営する馬産団体フラックスマン・ホールディングスにより生産された米国産馬で、ニアルコス氏の所有馬として、ヌレイエフやミエスクも手掛けた仏国の名伯楽フランソワ・ブータン調教師に預けられた。

しかし本馬が2歳になって間もなく、ブータン師は心臓発作のために58歳で死去した(肝臓癌を患っていたという)。そのため、本馬を含むブータン師の管理馬は、ジョナサン・ピーズ調教師に引き継がれた。主戦はキャッシュ・アスムッセン騎手で、デビュー2戦目のサンロマン賞以外の全てのレースで騎乗した。また、このサンロマン賞以外に本馬の出走したレースは全てマイル戦だった。

競走生活(3歳前半まで)

2歳10月にロンシャン競馬場で行われたヴィユポン賞(T1600m)でデビューして、2着カシェノワールに3/4馬身差で勝利した。翌月のサンロマン賞(仏GⅢ・T1800m)では、ロシェット賞3着馬ラドヴォール、後のサンタラリ賞勝ち馬ルナウェルズ、トーマブリョン賞でアシュカラニの3着してきたガイテロなどが主な対戦相手となった。ラドヴォールが単勝オッズ2.3倍の1番人気、ルナウェルズが単勝オッズ2.9倍の2番人気、このレースだけ騎乗したオリビエ・ペリエ騎手鞍上の本馬が単勝オッズ3.7倍の3番人気となった。レースでは2~3番手の好位を進み、直線入り口3番手から残り400m地点で先頭に立った。そこへ後方からルナウェルズが追い上げてきたが、その追撃を短首差で抑えて勝利した。2歳時は2戦2勝の成績となった。しかしいずれも僅差での勝利であり、本馬の素質はまだ全開とはいかなかった。

3歳初戦は4月にロンシャン競馬場で行われた、仏2000ギニーの前哨戦フォンテーヌブロー賞(仏GⅢ・T1600m)となった。仏グランクリテリウムの勝ち馬ルーソリテール、トーマブリョン賞など2戦2勝のアシュカラニ、仏グランクリテリウム3着馬エターニティレンジなどが主な対戦相手となった。ルーソリテールが単勝オッズ2.5倍の1番人気、アシュカラニが単勝オッズ3.7倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.6倍の3番人気となった。本馬は道中で3番手を追走し、4番手で直線に入ってきた。しかし後方から来たアシュカラニに瞬く間に置き去りにされ、先行して粘ったエターニティレンジを捕らえることも出来ず、勝ったアシュカラニから4馬身差、2着エターニティレンジからも2馬身半差をつけられて3着に完敗してしまった。

しかもこのレースの5日前にニアルコス氏が86歳で死去していた。ニアルコス氏が所有していた多くの馬達は路頭に迷うところだったが、ニアルコス氏の娘マリア女史が父のサラブレッド事業を引き継いだため、本馬を含むニアルコス氏の所有馬は支障なく現役を続行できた。

本番の仏2000ギニー(仏GⅠ・T1600m)では、アシュカラニ、エターニティレンジ、フライングチルダースS・ヨーロピアンフリーHの勝ち馬でノーフォークS・モールコームS2着のケイマンカイ、愛フェニックスS・愛ナショナルS・グリーナムSの勝ち馬でデューハーストS2着のデインヒルダンサー、モルニ賞・ジュライSの勝ち馬でデューハーストS3着のタグラ、モルニ賞3着馬バリケードなどが参戦してきた。アシュカラニが単勝オッズ1.4倍の1番人気、ケイマンカイが単勝オッズ6倍の2番人気、本馬が単勝オッズ7.1倍の3番人気となった。今回の本馬は後方待機策を採り、10頭立ての9番手で直線に入ると、馬群の間を縫うように一気の追い込みを見せた。しかし途中で一瞬前が塞がる場面があった影響もあり、先行して抜け出したアシュカラニに3/4馬身差届かず2着までだった。しかし敗れたとは言え、勝ったアシュカラニよりも強い印象を与える内容だった。

