ジュエルプリンセス

和名:ジュエルプリンセス

英名:Jewel Princess

1992年生

鹿毛

父:キートゥザミント

母:ジュエルリッジ

母父:メリノ

最初は全く歯が立たなかったセレナズソングをBCディスタフなどで3度破ってエクリプス賞最優秀古馬牝馬の座に君臨する

競走成績:2~5歳時に米加で走り通算成績29戦13勝2着4回3着7回

誕生からデビュー前まで

米国フロリダ州ファーンズワースファームにおいてマイケル・シャーマン氏によって生産され、サウジアラビアの王族アハメド・ビン・サルマン殿下が創設したザ・サラブレッド・コーポレーション社と、マーサ・J・スティーブン氏及びリチャード・J・スティーブン氏の共同所有馬となり、ウォレス・ドレス調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳10月にコールダー競馬場で行われたダート5.5ハロンの未勝利戦で、ウィグベルト・ラモス騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ7.5倍の3番人気で出走した本馬はスタート後の加速が悪く、道中は馬群の中団に置かれてしまい、直線でも伸びずに、勝った単勝オッズ3.2倍の2番人気馬レッツゴートゥイットから8馬身半差の3着に敗退した。

翌月にエベルト・カスティーヨ・ジュニア騎手と組んで出走したコールダー競馬場ダート7ハロンの未勝利戦では、単勝オッズ8.4倍で4番人気の評価だった。今回もスタートが悪かったが、早い段階で3番手まで押し上げると、逃げる単勝オッズ1.9倍の1番人気馬ショッキングプレジャーに直線入り口で並びかけ、叩き合いを3/4馬身差で制して勝ち上がった。

引き続きカスティーヨ・ジュニア騎手と組んで翌月に出走したコールダー競馬場ダート8.5ハロンの一般競走では、単勝オッズ7.5倍の3番人気だった。ここでもスタートがあまり良くなく、道中は後方2番手を進んでいたが、徐々に位置取りを上げて直線入り口で先頭に立ち、単勝オッズ2.3倍の1番人気に推されていたウィズアプリンセスを2馬身半差の2着に破って勝利。2歳時の成績は3戦2勝となった。

競走生活(3歳時)

3歳時は2月にサンタアニタパーク競馬場で行われた芝8ハロンの一般競走から始動した。コーリー・ナカタニ騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ6.9倍の5番人気と、今ひとつ評価されていなかった。ここではまずまずのスタートを切ると、そのまま道中は馬群の中団4番手を追走。直線入り口でもまだ4番手だったが、ここから差し切り、単勝オッズ2.3倍の1番人気馬クダを1馬身差の2着に破って勝利した。

次走はサンタアニタオークス(米GⅠ・D8.5F)となった。対戦相手は僅か4頭だったが、オークリーフS・ハリウッドスターレットS・ラスヴァージネスS・ランダルースS・サンタイネスBCSなどの勝ち馬でBCジュヴェナイルフィリーズ2着のセレナズソング、ハリウッドスターレットS2着・ラスヴァージネスS3着のアーベイン、前走の一般競走を10馬身差で勝ってきたマリズシーバ(GⅠ競走5勝のコンガリーの母)、後のプリンセスSの勝ち馬フェイヴァードワンが出走していた。セレナズソングが単勝オッズ1.7倍の1番人気、アーベインが単勝オッズ2.8倍の2番人気、マリズシーバが単勝オッズ8.4倍の3番人気、ナカタニ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ12.4倍の4番人気、フェイヴァードワンが単勝オッズ18.1倍の最低人気だった。

レースはマリズシーバが逃げて、セレナズソングが2番手、アーベインが3番手、フェイヴァードワンが4番手、本馬が最後方を進む展開となった。直線に入ると、先頭に立っていたセレナズソングと追いすがるアーベインの2頭が後続を大きく引き離して一騎打ちを演じ、最後方の本馬との差はどんどん開いていった。最後はセレナズソングがアーベインを頭差抑えて勝ち、14馬身差の3着にマリズシーバ、さらに首差の4着にフェイヴァードワンで、本馬はフェイヴァードワンからさらに11馬身差をつけられた5着最下位と惨敗した。

