エルハーブ
和名:エルハーブ |
英名:Erhaab |
1991年生 |
牡 |
青毛 |
父:チーフズクラウン |
母:イストワール |
母父:リヴァーマン |
||
英ダービーの前哨戦と本番を共に鋭い末脚で快勝したが日本を含む各国で種牡馬として成功できなかった小柄で漆黒の青毛馬 |
||||
競走成績:2・3歳時に英で走り通算成績11戦4勝2着2回3着2回 |
誕生からデビュー前まで
サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子が設立した米国ジュドモンドファームにおいて生産・所有され、英国ジョン・ダンロップ調教師に預けられた。体高は15.2ハンドとかなり小柄な馬体で、漆黒の青毛馬だった。この真っ黒な毛色から、アラビア語で「恐ろしい、威嚇・脅迫する」という意味の“Erhaab”と命名された。
競走生活(2歳時)
2歳7月にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、主戦となるウィリー・カーソン騎手を鞍上にデビューした。ここでは単勝オッズ15倍で17頭立て5番人気の評価だった。馬群の中団でレースを進めたが、残り2ハロン地点から伸びずに、勝ったコンコルディアルから9馬身差の7着と見せ場なく終わった。このレースには、後にヴィットリオディカプア賞・クイーンアンSを勝つニコロット(3着)、後にアメリカンダービー・クイーンエリザベスⅡ世Cを勝つオーヴァーベリー(4着)、後に本馬と何度も対戦するキングズシアター(5着)なども出走しており、後から見ればかなり高レベルな争いだった。
2週間後にニューベリー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスでは、単勝オッズ13倍で23頭立て4番人気の評価だった。ここでも馬群の中団でレースを進めたが、やはり残り2ハロン地点から伸びずに、勝ったペンカダーから12馬身差の12着と惨敗した。このレースにも、後にナッソーSなどを勝つハワジス(2着)、後にナンソープS・キングズスタンドSを勝つピッコロ(3着)、後に英チャンピオンハードルを勝つメイクアスタンド(11着)などが出走していた。
さらに2週間後にニューカッスル競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスでは、W・ニューネス騎手が騎乗した。ここではアレシラノという馬が単勝オッズ2倍の1番人気、ピッコロが単勝オッズ3倍の2番人気で、本馬は単勝オッズ6.5倍で7頭立て3番人気の評価だった。今回は先行策を採り、残り1ハロン地点で内側から力強く抜け出して、2着アレシラノに2馬身半差で勝利を収めた。
2週間後にレスター競馬場で行われたケグワース条件S(T7F9Y)では、カーソン騎手が鞍上に戻ってきて、単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。ここでも先行すると、残り2ハロン地点で先頭に立って後続を引き離し、2着クトベヤに7馬身差をつけて圧勝した。
さらに2週間後には、ソールスベリー競馬場で行われたウェストベリーモーターオークションズシーアトロフィー条件S(T6F212Y)に出走。3頭立てではあったが、単勝オッズ1.62倍という断然の1番人気に支持された。ここでは2番手を走り、残り2ハロン地点で逃げる単勝オッズ5.5倍の3番人気馬ブルーグラスプリンス(後のダイオメドS勝ち馬)をかわして先頭に立ったが、後方から来た単勝オッズ3.75倍の2番人気馬タタミとの競り合いに屈して、短頭差の2着に敗れた。
その3週間後にはホーリスヒルS(GⅢ・T7F64Y)に出走した。2連勝中のラファーティーズルールズが単勝オッズ4倍の1番人気で、本馬、タタミ、ザディープの3頭が単勝オッズ5倍の2番人気で並ぶ混戦模様だった。ここでも先行して残り2ハロン地点でいったん先頭に立つも、タタミとザディープの2頭に差されると失速し、勝ったタタミから2馬身差の3着に敗退した。
2歳時の成績は6戦2勝で、世代トップクラスにはほど遠い内容だった。
競走生活(3歳時)
3歳時は4月にニューマーケット競馬場で行われたリステッド競走フェイルデンS(T9F)から始動。2戦1勝ながらも既に英ダービーの有力候補と見られていたスリップアンカー産駒のウェイアンカーが単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ5倍の2番人気だった。ここでも先行策を採ったが、直線で進路が塞がり、ようやく外側に持ち出してゴール前で猛然と追い込んだが、単勝オッズ13倍の5番人気馬シセラオに首差及ばず2着。しかし3着ウェイアンカーには1馬身1/4差で先着したため、本馬もまた英ダービーの候補として名乗りを挙げることになった。