一応は英ダービーにも登録していたが、距離不安のため回避し、愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)に向かった。愛フューチュリティSの勝ち馬で英2000ギニー3着のビジューダンド、レーシングポストトロフィー・クレイヴンSの勝ち馬ビーチャムキング、コヴェントリーS2着馬ルシアンリバイバル、レパースタウン2000ギニートライアルSを勝ってきたディードオブラヴ、テトラークS2着・グラッドネスS3着のレインボーブルース、前走で3着だったタグラなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気、ビジューダンドが単勝オッズ4倍の2番人気、ビーチャムキングが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。スタートが切られると、単勝オッズ51倍の最低人気馬レインボーブルースが先頭を引っ張り、本馬は馬群の中団を進んだ、そして直線に入ると残り2ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立つというそつの無いレースぶりで、2着に粘ったレインボーブルースに2馬身差をつけて快勝。仏国調教馬による愛2000ギニー制覇は史上初の快挙となった。

次走のセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)では、本馬の他にも英2000ギニー馬マークオブエスティーム、仏2000ギニー馬アシュカラニが参戦してきて、各国ギニー馬対決と言われて盛り上がった。他にも前走3着のビーチャムキング、同4着のビジューダンド、仏2000ギニーで4着だったケイマンカイなどの姿もあったが、人気はやはり2000ギニーの勝ち馬3頭が集め、アシュカラニが単勝オッズ1.62倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.33倍の2番人気、マークオブエスティームが単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。ところが結果は単勝オッズ10倍の4番人気だったビジューダンドが、アシュカラニを頭差競り落として優勝。先行して伸びなかった本馬はビジューダンドから5馬身半差の6着、マークオブエスティームは本馬からさらに6馬身半差の8着と振るわなかった。

競走生活(3歳後半)

雪辱を期す本馬は、続いてジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に登場。このレースは本馬の馬主ニアルコス一族が出資するレースであり、負けられない一戦だった。クイーンアンSの勝ち馬でセントジェームズパレスS・ロッキンジS・サセックスS2着の4歳馬チャーンウッドフォレスト、ジャンプラ賞・ロシェット賞の勝ち馬ルトリトン、ファルマスS・サンドランガン賞の勝ち馬センセーション、ロンポワン賞・アスタルテ賞の勝ち馬で前年のムーランドロンシャン賞2着・仏1000ギニー・ジャックルマロワ賞3着のシャンクシー(海外遠征中の蛯名正義騎手が騎乗)、アスタルテ賞で2着してきたザランダ、メシドール賞の勝ち馬グレイリスク、ミュゲ賞の勝ち馬でイスパーン賞3着のヴェトゥイユ、テトラークS・愛国際S・エミリオトゥラティ賞・ベルリンブランデンブルクトロフィーの勝ち馬ガゼンバーグなどが対戦相手となった。チャーンウッドフォレスト、ルトリトン、センセーションの3頭カップリングが単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持され、本馬が単独で単勝オッズ2.7倍の2番人気、ザランダが単勝オッズ7.2倍の3番人気、シャンクシーが単勝オッズ8.3倍の4番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ40倍の最低人気馬ガゼンバーグがハイペースで逃げを打ち、本馬は4番手の好位を進んだ。そして残り200m地点で仕掛けると一気に先頭に立ち、後方から追い上げてきた2着ヴェトゥーユの追撃を半馬身抑えて勝利した。

次走のムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)では、セントジェームズパレスSから直行してきたアシュカラニ、コロネーションS・オマール賞・グロット賞の勝ち馬でマルセルブサック賞・仏1000ギニー2着のシェイクザヨーク、前年の仏オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬で仏1000ギニー2着のカーリング、ヴェトゥイユ、前走3着のシャンクシー、同5着のグレイリスク、同8着のルトリトンなどが対戦相手となった。ここでは3番手を追走し、直線に入って残り400m地点で仕掛けた。ところが本馬をマークするように4番手を追走していたアシュカラニに残り200m地点で抜き去られ、1馬身半差をつけられて2着に敗退。本馬とアシュカラニの対戦はこれが最後で、対戦成績は本馬の4戦全敗となってしまった。

