クイーンバーサ
和名:クイーンバーサ |
英名:Queen Bertha |
1860年生 |
牝 |
鹿毛 |
父:キングストン |
母:フラックス |
母父:サープライス |
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母としても2頭の英国クラシック競走2勝馬を産んだ英オークス馬は現在まで残る世界的名牝系の始祖ともなる |
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競走成績:2~4歳時に英で走り通算成績10戦3勝2着6回(異説あり) |
誕生からデビュー前まで
第6代ファルマス子爵エブリン・ボスコーエン卿の生産・所有馬。ボスコーエン卿は26歳の時に結婚した妻ディスペンサー女男爵が所有していた土地を活用して、メレワースキャッスルスタッドを開設して馬産を開始していた。最終的にボスコーエン卿の生産馬は英国クラシック競走を19勝も挙げており、彼は19世紀における名馬産家の一人として数えられるようになった。そのボスコーエン卿の馬産を支えたのが本馬である。ボスコーエン卿は自身が所有する繁殖牝馬の交配相手には自家生産馬よりも外部の種牡馬を選択する事を好んだらしく、彼の馬産の成功の理由の一端はそこにあると考えられる。1860年に誕生した本馬はジョン・スコット調教師に委ねられた。
競走生活
2歳時にデビューして2歳戦では4戦1勝2着3回の成績を残した。なお、本馬の現役時代の所有者はボスコーエン卿だが、本名ではなくヴァレンタインという名前で馬主登録をしている。本馬は調教ではあまり走らない馬だったらしく、3歳当初の調教結果を見たボスコーエン卿は英オークスを含む全てのステークス競走に本馬の出走を取り止める事を考えた。しかし本馬を擁護してそれを思いとどまらせたのは、北方の魔術師の異名で呼ばれていたスコット師であった。
そして3歳初戦として英オークス(T12F)に出走した本馬は単勝オッズ41倍の人気薄ながら、2着となった後のスチュワーズCの勝ち馬マリーゴールド(後に名馬ドンカスターの母となる)を頭差で抑えて優勝し、スコット師の相馬眼の確かさを立証してみせた。その後本馬はアスコット競馬場で行われたトリエニアルSも勝利。アスコットダービー(T12F)では、牡馬ワンサンダーの2馬身差2着だった。
秋の英セントレジャー(T14F132Y)では、直線で先頭に立って勝利目前だったが、英シャンペンSの勝ち馬で英ダービー2着のロードクリフデンにゴール前で強襲を受けて、半馬身差の2着に惜敗。しかし3着馬ボレアリスには4馬身差をつけていたし、記念すべき第1回パリ大賞の勝ち馬ザレンジャー、エボアHの勝ち馬ゴールデンプレッジなどにも先着したから、好走したと言えるだろう。引き続き出走したドンカスターC(T18F)では、英2000ギニー・英ダービーの勝ち馬マカロニの1馬身差2着だった。ロードクリフデンにしてもマカロニにしても19世紀英国競馬史上に名を残す強豪牡馬であるのだが、本馬は彼等と互角に渡り合った。3歳時の成績は5戦2勝だった。
4歳時も現役を続行したが、グッドウッドC(T21F)で、アンペルール大賞(後のリュパン賞)の勝ち馬で仏ダービー・バーデン大賞2着のドラール(ドラール賞のレース名にその名を残す)の着外に敗れた1戦のみで競走馬を引退した。なお、本馬の競走馬引退からしばらくしてスコット師は健康を害したため、本馬はスコット師が手掛けた英国クラシック競走の勝ち馬41頭の最後の馬となった。
血統
Kingston | Venison | Partisan | Walton | Sir Peter Teazle |
Arethusa | ||||
Parasol | Pot-8-o's | |||
Prunella | ||||
Fawn | Smolensko | Sorcerer | ||
Wowski | ||||
Jerboa | Gohanna | |||
Camilla | ||||
Queen Anne | Slane | Royal Oak | Catton | |
Smolensko Mare | ||||
Orville Mare | Orville | |||
