ロージズインメイ

和名:ロージズインメイ

英名:Roses in May

2000年生

黒鹿

父:デヴィルヒズデュー

母:テルアシークレット

母父:スピークジョン

BCクラシック2着後にドバイワールドCを完勝して日本で種牡馬入りして活躍しているヘイロー直系の実力馬

競走成績:3~5歳時に米首で走り通算成績13戦8勝2着4回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州マルゴーファームの生産馬で、1歳時のキーンランド9月セールにおいて、フロリダ州オカラに本拠地を置く競走馬仲買業者クラシックブラッドストックのダンゼル・ブレンデミュール氏により購入された。そして2歳4月にオカラで実施されたセリに改めて出品され、ラムジーファームの所有者ケニス・ラムジー氏と妻のサラ・ラムジー夫人の代理人デイヴ・ランバート博士により11万5千ドル(当時の為替レートで約1520万円)で購入されてラムジー夫妻の所有馬となり、米国デイル・ローマンズ調教師に預けられた。

馬名は「5月のバラ」の意味で、ケンタッキーダービーを優勝してバラのレイを飾ってほしいというラムジー夫妻の願いが込められていたようである。

競走生活(3歳時)

しかしデビューはかなり遅れて、3歳5月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート7ハロンの未勝利戦となり、同日に同競馬場で行われたケンタッキーダービーには間に合わなかった。このデビュー戦ではパット・デイ騎手を鞍上に単勝オッズ3.1倍の2番人気での出走となった。スタート後しばらくは最後方にいたが、道中で位置取りを上げて2番手まで押し上げてきた。しかし逃げた単勝オッズ2倍の1番人気馬ドローファイアに直線で届かず、3馬身差をつけられて2着に敗れた。

それから3週間後には、同じくチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート8.5ハロンの未勝利戦に出走。デイ騎手を鞍上に、単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。今回は前走とは一転してスタートから先頭を飛ばし、直線に入ると後続馬を引き離して、2着に入った単勝オッズ3.2倍の2番人気馬メジャーデシジョンに5馬身差をつけて圧勝した。

さらに4週間後には、前走と同コースの一般競走に出走。3戦連続のコンビとなるデイ騎手を鞍上に、単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。今回もやはりスタートから逃げを打ち、先頭で直線に入ってきたのだが、2番手で本馬に圧力をかけ続けていた単勝オッズ3.5倍の2番人気馬コデマに一気にかわされて、2馬身1/4差の2着に敗れた。

その後はしばらく間隔を空けて、前走から8週間後の8月にサラトガ競馬場で行われたダート9ハロンの一般競走に出走した。今回もデイ騎手を鞍上に単勝オッズ1.85倍の1番人気に支持された本馬は、やはりスタートから先頭に立って逃げた。そして徐々に後続との差を広げていき、直線では他馬を寄せ付けずに、2着に追い込んできた単勝オッズ6.7倍の3番人気馬サイレントフレッドに10馬身半差をつけて圧勝した。

次走は9月のジェロームH(米GⅡ・D8F)となった。対戦相手は、ホープフルS・ベルモントフューチュリティS2着馬プリティワイルド、スワップスSの勝ち馬デュアリング、UAEダービー3着馬イナモラート、ジムダンディS4着馬タファシールなどだった。プリティワイルドが単勝オッズ2.2倍の1番人気、イナモラートが単勝オッズ5.6倍の2番人気で、今回はジョン・ヴェラスケス騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ7倍の3番人気となった。スタートが切られるとプリティワイルドが逃げを打ち、ヴェラスケス騎手は馬群の中団後方からの競馬を選択した。しかし徐々に前との差を広げられていき、先行抜け出しで勝った単勝オッズ7.6倍の5番人気馬デュアリングから10馬身差をつけられた6着と完敗してしまった。3歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は5戦2勝だった。

競走生活(4歳時)

復帰したのはジェロームHから7か月が経過した4歳4月で、復帰戦はキーンランド競馬場ダート8.5ハロンの一般競走だった。今回はジェリー・ベイリー騎手とコンビを組み、単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。ジェロームHで控えて惨敗したのを知っていたベイリー騎手は当然のように逃げ戦法を選択。後続馬に1~2馬身ほどの差をつけて逃げ続けると、直線に入ってから二の脚を使って他馬をちぎり捨て、2着に入った単勝オッズ3.2倍の2番人気馬ベストミニスターに12馬身差もの大差をつけて圧勝した。

