シェアードビリーフ

和名:シェアードビリーフ

英名:Shared Belief

2011年生

黒鹿

父:キャンディライド

母:コモンホープ

母父:ストームキャット

圧勝に次ぐ圧勝で7戦無敗で迎えたBCクラシックで致命的な不利を受けて敗北し、翌年に疝痛のため短い生涯を終えた不運な馬

競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績12戦10勝

誕生からデビュー前まで

馬産活動も行っていた米国の投資家マーティン・J・ワイゴッド氏により生産されたケンタッキー州産馬である。

ワイゴッド氏はニューヨーク育ちで、若い頃から頻繁に地元の競馬場に足を運んでいたそうである。彼は若き日に米国のコンピューター会社コンピュータ・サイエンス・コーポレーション(通称CSC)に勤務していた事があり、その最高経営者フレッチャー・ローズベリー・ジョーンズ氏から可愛がられていた。

ジョーンズ氏は趣味として馬主活動もしており、彼が所有した馬の中で日本において最も著名なのはタイプキャストである。ワイゴッド氏は25歳の誕生日にジョーンズ氏から2頭の馬をプレゼントされ、それをきっかけに馬主活動も始めた。ジョーンズ氏は1972年11月に自身が操縦する自家用飛行機の墜落により41歳で死去してしまった(そのためにタイプキャストを始めとする彼の所有馬は売りに出され、タイプキャストは来日して天皇賞馬プリテイキャストを産むことになったのである)。

しかしワイゴッド氏はジョーンズ氏の死後も馬主活動を継続し続け、カリフォルニア州に牧場を買って同州でも有数の名馬産家となっていた。過去にこの名馬列伝集で紹介するような超大物は出していなかったが、何頭ものGⅠ競走の勝ち馬を送り出していた。ワイゴッド氏と妻のパム夫人の共同名義で競走馬となった本馬は、ジェド・ジョゼフソン調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳10月にゴールデンゲートフィールズ競馬場で行われたオールウェザー6ハロンの未勝利戦で、ファン・ヘルナンデス騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ3.8倍で9頭立て2番人気という評価だった。スタートが切られると単勝オッズ24.3倍の7番人気馬フォートワグナーが先頭に立ち、1~2馬身ほど後方の2番手が単勝オッズ2.4倍の1番人気馬タイムジャンパーで、本馬はさらに3~4馬身ほど離れた3番手を進んだ。四角で外側を通って前2頭との差を詰めた本馬は、直線に入ると2頭を抜き去ってどんどん差を広げていった。ゴール前ではヘルナンデス騎手が馬なりのまま走らせ、2着タイムジャンパーに7馬身差をつけて圧勝した。

このレースを見て本馬の素質に惚れ込んだ人物がいた。それは、本馬にちぎり捨てられたタイムジャンパーの管理調教師で所有者でもあったジェリー・ホレンドルファー師だった。ホレンドルファー師は早速ワイゴッド夫妻と交渉を行い、本馬の入手に成功。ホレンドルファー師は本馬を自身だけの資力で購入する事は出来なかったようで、本馬はホレンドルファー師だけでなく、ソリス&リットブラッドストック、ジャングルレーシング、KMNレーシング、ジョージ・トダロ博士といった複数の馬主及び馬主団体の共同所有馬となった。

改めてホレンドルファー師の調教を施された本馬の次走は11月のハリウッドプレビューS(GⅢ・AW7F)となった。強敵は、デビュー戦のウィラードLプロクター記念Sを3馬身1/4差で快勝してきたコーベズバック、前走の未勝利戦を鮮やかに逃げ切っていたパパターフだった。コーベズバックが単勝オッズ1.9倍の1番人気、今回はコーリー・ナカタニ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ2.5倍の2番人気、パパターフが単勝オッズ4.5倍の3番人気で、他の出走馬2頭は単勝オッズ25倍以上の人気薄だった。

スタートが切られるとパパターフが先頭に立ち、本馬はそれをマークするように直後の2番手を追走。コーベズバックは最後方から競馬を進めた。三角で本馬はパパターフに並びかけると、四角では完全に追い越して先頭。そして直線に入ると、前走と同様の独走劇となった。後方ではコーベズバックが2番手に上がっていたが、それとは無関係の走りを見せた本馬が、2着コーベズバックに7馬身3/4差をつけて圧勝した。