あまりの惨敗ぶりのためか、陣営は本馬を芝路線に進ませることにしたようで、次走はベイメドウズ競馬場で行われる下級ステークス競走のサンホセBCS(T8F)となった。ここではトマス・チャップマン騎手とコンビを組み、単勝オッズ3.4倍の2番人気となった。今回もスタートが悪く、道中は後方2番手を進むことになった。それでも直線入り口では2番手まで押し上げると、逃げる単勝オッズ26.3倍の5番人気馬スル-デルシグロを差し切って2馬身差で勝利した。

続いてセニョリータBCS(米GⅢ・T8F)に駒を進めた。仏国でエクリプス賞を勝った後に米国に移籍してきたトップシェイプが単勝オッズ2.9倍の1番人気で、クリス・アントレー騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。レースはスタートから先頭を飛ばしまくった先行馬勢が全滅するハイペースとなり、トップシェイプ、ハリウッドスターレットS3着馬スキーダンサー、年初の一般競走で本馬の3着だったアルティカ、オウリエットなどの後方待機馬勢が直線で先頭を争う展開となった。本馬も馬群の中団後方につけていたため、当然直線で先頭を争わなければならなかったのだが、今ひとつ伸びが無く、トップシェイプの3馬身半差5着に敗れた。

次走のハネムーンH(米GⅢ・T8.5F)には、トップシェイプ、アルティカ、オウリエット、スキーダンサー、そして本馬と、前走の上位5頭が全て参戦してきた。トップシェイプが単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持される一方で、前走に続いてアントレー騎手が騎乗する本馬は前走で後れを取った馬全てより下の単勝オッズ16倍の5番人気だった。レースでは単勝オッズ20.1倍の最低人気馬クダが先頭を引っ張ったが、逃げ馬が他にいなかったために前走とは打って変わってスローペースとなった。早め先頭に立ったアルティカが後続を引き離して押し切ろうとしたが、直線入り口でも最後方だったオウリエットが豪脚を繰り出して差し切り勝利。本馬は終始後方のまま見せ場無く、オウリエットから5馬身3/4差の5着に敗退した。

一間隔空けて出走したサンクレメンテH(米GⅢ・T8F)では、オウリエット、ナタルマS2着馬ロイヤルヴェイル、後のシュヴィーH2着馬スムーズチャーマー、アクサーベンオークスを勝ってきたスクラッチペーパーなどが対戦相手となった。オウリエットが単勝オッズ2倍の1番人気で、クリス・マッキャロン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ11.4倍の5番人気だった。本馬は相変わらずスタートが悪く、道中は最後方を進んだ。しかし四角で一気に位置取りを上げると、直線入り口で先頭に立った。そして追いすがる2着オウリエットに1馬身差で勝利した(ただし斤量は本馬のほうがオウリエットより4ポンド軽かった)。

そして8月のデルマーオークス(米GⅠ・T9F)に出走した。ニジャナSを勝ってきたベイルアウトベッキー、オウリエット、ハリウッドオークス・レイルバードSを勝ってきたスリープイージーなどが対戦相手となった。ベイルアウトベッキーが単勝オッズ2.7倍の1番人気、オウリエットが単勝オッズ3.9倍の2番人気、スリープイージーが単勝オッズ4.7倍の3番人気で、アレックス・ソリス騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ8.4倍の4番人気となった。前走と異なり定量戦であるため、本馬の本当の実力が試される場となった。スタートが切られると単勝オッズ38.4倍の最低人気馬トップルーが大逃げを打ち、本馬は馬群の中団につけた。しかしトップルーが刻んだペースは意外と遅く、直線に入ってもトップルーが粘り続けた。そのために後方待機馬勢は、早めに仕掛けなければ届かない展開となり、本馬より後方にいながらも本馬より先に直線に入ってきたベイルアウトベッキーが抜け出して勝利。本馬は直線で追い上げたが、ベイルアウトベッキーから2馬身半差の5着に敗退した。

10月にサンタアニタパーク競馬場で出走したハロルドCラムザーシニアS(T8F)では、ラフィット・ピンカイ・ジュニア騎手とコンビを組んだ。ハネムーンHで4着だったスキーダンサーなどが出走していたが、本馬が単勝オッズ3.2倍の1番人気に支持された。しかしスタートが悪くて最後方からの競馬となり、直線入り口8番手から追い込むも、単勝オッズ7.5倍の4番人気馬スキーダンサーと単勝オッズ5.1倍の3番人気馬ラドゥクールの2頭に届かず、勝ったスキーダンサーから3/4馬身差の3着に敗れた。

