エンパイアメーカー

和名:エンパイアメーカー

英名:Empire Maker

2000年生

黒鹿

父:アンブライドルド

母:トゥソード

母父:エルグランセニョール

ファニーサイドの米国三冠達成を阻止した良血のベルモントS優勝馬は優秀な種牡馬成績を残しながらも米国から日本に放出される

競走成績:2・3歳時に米で走り通算成績8戦4勝2着3回3着1回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州ジュドモントファームにおいてサウジアラビアの王族ハーリド・ビン・アブドゥッラー殿下により生産・所有され、ロバート・“ボビー”・フランケル調教師に預けられた。ジュドモントファームが生産・所有したフランケル師の管理馬は、当初欧州でデビューした後に米国に来た馬が多いのだが、本馬は米国のみで走った。主戦はジェリー・ベイリー騎手で、本馬の全レースに騎乗した。

雄大な馬格に加えて、母が名競走馬にして名繁殖牝馬のトゥソードということでデビュー前から期待されており、特にフランケル師は本馬を極めて高く評価していた。

競走生活(3歳初期まで)

2歳10月にベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの未勝利戦でデビューして、単勝オッズ1.45倍という断然の1番人気に支持された。スタート直後は馬群のちょうど中間につけて、三角手前から進出を開始。直線入り口で先頭に立つと、そのまま2着ブルースカイズアヘッドに3馬身半差をつけて快勝した。

次走のレムセンS(GⅢ・D9F)では、既にシャンペンS・ローレルフューチュリティを勝っていたトセットを抑えて、単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持された(トセットは単勝オッズ2.65倍の2番人気)。確かに斤量面では122ポンドのトセットより116ポンドの本馬のほうが恵まれていたが、1戦1勝の身で1番人気の評価を受けた事実からしても、本馬は大器という評判が大きかった事が分かる。しかし肝心のレースではスタートで後手を踏んでしまい、後方2番手から競馬を進めるも、逃げた単勝オッズ5.4倍の3番人気馬バーンと、2番手につけていたトセットの2頭を捕らえる事が出来ずに、トセットの5馬身半差3着に敗れてしまった。2歳時の成績は2戦1勝だった。

3歳時は2月にサンタアニタパーク競馬場で行われたシャムS(D9F)から始動した。未勝利戦を8馬身差で圧勝してきたテンモストウォンティド、ピンジャラSの勝ち馬マンアマングメン、ゴールデンラッシュSの勝ち馬スペンシヴ、ベルモントフューチュリティS3着馬トラックルフィーチャーなどを抑えて、単勝オッズ1.4倍という圧倒的な1番人気に支持された。2番人気のテンモストウォンティドが単勝オッズ8.4倍だったから、ここで本馬が負ける確率はかなり低いとみなされていたようである。しかし最後方待機策から向こう正面で進出を開始するも、直線で単勝オッズ10.1倍の3番人気馬マンアマングメンを捕まえる事に失敗して、1馬身差の2着に敗れた。斤量はマンアマングメンのほうが本馬より5ポンド重かったから完敗であり、実力が素質にまだ追いついていなかったようである。

その後はフロリダ州に向かい、フロリダダービー(GⅠ・D9F)に出走。ファウンテンオブユースSを勝っていたトラストンラックが単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ3.1倍の2番人気となった。前2戦と異なり定量戦だったのだが、それでも本馬の素質はここで勝つ見込み十分と思わせるものだったようである。フランケル師はここで本馬に初めてブリンカーを装着させた。スタートが切られるとトラストンラックが逃げを打ち、本馬は少し離れた4番手の好位を追走した。三角でトラストンラックに並びかけると、直線では一気に突き放し、トラストンラックを9馬身3/4差の2着にちぎり捨てて圧勝。ここでようやく素質を開花させた。

次走のウッドメモリアルS(GⅠ・D9F)では、ルイジアナダービーで3着してきたファニーサイド、レーンズエンドSの勝ち馬ニューヨークヒーロー、前走フロリダダービーで3着に追い込んでいたインディダンサー、3連勝中のキシンセイントなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.55倍の圧倒的1番人気に支持され、ファニーサイドが単勝オッズ6.2倍の2番人気、ニューヨークヒーローとインディダンサーが並んで単勝オッズ9.9倍の3番人気となった。スタートが切られるとニューヨークヒーローが先頭に立ち、ファニーサイドが2番手、本馬が3番手につけて、この3頭が後続を引き離していった。四角でニューヨークヒーローが失速してファニーサイドが先頭に立ち、そこへ本馬が並びかけて直線では2頭の一騎打ちとなった。激しい叩き合いの末に本馬がファニーサイドを競り落として半馬身差で勝利。3着キシンセイントはファニーサイドからさらに7馬身半も後方であった。