この年のBCジュヴェナイルは本馬の本拠地である西海岸のサンタアニタパーク競馬場で行われたのだが、BCジュヴェナイルはハリウッドプレビューSの前週に既に終わっていた。

そのため本馬は代わりに12月のキャッシュコールフューチュリティ(GⅠ・AW8.5F)に出走した。対戦相手は、コーベズバック、未勝利戦を4馬身1/4差で圧勝した1戦の経歴で出走したBCジュヴェナイルで3馬身1/4差の5着だったタップイットリッチ、デルマーフューチュリティの勝ち馬でフロントランナーS3着のタマランド、フロントランナーSの勝ち馬でBCジュヴェナイルではタップイットリッチに頭差先着する4着だったボンドホルダー、未勝利戦を8馬身1/4差で勝ってきたキャンディボーイなど11頭だった。前走に続いてナカタニ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、タップイットリッチが単勝オッズ3.8倍の2番人気、コーベズバックが単勝オッズ9倍の3番人気、タマランドが単勝オッズ9.3倍の4番人気、ボンドホルダーが単勝オッズ15.9倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ132.1倍の11番人気馬ブラザーソルジャーが先頭に立ち、本馬は2~3馬身ほど離れた2番手を進んだ。向こう正面で後方からキャンディボーイがするすると上がってきて先頭を奪った頃から各馬の動きも活発化。三角に入ったところで本馬がキャンディボーイに並びかけると、四角では完全に追い抜いて先頭で直線に入ってきた。その後は3戦連続の独走劇。さすがにGⅠ競走だけあって前2戦ほど差は付かなかったが、2着キャンディボーイに5馬身3/4差をつけて圧勝した。なお、ハリウッドパーク競馬場はこの年限りで閉鎖されたため、本馬はハリウッドパーク競馬場で施行された最後のGⅠ競走の勝ち馬となった。

2歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は3戦3勝だった。エクリプス賞最優秀2歳牡馬騙馬のタイトルは、本馬と、BCジュヴェナイルを勝った3戦2勝3着1回のニューイヤーズデイの争いとなり、かなり票が割れたが、115票対99票で本馬がタイトルを獲得した。BCジュヴェナイルに勝っていない馬が同タイトルを獲得したのは2009年のルッキンアットラッキー(同競走は2着だったが他はGⅠ競走3勝を含む5戦全勝だった)以来4年ぶり、BCジュヴェナイルにに出走さえしていない馬が獲得したのは2004年のデクランズムーン(ハリウッドフューチュリティなど4戦全勝)以来9年ぶりだった。

競走生活(3歳時)

3歳時は、ブルーグラスSを叩いてケンタッキーダービーに向かうという計画だった。ところが1月に本馬は右前脚の蹄に膿瘍を発症。ホレンドルファー師はケンタッキーダービーを始めとする米国三冠競走を全て放棄し、本馬の治療に専念する事にした。

本馬の復帰初戦は5月にゴールデンゲートフィールズ競馬場で行われたオールウェザー6ハロンの一般競走となった。長期休養明けではあったが、実績的には群を抜いており、斤量システムの関係で一番軽い斤量となった事もあり、単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に支持された。ラッセル・ベイズ騎手が手綱を取る本馬は、好スタートを切るとそのまま先頭を走った。本馬は別に逃げ馬ではなかったが、ここでは能力が違い過ぎて自動的に先頭に立ってしまったようである。ベイズ騎手は休養明けの本馬に対して鞭を使ったりはせず、手だけで走らせていた。それでも徐々に後続との差は広がり、最後は2番手追走からそのまま2着となった単勝オッズ7.4倍の3番人気馬アワーウエストコーストゴーストに4馬身1/4差をつけて勝利した。