Epsom Lass | ||||
Garcia | Octavian | Stripling | ||
Oberon Mare | ||||
Shuttle Mare | Shuttle | |||
Katharine | ||||
Flax | Surplice | Touchstone | Camel | Whalebone |
Selim Mare | ||||
Banter | Master Henry | |||
Boadicea | ||||
Crucifix | Priam | Emilius | ||
Cressida | ||||
Octaviana | Octavian | |||
Shuttle Mare | ||||
Odessa | Sultan | Selim | Buzzard | |
Alexander Mare | ||||
Bacchante | Williamson's Ditto | |||
Mercury Mare | ||||
Sister to Cobweb | Phantom | Walton | ||
Julia | ||||
Filagree | Soothsayer | |||
Web |
父キングストンは、グッドウッドC・ノーザンバーランドプレート・エプソムCなど15勝を挙げている。3歳時に出走したドンカスターCでは1歳年上の英ダービー馬テディントンの2着だったが、グッドウッドCやマッチレースではテディントンを撃破している。5歳時に出走したアスコット金杯では、1歳年下の初代英国三冠馬ウエストオーストラリアンの2着に入り、3着ラタプランに先着した。同じく5歳時に出走したドンカスターCでは、19世紀英国最強牝馬との呼び声が高い英1000ギニー馬ヴィラーゴの2着するなど、当時における優秀な長距離馬の1頭として名を馳せていた。種牡馬としても英ダービー馬カラクタクスやアスコット金杯の勝ち馬エリーなどを出して成功したが、むしろ繁殖牝馬の父としての活躍のほうが顕著で、本馬の産駒達の他にも、英ダービー・英セントレジャー馬シルヴィオ、トラヴァーズSの勝ち馬で名種牡馬のグレネルグ、ベルモントS・トラヴァーズSの勝ち馬キングフィッシャーなどを出している。しかし本馬が産まれた翌年の1861年に12歳で早世しているようである。キングストンの父は1846・47年の英首位種牡馬ヴェニスンで、さらにパルチザン、ウォルトンへと遡る。
母フラックスは不出走馬だが、フラックスの母オデッサの全兄は英2000ギニー馬イブラヒム、半妹は英オークス馬ザプリンセスであり、優秀な牝系の出身であると言える。→牝系:F1号族①
母父サープライスは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は、メレワースキャッスルスタッドで繁殖入りした。競走馬としても活躍した本馬だが、その本領は繁殖牝馬となってから発揮されたとも言える。
7歳時に産んだ初子の牝駒ガートルード(父ソンタラー)は、ヨークシャーオークス・グレートヨークシャーS・クイーンズスタンドプレートに勝つなど29戦8勝の成績を挙げて、本馬はいきなり活躍馬の母となった。また、ガートルードは繁殖牝馬としても活躍し、英2000ギニー・英シャンペンS・ジュライC2回・クイーンズスタンドプレート・オールエイジドS(現ダイヤモンドジュビリーS)の勝ち馬チャリバートや、プレンダーガストS・ドンカスターSの勝ち馬キルデリクを産んでいる。
9歳時には2番子の牡駒クイーンズメッセンジャー(父トランペッター)を産んだ。クイーンズメッセンジャーは、セントジェームズパレスS・プリンスオブウェールズSを勝ち、英2000ギニーと英ダービーでは共に3着に入った。
10歳時には3番子の牡駒パラディン(父フィッツローランド)を産んだ。パラディンは競走馬として活躍せず、後に仏国で種牡馬入りしたが成功はしなかった。
11歳時には4番子の牝駒ブランシェフルール(父ソンタラー)を産んだ。ブランシェフルールは、コロネーションS・ジュライSで2着、英1000ギニーで英国牝馬三冠馬アポロジーの3着に入った。