これで本馬はケンタッキーダービーの最有力候補となったのだが、しかしこのレース後に右前脚を負傷していたようで、しばらくフランケル師は本馬の状態について口を閉ざしてしまった。フランケル師がようやく脚の負傷を認めた上で、大きな問題ではないとしてケンタッキーダービー出走を明言したのは本番3日前のことだった。

競走生活(3歳後半)

そして迎えたケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)では、ルイジアナダービー・ブルーグラスSなど4連勝中のピースルールズ、シャムSで4着に敗れるも前走イリノイダービーを圧勝してきたテンモストウォンティド、ボールドウィンS・サンフェリペS・サンタアニタダービーとステークス競走3連勝中のバディジル、サンフェリペS2着・サンタアニタダービー4着のアツワットアイムトークンバウト、サンタアニタダービー2着のインディアンエクスプレス、ファニーサイド、レキシントンSを勝ってきたスクリムショー、ブルーグラスS2着のブランクーシ、ホーリーブルS勝ち馬でブルーグラスS3着のオフリーワイルドなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、ピースルールズが単勝オッズ7.3倍の2番人気、テンモストウォンティドが単勝オッズ7.6倍の3番人気、バディジルが単勝オッズ8.2倍の4番人気、アツワットアイムトークンバウトが単勝オッズ9.9倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ30.3倍の9番人気馬ブランクーシが先頭に立ち、ピースルールズや単勝オッズ13.8倍の7番人気馬ファニーサイドなどがそれを追って先行。本馬は馬群の中団外側を進み、三角から四角にかけて進出していった。そして直線入り口ではファニーサイドに外側から並びかけていた。しかしここからファニーサイドと内側のピースルールズの2頭が叩き合いながら伸び、本馬はなかなか差を縮める事ができなかった。結局、ゴール前で失速したピースルールズをかわし、追い込んできたアツワットアイムトークンバウトの追撃を封じるのが精一杯で、勝ったファニーサイドから1馬身3/4差の2着に敗れた。

その後にプリークネスSは回避して、ベルモントS(GⅠ・D12F)一本に目標を絞った。対戦相手は、プリークネスSを圧勝してきたファニーサイド、ローンスターダービーの勝ち馬ダイネヴァー、ケンタッキーダービー9着から直行してきたテンモストウォンティド、ケンタッキーダービー11着後にプリークネスSで3着していたスクリムショー、ピーターパンSで3着してきたスーパーバイザーの5頭だけだった。1978年のアファームド以来25年ぶり史上12頭目の米国三冠馬を懸けて出走してきたファニーサイドが単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、ダイネヴァーが単勝オッズ9.5倍の3番人気であり、本馬とファニーサイドの一騎打ちムードだった。

レースは大雨の影響で泥だらけの不良馬場で行われた。好スタートを切った本馬は、先頭に立ったファニーサイドを見る形でその直後を追走。道中はファニーサイドを徹底マークし続けると、三角途中でファニーサイドに外側から並びかけていった。そこへさらに後方からテンモストウォンティドもやって来て、3頭が一団となって直線を向いた。しかし直線入り口で既に先頭に立っていた本馬が2着テンモストウォンティドの追撃を3/4馬身差で抑えて優勝。直線半ばで力尽きたファニーサイドは2着テンモストウォンティドから4馬身1/4差の3着に敗れた。

その後は一間隔空けてジムダンディS(GⅡ・D9F)に出走した。ドワイヤーSを勝ってきたストロングホープ、スワップスSでテンモストウォンティドを首差2着に破って勝っていたデュリングなどを抑えて、単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持された。レースではストロングホープがデュリングを引き連れて逃げを打ち、本馬は後方2番手を追走した。そして三角から四角にかけて上がっていき、直線では逃げるストロングホープを追撃したが、首差届かず2着に敗れてしまった。敗因は本馬が母トゥソードから受け継いだ気性難にあると資料にあるが、具体的にどの部分が問題だったのかは筆者にはよく分からない。