その後に本馬は加国ウッドバイン競馬場で行われたBCマイル(加GⅠ・T8F)に参戦した。クイーンエリザベスⅡ世Sで5着に完敗したアシュカラニはそのまま引退したため不在だったが、それでも、セレブレーションマイルに続いてそのクイーンエリザベスⅡ世Sを完勝していたマークオブエスティーム、ジャックルマロワ賞とクイーンエリザベスⅡ世Sでいずれも4着だった後にチャレンジSを勝ってきたチャーンウッドフォレスト、ジャージーダービー・デルマー招待ダービー・ベストターンS・フォースターデイヴSの勝ち馬ダホス、クイーンエリザベスⅡ世CCS・ニジャナSなど4連勝中のメモリーズオブシルヴァー、加プリンスオブウェールズS・キングエドワードBCHの勝ち馬キリダシ、ポーカーHの勝ち馬でエディリードH2着のスムーズランナー、サンタアニタH・サンマルコスH・ローズオブランカスターS・オークツリーBCマイルHの勝ち馬アージェントリクエスト、ストラブS・サンフェルナンドS・ヴォランテHの勝ち馬でハリウッドダービー・カリフォルニアンS2着・ハリウッド金杯3着のヘルムズマン、テストS・バレリーナH・フォワードギャルBCS・メドウランズBCH・ヴァージニアH・ファーストレディHの勝ち馬でトップフライトH2着など現在13戦連続1着又は2着中のチャポサスプリングス、バーナードバルークHの勝ち馬でドラール賞2着2回のヴォロシン、ケルソHを勝ってきたセイムオールドウィッシュ、ジャイプールH・クリフハンガーH・ケルソHの勝ち馬マイティフォーラム、日本の京王杯スプリングCを勝った後にキーンランドBCSを2連覇していたドゥマーニといった国内外の実力馬達が対戦相手となった。

ウッドバイン競馬場はコーナーが緩くて直線も比較的長く、小回りな米国の競馬場よりも欧州の競馬場に近い形態をしていたため、欧州調教馬が優勢という前評判であった。そのため、マークオブエスティームとチャーンウッドフォレストのカップリングが単勝オッズ2.25倍の1番人気となり、本馬が単勝オッズ8.95倍の2番人気、ダホスが単勝オッズ9.45倍の3番人気、メモリーズオブシルヴァーが単勝オッズ9.6倍の4番人気、地元加国の有力馬キリダシが単勝オッズ11.9倍の5番人気となった。スタートが切られるとキリダシが逃げを打ち、本馬は4~5番手の好位につけ、その後方をマークオブエスティームが追走した。キリダシが作り出すハイペースにマークオブエスティームはうまく適応できずに追走に苦労していたが、本馬はしっかりと前の馬を射程圏内に捉えた位置取りで追走した。そして直線に入ると、粘るキリダシにダホスが2番手から並びかけて叩き合いに持ち込んだ。そこへ直線を4番手で向いた本馬がマークオブエスティームを置き去りにして追い上げてきた。しかし直線半ばでキリダシを競り落として先頭に立ったダホスとの差は縮まらず、1馬身半差の2着に敗れた(マークオブエスティームは7着)。3歳時は7戦2勝の成績だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月のミュゲ賞(仏GⅡ・T1600m)から始動した。エドモンブラン賞の勝ち馬シモンデュデゼール、エクスビュリ賞の勝ち馬ネロジルザルあたりが比較的手強い相手だった。本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、シモンデュデゼールが単勝オッズ4.4倍の2番人気、ネロジルザルが単勝オッズ9.8倍の3番人気となった。本馬は絶好のスタートを切ったが、すぐに下げて馬群の最後方に陣取った。そして7頭立ての6番手で直線を向くと、外側から追い込んできた。そしてゴール前で計ったように2着シモンデュデゼールをかわして頭差で勝利した。

その後はすぐに渡英してロッキンジS(英GⅠ・T8F)に出走した。前年のサセックスS・プリンスオブウェールズS・香港国際Cの勝ち馬でクイーンエリザベスⅡ世S3着のファーストアイランド、アールオブセフトンSの勝ち馬アリロイヤル、前年の英2000ギニーでマークオブエスティームの短頭差2着だったレーシングポストトロフィー2着馬イーヴントップなどが主な対戦相手だった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、ファーストアイランドが単勝オッズ3.75倍の2番人気、アリロイヤルとイーヴントップが並んで単勝オッズ10倍の3番人気となった。しかしレースでは上記に挙げた3頭全てに屈して、勝ったファーストアイランドから6馬身半差の4着と人気に応えられなかった。

