ヴェイグランシー

和名:ヴェイグランシー

英名:Vagrancy

1939年生

黒鹿

父:サーギャラハッド

母:ヴァルキア

母父:マンノウォー

名馬ブラックターキンの母となるなどして曾祖母フリゼットの血を大きく発展させた米最優秀3歳牝馬

競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績42戦15勝2着8回3着8回

誕生からデビュー前まで

米国メリーランド州ベルレアスタッドにおいて、同牧場の所有者で米ジョッキークラブ会長も務めた大馬主ウィリアム・ウッドワード卿により生産・所有され、名伯楽“サニー”・ジェームズ・エドワード・フィッツシモンズ調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳8月にサラトガ競馬場で行われたダート6ハロンの一般競走でデビューしたが、勝ったコートマナーズから8馬身差をつけられて7着に惨敗。翌月にアケダクト競馬場で出たダート5.5ハロンの未勝利戦では、2着ウェイガルに半馬身差で勝ち上がった。続いて出たアケダクト競馬場ダート6ハロンの一般競走では、後に好敵手となるスマイルズの7着に敗れた。次走のメイトロンS(D6F)では、同年の米最優秀2歳牝馬に選ばれることになるペトリファイに11馬身差をつけられて9着に敗退。翌10月にはローレル競馬場に向かい、ダート6ハロンの一般競走に出走。このレースでは、後にサラナクHを勝ちウォルデンS・ブルーグラスS・ジェロームHで2着する牡馬ブレスミーの2馬身差3着に敗れた。しかし距離が伸びたダート8ハロン70ヤードの一般競走では、2着シーウェイに2馬身差をつけて勝利した。同コースで出た一般競走も2馬身差で勝利を収め、引き続いてセリマS(D8.5F)に出走した。しかしメイトロンSで3着していたフィックルブッシュの4馬身差3着に敗退。2歳時の出走はこのレースが最後となり、2歳戦の成績は8戦3勝でステークス競走の勝ちは無かった。

競走生活(3歳時)

3歳時は4月にジャマイカ競馬場で行われたダート6ハロンの一般競走から始動したが、トーントの4馬身3/4差3着に敗れた。次走のジャマイカ競馬場ダート8.5ハロンの一般競走も、牡馬エアーカレントに10馬身差をつけられて3着に終わった。しかし再び出走したジャマイカ競馬場ダート6ハロンの一般競走では、2着スマイルズに2馬身半差で勝利した。次走のピムリコオークス(D8.5F)では、2着チキータミアや3着ボンネットアンとの接戦を制して首差で勝利した。その後はベルモントパーク競馬場ダート8ハロンの一般競走に出走したが、ヴァニティHなどを勝っていた4歳牝馬ペインテッドヴェイルの6馬身1/4差7着に敗れた。次走のエイコーンS(D8F)では、ザカローザの1馬身半差2着に敗退。しかしCCAオークス(D12F)では2着マカレルに2馬身差をつけて勝利した。さらにデラウェアオークス(D9F)に出走して、2着ウェイガルに鼻差で勝利。続いてアケダクト競馬場ダート8.5ハロンの一般競走に出走して、2着ロトポワイズに5馬身差をつけて圧勝した。さらにガゼルS(D8.5F)に出走して、2着スマイルズに4馬身差で完勝した。

その後はバトラーH(D9.5F)に出走して、前年の米国三冠馬ワーラウェイと対決。しかし132ポンドの酷量が課せられたワーラウェイは2馬身半差2着に敗退。斤量100ポンドだった本馬もワーラウェイから1馬身1/4差の4着に敗れ、勝ったのはトラローズという馬だった。次走のエンパイアシティH(D9.5F)にはワーラウェイは不在だったが、勝ったアパッチから5馬身3/4差の4着に敗れた。その後は牝馬限定競走に戻り、テストS(D7F)に出走。トーント、スマイルズとの接戦を制して、2着スマイルズに頭差で勝利した。次走のアラバマS(D10F)ではボンネットアンに先着されて2位入線だったが、ボンネットアンが3位入線のスマイルズの進路を妨害した咎で降着となったため、本馬が繰り上がって勝ちを拾った。ナラガンセットパーク競馬場で出走したニューイングランドオークス(D8.5F)では、アッシュランドS2着馬スパイラルラスの3/4馬身差2着に敗れた。