次走はトラヴァーズSの予定だったが、体調不良のために回避した。その後もウッドワードSやジョッキークラブ金杯など予定していたレースを咳込みや挫石で次々と回避。結局再びレースに出ることなく、3歳時6戦3勝の成績で競走馬を引退した。2015年現在、本馬は世界有数の馬産団体であるジュドモントファームが生産した唯一の米国三冠競走勝ち馬である。

血統

Unbridled Fappiano Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Killaloe Dr. Fager Rough'n Tumble
Aspidistra
Grand Splendor Correlation
Cequillo
Gana Facil Le Fabuleux Wild Risk Rialto
Wild Violet
Anguar Verso
La Rochelle
Charedi In Reality Intentionally
My Dear Girl
Magic Buckpasser
Aspidistra
Toussaud El Gran Senor Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Sex Appeal Buckpasser Tom Fool
Busanda
Best in Show Traffic Judge
Stolen Hour
Image of Reality In Reality Intentionally Intent
My Recipe
My Dear Girl Rough'n Tumble
Iltis
Edee's Image Cornish Prince Bold Ruler
Teleran
Ortalan Swaps
Bravura

アンブライドルドは当馬の項を参照。

トゥソードは当馬の項を参照。→牝系:F6号族②

母父エルグランセニョールは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は生まれ故郷のジュドモントファームで種牡馬入りした。その良血が評価されて初年度の種付け料は10万ドルという高値に設定された(その後2009年は7万5千ドル、2010年は5万ドルに設定)。2007年にデビューした初年度産駒93頭の中からGⅠ競走勝ち馬4頭を含む10頭のステークスウイナーが登場した。2年目産駒95頭の中からもGⅠ競走勝ち馬1頭を含む8頭のステークスウイナーが登場した。

このように順調な種牡馬生活を送っていたように見えた本馬だが、2010年11月に日本中央競馬会に購入され、翌2011年からは日本軽種馬協会静内種馬場で供用されることになった。

ジュドモントファームが本馬を放出した理由については以下の4点が挙げられている。第1に、本馬の産駒は仕上がりが遅い傾向があった事。第2に、本馬の産駒は気性が激しい傾向があった事。第3に、本馬が最初の2世代から送り出したGⅠ競走勝ち馬5頭のうち4頭が牝馬だった事。第4に、本馬の活躍産駒はジュドモントファーム以外の生産者が所有する繁殖牝馬を母に持つ事が多く、質の高い繁殖牝馬を本馬に多くあてがったジュドモントファームとしては期待外れだった事である。

本馬が日本に輸出される事を報じた米国の競馬マスコミの記事名は“SAYONARA! Empire Maker Headed to Japan”であった。グッバイヘイローの輸出時も同様の表現だったが、米国の著名な競走馬が日本に輸出される時は「SAYONARA!」を用いるのが米国では一般的なのだろうか。

こうして日本にやって来た本馬は、日高地方のエース種牡馬になる事が期待されて人気種牡馬となった。日本における供用初年度は204頭、2年目は236頭、3年目は192頭、4年目は146頭の繁殖牝馬を集めた。

2012年にはロイヤルデルタなど主に北米に残してきた産駒達が大活躍して、世界合計で1406万6640ドルを稼ぎ出した。これは一般的にこの年の北米首位種牡馬とされるジャイアンツコーズウェイのものを約35万ドル上回っており(米国内に限定した獲得賞金総額でも2位のスパイツタウンを約40万ドル上回っている)、事実上この年の北米首位種牡馬は本馬であったと言える。米国産馬が欧州競馬を席巻し始めた1980年代以降、米国で供用されている種牡馬の所有者達は、米国から海外に輸出された産駒の獲得賞金総額を含めて種牡馬ランキングを算出する事を要求し始め、現在は一般的にはその要求どおりになっている。ただし日本や香港は賞金水準が高すぎるとして除外されていたり、ドバイについてはドバイミーティングのみ含めたりしているなど、結構ご都合的な計算がされていることが多い。本馬とジャイアンツコーズウェイの順位についても、日本を含めなければジャイアンツコーズウェイが上で、含めれば本馬が上というだけに過ぎないようで、1位と2位の違いなどはほとんど無意味である。