次走は久々のダート戦となるリンダヴィスタBCH(米GⅢ・D8.5F)となった。ここにもスキーダンサーとラドゥクールが出走してきた。115ポンドのラドゥクールが単勝オッズ2.1倍の1番人気、2度目のコンビとなるマッキャロン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.8倍の2番人気、本馬と同じ118ポンドのスキーダンサーが単勝オッズ4.7倍の3番人気となった。出走頭数わずか5頭の割には縦長の展開となり、本馬は後方2番手につけた。そして三角で仕掛けて四角で先頭に立つと、直線では独走。2着ラドゥクールに9馬身差をつけて圧勝した。

この結果により、この後は再びダート路線を進むことになった。次走のラブレアS(米GⅡ・D7F)では、この年の9月にデビューしながらも圧勝に次ぐ圧勝で4戦全勝だったエキゾチックウッドとの対戦となった。エキゾチックウッドが単勝オッズ1.4倍の1番人気で、ナカタニ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ4.2倍の2番人気となった。レースではエキゾチックウッドが逃げを打ち、本馬は最後方からの競馬となった。四角でエキゾチックウッドが後続を大きく引き離し、そのまま直線へと入っていった。本馬も追い上げては来たものの、エキゾチックウッドだけでなく、単勝オッズ9倍の3番人気馬エヴィルズピックも捕らえられずに、エキゾチックウッドの3馬身3/4差3着に敗退。なお、エキゾチックウッドは後にゴーフォーワンドH・サンタモニカH・サンタマリアHとGⅠ競走3勝を挙げるが、本馬との対戦はこれが最初で最後だった。本馬の3歳時は10戦4勝の成績だった。

競走生活(4歳前半)

4歳時は休む暇も無く1月のエルエンシノS(米GⅡ・D8.5F)から始動した。このレースには、かつてサンタアニタオークスで本馬に25馬身先着する2着だったアーベインが出走してきた。アーベインはサンタアニタオークス後に、アッシュランドSを勝ち、ケンタッキーオークスで2着するなど、牝馬路線のトップクラスで活躍していた。他の出走馬は、デルマーオークスで2着だったスリープイージー、エヴィルズピックの2頭であり、対戦相手3頭全てがかつて本馬に先着した経験の持ち主だった。アーベインが単勝オッズ1.7倍の1番人気、ソリス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.7倍の2番人気、スリープイージーが単勝オッズ4.7倍の3番人気、エヴィルズピックが単勝オッズ6.7倍の最低人気となった。ここでは出走全馬が一団になって進み、本馬も最後方ながらも前とは殆ど差が無い位置取りでレースを進めた。そして直線入り口で先頭に立つとそのまま抜け出し、2着スリープイージーに2馬身半差、3着アーベインにはさらに3馬身半差をつけて勝利した。

次走のラカナダS(米GⅡ・D9F)では、スリープイージー、アーベイン、仏国でマルレ賞を勝った後に米国に来たプリヴィティとの顔合わせとなった。前走ではスリープイージーとアーベインから2ポンドのハンデを貰っていた本馬だったが、今回は同斤量だった。それでも本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、スリープイージーとプリヴィティのカップリングが単勝オッズ3.2倍の2番人気、アーベインが単勝オッズ4.2倍の3番人気となった。再びソリス騎手とコンビを組んだ本馬は、相変わらずスタートが悪く、道中は単独で最後方を追走した。しかし四角で一気に位置取りを上げると、直線に入って悠々と差し切り、2着となった単勝オッズ17.8倍の最低人気馬ディクシーパールに2馬身半差、3着プリヴィティにはさらに1馬身1/4差をつけて勝利した。アーベインはプリヴィティから3/4馬身差の4着、スリープイージーはさらに3馬身差の5着に沈んだ。

次走のサンタマルガリータH(米GⅠ・D9F)で、3度目のGⅠ競走に挑んだ。対戦相手は、前走サンタマリアHでセレナズソングの2着してきた一昨年のデルマー招待オークス・リンダヴィスタBCHの勝ち馬トワイスザヴァイス、スリープイージー、ラブレアSの勝ち馬でヴァニティ招待H2着のトップラングなどだった。117ポンドのトワイスザヴァイスが単勝オッズ2.3倍の1番人気、119ポンドのトップハンデだったソリス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、115ポンドのスリープイージーが単勝オッズ5倍の3番人気と、絶妙な斤量設定となった。レースではスリープイージーが先行、ワイスザヴァイスが好位追走で、本馬は最後方の位置取りとなった。そして直線に入るとこの3頭の差が着実に縮まり、三つ巴の勝負となった。しかし最後はトワイスザヴァイスが2着スリープイージーを首差抑えて勝ち、本馬はさらに半馬身差の3着と、僅かに届かなかった。