次走は7月にロスアラミトス競馬場で行われたロスアラミトスダービー(GⅡ・D9F)となった。ロスアラミトス競馬場と言われてもぴんとこない人のために補足すると、前年暮れに閉鎖されたハリウッドパーク競馬場の代替開催として名乗りを挙げた競馬場で、元々はサラブレッドではなくクォーターホース専門の競馬場であり、その業界ではおそらく全米一の規模を誇っていた。対戦相手は、前年のキャッシュコールフューチュリティで本馬の2着に敗れた後にロバートBルイスSを勝ちサンタアニタダービーで3着していたキャンディボーイ、アファームドSの勝ち馬でデルマーフューチュリティ3着のキャンザマン、ラザロバレラSの勝ち馬で前走ウッディスティーヴンスS2着のトップフォーティチュード、アファームドS2着馬フレンズウィズケイミル、プエルトリコのGⅠ競走クラシコアグスティンメルカドレヴェロンSの勝ち馬で米国に移籍して初戦のラザロバレラSで2着していたトニトエムなど6頭だった。主戦となるマイク・スミス騎手と初コンビを組んだ本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気、キャンディボーイが単勝オッズ4倍の2番人気、キャンザマンが単勝オッズ9.3倍の3番人気、トップフォーティチュードが単勝オッズ10.1倍の4番人気となった。

スタートが切られるとキャンザマンが先頭に立ち、本馬はその直後の2~3番手を進んだ。そして四角でキャンザマンをかわして先頭に立つと、直線ではお得意の独走劇。後方待機策から2着に入ったキャンディボーイに4馬身1/4差をつけて圧勝した。キャンディボーイも3着トニトエムには7馬身1/4差をつけていたが、本馬には遠く及ばなかった。

次走は翌8月のパシフィッククラシックS(GⅠ・AW10F)となった。このレースには、サンタアニタH3連覇に加えてグッドウッドS・ハリウッド金杯2回・オーサムアゲインS・サンアントニオS2回・カリフォルニアンS・チャールズタウンクラシックS・ローンスターダービー・ネイティヴダイヴァーSも勝っていた前年の同競走の覇者ゲームオンデュードという現役西海岸最強古馬も出走してきた。他の出走馬は、前走サンタアニタ金杯や東京シティカップSを勝っていたマジェスティックハーバー、UAEダービーの勝ち馬トーストオブニューヨーク、前走クーガーHを勝ってきたアイリッシュサーフ、カリフォルニアンSを2連覇した他にサンタアニタH・前走サンタアニタ金杯2着・キャッシュコールフューチュリティ3着の実績もあったクラブハウスライド、オノール大賞・アルゼンチン共和国大賞と亜国のGⅠ競走を2勝した後に米国に移籍してこれが初戦だったミステリートレイン、前年の同競走3着馬ユーノウアイノウ、チャールズタウンクラシックSの勝ち馬でサンタアニタ金杯3着のインペラティヴなどだった。本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気、ゲームオンデュードが単勝オッズ3.5倍の2番人気、マジェスティックハーバーが単勝オッズ7.7倍の3番人気、トーストオブニューヨークが単勝オッズ9倍の4番人気、アイリッシュサーフが単勝オッズ16.3倍の5番人気と、本馬とゲームオンデュードの一騎打ち的なムードが強かった。

スタートが切られると逃げてこそ本領を発揮するゲームオンデュードがやはり先頭に立ち、ミステリートレインがそれに競りかけて2番手を追走。前2頭から5馬身ほど離れた3~4番手がトーストオブニューヨークとアイリッシュサーフで、本馬はそれからさらに1~2馬身ほど後方の5~6番手を進んだ。ゲームオンデュードに競りかけたミステリートレインは向こう正面で失速し、ゲームオンデュードが単独で先頭に立った。そして三角に入ってから後続各馬が加速を開始し、ゲームオンデュードに迫っていった。その中で最も脚色が良かったのはやはり本馬であり、四角途中でゲームオンデュードをかわして先頭を奪取。あとは悠々と直線を走り抜け、2着トーストオブニューヨークに2馬身3/4差をつけて勝利した。このレースは11年前に父キャンディライドも勝利を収めており、父子制覇となった。

なお、本馬が直線に入ってきた時に、本馬の左斜め後方にいたトーストオブニューヨークの進路を塞ぐ格好となり、トーストオブニューヨークが体勢を崩す場面があったために、これは審議対象となった。しかしこれは故意でも決定的でも無いとしてお咎めなしとなった。ここで4着に敗れたゲームオンデュードはそのまま競走馬を引退してしまい、本馬が引導を渡したような格好になった。

