カッツィア

和名:カッツィア

英名:Kazzia

1999年生

鹿毛

父:ジナード

母:コルナ

母父:ラグナス

独国産馬として史上初めて英国クラシック競走に優勝した英1000ギニー・英オークスの覇者は繁殖牝馬としても活躍したが惜しくも早世する

競走成績:2・3歳時に独伊英米で走り通算成績7戦5勝

誕生からデビュー前まで

ロズヴィータ・グリューネヴァルト夫人により生産された独国産馬で、独国の馬主レンスタール・ヴォーラー氏の所有馬となり、独国ブレーメンに厩舎を構えていたアンドレアス・ヴォーラー調教師に預けられた。英タイムフォーム社の記事によると、本馬は痩せて骨が浮き出た馬だったという。

競走生活(2歳時)

2歳9月に独国ホッペガルテン競馬場で行われたホヴォゲレネン(T1400m)でデビュー。単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持されると、後方待機策から直線で力強く伸び、残り200m地点で先頭に立って、2着テムピパッサティに1馬身1/4差で楽勝した。

翌月には伊国サンシーロ競馬場に移動して、ドルメロ賞(伊GⅢ・T1600m)に出走。ここでは馬群の中団につけて、直線入り口6番手から外側を通って追い上げ、残り200m地点で先頭の英国調教馬クートネーを捕らえると、最後は2馬身1/4差をつけて快勝した。

このときの本馬の走りに目を付けたのが、この1週間後にサンシーロ競馬場で行われる伊ジョッキークラブ大賞を勝利することになる所有馬クツブの様子を見るために来場していたドバイのシェイク・モハメド殿下だった。その前日までは本馬について何も知らなかったが、本馬の走りを見て非常に感銘を受けたモハメド殿下は、すぐさま本馬の所有者ヴォーラー氏に対して本馬を購入したい旨を申し出た。

取引は成立し、ゴドルフィンの所属馬となった本馬は、ドバイのサイード・ビン・スルール厩舎に転厩し、冬場はドバイで過ごした。ドバイに滞在中の4月に、本馬はゴドルフィンがナドアルシバ競馬場で実施した非公式トライアル競走で、チェリーヒントンSを勝っていたサイレントオナー(サンデーサイレンス産駒でミエスクの全妹の孫という期待馬だった)と対戦した。結果は頭差の敗北だったが、内容的には十分なものだったという。

競走生活(3歳時)

本馬は本質的に距離が伸びたほうが良いと考えられていたため、元々は英オークスを目指す予定だったが、モハメド殿下の強い主張により、その前に英1000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走することになった。対戦相手は、1994年のカルティエ賞年度代表馬バラシアの全妹でフィリーズマイルなど3戦無敗のゴッサマー、そのバラシア産駒でディックハーンフィリーズSを勝っていたアラシャ、ネルグウィンSを勝ってきたミステラー、ケンタッキーオークス馬ブラッシュウィズプライドの娘でフィリーズマイル2着馬のマリインスキー、モイグレアスタッドSの勝ち馬クォータームーン、オーソーシャープS2着馬スノーファイアなどだった(サイレントオナーは口頭蓋エントラップメントが発見されたため回避していた)。ゴッサマーが単勝オッズ2.375倍の1番人気で、アラシャが単勝オッズ7倍の2番人気、ミステラーが単勝オッズ8倍の3番人気と続いていた。一方の本馬は単勝オッズ15倍で6番人気の伏兵だった。しかし初コンビを組んだランフランコ・デットーリ騎手を鞍上に先行すると、残り2ハロン地点から仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立ち、最後まで粘り切って、2着スノーファイアに首差をつけて優勝した。独国産馬が英国のクラシック競走を制したのは史上初の快挙だった。