この後は西海岸を離れてチャーチルダウンズ競馬場に向かい、ルイビルBCH(米GⅡ・D8.5F)に出走した。このレースで単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持されていたのはセレナズソングだった。かつてサンタアニタオークスで本馬を25馬身差の5着に屠っていたセレナズソングは、ケンタッキーダービーこそ惨敗していたものの、史上初の牝馬制覇となるハスケル招待Hを筆頭に、ジムビームS・ブラックアイドスーザンS・マザーグースS・ガゼルH・ベルデイムSなどを勝利して前年のエクリプス賞最優秀3歳牝馬に選ばれ、この年もサンタモニカH・サンタマリアHに勝利していた。他の出走馬は、コティリオンHの勝ち馬クリアマンデートなどであり、本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、クリアマンデートが単勝オッズ6.9倍の3番人気となった。

スタートが切られるとセレナズソングが先頭に立ち、過去本馬に2回騎乗して2回とも勝っていたマッキャロン騎手が手綱を取る本馬は、後方2番手につけた。そして向こう正面からセレナズソングとの差を縮めにかかり、直線入り口では並びかけた。そしてここから後続馬を大きく引き離して2頭の叩き合いが始まり、最後は本馬がセレナズソングを首差抑えて勝利した。斤量は123ポンドのセレナズソングのほうが、118ポンドの本馬より5ポンド重く、本馬の実力がセレナズソングを超えたと言うにはまだ早かったが、サンタアニタオークスの頃と比較すると、2頭の実力がかなり接近していたことは間違いなかった。

競走生活(4歳後半)

西海岸に戻ってきた本馬は、マッキャロン騎手と共にホーソーンH(米GⅡ・D8.5F)に出走。ポルトマイヨ賞・チュラヴィスタH・レディーズシークレットHの勝ち馬ボロディスルー、アーベイン、スリープイージーなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、ボロディスルーが単勝オッズ4.6倍の2番人気、アーベインが単勝オッズ5.5倍の3番人気、スリープイージーが単勝オッズ6.9倍の4番人気となった。いつもどおりの最後方待機策を採った本馬は、三角に入ると、すぐ前を走っていたボロディスルーが上がっていくのに合わせて仕掛けた。そして直線に入ると、ボロディスルーに並びかけていったが、頭差届かずに2着に敗れた。

次走のミレイディBCH(米GⅠ・D8.5F)では、サンタマルガリータ招待H勝利後にアップルブロッサムHを勝っていたトワイスザヴァイス、ボロディスルー、前走で本馬から半馬身差の3着だったアーベインなどとの対戦となった。120ポンドのトゥワイスザヴァイスが単勝オッズ2.5倍の1番人気で、同じく120ポンドの本馬が単勝オッズ2.8倍の2番人気となった。過去3回本馬に騎乗経験があったナカタニ騎手が手綱を取る本馬は、馬群から離れた最後方につけると、後方2番手だったトゥワイスザヴァイスが上がっていくのに合わせて仕掛けた。そして直線ではトゥワイスザヴァイスに追いすがったが、3/4馬身届かずに2着に敗れた。

次走のヴァニティH(米GⅠ・D9F)では、セレナズソング、トワイスザヴァイスとそれぞれ3度目の対戦となった。セレナズソングはルイビルBCHで本馬に敗れたものの、その後はピムリコディスタフH・フルールドリスH・ヘンプステッドHを3連勝して好調を維持していた。125ポンドのセレナズソングと、122ポンドのトワイスザヴァイスが並んで単勝オッズ2.6倍の1番人気に支持され、120ポンドの本馬が単勝オッズ3.5倍の3番人気となった。

スタートが切られると、ボロディスルーが先頭に立ち、セレナズソングとトワイスザヴァイスが馬群の中団好位につけたのだが、注目すべきはナカタニ騎手騎乗の本馬の位置取りであり、セレナズソングやトワイスザヴァイスより前の3番手につけていた。向こう正面でセレナズソングが本馬に並びかけてきたが、すると本馬も加速していき、セレナズソングより先に先頭に立った。その状態で直線を向くと、後続馬を引き離し、セレナズソングを3馬身差の2着、トワイスザヴァイスをさらに1馬身1/4差の4着に退けて完勝し、遅まきながらGⅠ競走勝ち馬の仲間入りを果たした。もっとも、斤量差を考えると、3頭の実力差が逆転したとはまだ断定できなかった。