陣営の目標は暮れにサンタアニタパーク競馬場で行われるBCクラシックであり、まずは前哨戦として本番5週間前のオーサムアゲインS(GⅠ・D9F)に出走した。サンフェルナンドS・パットオブライエンS・サンディエゴHの勝ち馬でフランクEキルローマイルS3着のフェドビズ、前走サンディエゴHで2着してきたフットブリッジ、前走3着のインペラティヴ、同6着のマジェスティックハーバー、同9着のミステリートレインなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.2倍の1番人気、フェドビズが単勝オッズ7.6倍の2番人気、マジェスティックハーバーが単勝オッズ11倍の3番人気、インペラティヴが単勝オッズ11.9倍の4番人気、ミステリートレインが単勝オッズ30.4倍の5番人気であり、本馬の一強独裁ムードだった。

スタートが切られるとフェドビズが先頭に立ち、本馬もそれを追いかけようとした。しかし最初のコーナーに入るところで本馬の内側を走っていた単勝オッズ37.5倍の最低人気馬スカイキングダムが外側に大きく膨らんだため、本馬も一緒に大外を回らされてかなりのコースロスを蒙った。その結果、最内枠からの発走だったフェドビズを楽に逃がす形となった。スカイキングダムと本馬が外側に膨らんでいる隙にミステリートレインが内側を通って位置取りを上げ、フェドビズに並びかけていった。そして本馬は前2頭から2馬身ほど後方の4番手を進んでいた。そして三角手前で後続各馬が上がってくると、本馬も前2頭を目掛けて加速を開始したが、外側を走らされた分だけ位置取りがなかなか上がらず、内を掬ったフットブリッジに先を越されてしまった。そして4番手で直線を向くことになった。ミステリートレインはすぐに失速したが、最内のフットブリッジとフェドビズの2頭が叩き合いながら伸びたため、本馬はなかなかその2頭を捕らえられなかった。残り100ヤード地点ではフットブリッジを競り落としたフェドビズが勝利目前だったが、ここで外側から本馬がようやく並びかけると、2ポンドのハンデを与えたフェドビズを際どく差し切り、首差で勝利した。

ところで本馬に大外を走らせて苦戦を強いらせた元凶のスカイキングダムは7着最下位だったが、実はフェドビズとスカイキングダムはいずれもボブ・バファート調教師の管理馬であり、スカイキングダムが最初のコーナーで外側に大きく膨らんだのは、レース展開をフェドビズに有利に持っていくためのバファート師の作戦ではないかと言われた。真相は不明だが、スカイキングダムに騎乗していたビクター・エスピノーザ騎手は騎乗停止処分を受けており、これはやはり本馬を負かすための作戦だったと一般的に言われているようである(バファート師が処分を受けたという話は無いが、それは単に証拠不十分だったからであろう)。この姑息な作戦にも関わらず勝利をもぎ取った本馬の名声は高まり、英国レーシングポスト紙のサム・ウォーカー記者は「これこそこの年の米国における最高のパフォーマンス」として絶賛した。

そして目標のBCクラシック(GⅠ・D10F)へと向かった。対戦相手は、ケンタッキーダービー・プリークネスS・サンタアニタダービー・サンフェリペSの勝ち馬カリフォルニアクローム、ベルモントS・ジョッキークラブ金杯・ピーターパンSの勝ち馬でトラヴァーズS3着のトゥーナリスト、ハスケル招待S・ウッディスティーヴンスS・ペンシルヴァニアダービーの勝ち馬でアーカンソーダービー3着のバイエルン、サバーバンHの勝ち馬で前走ジョッキークラブ金杯2着のジーヴォ、スキップアウェイSの勝ち馬シガーストリート、パシフィッククラシックS2着から直行してきたトーストオブニューヨーク、ロスアラミトスダービー2着後にウエストヴァージニアダービー2着・ペンシルヴァニアダービー3着と堅実に走っていたキャンディボーイ、トラヴァーズSの勝ち馬ヴィーイーデイ、ホイットニーH・ドワイヤーSの勝ち馬でトラヴァーズS・ウッドワードS2着のモレノ、ウエストヴァージニアダービー・スーパーダービー・アイオワダービー・コーンハスカーHの勝ち馬で前走ウッドワードS3着のプレイヤーフォーリリーフ、前走3着のフットブリッジ、同4着のマジェスティックハーバー、同5着のインペラティヴの計13頭だった。本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気、カリフォルニアクロームとトゥーナリストが並んで単勝オッズ5.4倍の2番人気、バイエルンが単勝オッズ7.1倍の4番人気、ジーヴォが単勝オッズ12.4倍の5番人気となった。上位人気4頭は全て3歳馬だったが、他3頭はそれぞれに対戦経験があったのに対して、本馬はいずれも初対戦となった。そのため他3頭と本馬の実力の比較は困難だったが、無敗が魅力の本馬が最上位の人気となった。