次走のベルデイムH(D9F)では、泥だらけの不良馬場の中を逃げる本馬と、追い込んできた4歳年上の亜国産馬バランコサが同時にゴールイン。写真判定でも勝敗を決する事が出来ずに1着同着となった(勝ち馬が2頭いるのは分割競走だったためとする資料もあるが間違い)。優勝トロフィーが1つしかなかったため、その所有権を巡ってウッドワード卿とバランコサの所有者だった米国の俳優・歌手のビング・クロスビー氏(又は彼の友人で一緒に馬主活動をしていたリンジー・ハワード氏。彼はシービスケットの所有者チャールズ・スチュワート・ハワード氏の息子である)がコイントスの勝負をして、負けたウッドワード卿は優勝トロフィーを得られなかったという話が伝わっている。なお、斤量はバランコサより本馬の方が3ポンド重かった。

続いて出走したのは、牡馬相手のローレンスリアライゼーションS(D13F)だった。このレースには、前走でワーラウェイとのマッチレースを勝ってきたばかりのプリークネスS・シャンペンS・ウィザーズS・アメリカンダービーなどの勝ち馬アルサブも出走してきた。本馬は健闘したものの、アルサブには敵わず3馬身半差の2着に敗れた。その後はレディーズH(D12F)に出走。このレースでは、1歳年上のCCAオークス馬レベルベストとの対戦となった。しかしレースは126ポンドを課せられた本馬が、18ポンドのハンデを与えた4歳牝馬ダークディスカヴァリーに1馬身1/4差をつけて勝利を収め、レベルベストは8着に沈んだ。次走のクイーンイザベラS(D9F)では、2着ロトポワイズに3馬身差で勝利した。

その後は再度牡馬相手の競走に向かった。まずはメリーランドH(D10F)に出走。しかし後にサンタアニタHを勝つサムズアップから7馬身半差をつけられて4着に敗退。次走のワシントンH(D10F)では、ワーラウェイと2度目の対戦となった。しかしレースはワーラウェイがサムズアップを半馬身差の2着に抑えて勝ち、本馬はさらに13馬身半差をつけられた7着と完敗した。これが3歳時最後のレースとなったが、21戦11勝の成績で、この年の米最優秀3歳牝馬だけでなく、米最優秀ハンデ牝馬も単独で受賞した。

競走生活(4歳時)

4歳時も現役を続行。まずは5月にジャマイカ競馬場で行われたダート8.5ハロンのハンデ競走から始動した。ちなみに前年もそうだが、有力馬がシーズンをスタートさせることが多いフロリダ州からの始動ではなかったのは、ちょうど第二次世界大戦の影響でフロリダ州の競馬開催が縮小されていたためである。このシーズン初戦は、前年のブラックヘレンHとダイアナHを勝っていたポマーヤの3/4馬身差2着だった。次走のベルモントパーク競馬場ダート8ハロンの一般競走では、この年の米最優秀ハンデ牝馬に選ばれることになるマーケルに6馬身差をつけられて2着に敗れた。次走のベルモントパーク競馬場ダート8ハロンのハンデ競走では、この年のCCAオークスを勝つことになるトゥータイムリーを2馬身差の2着に破って勝利した。次走は牡馬相手の大競走サバーバンH(D10F)となったが、ここでは勝ったドンビンゴ(前出のクロスビー氏の所有馬)から9馬身差をつけられた10着に敗れた。

その後はアケダクト競馬場に向かい、6月のダート9ハロンのハンデ競走に出て、マーチャンツ&シチズンズHの勝ち馬ロチンバールの半馬身差3着。そして1週間後のブルックリンH(D10F)に参戦した。しかしこのレースには、前年のケンタッキーダービー・ベルモントS・ブルーグラスS・アーリントンクラシックS・トラヴァーズSを勝っていたシャットアウト、サンフォードS・ホープフルS・ブリーダーズフューチュリティSの勝ち馬デヴィルダイヴァー、ドンビンゴ、前月のサバーバンHで2位入線も降着になっていたウッドメモリアルS・ジョッキークラブ金杯・ピムリコスペシャル・サバーバンH・ギャラントフォックスHの勝ち馬マーケットワイズ、サンフアンカピストラーノ招待H2回・アメリカンダービー・ウエストチェスターH・サンパスカルH・サンアントニオH・アメリカンHを勝っていたミオランドといった有力牡馬勢がずらりと顔を連ねていた。このメンバー構成の中で好走するのは無理だったようで、勝ったデヴィルダイヴァーから19馬身差をつけられた8着に敗れ去った。