この後にウイルス性疾患を発症して短期休養入りし、復帰初戦は前年に制したジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)となった。ジャンプラ賞・セントジェームズパレスSの勝ち馬でサセックスS2着のスターボロー、仏2000ギニー・フォンテーヌブロー賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー2着・セントジェームズパレスS3着のデイラミ、カブール賞の勝ち馬でモルニ賞2着・サラマンドル賞3着のザミンダール(英2000ギニー馬ザフォニックの全弟で、凱旋門賞馬ザルカヴァの父)、メシドール賞の勝ち馬ヌイイなど、本馬以外の出走馬5頭は全て3歳馬だった。スターボローが単勝オッズ2.2倍の1番人気、デイラミが単勝オッズ3.4倍の2番人気、本馬はペースメーカー役の同厩馬ピペリとのカップリングで単勝オッズ3.9倍の3番人気だった。スタートが切られるとピペリが先頭を飛ばし、本馬は僚馬を見るように先行した。そして残り200m地点で馬群の中から飛び出して先頭を奪い、その後は右側に切れ込みながらも末脚を伸ばし続け、2着に追い上げてきたデイラミに2馬身差をつけて、1分34秒4のコースレコード勝ちを決めた。

次走のムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)では、デイラミ、前走で本馬から8馬身差の3着だったヌイイ、前年のセントジェームズパレスS勝利後はエクリプスS2着こそあったものの5連敗中だったビジューダンドなども出走してきたが、もう1頭普通はマイル戦には出てこないような超強敵が参戦してきた。それは前年の凱旋門賞を筆頭にリュパン賞・サンクルー大賞2回・ガネー賞・ノアイユ賞・ニエル賞を勝っていた前年のカルティエ賞年度代表馬エリシオだった。エリシオは前走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで3着に敗れた後に突如としてマイル路線に矛先を向けてきたのだった。急な路線転向だったがそれでもさすがに当時の欧州最強古馬だけあってエリシオが単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、本馬とピペリのカップリングが単勝オッズ2.5倍の2番人気、デイラミが単勝オッズ4.6倍の3番人気、ヌイイが単勝オッズ20倍の4番人気で、ビジューダンドは単勝オッズ45倍の7番人気まで評価を下げていた。

スタートが切られると、逃げ馬であるエリシオのハナを叩いて僚馬ピペリが先頭を奪い、ビジューダンドが2番手、エリシオが3番手、本馬が4番手を追走した。直線に入ってピペリとビジューダンドが失速するとエリシオが残り400m地点で先頭に立った。しかし残り300m地点で本馬がエリシオを並ぶ間もなく差し切った。最後は2着エリシオに3馬身差、3着デイラミにはさらに半馬身差をつけて勝利。デイラミは2年後のカルティエ賞年度代表馬であるから、本馬はカルティエ賞年度代表馬2頭をこのレースでまとめて破った事になり、その意味においてこれが本馬のベストレースと言えそうである。

BCマイル(4歳時)

本馬の現役最終レースは、米国ハリウッドパーク競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)となった。ハリウッドパーク競馬場は前年のウッドバイン競馬場と比べると小回りだったため、それを懸念した陣営は、当初は芝よりもコーナーが緩いダートで行われるBCクラシック参戦も考慮したらしいが、結局は初ダートや初の10ハロンという冒険を避けて、慣れた芝のマイル競走への参戦を決めたのだった。

前走のケルソHを1分32秒0のコースレコードで勝ってきた芝では8戦7勝のラッキーコイン、オークローンH・ウッドバインマイルS・クレームフレーシュHの勝ち馬でハリウッド金杯・シーザーズ国際H2着のジェリ、アメリカンH・イングルウッドH・ベイメドウズHの勝ち馬でエディリードH2着のエルアンジェロ、シューメーカーBCマイルSの勝ち馬ピンフローロン、オークツリーBCマイルSで2着してきたマゼラン、前走ウッドバインマイルSで2着してきた前年の同競走6着馬ヘルムズマン、アーリントンH・キーンランドBCマイルSなど5連勝中のワイルドイベント、ラホヤH・オークツリーBCマイルSの勝ち馬ファンタスティックフェロー、ロッキンジS2回・キヴトンパークS・スプリームS・香港国際ボウル・ファイアクラッカーBCH・フォースターデイヴHの勝ち馬ソヴィエトライン、ロンポワン賞・ハンガーフォードS・スプリームSの勝ち馬デコレイテッドヒーロー、アメリカンH2着馬ナニンジャの11頭が対戦相手となったが、出走馬の層はBCマイルとしては比較的薄かった。本馬が単勝オッズ3.1倍の1番人気、ラッキーコインが単勝オッズ3.9倍の2番人気、ジェリが単勝オッズ7.1倍の3番人気、エルアンジェロが単勝オッズ8.5倍の4番人気、ピンフローロンが単勝オッズ13.4倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ラッキーコインとファンタスティックフェローの2頭が先手を取り、本馬は内埒沿いの3~4番手につけた。そして三角に入ったところで徐々に進出し、ラッキーコインに次ぐ2番手で直線を向いた。前を行くラッキーコインを残り1ハロン地点で並ぶ間もなく差し切ると、叩き合いながら伸びてきたジェリとデコレイテッドヒーローの2頭を完封。2着ジェリに2馬身差をつけて、1分32秒77というBCマイル史上当時2位(1位は同じハリウッドパーク競馬場で行われた第1回BCマイルでロイヤルヒロインが記録した1分32秒6)の好タイムで完勝。有終の美を飾り、4歳時5戦4勝の成績で競馬場を後にした。