しかしこのレースはスタートから荒れた展開になった。スタートが切られると同時に本馬の1つ外側の枠から発走したバイエルンが内側に大斜行して、本馬に体当たりをしたのである。バイエルンはさらに斜行して本馬よりさらに内側の枠から発走したモレノにも体当たりをすると、そのまま加速して先頭に立った。体勢を崩した本馬を、スミス騎手はそのまま5~6番手で走らせた。前方ではバイエルンを先頭に、トーストオブニューヨークが2番手、カリフォルニアクロームが3番手を進んでいた。しかしバイエルンと一緒に先頭争いをすると思われていたモレノがバイエルンの進路妨害により逃げることが出来ず、そのためにバイエルンのペースでレースが進行した。スミス騎手は三角手前で仕掛けたが、他馬勢も一斉にスパートしたために、本馬の位置取りは上がらず、5~6番手で直線を向くことになった。前方では逃げるバイエルンをトーストオブニューヨークとカリフォルニアクロームの2頭が追い詰めようとしていたが、本馬はとても前3頭には届きそうになかった。結局はバイエルンが他2頭の追撃を僅かに封じて勝利を収め、バイエルンから3馬身3/4差の4着となった本馬の無敗記録は7で止まった。

しかしバイエルンがスタート直後に本馬とモレノに体当たりをかました件が審議の末に降着にならなかった事は非常に物議を醸し、サンタアニタパーク競馬場には苦情が殺到した。しかし本馬陣営は割と冷静に敗戦を受け止めたようだった。それは、本馬自身がパシフィッククラシックSにおいてトーストオブニューヨークの進路を妨害してお咎めが無かったためだったのかも知れない。

本馬の3歳時はBCクラシックが最後ではなく、暮れのマリブS(GⅠ・D7F)にも出走した。主な対戦相手は、サンランドダービーの勝ち馬でロバートBルイスS2着のチテュ、3戦無敗で挑んだ前月のBCスプリントで10着と惨敗していたインディアナポリス、シャムSの勝ち馬でサンフェリペS・サンランドダービー・イリノイダービー2着のミッドナイトホークなどであり、本馬の相手としては全体的に力量不足だった。しかし本馬にとっても距離不足や斤量という懸念材料があった。他の出走全馬より5ポンド重い123ポンドを課された本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、チテュが単勝オッズ3.3倍の2番人気、インディアナポリスが単勝オッズ10.6倍の3番人気、ミッドナイトホークが単勝オッズ11.8倍の4番人気となった。

スタートが切られるとチテュが先頭に立ち、インディアナポリスが2番手で、本馬は3番手を追走した。そのままの態勢で直線に入ると、逃げるチテュ、追いかける本馬、5番手を追走してきた単勝オッズ73.8倍の7番人気馬コンクエストツーステップの三つ巴の勝負となった。最後は本馬が僅かに前に出て、2着コンクエストツーステップに首差、3着チテュにはさらに半馬身差をつけて勝利した。

3歳時の成績は6戦5勝で、エクリプス賞年度代表馬や最優秀3歳牡馬の候補に挙がったが、いずれもカリフォルニアクロームのものとなった。

競走生活(4歳時)