その4週間後には英ダービーの重要な前哨戦であるダンテS(GⅡ・T10F85Y)に出走した。ここではウェイアンカーに加えて、英2000ギニー・ロイヤルロッジS・ヴィンテージSの勝ち馬ミスターベイリーズ、レースングポストトロフィー・クレイヴンSの勝ち馬キングズシアター、前年のホーリスヒルSで本馬に先着したザディープといった強敵も出走してきた。ミスターベイリーズが単勝オッズ2.75倍の1番人気で、キングズシアターが単勝オッズ4.33倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。最内枠発走の本馬は、道中は馬群の後方内側をロスなく追走。直線に入ると外側に持ち出して、残り2ハロン地点から一気にスパート。残り1ハロン地点手前で先頭に立つと、2着ウェイアンカーに3馬身半差をつけて圧勝した。ミスターベイリーズはさらに1馬身差の3着、キングズシアターはさらに1馬身3/4差の4着だった。稍重馬場にも関わらず、勝ちタイム2分06秒18は驚異的なコースレコードであった。
この1戦が評価された本馬は、本番の英ダービー(GⅠ・T12F10Y)において、チェスターヴァーズの勝ち馬ブロードウェイフライヤー、サンダウンクラシックトライアルSの勝ち馬リニーヘッド、クリテリウムドサンクルーの勝ち馬サンシャック、英2000ギニー3着馬コロネルコリンズ、ミスターベイリーズ、キングズシアター、ウェイアンカーなどを抑えて、単勝オッズ4.5倍で25頭中1番人気の評価を受けることになった。ブロードウェイフライヤーが単勝オッズ7倍の2番人気、リニーヘッドが単勝オッズ9倍の3番人気、コロネルコリンズとウェイアンカーが単勝オッズ11倍の4番人気と続いていた。
スタートが切られると単勝オッズ15倍の7番人気と評価を落としていたミスターベイリーズを先頭に、各馬が一団となって進んだ。本馬は馬群の後方でじっくりと脚を溜めていた。あまりにも馬群が密集していたため、道中で行き場を失ったフォワイエ鞍上のウィリー・ライアン騎手が落馬する事故があったが、本馬に騎乗していた51歳のベテラン・カーソン騎手は慌てずに内側に進路を取って進出していった。そしてタッテナムコーナーを8番手で回ると直線では内側から先行馬を追撃した。しばらくは前との差がそれほど縮まらず、その間に失速したミスターベイリーズをかわして、同じく単勝オッズ15倍の7番人気だったキングズシアターが先頭を奪っていた。しかし残り2ハロン地点過ぎでカーソン騎手が本馬を外側に持ち出すと、残り1ハロン地点で本馬は凄まじいほどの末脚を繰り出した。瞬く間に先頭のキングズシアターをかわすと最後は1馬身1/4差をつけて快勝した。このときに本馬が残り1ハロンで見せた末脚は「吹き矢のようだった」と評されており、確かに筆者が映像で見た英ダービー勝ち馬の中でも最上級の切れ味と言えるものだった。
次走は古馬相手のエクリプスS(GⅠ・T10F7Y)となった。英国際S・アールオブセフトンSの勝ち馬で愛2000ギニー・英チャンピオンS2着のエズード、英セントレジャー・グレートヴォルティジュールS・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬ボブズリターン、3年前の同競走とダンテSの勝ち馬で愛チャンピオンS・コロネーションC(2回)2着のエンヴァイロンメントフレンド、前年の仏2000ギニー2着・英2000ギニー3着のビンアジワード、タタソールズ金杯の勝ち馬パーフェクトインポスターといった古馬勢が主な対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.67倍という断然の1番人気に支持され、エズードが単勝オッズ6倍の2番人気、ボブズリターンが単勝オッズ7.5倍の3番人気となった。レースではボブズリターンが先頭を引っ張り、本馬は馬群の中団でレースを進めた。そして8頭立ての4番手で直線に入ってきた。しかし英ダービーのような切れ味を発揮する事ができずに、中団から差したエズードとボブズリターンの2頭に遅れを取って、勝ったエズードから2馬身1/4差の3着に終わった。
ダンロップ師はレース前に本馬が脚を捻って痛みを訴えていた事を敗因として挙げた(それが事実ならレースに出すべきではないと筆者は思うのだが)が、この年の3歳世代のレベルが低いのではないかという声も上がった。
ダンロップ師はもう痛みは無くなったと主張して、本馬を引き続きキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(GⅠ・T12F)に出走させた。前年の同競走と凱旋門賞で2着していた伊ダービー馬ホワイトマズル、オイロパ賞・ターフクラシック招待S・コロネーションC・サンクルー大賞とGⅠ競走4勝のアップルツリー、英ダービー2着後に愛ダービーでも2着してきたキングズシアター、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたフォイヤー、ブリカディアジェラードSの勝ち馬シェトイアント、ジャンドショードネイ賞・ミラノ大賞の勝ち馬プティループ、エズード、ボブズリターン、前走4着のエンヴァイロンメントフレンドなどが対戦相手となった。前走の敗戦にも関わらず本馬が単勝オッズ4.5倍の1番人気に支持され、武豊騎手騎乗のホワイトマズルが単勝オッズ5.5倍の2番人気、コロネーションCとサンクルー大賞を連勝してきたアップルツリーが単勝オッズ6倍の3番人気となった。今回も中団追走から直線勝負にかけたが、発走直後にウォルター・スウィンバーン騎手が落馬して空馬となっていたエズードに直線で進路を塞がれてしまい、そのまま伸びずに11馬身差の7着に敗退。勝ったのは英ダービーで本馬が2着に下したキングズシアターであり、3歳世代のレベルが低いという意見はある程度払拭された。
