ルモス
和名:ルモス |
英名:Le Moss |
1975年生 |
牡 |
栗毛 |
父:ルルヴァンステル |
母:フィーモス |
母父:バリモス |
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史上唯一英国長距離三冠を2年連続で達成して、長距離戦のみを走った馬としては欧州競馬史上最後のチャンピオンホースとして評価される |
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競走成績:2~5歳時に英仏で走り通算成績15戦11勝2着2回 |
誕生からデビュー前まで
ジョセフ・マグラス氏が運営する馬産団体マグラス・トラスト・カンパニーにより生産された愛国産馬である。1歳時に伊国の弁護士カルロ・D・アレッシオ氏により2万6千ギニーで購入され、英国ヘンリー・セシル調教師に預けられた。激しい気性の上に怠け者の馬であり、名伯楽のセシル師をもってしても育成は困難だったという。本馬の主戦を務めたジョー・マーサー騎手は「つむじ曲がりの野郎」と本馬を評した。
競走生活(2・3歳時)
2歳10月にサンダウンパーク競馬場で行われたドーキングS(T8F)でデビューしたが着外に敗れ、2歳戦の出走はこれだけだった。3歳時は5月にニューマーケット競馬場で行われた芝14ハロンの未勝利ステークスから始動して勝ち上がった。
翌6月にはアスコット競馬場でクイーンズヴァーズ(英GⅢ・T16F)に出走。単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持されると、2着アントラーを頭差抑えて勝利した。7月にエアー競馬場で出たテネントトロフィー(T15F)では、後に英チャンピオンハードルを2連覇するシーピジョンを首差の2着に抑えて勝利。8月にグッドウッド競馬場で出たマーチS(T14F)では、後にサンフアンカピストラーノ招待H・ハードウィックS・セントサイモンS・ジョッキークラブSを勝つ実力馬オブラツォヴィを2馬身差の2着に破って勝利した。
そして翌9月には英セントレジャー(英GⅠ・T14F127Y)に出走。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・キングエドワードⅦ世S・ジェフリーフリアを勝っていたイルドブルボン、後の愛セントレジャー・バーデン大賞の勝ち馬エムロルシャン、オブラツォヴィなどを抑えて1番人気に支持されたが、単勝オッズ29倍の伏兵ジュリオマリナーに足元を掬われて、1馬身半差の2着に敗れた。3歳時の成績は5戦4勝だった。
競走生活(4歳時)
4歳時は5月にヘイドックパーク競馬場で行われたリムS(T16F28Y)から始動して、グラディアトゥール賞・クイーンアレクサンドラS・シザレウィッチHなどを勝っていたジョンチェリーを2馬身半差の2着に破って勝利。
そして翌月のアスコット金杯(英GⅠ・T20F)に出走した。このレースには、カドラン賞2回・ジャンプラ賞・バルブヴィル賞・ドンカスターC・ジョッキークラブC2回を勝っていた同厩馬バックスキンが出走しており、1番人気に支持されていた。本馬は単勝オッズ2.75倍の2番人気だった。マーサー騎手はバックスキンの主戦でもあり、ここではバックスキンに騎乗。そのために本馬にはレスター・ピゴット騎手が騎乗した。レースでは先行したバックスキンに直線入り口3番手だった本馬が残り2ハロン地点で並びかけた。しばらくは2頭が並走していたが、残り1ハロン地点から本馬がバックスキンを突き放し、最後は7馬身差をつけて圧勝した。
その後は8月のグッドウッドC(英GⅡ・T21F)に向かった。アスコット金杯でバックスキンからさらに5馬身差の3着だったアラパホスなどの姿もあったが、マーサー騎手が鞍上に戻ってきた本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。レースではやはり直線独走で、7ポンドのハンデを与えた2着アラパホスに7馬身差をつけて圧勝した。
翌9月にはドンカスターC(英GⅢ・T18F)に出走して、単勝オッズ1.36倍の1番人気に支持された。ここでは11ポンドのハンデを与えたアラパホスが激走して本馬に食い下がってきたが、本馬が3/4馬身差で勝利を収め、1879年のアイソノミー、1949年のアリシドン、1953年のソーピ以来26年ぶり史上4頭目の“Stayers' Triple Crown(英国長距離三冠)”を達成した。
その後は10月のジョッキークラブC(英GⅢ・T16F)に向かった。しかしここではグッドウッドCで本馬から14馬身差の3着に終わっていたサガロSの勝ち馬ニコラスビルが勝利を収め、レース中に脚を負傷したらしい本馬は3馬身3/4差の5着に敗退。4歳時の成績は5戦4勝となった。
競走生活(5歳時)
5歳時は脚の負傷のためにまともな調教が出来ず、セシル師は本馬の馬体をプール調教で絞った。そしてこの年の初戦はいきなりアスコット金杯(英GⅠ・T20F)となった。順調さを欠いた状況ながらも単勝オッズ4倍の1番人気に支持された。レースは先行して先頭で直線に入ってきた本馬に、単勝オッズ7倍の2番人気だったガリニュールSの勝ち馬アルドロスが襲い掛かり、2頭の一騎打ちとなった。しかし本馬がしのぎ切り、3/4馬身差で勝利を収め、同競走の2連覇を達成した。
次走のグッドウッドC(英GⅡ・T21F)でも、アルドロスとの顔合わせとなった。レースは単勝オッズ1.57倍の1番人気に支持された本馬がスタートから逃げを打ち、それを直線で斤量が2ポンド軽いアルドロスが追い詰める展開となったが、本馬が首差で勝利を収め、同競走も2連覇を達成した。