夏場は休養に充て、秋はレディーズシークレットBCH(米GⅡ・D8.5F)から始動した。1歳年下のハリウッドスターレットS2着馬アドヴァンシングスター、人気薄のヴァニティHで本馬の3着に入り次走のチュラヴィスタHで2着してきたトップラング、スリープイージーなどが出走してきた。他馬勢より6~7ポンド重い122ポンドを課せられた本馬が単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持され、アドヴァンシングスターが単勝オッズ4.1倍の2番人気、トップラングが単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。ここで本馬に騎乗したマッキャロン騎手は、いつもどおりの最後方待機策を採った。そして四角を回りながら仕掛けて直線で追い込んできたが、6ポンドのハンデを与えたトップラングに半馬身届かず2着に敗れた。それでも斤量差を考慮すると無難な内容であり、最大目標である次走BCディスタフへの目処が立った。

そして加国ウッドバイン競馬場で行われた大一番BCディスタフ(加GⅠ・D9F)に参戦した。ヴァニティH2着後にホイットニーH・ラフィアンH・ベルデイムSで2着してきたセレナズソング、亜国のGⅠ競走エストレージャス大賞ジュヴェナイルフィリーズ・コパデプラタ大賞を勝った後に米国に移籍してビヴァリーヒルズH・チュラヴィスタH・スピンスターSなど4連勝中だったディファレント、8年前の同競走の勝ち馬パーソナルエンスンの娘でBCジュヴェナイルフィリーズ・アッシュランドS・CCAオークス・ガゼルHとGⅠ競走4勝を挙げていた3歳馬マイフラッグ、スピンスターSで2着してきたアスタリタS・モンマスBCオークスの勝ち馬トップシークレット、ルイビルBCH5着後にシュヴィーHを勝ちベルデイムSで3着してきたクリアマンデートの5頭だけが対戦相手となった。ディファレントが単勝オッズ2.3倍の1番人気、ナカタニ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気、セレナズソングが単勝オッズ3.7倍の3番人気、マイフラッグが単勝オッズ8.6倍の4番人気でレースは始まった。

スタートから単勝オッズ22.4倍の5番人気馬トップシークレットが先手を取り、セレナズソングが2番手、ディファレントが3番手を追走。本馬はその後方5番手を追走した。三角に入るところで本馬が内側を突いて進出し、セレナズソングの後方、ディファレントの内側につけた。そしてスパートしたセレナズソングを追いかけるように加速しながら四角を回って直線を向いた。そしてすぐに内側からセレナズソングに並びかけると、叩き合いを1馬身半差で制して優勝。

3歳3月のサンタアニタオークスから1年7か月をかけて、ようやくセレナズソングを完全に追い越すことができた。4歳時は9戦5勝の成績で、この年のエクリプス賞最優秀古馬牝馬のタイトルを獲得した。

競走生活(5歳時)

セレナズソングは4歳限りで引退したが、本馬は5歳時も現役を続行した。なお、この年は全競走でナカタニ騎手が本馬の鞍上を務める事になる。まずは2月のサンタマリアH(米GⅠ・D8.5F)に出走した。本馬とは同世代だが今まで一度も対戦機会が無かったエイコーンS・ファンタジーSの勝ち馬でラスヴァージネスS2着のキャッツクレイドル、レディーズシークレットBCH以来の実戦となるトップラング、ラスヴァージネスS・サンタアニタオークスで3着していた1歳年下のラブレアS勝ち馬ヒドゥンレイクなどが対戦相手となった。他馬勢より5~10ポンド重い123ポンドの本馬が単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、118ポンドのキャッツクレイドルが単勝オッズ4.1倍の2番人気、117ポンドのトップラングが単勝オッズ5.5倍の3番人気、116ポンドのヒドゥンレイクは単勝オッズ11.8倍の5番人気だった。レースはキャッツクレイドルが快調に先頭を飛ばし、本馬は後方2番手につける展開となった。そのままキャッツクレイドルが先頭で直線に入ってきたのだが、後方から来た本馬が瞬く間にキャッツクレイドルを抜き去り、最後は5馬身差をつける圧勝でその実力を示した。