その後は6月末にジャマイカ競馬場で行われたダート8.5ハロンのハンデ競走に向かった。しかし結果はナイトグロウの5馬身半差3着。次走は8月にベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの一般競走となり、グレートアメリカンSで2着していた牡馬フェイマスヴィクトリーの1馬身3/4差2着だった。次走のダイアナH(D9F)では、3歳時における好敵手の1頭ボンネットアンに敗れて、1馬身差の2着だった。次走のトレントンH(D9F)で再び牡馬に挑んだが、エーオンバーの6馬身3/4差5着に敗れた。

連覇を目指して出走したベルデイムH(D9F)では、マーケル、テストS・アラバマSを勝ってきたこの年の米最優秀3歳牝馬ステファニタの2頭に屈して、マーケルの3馬身差3着に敗れた。やはり連覇を狙ったレディーズH(D12F)も、ステファニタの1馬身半差2着に敗れた。それでも今一度牡馬に挑んだニューヨークH(D18F)では、マンハッタンH3回・ホイットニーSを勝っていたボーリングブローク、この年のベルモントSで米国三冠馬カウントフリートの2着(と言っても25馬身差をつけられていたが)していたフェアリーマンハーストの2頭に後れを取り、ボーリングブロークの3馬身差3着に敗退。このレースを最後に、4歳時13戦1勝の成績で競走馬を引退した。

血統

Sir Gallahad Teddy Ajax Flying Fox Orme
Vampire
Amie Clamart
Alice
Rondeau Bay Ronald Hampton
Black Duchess
Doremi Bend Or
Lady Emily 
Plucky Liege Spearmint Carbine Musket
Mersey
Maid of the Mint Minting
Warble
Concertina St. Simon Galopin
St. Angela
Comic Song Petrarch
Frivolity
Valkyr Man o'War Fair Play Hastings Spendthrift
Cinderella
Fairy Gold Bend Or
Dame Masham
Mahubah Rock Sand Sainfoin
Roquebrune
Merry Token Merry Hampton
Mizpah
Princess Palatine Prince Palatine Persimmon St. Simon
Perdita
Lady Lightfoot Isinglass
Glare
Frizette Hamburg Hanover
Lady Reel
Ondulee St. Simon
Ornis

サーギャラハッドは当馬の項を参照。

母ヴァルキアは現役成績27戦9勝。大競走の勝ちは無いが、アラバマSで2着、CCAオークスで3着などの実績がある。繁殖牝馬としては、本馬の半姉ヴィカレス(父フライングエボニー)【スピナウェイS・アストリアS・レディーズH・デラウェアH】、半妹ヒプノティック(父ヒプノティスト)【CCAオークス・アラバマS】などを産んでいる。

ヴァルキアは一大牝系を構築しており、ヴィカレスの曾孫にジャッジャー【フロリダダービー(米GⅠ)・ブルーグラスS(米GⅠ)】、牝系子孫にハーフアイスト【ジャパンC】、ダイアモンドレラ【ジャストアゲームH(米GⅠ)・ファーストレディS(米GⅠ)】などが、本馬の全姉ヴァルスの曾孫にボールドリック【英2000ギニー・英チャンピオンS】が、本馬の半姉ヴァルカラ(父ギャラントフォックス)の曾孫に日本で走ったシャダイターキン【優駿牝馬】、玄孫世代以降に日本で走ったレッツゴーターキン【天皇賞秋(GⅠ)】、カレンチャン【スプリンターズS(GⅠ)・高松宮記念(GⅠ)】などが、本馬の半妹ベリコース(父ボスウェル)の曾孫にヴィトリオリック【サラトガスペシャルS・ピムリコローレルフューチュリティ・シャンペンS】がいる。