12歳時には5番子の牝駒スピナウェイ(父マカロニ)を産んだ。スピナウェイは英オークスで母子制覇を果たした他にも、英1000ギニー・ヨークシャーオークス・ナッソーS・ドンカスターSなどを勝つという大活躍を見せた。スピナウェイ自身も繁殖牝馬として、英1000ギニー・英オークス・ミドルパークプレート・ロウス記念S・グレートチャレンジSを勝って母子2代の英国牝馬クラシック競走2勝馬(さらに母子3代の英オークス馬)となったビジーボディや、ニューマーケットSの勝ち馬メリーゴーラウンドを産んでいる。
13歳時には6番子の牝駒フェイム(父トランペッター)を、14歳時には7番子の牡駒クイーンズヘラルド(父トランペッター)を産んだが、いずれも目立つ成績は残さなかった。
16歳時には8番子の牝駒ホイールオブフォーチュン(父アドヴェンチュラー)を産んだ。ホイールオブフォーチュンは独立した項目があるので詳細はそちらを参照してほしいが、本項にも簡単な概要を記しておく。2歳時は、リッチモンドS・プリンスオブウェールズS・バッキンハムポストプロデュースS・デューハーストプレートなど6戦全勝。3歳時には、英1000ギニー・英オークス・ヨークシャーオークス・プリンスオブウェールズSを勝ち、現役最後のレースとなったグレートヨークシャーSでは脚を痛めながら2着に入って5戦4勝。通算成績11戦10勝の成績を残した。ボスコーエン卿の生産馬における最高傑作とも言われ、主戦を務めたフレッド・アーチャー騎手をしてかつて騎乗した中で最高の牝馬と言わしめ、19世紀有数の名牝として讃えられた。
18歳時には9番子の牡駒グレートカルレ(父マカロニ)、20歳時には10番子の牡駒グランドマスター(父キングクラフト)を産んだが、いずれも目立つ成績は残さなかった。そしてグランドマスターが本馬の最後の子となった。
後世に与えた影響
本馬の没年は不明であるが、本馬の牝系子孫からは数々の活躍馬が登場し、本馬は所謂ファミリーナンバー1号族における分枝1-W族の始祖と呼ばれるようになった。本馬の子孫を伸ばしたのは、ガートルード、ブランシェフルール、スピナウェイ、ホイールオブフォーチュンの4頭である。
ガートルードの牝系子孫からは、ポーターハウス【ベルモントフューチュリティS・カリフォルニアンS】、ソシアルクライマー【カリフォルニアンS】、アデュー【スピナウェイS(米GⅠ)・フリゼットS(米GⅠ)】などが出ているが、日本においては何を置いてもソシアルバターフライだろう。米国の名種牡馬ユアホストを父に持つ米国産馬ソシアルバターフライは前述のソシアルクライマーの全妹で、競走馬としては米国で走り8戦2勝の成績に終わったが、日本に繁殖牝馬として輸入されると大活躍し、日本有数の名牝系の祖となった。ソシアルバターフライの牝系子孫から出た主な馬は、トウショウボーイ【皐月賞・有馬記念・宝塚記念・神戸新聞杯・京都新聞杯・高松宮杯】を筆頭に、トウショウピット【関屋記念・クモハタ記念・中山記念】、エイティトウショウ【ラジオたんぱ賞・中山金杯・中山記念2回】、トウショウペガサス【中山記念(GⅡ)・ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)】、トウショウサミット【NHK杯(GⅡ)】、トウショウレオ【小倉大賞典(GⅢ)2回・中京記念(GⅢ)・京阪杯(GⅢ)】、トウショウドリーム【東京障害特別春・東京障害特別秋】、トウショウマリオ【京成杯(GⅢ)・東京新聞杯(GⅢ)】、トウショウファルコ【アメリカジョッキークラブC(GⅡ)・中山金杯(GⅢ)】、マザートウショウ【函館三歳S(GⅢ)・テレビ東京賞三歳牝馬S(GⅢ)・クイーンC(GⅢ)】、ダイワハンニバル【東北サラブレッド大賞典】、テイエムトッキュー【カブトヤマ記念(GⅢ)】、グランリーオ【中日新聞杯(GⅢ)】、サンダルフォン【北九州記念(GⅢ)】、マルヨバナーヌ【ライデンリーダー記念】などである。