次走のサンタマルガリータH(米GⅠ・D9F)では、前走で本馬から5馬身半差の3着だったトップラング、同じく6馬身半差の4着だったヒドゥンレイクなどが対戦相手となった。斤量差は前走よりさらに広がり、本馬が125ポンドで、斤量2位のトップラングは116ポンド、ヒドゥンレイクは114ポンドだった。本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、トップラングが単勝オッズ4.1倍の2番人気、ヒドゥンレイクが単勝オッズ11.4倍の3番人気となった。レースはトップラングとヒドゥンレイクが好位を先行して、本馬がその少し後方を追いかける展開となった。そして直線に入るとトップラングとヒドゥンレイクの2頭が叩き合いながらゴールを目指したが、本馬がまとめて差し切り、2着トップラングに半馬身差で勝利した。

その後は西海岸を離れて、アップルブロッサムH(米GⅠ・D8.5F)に向かった。対戦相手は、BCディスタフ3着から直行してきたディファレント、ケンタッキーオークス・マザーグースS・アラバマS・ガゼルHと4度のGⅠ競走2着があった前年のファンタジーSの勝ち馬エスシーナ、モリーピッチャーBCHなどを勝っていた前年の同競走2着馬ヘイローアメリカ、サンタマルガリータHで3着だったヒドゥンレイクなどだった。本馬が124ポンドのトップハンデでも単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、121ポンドのディファレントが単勝オッズ3.5倍の2番人気、116ポンドのエスシーナが単勝オッズ6.8倍の3番人気、117ポンドのヘイローアメリカが単勝オッズ6.9倍の4番人気となった。スタートが切られると、ヘイローアメリカが先頭に立ち、本馬は相も変わらずの最後方待機策を採った。そして四角で仕掛けて上がってきたが、同じく四角で仕掛けて後続を引き離したヘイローアメリカに追いつけずに、ゴール前でディファレントをかわすのがやっとで、ヘイローアメリカから4馬身差の2着に敗れた。斤量面ではヘイローアメリカのほうが本馬より7ポンド軽かったから、止むを得ない一面はあった。

その後はベルモントパーク競馬場に向かい、6月のヘンプステッドH(米GⅠ・D8.5F)に出走した。対戦相手は、前年のヴァニティH4着後に休養入りして復帰初戦のホーソーンHを勝ってきたトワイスザヴァイス、アップルブロッサムH6着後にヒューマナディスタフHで2着してシュヴィーHを圧勝と急上昇していたヒドゥンレイク、アップルブロッサムH4着後にルイビルBCH2着・シュヴィーH3着だったエスシーナ、ヴェイグランシーH・シュヴィーHで連続2着してきたトップフライトH・アディロンダックS・ベッドオローゼズHの勝ち馬フラットフリートフィートなどだった。124ポンドのトップハンデを課せられた本馬が単勝オッズ2.55倍の1番人気に支持され、121ポンドのトワイスザヴァイスが単勝オッズ3.1倍の2番人気、117ポンドのヒドゥンレイクが単勝オッズ5.9倍の3番人気となった。レースでは単勝オッズ18.5倍の6番人気馬トップシークレットが逃げを打ち、トワイスザヴァイスとヒドゥンレイクが先行、そして本馬は後方2番手につけた。三角から四角にかけて位置取りを上げると、直線では前を行くヒドゥンレイクとトワイスザヴァイスの2頭を追いかけたのだが、まったく届かずに、勝ったヒドゥンレイクから4馬身差、2着トワイスザヴァイスからも2馬身差の3着に敗れた。もっとも、トワイスザヴァイスは本馬より3ポンド、ヒドゥンレイクは本馬より7ポンド斤量が軽かったので、3頭の実力差が逆転したとはまだ断定できなかった。

と、少し前にも同じ表現を用いた気がする。そう、前年のヴァニティHで本馬がセレナズソングやトワイスザヴァイスを破ってGⅠ競走初勝利を挙げたときである。歴史は繰り返すとはよく言ったもので、今度は本馬がかつてのセレナズソングと同じ立場に置かれていたのである。そしてこの後の本馬もかつてのセレナズソングと同様に、好敵手に追い越されてしまうことになる。