次走は5月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート8.5ハロンのオプショナルクレーミング競走となった(本馬は売却の対象外)。5度目のコンビとなるデイ騎手鞍上の本馬は前走の勝ち方が評価されて、単勝オッズ1.1倍という圧倒的な1番人気に支持された。本馬はスタート直後の加速が悪かったが、逃げなければ実力を発揮できないと分かっていたデイ騎手は本馬の手綱をしごいて先頭に立たせた。そして後続馬に1~2馬身ほどの差をつけて逃げ続け、直線で後続を引き離し、2着に追い上げてきた単勝オッズ14.5倍の4番人気馬ストレングスウィズインに5馬身差をつけて勝利した。

その後は米国中北部のアイオワ州にあるプレーリーメドウズ競馬場に向かい、7月のコーンハスカーBCH(米GⅢ・D9F)に出走した。筆者も本項を書くまで忘れていたようなマイナー競馬場のマイナーグレード競走だったが、対戦相手のレベルは高く、スティーヴンフォスターH・レーンズエンドS・ワシントンパークH・ケンタッキーCクラシックH・ホーソーン金杯・インディアナダービーの勝ち馬でケンタッキーダービー3着のパーフェクトドリフト、レベルS・エセックスH・ターフウェイパークフォールCSS2回・阪神カップHの勝ち馬クラフティーショウ、ジョンBキャンベルBCHの勝ち馬でオークローンH2着のオーレフォーンティ、レイザーバックBCHの勝ち馬ソニックウエストなどが参戦してきた。119ポンドのパーフェクトドリフトが単勝オッズ1.8倍の1番人気、115ポンドの本馬が単勝オッズ3.7倍の2番人気、117ポンドのクラフティーショウが単勝オッズ5.7倍の3番人気、116ポンドのオーレフォーンティが単勝オッズ6.9倍の4番人気、115ポンドのソニックウエストが単勝オッズ18.3倍の5番人気となった。

デイ騎手がパーフェクトドリフトに騎乗したため、本馬にはマーク・ガイドリー騎手が騎乗した。鞍上が変わっても本馬の取るべき戦法に変わりは無く、ガイドリー騎手はスタートから本馬を先頭に立たせた。本馬をすんなりと逃がすと手強い事を知っていたデイ騎手騎乗のパーフェクトドリフトは三角手前で本馬の直後まで来て圧力をかけてきた。そして2頭がほぼ並んで直線に入ってきたが、ここから本馬が抜け出し、2着パーフェクトドリフトに1馬身半差で勝利した。

次走は翌8月のホイットニーH(米GⅠ・D9F)となった。対戦相手は、パーフェクトドリフト、本馬がデビューした日に行われたケンタッキーダービーの3着馬でブルーグラスS・ハスケル招待H・サバーバンH・ルイジアナダービー・ニューオーリンズH・オークローンH・ジェネラスSを勝ちトラヴァーズSで2着していたピースルールズ、ブルックリンH・アケダクトH・ウィリアムドナルドシェイファーHの勝ち馬でドンH2着のシアトルフィッツ、前走サバーバンHで2着してきたカナディアンターフH・スキップアウェイHの勝ち馬ニューファンドランド、メドウランズカップBCSの勝ち馬でオークローンH・メトロポリタンH2着のボウマンズバンド、一昨年のベルモントSの勝ち馬サラヴァ、キングズビショップS・リヴァリッジBCS・ドワイヤーS・ウエストチェスターHの勝ち馬でフォアゴーH3着のガイジスター、ローンスターパークHの勝ち馬イエスサージェネラルサーの8頭だった。121ポンドのピースルールズが単勝オッズ4.05倍の1番人気、117ポンドのパーフェクトドリフトが単勝オッズ4.3倍の2番人気、117ポンドのシアトルフィッツが単勝オッズ6.5倍の3番人気、114ポンドのニューファンドランドが単勝オッズ6.6倍の4番人気、114ポンドのボウマンズバンドが単勝オッズ8.2倍の5番人気で、114ポンドの本馬は単勝オッズ8.4倍の6番人気だった。