いずれにしても2012年における本馬の種牡馬成績は北米トップクラスのものだったから、当然のように米国競馬関係者や競馬マスコミからは、その放出は時期尚早であり米国の馬産にとって非常に大きな損失だったと指摘する声が上がった。

日本における初年度産駒は2014年にデビューしているが、現在のところ特筆できるほどの活躍馬は出ていない。2015年に孫のアメリカンファラオが37年ぶり史上12頭目の米国三冠馬となり、本馬に対する注目度はより上昇すること必至である。本馬が日本でも成功するかどうかはさすがにもう少し待ってみないと分からないが、これだけの大物が日本で飼い殺しにされるような事だけにはならないでほしいものである。そう思っていた矢先、本馬は米国に買い戻されて2016年からゲインズウェイファームで種牡馬生活を続けることが決定したという話が出た。アメリカンファラオの活躍により何が何でも買い戻さなければと米国競馬関係者が必死になった結果のようである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2005

Acoma

スピンスターS(米GⅠ)・ミセスリヴィアS(米GⅡ)・ドッグウッドS(米GⅢ)・バレービューS(米GⅢ)・アゼリS(米GⅢ)・ミントジュレップH(米GⅢ)・カーディナルH(米GⅢ)

2005

Battle Plan

ニューオーリンズH(米GⅡ)

2005

Country Star

アルキビアデスS(米GⅠ)・ハリウッドスターレットS(米GⅠ)

2005

Icon Project

パーソナルエンスンS(米GⅠ)・ニューヨークS(米GⅢ)

2005

Mushka

スピンスターS(米GⅠ)・デモワゼルS(米GⅡ)・グレンズフォールズH(米GⅢ)

2006

Charity Belle

ノネット賞(仏GⅢ)

2006

Country Flavor

阪神CH(米GⅢ)

2006

Eagle Poise

ヴァレディクトリーS(加GⅢ)

2006

Magical Feeling

バーバラフリッチーH(米GⅡ)

2006

Pioneerof the Nile

キャッシュコールフューチュリティ(米GⅠ)・サンタアニタダービー(米GⅠ)・ロバートBルイスS(米GⅡ)・サンフェリペS(米GⅡ)

2007

Acting Happy

ブラックアイドスーザンS(米GⅡ)

2007

Soaring Empire

ハルズホープS(米GⅢ)

2007

フェデラリスト

中山記念(GⅡ)・中山金杯(GⅢ)

2008

Last Full Measure

マディソンS(米GⅠ)

2008

Nefertini

ゴーフォーワンドH(米GⅡ)

2008

Royal Delta

BCレディーズクラシック(米GⅠ)2回・アラバマS(米GⅠ)・ベルデイム招待S(米GⅠ)・デラウェアH(米GⅠ)・パーソナルエンスン招待H(米GⅠ)・ブラックアイドスーザンS(米GⅡ)・フルールドリスH(米GⅡ)・デラウェアH(米GⅡ)・セイビンS(米GⅢ)

2009

Bodemeister

アーカンソーダービー(米GⅠ)

2009

Empire King

ペルー馬主協会賞(秘GⅢ)

2009

Grace Hall

スピナウェイS(米GⅠ)・ガルフストリームオークス(米GⅡ)・デラウェアオークス(米GⅡ)・インディアナオークス(米GⅡ)

2009

Imposing Grace

アーリントンメイトロンS(米GⅢ)

2009

In Lingerie

スピンスターS(米GⅠ)・ブラックアイドスーザンS(米GⅡ)・ブルボネットオークス(米GⅢ)

2009

Sky Kingdom

東京シティCS(米GⅢ)2回

2009

Stanwyck

ターンバックジアラームS(米GⅢ)

2009

イジゲン

武蔵野S(GⅢ)

2010

Broadway Empire

カナディアンダービー(加GⅢ)・オクラホマダービー(米GⅢ)

2010

Emollient

アッシュランドS(米GⅠ)・アメリカンオークス(米GⅠ)・スピンスターS(米GⅠ)・ロデオドライブS(米GⅠ)

2010

Frivolous

フォールズシティH(米GⅡ)・フルールドリスH(米GⅡ)

2011

Brooch

ランウェイズスタッドS(愛GⅡ)・デニーコーデルラヴァラックフィリーズS(愛GⅢ)

2011

Daring Dancer

レイクジョージS(米GⅡ)・アパラチアンS(米GⅢ)

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