次走のヴァニティH(米GⅠ・D9F)では、トゥワイスザヴァイス、ハリウッドオークス・ミレイディH・プリンセスS・バヤコアHなどの勝ち馬リスニングなどとの対戦となった。123ポンドの本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、121ポンドのトゥワイスザヴァイスが単勝オッズ2.6倍の2番人気、117ポンドのリスニングが単勝オッズ5.3倍の3番人気だった。スタートが切られるとトゥワイスザヴァイスが先頭に立ち、単勝オッズ16.4倍の4番人気馬リアルコネクションが2番手、本馬が意外にも3番手につけ、リスニングが4番手につけた。そのまま直線に先頭で突入したトゥワイスザヴァイスを追いかけたのは本馬ではなく、リアルコネクションだった。本馬は結局最後まで位置取りを上げられないまま、2着リアルコネクションを頭差抑えて勝ったトゥワイスザヴァイスから4馬身差の3着に敗退。まだこの段階では、トゥワイスザヴァイスとは2ポンド差、リアルコネクションとは9ポンド差があったから、斤量差を敗因に求めることは可能だった。

次走はベルデイムS(米GⅠ・D9F)となった。ゴーフォーワンドSを勝ってきたヒドゥンレイク、マザーグースS・CCAオークス・デモワゼルSなどを勝ちアラバマSで2着してきた3歳馬アジーナ、前走ラフィアンHを勝ってきたケンタッキーオークス・CCAオークス2着・マザーグースS・アラバマS3着の3歳馬トミシューズディライト(エクリプス賞年度代表馬マインシャフトの全姉)などが対戦相手となった。本馬とヒドゥンレイクが並んで単勝オッズ3.3倍の1番人気、アジーナが単勝オッズ3.9倍の3番人気、トミシューズディライトが単勝オッズ5倍の4番人気となった。7か月前のサンタマルガリータHで本馬がヒドゥンレイクを3着に破ったときには、2頭の斤量差は11ポンドあったが、定量戦であるこのベルデイムSでは同斤量だった。しかしヒドゥンレイクは既に本馬を上回っていた。ヒドゥンレイクは2番手を先行すると、三角で早々に先頭に立ち、追いかけてきたアジーナを2馬身差の2着に下して勝利。最後方からレースを進めた本馬は、いつもより早めに仕掛けるも、直線入り口4番手から追い込み不発で、アジーナからさらに2馬身差の3着に敗れてしまった。これで本馬は現役米国最強古馬牝馬の座から完全に転落してしまった。

それでも、地元ハリウッドパーク競馬場で行われたBCディスタフ(米GⅠ・D9F)に2連覇を目指して参戦した。対戦相手は、ヒドゥンレイク、アジーナ、ヘンプステッドH5着後にラモナHでGⅠ競走初勝利を挙げていたエスシーナ、メイトロンS・ハリウッドスターレットS・ラスヴァージネスS・サンタアニタオークス・エイコーンS・デルマーデビュータントS・ハリウッドオークス・レディーズシークレットBCHを勝っていた3歳馬シャープキャット、前年のBCディスタフで6着後は不振が続いていたが夏場以降はジョンAモリスH・スピンスターSに勝ちラフィアンH2着・ゴーフォーワンドH3着など以前より強くなっていたクリアマンデート、本格化前の本馬と好勝負を演じていたチュラヴィスタHの勝ち馬ラドゥクール、アーリントンハイツオークスの勝ち馬ミニスターズメロディの計7頭だった。本馬は同馬主(厩舎は違う)のシャープキャットとのカップリングで単勝オッズ2倍の1番人気に支持されたが、ファンがより期待していたのは下降線を辿る本馬よりシャープキャットのほうだったのはほぼ間違いないだろう。ヒドゥンレイクが単独で単勝オッズ2.7倍の2番人気、アジーナとエスシーナのカップリングが単勝オッズ5.8倍の3番人気となった。

スタートが切られると、シャープキャットが先頭に立ち、ラドゥクールが2番手、アジーナやエスシーナが3番手につけた。ヒドゥンレイクは後方3番手で、本馬は後方2番手につけた。しかしヒドゥンレイクは三角からの手応えが異常に悪く、四角では最後方まで下がってしまった。本馬も四角で少し位置取りを上げたのだが、直線に入ると完全に脚が止まってずるずると後退。結局レースは四角で内を掬って先頭に立ったアジーナが勝ち、シャープキャットが2馬身差の2着、さらに3馬身半差の3着がエスシーナで、ヒドゥンレイクはエスシーナからさらに16馬身半差の7着、本馬はヒドゥンレイクからさらに11馬身差の8着最下位(記録上は競走中止)と、この年の古馬牝馬最強の座を争った2頭は共に壊滅した。