ここではエドガー・プラード騎手とコンビを組んだ本馬はスタートから先頭を伺ったが、単勝オッズ50倍の最低人気馬イエスサージェネラルサーが無理矢理に本馬のハナを叩いて先頭を奪ったため、本馬は仕方なくピースルールズと共に2~3番手を追走した。イエスサージェネラルサーが刻んだペースは最初の2ハロン通過が22秒64というハイペースであり、本馬にとっては厳しい展開となった。四角で後続を引き離したイエスサージェネラルサーが直線入り口で失速すると代わりに先頭に立ったが、そこへ後方からまくって追い上げてきたデイ騎手騎乗のパーフェクトドリフトが外側から襲い掛かってきた。残り1ハロン地点で並ばれると、いったんは前に出られてしまい、敗色濃厚と思われた。しかしここから本馬はエドガー騎手の檄に応えて粘り続け、ゴール前でパーフェクトドリフトを差し返して鼻差で勝利を収め、GⅠ競走初勝利を挙げた。3ポンドの斤量差こそあったが、ハイペースを先行してゴール前で差し返したその内容は素晴らしく、本馬の評価を著しく上昇させることになった。

その後は9月のケンタッキーCクラシックH(米GⅡ・D9F)に向かった。コーンハスカーBCHで4着だったソニックウエスト、ロングエイカーズマイルHを勝ってきたアドリームイズボーン、ローンスターパークHの勝ち馬パインバーガーなどが出走してきたが、対戦相手のレベルは、ホイットニーHは勿論、コーンハスカーBCHより低かった。118ポンドのトップハンデを課された本馬が単勝オッズ1.3倍という圧倒的な1番人気に支持され、114ポンドのアドリームイズボーンが単勝オッズ5.2倍の2番人気、113ポンドのソニックウエストが単勝オッズ9.3倍の3番人気、117ポンドのパインバーガーが単勝オッズ12.3倍の4番人気となった。

今までは鞍上がころころ変わってきた本馬だが、さすがに主戦を固定するべきだと考えたらしい陣営は、前年のジェロームHで1度だけ騎乗経験があったヴェラスケス騎手に声を掛けていた。ジェロームHでは本馬を抑えて大敗させてしまったヴェラスケス騎手だが、もはやそのような事はせず、スタートから本馬を先頭に立たせた。本馬を単騎で逃がすまいとパインバーガーが競り掛けてきて、この2頭が後続を大きく引き離してマッチレースの様相を呈した。しかし2頭が競り合っていたのは四角までで、直線に入ると本馬がパインバーガーを引き離し、最後は4馬身差をつけて勝利した。

次走はテキサス州ローンスターパーク競馬場で行われたBCクラシック(米GⅠ・D10F)となった。対戦相手のレベルの高さはケンタッキーCクラシックHとは比較の対象にならないほどで、前年のBCクラシックとこの年のドバイワールドCに加えてパシフィッククラシックS・グッドウッドBCH2回・サンアントニオHにも勝っていた現役世界最強ダート馬プレザントリーパーフェクト、ヴォスバーグS・トムフールH・フィリップHアイズリンBCH・ウッドワードSと4連勝中のゴーストザッパー、ベルモントSでスマーティジョーンズの無敗の米国三冠馬の夢を打ち砕いたシャンペンS・トラヴァーズSの勝ち馬バードストーン、本馬がデビューした当日のケンタッキーダービーの勝ち馬でプリークネスS・ジョッキークラブ金杯・エクセルシオールBCHも勝ちウッドメモリアルS2着・ベルモントS・ハスケル招待H・ドンH・サバーバンH3着のファニーサイド、BCディスタフ・サンタマルガリータ招待H・アップルブロッサムH3回・ミレイディBCH2回・ヴァニティH2回・ゴーフォーワンドH・スピンスターSとGⅠ競走11勝を挙げていた現役米国最強牝馬アゼリ、ローンスターダービー・サンバーナーディノHの勝ち馬で前年のBCクラシック3着のダイネヴァー、スーパーダービーを勝ってきたファンタスティキャット、ケルソBCH・ホーソーン金杯Hを勝ってきたフリーフォーインターネット、エルムS・ダービーグランプリを連勝してきた日本調教馬パーソナルラッシュが出走してきて、ホイットニーH2着後にパシフィッククラシックS・ホーソーン金杯と連続2着していたパーフェクトドリフト、ホイットニーH3着後にサラトガBCHとウッドワードSで3着していたボウマンズバンド、ホイットニーH7着後にジョッキークラブ金杯で2着してきたニューファンドランドといった既対戦馬が可愛く見えるほどだった。連覇を狙うプレザントリーパーフェクトと勢い最上位のゴーストザッパーが並んで単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、バードストーンが単勝オッズ7.5倍の3番人気、ファニーサイドが単勝オッズ8.7倍の4番人気、本馬が単勝オッズ9.7倍の5番人気となった。