続く英オークス(英GⅠ・T12F10Y)では、遅れてきた大物であるムシドラSの勝ち馬イズリントン、前走ループSを11馬身差で圧勝してきたメローパーク、愛1000ギニーでゴッサマーの2着してきたクォータームーン、スノーファイアなどを抑えて、単勝オッズ4.33倍の1番人気に支持された。スタミナを要する不良馬場で行われたレースでは、単勝オッズ4.5倍の2番人気に推されていたイズリントンを始めとする他馬の多くが馬場に脚を取られてもがくのを尻目に、スタートから快調に先頭を飛ばした。そしてそのまま直線に突入して後続を引き離しにかかった。そこに本馬以外に唯一馬場状態を克服できた単勝オッズ8.5倍の4番人気馬クォータームーンが猛追してきたが、一度も並ばせることは無く半馬身抑えて勝利(3着シャドーダンシングは14馬身後方)。1990年のサルサビル以来12年ぶりに英1000ギニー・英オークスのダブル制覇を達成した。2015年現在において、英1000ギニー・英オークスを両方制した馬は本馬以降に出現していない。対抗馬と目されていたイズリントンは本馬から19馬身も後方の8着に沈んだ。非常に馬場状態が悪かったため、勝ちタイム2分44秒52は、ホームワードバウンドが2分49秒36で優勝した1964年より後では今日に至るまで最も遅いものだった。

このレース後、陣営は次の目標について英国牝馬三冠を掲げ、秋は英セントレジャーに向かわせることを明言した。

その後は約3か月の休養を経て、ヨークシャーオークス(英GⅠ・T12F)に出走した。ナッソーSを勝ってきたイズリントン、愛オークスで2着、ナッソーSで3着してきたクォータームーン、リブルズデイルSの勝ち馬イリジスティブルジュエルなどを抑えて、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。レースでは先行して残り3ハロン地点で先頭に立ったものの、残り1ハロン地点で失速して、イズリントンの5馬身1/4差4着に終わり、初黒星を喫した。敗因について、陣営は調教が軽すぎて準備不足だったかもしれないと語った。

その後は英セントレジャーに向けて調整されていたが、脚の腫れが出たためレース直前になって回避が決定し、かなり有力視されていた1985年のオーソーシャープ以来17年ぶり史上10頭目となる英国牝馬三冠馬誕生の夢は絶たれた。

その代わりにアーリントンパーク競馬場で行われるブリーダーズカップを目指して渡米。初戦のフラワーボウル招待H(米GⅠ・T10F)では、前年のビヴァリーDS・ニューヨークHの勝ち馬で前走ビヴァリーDS3着のイングランズレジェンド、メイトリアークS・ダイアナHの勝ち馬スタリーン、アスタルテ賞・クレオパトル賞の勝ち馬タートルボウなどが対戦相手となった。当初は出走予定だった前年のBCフィリー&メアターフ勝ち馬でコロネーションS・ジャックルマロワ賞なども勝っていた前年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬及びエクリプス賞最優秀芝牝馬バンクスヒルが回避したため、前年のフラワーボウル招待H2着馬でもあったイングランズレジェンドが単勝オッズ2.05倍の1番人気に押し出され、本馬が単勝オッズ4.05倍の2番人気、スタリーンが単勝オッズ4.25倍の3番人気となった。スタートが切られるとジョージ・シャヴェス騎手鞍上の本馬は速やかに先頭に立ち、イングランズレジェンドの圧力を受けながら逃げ続けた。当日は本馬が得意とする湿った馬場になっており、イングランズレジェンドは先に失速。代わりに3番手を追走していたタートルボウが直線で本馬をじわじわと追い上げてきたが、最後は首差凌いで勝利を収めた。

そして9万ドルの追加登録料を支払ってBCフィリー&メアターフ(米GⅠ・T10F)に出走。ビヴァリーDS・イエローリボンSを連勝してきた前年のデルマーオークス勝ち馬ゴールデンアップルズ、前年の覇者バンクスヒル、凱旋門賞で見せ場を作る5着だったイズリントン、デルマーオークスの勝ち馬ダブリーノ、英1000ギニー8着後に愛1000ギニーを勝ち前走ムーランドロンシャン賞でロックオブジブラルタルの3着してきたゴッサマー、タートルボウ、フラワーボウル招待Sで4着だったスタリーン、ニューヨークH・ギャラクシーSなどの勝ち馬オウズリー、クイーンエリザベスⅡ世CCを勝ってきたリスカヴァース、仏1000ギニー馬ゼンダなどが対戦相手となった。この年のエクリプス賞最優秀芝牝馬に選ばれるゴールデンアップルズが単勝オッズ3.8倍の1番人気、バンクスヒルが単勝オッズ4.8倍の2番人気、イズリントンが単勝オッズ5倍の3番人気、ダブリーノが単勝オッズ10.1倍の4番人気となっていた。一方の本馬は直前に脚の腫れが再発したことが影響したのか、単勝オッズ11.2倍で5番人気止まりだった。しかもゲート入りを嫌がるという、本馬にしては珍しく焦れ込む様子が伺えた。大外12番枠発走の本馬は、スタート直後のコーナーで大外に膨らみながら押して先頭に立ち、そのまま快調に先頭をひた走った。そして先頭を維持したまま直線を向いたが、すぐにスタリーン、バンクスヒル、イズリントン、ゴールデンアップルズ、ゴッサマーなどの後続馬に飲み込まれてしまい、それでも内側で粘りを見せたものの、勝ったスタリーンから3馬身差の6着に終わった。