本馬はこの年7戦2勝、ヒドゥンレイクはこの年9戦4勝の成績で、このレースを最後に揃って引退。エクリプス賞最優秀古馬牝馬はそれでもGⅠ競走3勝を挙げたヒドゥンレイクが獲得した。なお、翌年のエクリプス賞最優秀古馬牝馬は、BCディスタフなどGⅠ競走3勝を挙げたエスシーナが獲得しており、セレナズソング→本馬→ヒドゥンレイク→エスシーナと、毎年のように米国最強古馬牝馬の座が入れ代わることになった。欧州や日本などもそうだが、競馬のレベルが高くて消長が激しい国で長期間に渡りトップに君臨するのは、牡馬と牝馬を問わずに非常に難しいことなのである。

血統

Key to the Mint Graustark Ribot Tenerani Bellini
Tofanella
Romanella El Greco
Barbara Burrini
Flower Bowl Alibhai Hyperion
Teresina
Flower Bed Beau Pere
Boudoir
Key Bridge Princequillo Prince Rose Rose Prince
Indolence
Cosquilla Papyrus
Quick Thought
Blue Banner War Admiral Man o'War
Brushup
Risque Blue Blue Larkspur
Risque
Jewell Ridge Melyno ノノアルコ Nearctic Nearco
Lady Angela
Seximee Hasty Road
Jambo
Comely Boran Mourne
Bethora
Princesse Comnene ボウプリンス
Commemoration
Say What You Mean ジャッジャー Damascus Sword Dancer
Kerala
Face the Facts Court Martial
Vashti
Call the Queen Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Queen Empress Bold Ruler
Irish Jay

キートゥザミントは当馬の項を参照。

母ジュエルリッジは現役成績5戦1勝。本馬の半妹ジュエルオブジュエルズ(父プレザントコロニー)の子にマイプリンセスジェス【レイクジョージS(米GⅡ)・ボイリングスプリングS(米GⅢ)・ボーゲイS(米GⅢ)】がいる。ジュエルリッジの半姉にはジェリーシンガー(父レンジョルール)【ビウィッチS(米GⅢ)】が、ジュエルリッジの半妹シュガーヒルチック(父フィットトゥファイト)の子にグローバライズ【レーンズエンドスパイラルS(米GⅡ)・カリフォルニアジュヴェナイルS(米GⅢ)】が、ジュエルリッジの半妹スイートテイスト(父ソルトレイク)の子に日本で走っているナイキマドリード【さきたま杯(GⅡ)・オーバルスプリント・浦和ゴールドカップ2回・船橋記念4回・習志野きらっとスプリント】がいる。→牝系:F23号族①

母父メリノは日本に種牡馬として輸入されて有馬記念馬ダイユウサクなどを出したノノアルコの産駒で、ヒシアマゾンの母ケイティーズなどと共にノノアルコの海外における代表産駒の1頭である。現役成績は11戦5勝で、主な勝ち鞍は仏2000ギニー(仏GⅠ)・ジャンプラ賞(仏GⅡ)・トーマブリョン賞(仏GⅢ)・フォンテーヌブロー賞(仏GⅢ)である。種牡馬としては活躍できず、仏国から米国、新国へと移動している。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は米国で繁殖入りして、11頭の子を産んだ。2番子の牡駒ワンナイスキャット(父ストームキャット)がノングレードのステークス競走ポリネシアンSを勝つなど28戦4勝、3番子の牝駒ホームコート(父ストームキャット)がアイオワオークス(米GⅢ)で3着するなど4戦2勝、7番子の牝駒マリスター(父ジャイアンツコーズウェイ)がワシントンパークH(米GⅢ)で2着するなど19戦5勝、11番子の牝駒エウロパ(父ヘンリーザナヴィゲーター)がロシアに輸出されて同国のGⅡ競走ボルガリヴァーSを勝つなどしているが、国際グレード競走を勝った子はいない。不出走に終わった初子のファインジュエル(父ストームキャット)の子にエルカバロ【ERブラッドリー大佐H(米GⅢ)】が、ホームコートの子にクープドゥグレイス【アムステルダムS(米GⅡ)・ベイショアS(米GⅢ)】がおり、孫世代からは活躍馬が出始めている。

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