本馬だけでなくゴーストザッパーやアゼリも逃げ馬であり、スタート後の先頭争いは激しくなったが、元々は短距離戦のトップホースだったゴーストザッパーが快速を活かして先頭を奪い、本馬とアゼリが直後の2~3番手となった。向こう正面でアゼリがやや後退して本馬が単独2番手でゴーストザッパーを追撃した。三角で後続馬が前の2頭を目掛けて押し寄せてきたが、これらの馬達は四角で逆に離されていった。しかし本馬のみは必死でゴーストザッパーに付いていった。そして直線に入ると、二の脚を使って伸びるゴーストザッパーと、それを追う本馬の2頭に勝ち馬が絞られた。しかし徐々に差を広げられてしまい、3馬身差をつけられて2着に敗退した。それでも3着プレザントリーパーフェクトには4馬身差をつけていた事や、ゴーストザッパーの勝ちタイムは2015年現在でもBCクラシック史上最速である1分59秒02だった事を考え合わせると、この日のゴーストザッパーが強すぎたと考えるべきであろう。

4歳時の成績は6戦5勝で、敗北はBCクラシックのみであった。

競走生活(5歳時)

5歳時は2月のドンH(米GⅠ・D9F)から始動した。対戦相手は、クラークHの勝ち馬でウッドワードS2着のセイントリアム、コールダーダービーの勝ち馬でプリークネスS・ウッドメモリアルS・トラヴァーズS3着のエディントン、ペガサスH・フレッドWフーパーHの勝ち馬パイズプロスペクト、クラークHで2着してきたシークゴールドなどだった。121ポンドの本馬が単勝オッズ2.3倍の1番人気、119ポンドのセイントリアムが単勝オッズ2.8倍の2番人気、114ポンドのエディントンが単勝オッズ4.2倍の3番人気、いずれも114ポンドのパイズプロスペクトとシークゴールドのカップリングが単勝オッズ6.9倍の4番人気となった。

スタートが切られると本馬とセイントリアムがほぼ同時に飛び出していき、この2頭が先頭を争う展開となった。四角までは2頭のマッチレースの様相を呈していたが、直線に入ると抜け出したのはセイントリアムのほうで、徐々に離された本馬はエディントンを3/4馬身差で抑えるのが精一杯だった。最終的にはこの年のエクリプス賞年度代表馬に選ばれるセイントリアムに3馬身3/4差をつけられて2着に敗れた。

その後は招待を受諾してドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)に向かった。休養中のゴーストザッパーやサンタアニタHに向かったセイントリアムは不参戦であり、主な対戦相手は、セイントリアムが惨敗したサンタアニタHで2着してきたサンパスカルHの勝ち馬コングラッツ、UAEダービー・グッドウッドBCH・サンアントニオHの勝ち馬ランディーズライアビリティ、マクトゥームチャレンジR3を勝ってきたチキティン、マクトゥームチャレンジR2を勝ってきたジャックサリヴァン、南阿ダービー・クイーンズプレート・J&BメトロポリタンH・スキーピングトロフィー・ゴールドチャレンジを勝っていた南アフリカ最強馬にして前哨戦のアルファヒディフォートを勝ってきたヤードアーム、サンディエゴHの勝ち馬チョクトウネイション、BCクラシック8着後にネイティヴダイヴァーH・ハルズホープH・二聖モスクの守護者Cと3戦連続2着してきたダイネヴァー、東京ダービー・東京大賞典を勝ちJBCクラシックで2着していた日本代表馬アジュディミツオーなどだった。

英国ブックメーカーのオッズでは本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持されており、コングラッツが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ランディーズライアビリティが単勝オッズ8倍の3番人気、チキティンが単勝オッズ9倍の4番人気、ジャックサリヴァンとヤードアームが並んで単勝オッズ13倍の5番人気と続いていた。