4歳時は2月のサンアントニオ招待S(GⅡ・D9F)から始動した。対戦相手は、前年のBCクラシック3着後にハリウッドダービーを勝っていたカリフォルニアクローム、クラークH・レベルS・サンパスカルSの勝ち馬でサンタアニタダービー2着のホッパチュニティ、ステークス競走初出走の5戦2勝2着3回のアルファバード、チリのGⅠ競走チリ競馬場大賞を勝って米国に移籍して前年のBCダートマイルで4着していたブロンゾ、前年のロスアラミトスダービーで本馬の3着に敗れた後にオクラホマダービーを勝っていたトニトエム、前年のBCクラシック9着後に日本のチャンピオンズCに参戦したがホッコータルマエの15着と惨敗していたインペラティヴ、前年のパシフィッククラシックSで本馬の8着に終わっていたユーノウアイノウ、同10着最下位に終わっていたクラブハウスライドの計8頭だった。本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、カリフォルニアクロームが単勝オッズ2.4倍の2番人気、ホッパチュニティが単勝オッズ6.7倍の3番人気、アルファバードが単勝オッズ20.1倍の4番人気、ブロンゾが単勝オッズ33倍の5番人気となった。

スタートが切られるとアルファバードが先頭に立ち、カリフォルニアクロームが2番手で、本馬は3番手につけた。三角でカリフォルニアクロームが先頭に立つと、本馬もそれを追って加速。2番手で直線に入ってくると、逃げるカリフォルニアクロームを残り100ヤード地点で抜き去った。最後は2着カリフォルニアクロームに1馬身半差、3着ホッパチュニティにはさらに6馬身半差をつけて勝利した。

次走はサンタアニタH(GⅠ・D10F)となった。ドバイワールドCに向かったカリフォルニアクロームは不在であり、対戦相手は、前年のBCクラシックで14着最下位に敗れて以来の実戦となるモレノ、ルイジアナHを勝ってきたハードエーシズ、亜国で地道に走り10戦6勝の成績を残して米国に移籍してきたキャッチアフライト、フロリダサンシャインミリオンズクラシックSを勝ってきたシニアキスケヤーノ、レッドスミスHの勝ち馬でノーザンダンサーターフS2着・加国際S3着のダイナミックスカイ、前走4着のブロンゾ、同5着のユーノウアイノウ、同6着のインペラティヴなどであり、能力的には本馬に対抗できそうな馬はおらず、問題は他馬勢より4~11ポンド重い斤量だけだった。125ポンドの本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気、121ポンドのモレノが単勝オッズ10.1倍の2番人気、115ポンドのハードエーシズが単勝オッズ15.8倍の3番人気、115ポンドのキャッチアフライトが単勝オッズ17倍の4番人気、117ポンドのブロンゾが単勝オッズ20.6倍の5番人気であり、完全に本馬の一強独裁状態だった。

スタートが切られると前年のBCクラシックではバイエルンのせいで逃げられなかったモレノが今度こそは逃げを打ち、キャッチアフライトやシニアキスケヤーノなどもそれを追って先行。本馬は先頭争いを見るように5番手前後の好位につけた。モレノは後続馬に突かれながらも先頭を死守していた。モレノは逃げられなければ全然駄目だが逃げればかなり強い馬であり、それを知っていたスミス騎手は、敵はモレノと見定めて三角手前から進出を開始。三角途中で2番手に上がると、四角でモレノに追いついた。そして直線入り口で抜き去って先頭に立っていた。後は久々の直線独走状態となり、2着に粘ったモレノに4馬身1/4差をつけて完勝した。

その後は東上してチャールズタウンクラシックS(GⅡ・D9F)に出走した。このレースはGⅡ競走ではあるが1着賞金85万2千ドルは並のGⅠ競走を大きく凌駕するもので、前走サンタアニタHの1着賞金60万ドルよりも高かった。別定重量戦ではあったがハンデ競走ではないため、サンタアニタHのような大きな斤量差に悩まされる事も無く、本馬陣営にとっては魅力的なレースだった。対戦相手は、モレノ、前走8着のインペラティヴ、フロリダダービー3着馬ジェネラルアロッド、マインシャフトHの勝ち馬ストリートベイブなど8頭であり、本馬に敵いそうな馬はいなかった。唯一の懸念材料と言えば、本馬にとってはカリフォルニア州外で走る初めてのレースである事くらいだった。本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気、ジェネラルアロッドが単勝オッズ6.1倍の2番人気、モレノが単勝オッズ8倍の3番人気、ストリートベイブが単勝オッズ15倍の4番人気となった。