競走馬としての評価

本馬は、強豪馬がひしめく1990年代の欧米マイル路線のトップクラスで活躍した名マイラーであるが、国際クラシフィケーションや英タイムフォーム社のレーティングは不当なほど低い。3歳時の評価は前者が122ポンド、後者が125ポンドで、前者が133ポンド、後者が137ポンドだったマークオブエスティームより11~12ポンドも低い。対戦成績は本馬の2戦2勝なのにである(2戦ともマークオブエスティームはその実力をまったく発揮できなかったのは確かだろうが)。なお、本馬に対して4戦全勝だったアシュカラニは、共に本馬より3ポンド高いだけである。4歳時の本馬の評価は、前者が126ポンド、後者が130ポンドとなっており、共に137ポンドだった凱旋門賞馬パントレセレブルや、共に134ポンドだったジャパンC馬ピルサドスキーと比べるとかなり見劣りする。

この評価を見る限りでは、本馬が現役だった頃の欧米マイル路線は、マークオブエスティームを別格とすれば全体的にレベルが低かったとみなされているようである。確かに本馬が勝ったBCマイルの出走馬の一覧を見るとGⅠ競走どころかGⅡ競走レベルと言っても過言ではないほどだし、エリシオやデイラミに勝ったと言っても共に全盛期ではなかった上にマイラーとは言い難い相手だったから、仕方が無い一面はあるだろう。それにしても欧米の主要マイルGⅠ競走を5勝した本馬の評価がこの程度というのは、量よりも質を重視する、すなわち出るレース全てで着実に好走を続けるファンの期待を裏切らないタイプの馬よりも、凡走と好走を交互に繰り返す一発屋タイプの馬のほうが高い評価になってしまいがちという、レーティングの限界を垣間見せているものではある。

血統

Nureyev Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Special Forli Aristophanes Hyperion
Commotion
Trevisa Advocate
Veneta
Thong Nantallah Nasrullah
Shimmer
Rough Shod Gold Bridge
Dalmary
Imperfect Circle Riverman Never Bend Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Lalun Djeddah
Be Faithful
River Lady Prince John Princequillo
Not Afraid
Nile Lily Roman
Azalea
Aviance Northfields Northern Dancer Nearctic
Natalma
Little Hut Occupy
Savage Beauty
Minnie Hauk Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Best in Show Traffic Judge
Stolen Hour

ヌレイエフは当馬の項を参照。

母インパーフェクトサークルは現役時代5戦2勝。ファースオブクライドSを勝ち、チェヴァリーパークS(英GⅠ)でカプリッチョーサの2着している。母系はかなりの名門牝系で、活躍馬が多数出ている。本馬の半妹ヴィジョンズオブクラリティ(父サドラーズウェルズ)の子にパスフォーク【愛ナショナルS(愛GⅠ)・愛フューチュリティS(愛GⅡ)】がいる他、インパーフェクトサークルの半姉にチャイムズオブフリーダム(父プライヴェートアカウント)【モイグレアスタッドS(愛GⅠ)・コロネーションS(英GⅠ)・チャイルドS(英GⅡ)・チェリーヒントンS(英GⅢ)】、半弟にデノン(父プレザントコロニー)【ハリウッドダービー(米GⅠ)・チャールズウィッティンガム記念H(米GⅠ)・ターフクラシック招待S(米GⅠ)・マンハッタンH(米GⅠ)・フォンテーヌブロー賞(仏GⅢ)】がいる。さらには、チャイムズオブフリーダムの子にグッドジャーニー【アットマイル(加GⅠ)・サイテーションH(米GⅡ)2回・ファイアクラッカーBCH(米GⅡ)】、アルデバラン【サンカルロスH(米GⅠ)・メトロポリタンH(米GⅠ)・フォアゴーH(米GⅠ)・チャーチルダウンズH(米GⅡ)・トムフールH(米GⅡ)】、シーオブシャワーズ【ジェニーワイリーS(米GⅢ)】の3兄弟が、インパーフェクトサークルの半妹ピケトノル(父プライヴェートアカウント)の子にディートリッヒ【バリーオーガンS(愛GⅢ)・キングジョージS(英GⅢ)】が、インパーフェクトサークルの半妹リモートロマンス(父アイリッシュリヴァー)の子にサデックス【ラインラントポカル(独GⅠ)・伊共和国大統領賞(伊GⅠ)・ゲルリング賞(独GⅡ)・シャンティ大賞(仏GⅡ)】がいる。