このレース後に本馬は獣医による診察を受けた。最初のエックス線検査では異常は見当たらなかったが、超音波検査によって靱帯の損傷が判明。完治まで時間がかかる事から、翌8月に現役引退が発表された。3歳時の成績は5戦2勝だった。
血統
Chief's Crown | Danzig | Northern Dancer | Nearctic | Nearco |
Lady Angela | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | Crafty Admiral | ||
Olympia Lou | ||||
Petitioner | Petition | |||
Steady Aim | ||||
Six Crowns | Secretariat | Bold Ruler | Nasrullah | |
Miss Disco | ||||
Somethingroyal | Princequillo | |||
Imperatrice | ||||
Chris Evert | Swoon's Son | The Doge | ||
Swoon | ||||
Miss Carmie | T. V. Lark | |||
Twice Over | ||||
Histoire | Riverman | Never Bend | Nasrullah | Nearco |
Mumtaz Begum | ||||
Lalun | Djeddah | |||
Be Faithful | ||||
River Lady | Prince John | Princequillo | ||
Not Afraid | ||||
Nile Lily | Roman | |||
Azalea | ||||
Helvetie | Klairon | Clarion | Djebel | |
Columba | ||||
Kalmia | Kantar | |||
Sweet Lavender | ||||
Heiress | Rockefella | Hyperion | ||
Rockfel | ||||
Martial Air | Court Martial | |||
Solar Myth |
父チーフズクラウンは当馬の項を参照。
母イストワールは2・3歳時に仏で走り6戦1勝。母としては本馬の半姉オウマルダーヤ(父ヌレイエフ)【リディアテシオ賞(伊GⅡ)】も産んでいる。本馬の半妹マウヒバ(父デイジュール)の子にはシャイビア【プシシェ賞(仏GⅢ)】がいる。また、本馬の半姉ワディア(父リファール)は繁殖牝馬として日本に輸入され、オープン特別の米子Sを勝ったワディラムを産んでいる。イストワールの半姉ハマダ(父ハビタット)【ポルトマイヨ賞(仏GⅢ)・サンドランガン賞(仏GⅢ)】の牝系子孫にはウィンチェスター【セクレタリアトS(米GⅠ)・マンハッタンH(米GⅠ)・ジョーハーシュターフクラシック招待S(米GⅠ)・ソードダンサー招待S(米GⅠ)】やスターオブセヴィル【仏オークス(仏GⅠ)】が、イストワールの半姉エルブティーク(父ヴァルドロワール)の子にはハーリー【フュルシュテンベルクレネン(独GⅢ)・ヘンリーⅡ世S(英GⅢ)】が、イストワールの半妹イブラ(父アークティックターン)の子には日本で走ったエーピーグランプリ【ラジオたんぱ賞(GⅢ)】がいる。→牝系:F1号族①
母父リヴァーマンは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は350万ポンド(当時の為替レートで約5億5千万円)で購入されて、日本のイーストスタッドで種牡馬入りした。種牡馬人気は高く、初年度の1995年は75頭、2年目は76頭、3年目は81頭、4年目は73頭、5年目の1999年は68頭の繁殖牝馬を集めた。しかし産駒成績が振るわなかったため、この1999年にアブドゥッラー王子によって買い戻され、2000年は米国ケンタッキー州シャドウェルファームで供用された。翌年からは英国ニューマーケットのビーチハウススタッドで供用され、2005年に同じニューマーケットにあるウッドファームスタッドに移動。さらに2011年にはバッツフォードスタッドに移動した。欧米においても本馬の種牡馬成績は振るわず、種付け料は2千ポンドと安価である。全日本種牡馬ランキングは2001年の25位が最高だった。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
1996 |
ハーブブランド |
宇都宮記念(宇都宮) |
1996 |
ホシオー |
北國王冠(金沢)・中日杯(金沢)・白銀争覇(SPⅢ)・六甲盃(園田)・マイル争覇(SPⅡ)・スプリングC(金沢)・ジェイティービー賞(金沢)・百万石賞(金沢)・中日杯(金沢) |
1998 |
オーミアジル |
北陸三県畜産会長賞(金沢)・中日杯(金沢) |
1998 |
ノトテイオー |
平和賞(南関GⅢ) |
1999 |
ツルマルダンサー |
東北ジュベナイルチャンピオン南部駒賞(水沢) |
2000 |
イカルガ |
吉野ヶ里記念(KG2) |