もし勝利していれば独国産馬としては史上初のブリーダーズカップ制覇になるところだったが、果たせなかった。それでもイズリントンを抑えてこの年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬に選出されている。このカルティエ賞の表彰式の直後に、本馬の競走馬引退が発表された。3歳時の成績は5戦3勝だった。

血統

Zinaad Shirley Heights Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross
Time Charter Saritamer ダンサーズイメージ Native Dancer
Noors Image
Irish Chorus Ossian
Dawn Chorus
Centrocon High Line ハイハット
Time Call
Centro ヴィエナ
Ocean Sailing
Khoruna Lagunas イルドブルボン Nijinsky Northern Dancer
Flaming Page
Roseliere Misti
Peace Rose
Liranga Literat Birkhahn
Lis
Love In Crepello
Tudor Love
Khora Corvaro Vaguely Noble ヴィエナ
Noble Lassie
Delmora Sir Gaylord
Penitence
Kandia Luciano Henry the Seventh
Light Arctic
Kronungsgabe Orsini
krönung

父ジナードはミルリーフ直子の英愛ダービー馬シャーリーハイツと、英オークス・英チャンピオンS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・コロネーションCを制した超名牝タイムチャーターとの間に産まれた良血馬である。1歳時に30万ギニーで取引されて競走馬となり、ジョッキークラブS(英GⅡ)に勝つなど、12戦3勝の成績を残した。競走馬引退後は独国で種牡馬入りしたが、元々スピードよりもスタミナを重視する傾向が強い独国の馬産界にあってさえも種牡馬としての人気と知名度は低く、本馬と同じ1999年産まれの産駒は僅か9頭だった。当然ブリーダーズカップ登録などされているはずもなかった。本馬の登場で一躍脚光を浴びたはずであるが、結局本馬以外に活躍馬を出せないまま2005年に他界している。

母コルナは独で走り通算成績6戦2勝。2歳時に距離1400mの小レースを、4歳時に距離2200mの小レースを勝利した程度だった。本馬の生産者グリューネヴァルト夫人が所有していた唯一の繁殖牝馬だった。産駒数はそれほど多くないが、本馬の半兄キンバヤール(父ロイヤルアブジャル)【独1000ギニー】も産んでいる。牝系は独国を中心に活躍馬を送り出しており、コルナの伯父カミロスはオイロパ賞(独GⅠ)や独セントレジャー(独GⅡ)を勝ち、コルナの祖母カンディアはアラルポカル(独GⅠ)を勝っている。カンディアの従兄弟には、史上唯一の独国三冠馬にして種牡馬としても大きな成功を収めたケーニヒスシュトゥール【独ダービー(独GⅠ)・アラルポカル(独GⅠ)・伊ジョッキークラブ大賞(伊GⅠ)・独2000ギニー(独GⅡ)・独セントレジャー(独GⅡ)・デュッセルドルフ大賞(独GⅡ)・ハンザ賞(独GⅡ)】がいる。→牝系:F5号族②

母父ラグナスはイルドブルボン産駒で、現役成績11戦6勝。独ダービー(独GⅠ)・ヴィンターファヴォリテン賞(独GⅢ)を勝っている。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はゴドルフィン所有のもと、英国ダルハムホールスタッドで繁殖入りした。シングスピールとの間に産まれた初子の牡駒イースタンアンセムが、ドバイシーマクラシック(首GⅠ)を勝ち、バーデン大賞(独GⅠ)とオイロパ賞(独GⅠ)でそれぞれ2着するなど16戦5勝の成績を挙げる活躍を見せた。さらにイースタンアンセムの全弟である2番子の牡駒ツァイトオーペルもコンデ賞(仏GⅢ)を勝つなど5戦3勝の成績を挙げた。

このように順調な繁殖生活を送っていた本馬だったが、2013年3月にドバウィ牝駒を出産した際に合併症のため14歳で他界した(産まれた子は無事だった)。

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