ブランシェフルールの牝系子孫はガートルードの数倍発展しているため、以下はかなり抜粋になる。マイバブー【英2000ギニー・サセックスS】、アリシドン【アスコット金杯】、アンビオリクス【仏グランクリテリウム・リュパン賞】、ターントゥ【サラトガスペシャルS・フラミンゴS】、クレイロン【仏2000ギニー・ジャックルマロワ賞】、ファラモンド【モルニ賞】、ラークスパー【英ダービー】、アルテッスロワイヤル【英1000ギニー(英GⅠ)・英オークス(英GⅠ)・愛オークス(愛GⅠ)】、クアック【ハリウッド金杯・カリフォルニアンS(米GⅠ)2回】、バスティノ【英セントレジャー(英GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)】、リヴァークイーン【仏1000ギニー(仏GⅠ)・サンタラリ賞(仏GⅠ)・サンクルー大賞(仏GⅠ)】、マグニテュード(ミホノブルボンの父)、アイリッシュリヴァー【モルニ賞(仏GⅠ)・サラマンドル賞(仏GⅠ)・仏グランクリテリウム(仏GⅠ)・仏2000ギニー(仏GⅠ)・イスパーン賞(仏GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)】、ペロー【サンルイレイS(米GⅠ)・ハリウッド金杯(米GⅠ)・バドワイザーミリオン】、ロイヤルヒロイン【BCマイル(米GⅠ)・ハリウッドダービー(米GⅠ)・メイトリアークS(米GⅠ)】、ミルネイティヴ【アーリントンミリオンS(米GⅠ)】、カードマニア【BCスプリント(米GⅠ)】、エルハーブ【英ダービー(英GⅠ)】、ワイルドラッシュ【カーターH(米GⅠ)・メトロポリタンH(米GⅠ)】、テスタロッサ【サイアーズプロデュースS(豪GⅠ)・ヴィクヘルスC(豪GⅠ)・ライトニングS(豪GⅠ)・豪フューチュリティS(豪GⅠ)・イートウェルリヴウェルC(豪GⅠ)・エミレーツS(豪GⅠ)】、ユニヴァーサルプリンス【スプリングチャンピオンS(豪GⅠ)・カンタベリーギニー(豪GⅠ)・AJCダービー(豪GⅠ)・ランヴェットS(豪GⅠ)】、サラファン【エディリードH(米GⅠ)】、スピリットワン【アーリントンミリオンS(米GⅠ)】、ウィンチェスター【セクレタリアトS(米GⅠ)・マンハッタンH(米GⅠ)・ジョーハーシュターフクラシック招待S(米GⅠ)・ソードダンサー招待S(米GⅠ)】、日本で走ったフレーモア【東京優駿・帝室御賞典(東京)】、アステリモア【優駿牝馬】、ヒデヒカリ【農林省賞典四歳呼馬(皐月賞)】、オータジマ【中山大障害春】、オーシャチ【東京大賞典】、オンワードガイ【朝日杯三歳S】、ゴールデンリボー【羽田盃・東京ダービー・東京王冠賞】、インターグロリア【桜花賞・エリザベス女王杯】、ケイキロク【優駿牝馬】、クシロキング【天皇賞春(GⅠ)】、トウケイフリート【東北サラブレッド大賞典】、スイフトセイダイ【ダービーグランプリ】、トウケイニセイ【東北サラブレッド大賞典3回・マイルCS南部杯2回】、ナリタタイシン【皐月賞(GⅠ)】、ジャガーメイル【天皇賞春(GⅠ)】、ローズキングダム【朝日杯フューチュリティS(GⅠ)・ジャパンC(GⅠ)】、ハタノヴァンクール【ジャパンダートダービー(GⅠ)・川崎記念(GⅠ)】などが出ている。
スピナウェイの牝系子孫はビジーボディ1頭により後世に伝えられ、メドラー【デューハーストプレート】、パンクティリオ【チェヴァリーパークS】、コレモント【ヨークシャーオークス】、キングオファ【コーフィールドC】、ルトラクエ【仏2000ギニー】などが出た。少ないと思うかもしれないが、実はここに掲載しなかった以外にもマルペンサ【コパデプラタ大賞(亜GⅠ)・ヒルベルトレレーナ大賞(亜GⅠ)・クリアドレス大賞(亜GⅠ)】など南米や南アフリカの活躍馬が多数出ている。筆者はそれらの国の競馬にあまり詳しくないのでここには列挙できないが、今世紀も多くの活躍馬が出ており、日本におけるガートルードの牝系子孫の発展度を大きく上回る繁栄を見せている。
最後にホイールオブフォーチュンの牝系子孫だが、本馬の後継繁殖牝馬4頭の中で一番繁栄していない。それでも他3頭と同様に今世紀まで残っており、プリテンダー【オブザーヴァー金杯・デューハーストS】、ツァウベラー【独ダービー(独GⅠ)】、ナヴァリノ【独ダービー(独GⅠ)】、ランフランコ【ウィリアムヒルフューチュリティS(英GⅠ)】、センドミーアンエインジェル【オーストラレイシアンオークス(豪GⅠ)】などが出ている。このように本馬の牝系子孫からは数々の活躍馬が出ており、後世に大きな影響を与えた。