スタートが切られると本馬は少し出遅れてしまった。その理由は、ナイター競馬である故にコース内を照明が照らしていたのだが、本馬がそれに気を取られたからだとレース後にヴェラスケス騎手は説明している。まずはヤードアームが先頭に立ち、アジュディミツオー、チキティンも先行。そして前に行かなければ実力を発揮できないと百も承知していたヴェラスケス騎手も本馬の手綱をしごいて先行集団につけた。コングラッツ、ランディーズライアビリティ、ダイネヴァー、チョクトウネイションなどは後方からレースを進めた。本馬は残り1000m地点で先頭に並びかけ、三角に入った残り800m地点では単独で先頭に立っていた。そして1馬身ほどリードした状態で直線に突入すると、すぐに他の先行馬達を突き放していった。しばらくして後方待機馬勢の1頭チョクトウネイションが迫ってきて、1馬身差まで詰め寄られたが、ここでヴェラスケス騎手がほんの少しだけ合図を送ると二の脚を使って突き放して勝負あり。最後は脚が上がったチョクトウネイションをかわして2着に突っ込んできた単勝オッズ17倍の8番人気馬ダイネヴァーに3馬身差をつけて完勝した(アジュディミツオーは6着だった)。

レース後はケンタッキー州に戻ってしばしの休養が与えられた。実はこのドバイワールドCの後にビッグレッドファームの岡田繁幸氏が社台グループの援助を受けて本馬の所有権の80%を購入していた。購入額は非公表だが、拒否できないほど高額だったと後にラムジー氏は米ブラッドホース誌のインタビューで語っている。実はドバイのシェイク・モハメド殿下も本馬の購入をラムジー氏に打診していた(所有権100%の申し出だったらしい)のだが、それでもラムジー氏が日本を選んだのは、モハメド殿下に勝てるほどの高額を日本側が提示したという事でもあった。

本馬を購入した意図は、2002年に他界したサンデーサイレンスの代わりの種牡馬を求めていた社台グループが、同じヘイロー直系である上に毛色も似ている本馬に目を付けたためであるらしいとラムジー氏は述べており、ビッグレッドファームや社台グループの関係者は何度も本馬の姿を見に来ていたという。

そんなわけで競走馬引退後は日本で種牡馬入りする事が決まった本馬のこの年の最終目標はジャパンCダートに設定され、それに向けた調整が夏場に再開された。ところがその直後の8月に左前脚の腱を断裂している事が判明したために、ドバイワールドCの後はレースに出る事なく5歳時2戦1勝の成績で現役引退が発表された。

血統

Devil His Due Devil's Bag Halo Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Cosmah Cosmic Bomb
Almahmoud
Ballade Herbager Vandale
Flagette
Miss Swapsco Cohoes
Soaring
Plenty O'toole Raise a Cup Raise a Native Native Dancer
Raise You
Spring Sunshine Nashua
Real Delight
Li'l Puss Noble Jay Double Jay
Noble Nurse
Li'l Sis Spy Song
Radio Time
Tell a Secret Speak John Prince John Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Not Afraid Count Fleet
Banish Fear
Nuit de Folies Tornado Tourbillon
Roseola
Folle Nuit Astrophel
Folle Passion
Secret Retreat Clandestine Double Jay Balladier
Broomshot
Conniver Discovery
The Schemer
Retirement Royal Gem Dhoti
French Gem
Marie J Xalapa Clown
Marie Jean

父デヴィルヒズデューはデヴィルズバッグ産駒で、現役成績は41戦11勝。3歳デビューだったがゴーサムS(米GⅡ)・ウッドメモリアル招待S(米GⅠ)を連勝。そしてケンタッキーダービー(米GⅠ)に駒を進めたがリルイーティーの12着に敗れた。その後は敗戦が続いたが、4歳時にガルフストリームパークH(米GⅠ)・エクセルシオールH(米GⅡ)・ピムリコスペシャルH(米GⅠ)・サバーバンH(米GⅠ)を勝ち、5歳時にもブロワードH(米GⅢ)・ブルックリンH(米GⅡ)・サバーバンH(米GⅠ)を制し、GⅠ競走5勝を含むグレード競走9勝を挙げた。他には、トラヴァーズS(米GⅠ)・フィリップHアイズリンH(米GⅠ)・ウッドワードS(米GⅠ)2回・オークローンH(米GⅠ)・ピムリコスペシャルH(米GⅠ)2回・ホイットニーH(米GⅠ)・ジョッキークラブ金杯(米GⅠ)・NYRAマイルH(米GⅠ)で2着、ホイットニーH(米GⅠ)・メトロポリタンH(米GⅠ)で3着している。種牡馬としてはあまり成功しておらず、本馬が唯一のGⅠ競走の勝ち馬である。