インパーフェクトサークルの母エイヴィアンスも愛フェニックスS(愛GⅠ)の勝ち馬で、エイヴィアンスの半弟にはチーフコンテンダー【カドラン賞(仏GⅠ)】がいる。近親にはエイヴィアンスの従兄弟である名種牡馬トライマイベスト、名馬エルグランセニョール、1997年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ザールの3頭や、エイヴィアンスの叔母であるケンタッキーオークス馬ブラッシュウィズプライド、エイヴィアンスの従姉妹の子であるベルモントSの勝ち馬ラグストゥリッチズとエリザベス女王杯馬フサイチパンドラ、エイヴィアンスの従姉妹の孫であるBCマイル馬ドームドライヴァーなどの名前も見られる。→牝系:F8号族②

母父リヴァーマンは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は米国ケンタッキー州アッシュフォードスタッドで種牡馬入りした。翌年には愛国クールモアスタッドに移動。さらにはシャトル種牡馬として、豪州クールモア・オーストラリアや新国ウインザーパークスタッドなどでも供用された。日本でも2000年だけイーストスタッドでリース供用され、134頭の繁殖牝馬を集めた。勝ち上がり率はかなり高く、また、オセアニアでは活躍馬を多く出しているが、他の国ではそれほど活躍馬が出ていない。母父としては優駿牝馬の勝ち馬ヌーヴォレコルトを出した。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1999

Common World

デュッセルドルフ大賞(独GⅢ)・グラッドネスS(愛GⅢ)

1999

King of Happiness

クレイヴンS(英GⅢ)・イングルウッドH(米GⅢ)

1999

Quad's Melody

オマール賞(仏GⅢ)

1999

Thorn Park

ストラドブロークH(豪GⅠ)・ホバートヴィルS(豪GⅡ)・ファーラップS(豪GⅡ)・プレミアS(豪GⅡ)・BTCリッチモンドグローヴC(豪GⅡ)・フェアウェルトゥノーザリーS(豪GⅢ)

2000

Changing World

ヴァイオレットS(米GⅢ)

2000

Echoes in Eternity

サンチャリオットS(英GⅡ)・パークヒルS(英GⅡ)

2000

Lyrical Bid

マイヤークラシック(豪GⅠ)

2000

Special Harmony

MRC1000ギニー(豪GⅠ)・VRCクラウンオークス(豪GⅠ)・アローフィールドスタッドS(豪GⅠ)・エドワードマニフォールドS(豪GⅡ)・アンガスアーマナスコS(豪GⅡ)・AVキューニーS(豪GⅡ)・ムーニーバレーオークス(豪GⅡ)・オータムS(豪GⅢ)

2000

Spin Around

オークランドC(新GⅠ)・アヴォンデール金杯(新GⅡ)

2000

Spinola

チェリーヒントンS(英GⅡ)

2001

Arlingtonboulevard

新ブリーダーズS(新GⅠ)

2001

Kosi Bay

エマンシペイションS(豪GⅡ)

2001

シルクビート

ハイセイコー記念(南関GⅡ)

2001

マリスブラッシュ

黒潮スプリンターズC(高知)2回

2003

Duff

キヴトンパークS(英GⅡ)・バリーコーラスS(愛GⅢ)・コンコルドS(愛GⅢ)

2003

Spinning Queen

サンチャリオットS(英GⅠ)・ブラウンズタウンS(愛GⅢ)

2003

Supaseus

ケンブリッジシャーH

2004

Heavenly Glow

アローフィールドスタッドS(豪GⅠ)・AJCオークス(豪GⅠ)

2004

Visionario

ロシェット賞(仏GⅢ)

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