ヴァルキアの母プリンセスパラタインは仏国産馬で、不出走のまま米国に繁殖牝馬として輸入された。プリンセスパラタインの母は世界的名牝系の祖フリゼットである。フリゼットは仏国で繁殖入りしたが元々は米国産馬なので、プリンセスパラタインは母の母国に戻って牝系を伸ばした事になる。→牝系:F13号族②

母父マンノウォーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は米国ケンタッキー州クレイボーンファームで繁殖入りした。初子は6歳時に産んだ牡駒ブラックターキン(父ローズスカラー)で、英セントレジャーを筆頭に、ジムクラックS・ロイヤルロッジS・リングフィールドダービートライアルS・セントジェームズパレスS・ホワイトローズSを勝ち、アスコット金杯で2着するなど、15戦8勝の成績を挙げた歴史的名馬となった(詳細は当馬の項を参照)。

その後にブラックターキンに匹敵する子を産むことは無かったが、8歳時に産んだ3番子の牡駒ハイヴァニア(父ヒプノティスト)が障害競走で活躍して90戦15勝の成績を残し、9歳時に産んだ4番子の牝駒ヴァルカニア(父サムチャンス)がテストS・ダイアナHを勝ちセリマS・デモワゼルS・アラバマSで2着するなど32戦6勝の成績を残した。本馬は1964年に25歳で他界した。

後世に与えた影響

本馬は競走馬・繁殖牝馬としての実績は勿論だが、根幹繁殖牝馬としての名声も非常に大きい。

ヴァルカニアの孫には、フィドルアイル【サンルイレイS・サンフアンカピストラーノ招待H・ハリウッドパーク招待ターフH・アメリカンH】、タラート【サンタバーバラH(米GⅠ)・ヴァニティH(米GⅠ)・オークツリー招待H(米GⅠ)】、曾孫にはプリンストゥルー【サンルイレイS(米GⅠ)・サンフアンカピストラーノ招待H(米GⅠ)】、ヒドゥンライト【サンタアニタオークス(米GⅠ)・ハリウッドオークス(米GⅠ)】、ファーディナンド【ケンタッキーダービー(米GⅠ)・BCクラシック(米GⅠ)・ハリウッド金杯(米GⅠ)】、玄孫世代以降には、アーティーシラー【BCマイル(米GⅠ)】、日本で走ったサクラチトセオー【天皇賞秋(GⅠ)】、サクラキャンドル【エリザベス女王杯(GⅠ)】、タイセイレジェンド【JBCスプリント(GⅠ)】などがいる。

また、5番子の牝駒ナターシャ(父ナスルーラ)の子にはナタシュカ【モンマスオークス・アラバマS・サンタマリアH】、孫にはグレゴリアン【ジョーマクグラス記念S(愛GⅠ)】、曾孫にはゴールドアンドアイボリー【オイロパ賞(独GⅠ)・伊ジョッキークラブ大賞(伊GⅠ)・バーデン大賞(独GⅠ)】、ダークロモンド【愛セントレジャー(愛GⅠ)】、ディスタントリラティヴ【サセックスS(英GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)】、エズード【英国際S(英GⅠ)2回・エクリプスS(英GⅠ)】、玄孫世代以降には、北米首位種牡馬イルーシヴクオリティ、アニーズ【BCジュヴェナイル(米GⅠ)】、グランドクチュリエ【ソードダンサー招待S(米GⅠ)2回・ジョーハーシュターフクラシック招待S(米GⅠ)】、スイッチ【ラブレアS(米GⅠ)・サンタモニカS(米GⅠ)】、クエスティング【CCAオークス(米GⅠ)・アラバマS(米GⅠ)】、日本で走ったシルクプリマドンナ【優駿牝馬(GⅠ)】、ヘヴンリーロマンス【天皇賞秋(GⅠ)】などがいる。

このように本馬は曾祖母フリゼットの牝系を発展させる立役者の一頭となっている。その功績を記念して、ベルモントパーク競馬場では本馬の名を冠したGⅡ競走ヴェイグランシーHが施行されている。

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