母テルアシークレットは現役成績49戦9勝で、ヴェイグランシーH(米GⅢ)・バレリーナS(米GⅢ)で各2着している。繁殖牝馬としてはなかなか活躍馬を出せず、本馬を産んだのは23歳時で、同年中に他界している。本馬の半姉シークレットスレート(父ミスターリーダー)の子にグリーフリー【イエルバブエナBCH(米GⅢ)】、半姉リスモアラス(父ヴィガーズ)の子にダイナマイトラス【ザベリワンH(米GⅢ)】がおり、牝系は維持されている。テルアシークレットの半姉グッドハート(父クレームデラクレーム)の玄孫には、日本で活躍したワンダースピード【名古屋グランプリ(GⅡ)2回・東海S(GⅡ)・アンタレスS(GⅢ)・平安S(GⅢ)】とワンダーアキュート【JBCクラシック(GⅠ)・帝王賞(GⅠ)・東海S(GⅡ)・日本テレビ盃(GⅡ)・シリウスS(GⅢ)・武蔵野S(GⅢ)】の兄弟がいるが、世界的にはあまり繁栄している牝系ではない。それどころか18世紀まで遡ってもこれといった馬が出てこず、壮絶な数の活躍馬が出ている所謂ファミリーナンバー1号族の中でもかなり地味な部分である。→牝系:F1号族⑦

母父スピークジョンはスペンドアバックの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は来日して2006年からビッグレッドファームで種牡馬入りした。サンデーサイレンスの代替種牡馬としての需要は大きく、種付け料500万円と高額ながら初年度は192頭もの繁殖牝馬を集めた。2年目も153頭、3年目は150頭と人気種牡馬の地位を維持していたが、4年目は66頭、5年目の2010年は34頭まで交配数が下落。しかしこの2010年頃から産駒が徐々に走り始め、全日本種牡馬ランキングも上昇。種付け料を下げたことも相まって、6年目は75頭、7年目は150頭、8年目は138頭、9年目は97頭と交配数は回復傾向にある。

サンデーサイレンスと異なり芝よりもダートの活躍馬が目立っている。2014年にはドリームバレンチノがJBCスプリントを制して産駒のGⅠ競走初勝利を挙げた。現時点における全日本種牡馬ランキングの最高順位は2012年の15位で、2013年には17位に入っている。

ちなみに日本では全くと言ってよいほど紹介されていないが、本馬が日本で種牡馬入りする事が決まった際に、日本における種牡馬生活が終わったときには米国が買い戻すという特約が付けられている。これは2003年に、日本で種牡馬生活を送っていたファーディナンドが屠殺されていたのがほぼ間違いないという件が発覚したのを契機に、米国のサラブレッド馬主・生産者協会が結成した“Ferdinand Fee(ファーディナンド会費)”という基金に基づいているもので、シルバーチャームにも同基金に基づいて同じ特約が付いている。シルバーチャームに関しては不振を極める種牡馬成績から特約が適用される日は近いはず(追記。そう思っていた矢先の2014年11月に特約が適用されたシルバーチャームは米国に戻っていった)だが、本馬に関しては近年の種牡馬成績からすると特約の適用は当面ないだろう。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2007

アドマイヤツバサ

雲仙岳賞(S2)

2007

エーシンアガペー

マイル争覇(福山)・福山牝馬特別(福山)

2007

ドリームバレンチノ

JBCスプリント(GⅠ)・函館スプリントS(GⅢ)・シルクロードS(GⅢ)・兵庫ゴールドトロフィー(GⅢ)

2007

ドリームマジシャン

東海金杯(SPⅠ)・オータムC(SPⅡ)

2008

サミットストーン

浦和記念(GⅡ)・大井記念(SⅡ)・金沢スプリントC(金沢)・金沢RC移転40周年記念(金沢)・イヌワシ賞(金沢)・中日杯(金沢)

2008

マイネエレーナ

埼玉新聞栄冠賞(SⅢ)

2008

ミヤジメーテル

名港盃(SPⅡ)

2008

モエレトゥループ

ジュニアクラウン(SPⅡ)

2009

コスモオオゾラ

弥生賞(GⅡ)

2009

マイネルハーシェル

文月賞(S2)

2009

マイネルバイカ

白山大賞典(GⅢ)

2010

ジェネラルグラント

ダービーグランプリ(水沢)・京浜盃(SⅡ)・フジノウェーブ記念(SⅢ)・サンライズC(H3)

2012

エムティサラ

金沢プリンセスC(金沢)・北日本新聞杯(金沢)・加賀友禅賞(金沢)

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