スタートが切られるとモレノのハナを叩いて人気薄のウォリアーオブザローゼズが先頭に立った。モレノが2番手を進んだが、モレノの後方で先行策を採るはずの本馬の姿は無かった。スタート直後から非常に行き脚が悪く、後方から2番手を進んでいたのである。本馬の様子がおかしいことに気付いたスミス騎手は、しばらく進んだところで本馬を走らせるのを止めて競走を中止した。レースは2番手を進みながらも上手く折り合いをつけたモレノが2着インペラティヴに2馬身差で勝利を収めた。

精密検査により、本馬の骨盤が変形していることが判明し、生命には大事ないが競走生命に関わる重症である事が判明。すぐに本馬は米国北西のワシントン州レントンにあるペガサストレーニングセンターに送られ、治療とリハビリが施された。治療は順調に進み、秋にはカリフォルニア州に戻ってきた。そして4歳暮れの復帰を目指して11月から調教が再開された。

しかしその矢先の12月3日の早朝、本馬は疝痛を発症。すぐにカリフォルニア大学デービス校に搬送されて緊急手術が行われた。しかし世界大学ランキング獣医学部門第1位を誇るデービス校の技術力をもってしても手術を成功させる事は出来ず、本馬は4年10か月という短い生涯を終えた。本馬の死を耳にした米国の競馬ファンは一斉に哀悼の意を示し、関係者達も次々に惜別の念を述べた。

本馬の実力は誰もが認めていたが、同時のその運の無さも誰もが認めていた。米国三冠競走は蹄の膿瘍のために全て欠場し、ようやく迎えた一番の晴れ舞台であるBCクラシックでは自身には何の責も無い理由で実力を発揮しきれずに敗戦し、現役復帰を目前として疝痛によりその生命を絶たれた。運も実力のうちと言うし、確かにそれはそのとおりだが、その一言で片づけるにはあまりにも惜しい実力馬であった。

血統

Candy Ride Ride the Rails Cryptoclearance Fappiano Mr. Prospector
Killaloe
Naval Orange Hoist the Flag
Mock Orange
Herbalesian Herbager Vandale
Flagette
Alanesian Polynesian
Alablue
Candy Girl Candy Stripes Blushing Groom Red God
Runaway Bride
バブルカンパニー Lyphard
Prodice
City Girl Farnesio Good Manners
La Farnesina
Cithara Utopico
Cithere
Common Hope Storm Cat Storm Bird Northern Dancer Nearctic
Natalma
South Ocean New Providence
Shining Sun
Terlingua Secretariat Bold Ruler
Somethingroyal
Crimson Saint Crimson Satan
Bolero Rose
Sown Grenfall Graustark Ribot
Flower Bowl
Primonetta Swaps
Banquet Bell
Bad Seed Stevward Nashua
Sherry Jen
Rich and Rare Rockefella
Palmy Days

父キャンディライドは亜国産馬で、現役成績は6戦全勝。亜国でサンイシドロ大賞(亜GⅠ)・ホアキンSデアンチョレナ大賞(亜GⅠ)を勝つなど3戦全勝の成績を残して米国に移籍。米国でもアメリカンH(米GⅡ)を勝ち、パシフィッククラシックS(米GⅠ)ではメダグリアドーロフリートストリートダンサー相手に圧勝。しかしその後に体調を崩したために無敗のまま競走馬を引退した。種牡馬としてはケンタッキー州ヒルンデールファームやレーンズエンドファームで供用され、多くの活躍馬を出して成功した。

キャンディライドの父ライドザレイルズは米国産馬で、現役成績は14戦4勝。フーリッシュプレジャーSを勝ち、フロリダダービー(米GⅠ)で2着の実績がある。種牡馬として亜国に輸入され、まずまずの成績を収めた。ライドザレイルズの父クリプトクリアランスはヴィクトリーギャロップの項を参照。

母コモンホープは米国産馬で競走馬としては5戦1勝。本馬の半姉にはリトルミスホーリー(父マライアズモン)【アイオワオークス(米GⅢ)】がいる。コモンホープの半姉にはキーフェイズ(父フライングパスター)【サンタモニカH(米GⅠ)】がいる。コモンホープの曾祖母リッチアンドレアはチェヴァリーパークSの勝ち馬。→牝系:F19号族②

母父ストームキャットは当馬の項を参照。

TOP