次走のドンカスターC(英GⅢ・T18F)でも、アルドロスとの顔合わせとなった。単勝オッズ1.67倍の1番人気に支持された本馬はスタートから逃げを打ち、今回も直線で追い上げてきたアルドロスとの激戦となった。今度も斤量は本馬が2ポンド重かったが、本馬が首差で勝利を収め、史上初めて2度の英国長距離三冠を達成した馬となった。
その後は渡仏してグラディアトゥール賞(仏GⅢ・T4000m)に出走した。しかし前年のロワイヤルオーク賞で2着していたミネルヴ賞の勝ち馬アニファ(本馬より4.5kg斤量が軽かった)に敗れて、半馬身差の2着に敗退。このレースを最後に、5歳時4戦3勝の成績で競走馬を引退した。
競走馬としての評価
英タイムフォーム社は5歳時の本馬に対して135ポンドのレーティングを与え、これは同年の古馬勢では単独首位だった(他世代を含めると、ジュライC・スプリントC・アベイドロンシャン賞・フォレ賞を勝利した3歳馬ムーアスタイルの137ポンドに次いで2位タイ)。
英タイムフォーム社のレーティングにおいて、本馬以降に、本馬より高い評価を得た長距離馬は登場していない。本馬と入れ代わるように長距離界のトップに立ったアルドロスでも134ポンドが最高だった。1986年に本馬以来6年ぶり史上5頭目の英国長距離三冠馬となったロングボートは120ポンドの評価しか受けられず、1995年に史上6頭目の英国長距離三冠馬となったダブルトリガーも122ポンドだった。2006~09年にアスコット金杯を4連覇して4年連続でカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれたイェーツも最高128ポンドだった。長距離競走の権威がどんどん下落した事や、英タイムフォーム社の評価基準が変わった(英タイムフォーム社はそんなことはないと否定するかもしれないが、アラジやケルティックスウィングの項に記載したように2歳馬に対する評価基準が明らかに変わっている事からして、長距離馬に対する評価基準も変わっていると判断するのが妥当である)事も影響しているかもしれない。アルドロスが134ポンドの評価を得た年は凱旋門賞で2着しているから、純粋に長距離路線のみを走った馬としては、本馬が欧州競馬史上最後のチャンピオンホースであると言える。
血統
Le Levanstell | Le Lavandou | Djebel | Tourbillon | Ksar |
Durban | ||||
Loika | Gay Crusader | |||
Coeur a Coeur | ||||
Lavande | Rustom Pasha | Son-in-Law | ||
Cos | ||||
Livadia | Epinard | |||
Lady Kroon | ||||
Stella's Sister | Ballyogan | Fair Trial | Fairway | |
Lady Juror | ||||
Serial | Solario | |||
Booktalk | ||||
My Aid | Knight of the Garter | Son-in-Law | ||
Castelline | ||||
Flying Aid | Flying Orb | |||
Aideen | ||||
Feemoss | Ballymoss | Mossborough | Nearco | Pharos |
Nogara | ||||
All Moonshine | Bobsleigh | |||
Selene | ||||
Indian Call | Singapore | Gainsborough | ||
Tetrabbazia | ||||
Flittemere | Buchan | |||
Keysoe | ||||
Feevagh | Solar Slipper | Windsor Slipper | Windsor Lad | |
Carpet Slipper | ||||
Solar Flower | Solario | |||
Serena | ||||
Astrid Wood | Bois Roussel | Vatout | ||
Plucky Liege | ||||
Astrid | Fair Trial | |||
Ethereal |
父ルルヴァンステルはレヴモスの項を参照。
母フィーモスは英国で走り18戦3勝、ブランドフォードSを勝っている。フィーモスはかなり優れた繁殖牝馬で、本馬の全兄レヴモス【凱旋門賞・アスコット金杯・カドラン賞・オックスフォードシャーS】、全姉スイートミモサ【仏オークス】なども産んだ。本馬の好敵手アルドロスの母の父はレヴモスである。スイートミモサの子にはフルールロワイヤル【プリティポリーS(愛GⅡ)】、曾孫にはディルシャーン【レーシングポストトロフィー(英GⅠ)】、玄孫にはサラリンクス【加国際S(加GⅠ)】が、本馬の半妹ディセンバーブロッサム(父コンドルセ)の子にはロモンドブロッサム【シルケングライダーS(愛GⅢ)】、孫にはザガリア【クイーンズランドオークス(豪GⅠ)】がいる。
フィーモスの半妹アリシヴァ(父アルサイド)の子には、キャプテンジェームス【クリスタルマイル(英GⅡ)】、サットンプレイス【コロネーションS(英GⅡ)】、ニコリ【愛2000ギニー(愛GⅠ)】がいる。フィーモスの母フィーヴァフはヨークシャーオークスの勝ち馬。牝系を遡ると英ダービー馬にして名種牡馬であるベンドアの母ローグローズに行きつく。→牝系:F1号族⑥
母父バリモスは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は英国で種牡馬入りした。平地競走の活躍馬は出さなかったが、障害競走の活躍馬を複数出した。2000年8月に、英国サウスウエスト州サマーセットにあるウォーターハウススタッドにおいて25歳で他界した。